(第75号)固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通用するか(家屋編)

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)

 今回は、前号につづいて、「固定資産の個別評価に不動産鑑定がどこまで通用するか」の家屋編として、「伊達市固定資産評価審査委員会決定取消請求事件」を紹介します。

 これまで、固定資産税の家屋評価方法が再建築価格方式で大変複雑で「課税誤り」の原因にもなっていることを説明してきました。

 また、第73号で「固定資産税評価の再建築価格方式と不動産鑑定評価の原価法との相違」をお伝えしました。

 

伊達市の家屋に関する訴訟

札幌地裁の判決

・判決日:平成10年11月17日
・原告:B
・被告:伊達市長
・判決:原告・B敗訴

 伊達市に存在する鉄骨造陸屋根3階建店舗(昭和51年12月建築、以下「本件建物」)の所有者が、伊達市長によって決定された固定資産税家屋の平成9年度の価格を不服として、伊達市固定資産評価審査委員会に審査の申出をしたところ棄却決定され、それに対する不服として札幌地裁に提訴したことから始まります。

 そもそも原告(以下「B」とする)は、本件建物を昭和62年の競売(競売鑑定評価額1237万2000円)で取得したものですが、平成9年度の伊達市長の固定資産評価額は3008万3044円と決定されていました。

 第一審の札幌地裁(平成10年11月17日判決)での原告・Bの主張は、本件建物の価格が3000万円を超えることは納得できない、というものでした。

 これに対して、札幌地裁は「平成9年度の固定資産税評価額は、固定資産評価基準に従って算出されたものであるから、特段の事情のない限り、本件建物の価格は適切である」と原告・Bの敗訴となっています。

 

札幌高裁の判決

・判決日:平成11年6月16日
・控訴人:B
・被控訴人:伊達市長
・判決:控訴人・B勝訴

 第二審の札幌高裁(平成11年6月16日判決)では、控訴人・Bが不動産鑑定書(以下「F鑑定書」とする)を提出し、平成9年1月1日の鑑定評価額を1895万円としました。

 これに対して、札幌最高裁では、同鑑定書に則って本件建物の「適正な時価」を認定するのは相当である、として控訴人の請求を容認する(控訴人・Bの勝訴)との判決がされました。

 
 この後、最高裁第二小法廷で、札幌高裁に差し戻され、差戻し後の札幌高裁では、Bの控訴が棄却(伊達市長の勝訴)されています。(詳細は後述)

 ところで、最高裁及び差戻し後の札幌高裁の内容に入る前に、このB所有の本件建物の固定資産評価基準による家屋評価が「総合比準方式」により行われていますので、この内容を説明します。

家屋評価の「比準評価方式」

 固定資産家屋の評価方法は再建築価格方式ですが、ここで再建築費評点数を求める方法としては、古くから①部分別による再建築費評点数の算出方法と②在来分の家屋に係る再建築費評点数の算出方法でした。

 
 上記の2つの再建築費評点数の算出法は、古くからあったものですが、実は、昭和39年度の固定資産評価基準において、①の「特例として標準家屋の再建築費評点数に比準して求める方法」が位置づけられ、昭和42年度から「基本的な方法としての総合比準評価方法」として位置づけられました。これは、複雑な再建築価格方式を解決しようとの考えからの追加でした。

 さらに、平成12年度から、部分別比準評価と総合比準評価の中間的な評価方法を評価基準上可能とするため、両者が統合された「比準による再建築費評点数の算出方法」が定められました。(「総合比準評価」との名称ではなくなりました。)

 この「比準による再建築費評点数の算出」は、次の方法により行います。
当該市町村に所在する家屋を、その実態に応じ、構造、程度、規模等の別に区分し、それぞれの区分ごとに標準とすべき家屋を標準家屋として定める。
標準家屋について、部分別評価により再建築費評点数を付設する。
評価対象家屋の再建築評点数を、当該家屋が属する区分における標準家屋の各部分別の使用資材、施工量等の相違を考慮し、標準家屋の再建築費評点数に比準して付設する。

最高裁の判決

・判決日:平成15年7月18日
・上告:伊達市長
・被上告人:B
・判決:札幌高裁へ差戻し

「伊達市長が本件建物について評価基準に従って決定した前記価格は、 評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。」

「F鑑定書が採用した評価方法は、評価基準が定める家屋の評価方法と同様、再建築費に相当する再調達原価を基準として減価を行うものであるが、原審は、F鑑定書の算定した本件建物の1当たりの再調達原価及び残価率を相当とする根拠を具体的に明らかにしていないため、原審の前記説示から直ちに上記特別の事情があるということはできない。そして、原審は、上記特別の事情について他に首肯するに足りる認定説示をすることなく、本件建物の適正な時価が2606万円程度を超えるものではないと判断したものであり、その判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、 原判決は破棄を免れない。そして、本件決定の適否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」

 
 つまり、札幌高裁では、控訴人・BのF鑑定書により提示された評価額が認められたのですが、最高裁では「F鑑定書には固定資産評価基準が定める再建築費の算定や減点補正を超える減価を要する特別の事情が明らかにされていない」として、高裁判決が破棄され差し戻された訳です。

差戻し後札幌高裁の判決

・判決日:平成16年4月27日
・控訴人:B
・被控訴人:伊達市長
・判決:控訴人・B敗訴

「伊達市長は、本件建物について固定資産評価基準に定める総合比準評価の方法に従って再建築費評定数を算出したところ、この評価の方法は、再建築費の算定方法として一般的な合理性があるということができる。また、 評点1点当たりの価額1.1円は、家屋の資材費、労務費等の工事原価に含まれない設計管理費、一般管理費等負担額を反映するものとして、一般的な合理性に欠けるところがない。そして、鉄骨造り(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの)の店舗及び病院用建物について固定資産評価基準が定める経年減点補正率は、 この種の家屋について通常の維持管理がされた場合の減価の手法として一般的な合理性を肯定することができる。」

「そうすると、伊達市長が本件建物について固定資産評価基準に従って決定した前記価格は、固定資産評価基準が定める評価の方法によって再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。」

「よって、原判決の結論は相当であり、本控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。」

 
 なお、上記の札幌高裁の判決は、平成16年11月2日の最高裁で決定されています。

不動産鑑定評価は通用するか(まとめ)

 以上、前号と今号で「固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通じるか」を見てきましたが、固定資産税の全国の土地約1億8千万筆、家屋約6千万棟が評価・課税されていますが、これら個別の土地、家屋に対して市町村の税務窓口に不動産鑑定書(意見書)をもって修正を求めることを認めるとなると、税務関係課では混乱になることも想定できます。

 ただし、土地であれば、仮に固定資産評価基準の適用が誤っている場合、その基準のレールに載せるための鑑定書(意見書)も有り得るとは思いますが、あくまでも評価の基本は固定資産評価基準によることとされています。
 
2022/06/29/16:00
 

 

(第74号)固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通用するか(土地編)

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)

 今号と次号で、固定資産評価基準により行われる固定資産税の個別評価に対して、不動産鑑定評価がどこまで通用するかを確認するための裁判事例の紹介です。

 今号は、土地に関する裁判例です。

 なお、第35号「固定資産税土地評価における不動産鑑定の役割について」で、土地に関する固定資産評価基準と不動産鑑定評価の役割や相違を解説しています。

 
 土地に関する判決で今回の紹介は、「府中市固定資産評価審査委員会決定取消請求事件」です。

訴訟関係の経緯

  原告(以下「A」とする)の住む東京都府中市内の甲団地周辺一帯の都市計画は建蔽率60%・容積率200%であるものの、Aの敷地部分(街区)は都市計画法11条1項8号により「一団地の住宅施設」に指定され、建蔽率20%・容積率80%となっています。

 府中市長は、この敷地に対しては建蔽率60%・容積率200%による価格を固定資産税土地課税台帳に登録しており、Aは府中市固定資産評価審査委員会に対して審査申出を行ったところ棄却決定され。、これに対してAが東京地裁に不服を訴えた案件です。

 この訴訟では、東京地裁及び東京高裁ともAが敗訴し、最高裁に上告した結果、最高裁は東京高裁に差戻し、差戻し後の東京高裁でAが勝訴となり、最高裁で決定されています。

 なお、最高裁が差戻した主な理由は、東京地裁、東京高裁ともに「一団地の住宅施設」の建蔽率20%・容積率80%の土地に対する府中市の登録価格が、不動産鑑定評価での評価額により登録価格は問題無いと判断されているのみで、固定資産評価基準による状況類似地域、標準宅地、主要な路線価の設定等について十分な審理が尽くされていない、との判断がされています。

東京地裁の判決

・判決日:平成22年9月10日
・原告:A
・被告:府中市長
・判決:原告・A敗訴

 Aは審査申出の棄却決定に至る府中市審査委員会の審査の手続に違法があること、本件決定に係る決定書に違法があることなどを主張したが、東京地裁は、これらの主張を採用せず、控訴人の請求をいずれも棄却しました。

 

東京高裁の判決

・判決日:平成23年10月20日
・控訴人:A
・被控訴人:府中市長
・判決:控訴人・A敗訴

 Aは、原審の上記判断を不服として東京高裁へ控訴し、甲団地は「一団地の住宅施設」とされているため、本件敷地部分については、建蔽率20 %・容積率80 %と、より厳しい本件制限があるにもかかわらず、これを地域要因として全く考慮しないで決定された本件敷地登録価格は違法であるなどと主張したものの、東京高裁は、「本件敷地登録価格の決定の適法性の判断については、適正な時価を超えているかどうかを検討すれば必要かっ十分であり、本件敷地部分の平成21年度の賦課期日における適正な時価はその登録価格を上回るものと認められ、本件敷地登録価格の決定は違法ではない」と判断してAの控訴を棄却しました。

 

最高裁の判決

・判決日:平成25年7月12日
・上告人:A
・被上告人:府中市長
・判決:東京高裁差戻し

「土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは、当該登録価格が、①当該土地に適用される同法388条1項所定の固定資産評価基準(以ド「評価基準」という。)の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか、あるいは、②これを上回るものではないが、その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、乂はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るときであるということができる。」

 「本件敷地登録価格の決定及びこれを是認した本件決定の適法性を判断するに当たっては、本件敷地登録価格につき、適正な時価との多寡についての審理判断とは別途に、上記①の場合に当たるか否か(建蔽率及び容積率の制限に係る評価基準における考慮の要否や在り方を含む。)についての審理判断をすることが必要であるところ、原審はこれを不要であるとしてこの点についての審理判断をしていない。」

「また、上記②の場合に当たるか否かの判断に当たっては、本件敷地部分の評価において適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるか、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるか等についての審理判断をすることが必要であるところ、原審は、評価基準によらずに認定した本件敷地部分の適正な時価が本件敷地登録価格を上回ることのみを理由として当該登録価格の決定は違法ではないとしており、これらの点についての審理判断をしていない。」

「上記の各点について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。」

 

差戻後の東京高裁判決

・判決日:平成26年3月27日
・控訴人:A
・被控訴人:府中市長
・判決:控訴人・A勝訴

 この差戻し後の東京高裁判決では、詳細に一団地の住宅施設の敷地の土地評価について固定資産評価基準により評価されるべきとの趣旨の判断がなされた上で、府中市(固定資産評価審査委員会)による審査申出棄却決定の取消しを認める判断(控訴人勝訴)がされています。

「本件土地の登録価格の決定は、本件制限が減価要因として考慮されておらず、仮に本件制限を減価要因として適切に考慮した場合の本件敷地の登録価格は、実際に府中市長によって決定された本件敷地登録価格よりも下回るものとなるはずであり、府中市長によって決定された本件敷地登録価格は、本件敷地部分に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定価格を上回るものであると認められる。したがって、本件敷地登録価格は、標準宅地の適正な時価の設定が適切になされたものとはいえず、本件敷地登録価格の決定及びこれを是認した本件決定は、この点を看過した違法なものであるから、本件決定の取消しを求める控訴人の請求には理由があるというべきである。」 

 
 なお、上記の東京高裁の判決は、平成26年9月30日の最高裁で決定されています。

不動産鑑定による証明の問題点

 本件の訴訟では、A側も府中市長側も不動産鑑定士による鑑定書により主張している部分がありますが、この訴訟が「固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通じるか」が論点になっていないように感じると思いますが、平成25年7月12日の最高裁判決文をよく読んでみますと、真意がどこにあるかが分かります。
 この最高裁判決は、裁判官全員一致による東京高裁への差戻しですが、千葉勝美裁判官が補足意見として<鑑定意見書等により登録価格を修正することの問題点>を述べられていますので、一部を掲載します。

<千葉勝美裁判官の補足意見>
「課税を行う市町村の側としては、このようにして所有者名義人から提出される鑑定意見書等が誤りであること、算出方法が不適当であること等を逐一反論し、その点を主張立証しなければならなくなり、評価基準に基づき画一的、統一的な評価方法を定めることにより、大量の全国規模の固定資産税の課税標準に係る評価について、各市町村全体の評価の均衡を確保し、評価人の個人差による不均衡を解消することにより公平かつ効率的に処理しようとした地方税法の趣旨に反することになる。」

 敢えて付け加えさせていただきますが、都市計画法11条1項8号により「一団地の住宅施設」に指定され、建蔽率20%・容積率80%となっている地域(街区)は、他の都市地域でも存在していますが、その地域に見合った正しい評価がされている筈です。

 そもそも府中市長が建蔽率60%・容積率200%で評価したこと自体が誤った方法であったのではないかと思います。
 
2022/06/27/10:00
 

 

(第73号)固定資産税評価の再建築価格方式と不動産鑑定評価の原価法との相違

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)

 固定資産税家屋の評価方法は再建築価格方式ですが、この方式は不動産鑑定評価の原価法と同一の考え方になります。詳細な方法は異なりますが、基本的な考え方はほとんど同じです。

 なお、不動産鑑定評価では家屋という用語ではなく建物との呼び名を用いていますので、固定資産税評価では家屋、不動産鑑定評価では建物としますが、内容は全く同じものです。

固定資産税と不動産鑑定の評価計算

 まず2つの評価計算を図で比較します。

固定資産税の在来家屋評価

 固定資産税の在来(中古)家屋評価については、第57号「固定資産税の在来(中古)家屋の評価がなぜ下がらないのか」で説明してあります。

 
「在来中古家屋の評価方法(固定資産税)」

不動産鑑定評価の中古建物評価

 不動産鑑定評価での中古建物の評価は、価格時点において新しく新築した建物を想定し、その建物の評価を行い経年減点補正等を行って中古建物の評価額を求めます。
「中古建物の評価方法(不動産鑑定)」

 これを見ていただきますとお分かりになると思いますが、固定資産税評価の場合は、すでに新築時の評価から積み上げられていますが、不動産鑑定評価では評価時点(価格時点)で初めて中古建物を評価する方法になっています。

不動産鑑定評価の原価法とは

 固定資産税の在来(中古)家屋の評価方法は84号で説明しましたので、今回は、不動産鑑定評価の原価法について解説することにします。

 不動産鑑定評価基準に「原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格(積算価格)を求める手法である。」とあります。

 原価法による価格(積算価格)=再調達原価-建物減価額

 通常、不動産鑑定評価の原価法では、建物及びその敷地の場合ですが、建物のみの評価も可能です。
 また、不動産鑑定評価は、建物が中古である場合の評価がほとんどです。

原価法の再調達原価とは

 ここで再調達原価とは、「対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。」(不動産鑑定評価基準)とされていて、固定資産税評価の再建築価格とほぼ同じ概念となります。

 つまり、不動産鑑定評価の原価法では、中古建物であっても、価格時点におけるその建物の新築相当額を求める訳です。今ある中古の建物と同じものを、価格時点で仮に新築したら評価額はいくらになるか、これが不動産鑑定評価の原価法の再調達原価です。

 この中古建物の再調達原価額を求めるにあたっては、建築士の意見や参考資料等を基にして不動産鑑定士が判断していきます。

原価法の減価額とは

 不動産鑑定評価の原価法では、次に減価額を求めますが、方法としては「耐用年数に基づく方法」と「観察減価法」の2通りあります。

「耐用年数に基づく方法」

 「耐用年数に基づく方法」は、「対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基準として減価額を把握する方法」(不動産鑑定評価基準)です。

 経過年数を踏まえ、また現在の中古建物を観察したた上で、その建物があと何年使用可能かを判断する、これが経済的残存耐用年数です。
 なお、不動産鑑定評価基準には、固定資産税の「経年減点補正率基準表」のような基準表はありません。

 「耐用年数に基づく方法」=経過年数÷(経済的残存耐用年数+経過年数)

 なお、この「耐用年数に基づく方法」の経済的残存耐用年数の適用にあたっては、当該建物を躯体、仕上、設備に分けて、構造上の割合と年数を決めていきます。

「観察減価法」とは

 「観察減価法は」、「対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、附近の環境との適合の状態等各減価の要因を調査することにより、減価額を直接求める方法」(不動産鑑定評価基準)です。

 これは名称のとおり、現在の中古建物を観察して、不動産鑑定士が減価割合を決めていきます。

 不動産鑑定評価の原価法では、この「耐用年数に基づく方法」と「観察減価法」を併せて減価額を求めます。

 なお、土地と建物一体を原価法で評価する場合には、減価方法として「建物及びその敷地の減価額」がありますが、今回は建物のみの原価法の説明です。

 それでは、ここに軽量鉄骨造2階建て共同住宅、築年数20年の場合を想定した原価法の計算例を掲げます。

「原価法の計算例」
 
2022/06/21/21:00
 

 

(第72号)在来(中古)家屋の固定資産税評価で新築時の審査が可能

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)

 前号でお知らせしましたとおり、在来(中古)家屋(以下「在来家屋」)の固定資産税評価は、「一つ前の基準年度の評価(正式には「再建築費評点数」)を基礎として算定」されていますが、その前基準年度の再建築評点数は新築時の評価が正しいとの前提になっています。

 この場合、仮に建築当初の価格の評価算定に誤りがあっても、誤ったままの状況が継続してしまうことになる訳です。

 したがって、在来家屋の評価についても、新築時の評価が正しいかどうかの審査を求めることができるかどうかが問題となります。

 この点について、前号で紹介しました平成25年4月16日の東京高等裁判所において、新築時の審査を認める司法判断が示されています。

 しかし、第一審の東京地裁では否定されていますので、東京地裁判決からみていきます。

東京地裁(平成23年12月20日)判決

第1審・東京地裁での<事案の概要>

 この訴訟は、原告・A株式会社(以下「A」)が、在来家屋の平成18年度の価格に対する審査申出の決定(棄却)を不服として、被告・東京都固定資産評価審査委員会(以下「東京都」)に対して、原告・Aが相当と考える価格を超える部分の取消しを求めたものでした。(平成20年7月22日訴えの提起)

(原告・Aの主張)
 この不服の理由として、本件家屋の建築当初の評価に誤りがあったこと、具体的には平成5年度に本件家屋を評価するに当り、再建築費評点数の算出に誤りがあった。
(被告・東京都の主張)
 建築当初の評価の誤りを平成18年度の価格に対する不服として主張することはできない、そもそも建築当初の評価に誤りはない。

(争点)
 本訴訟の争点は、次の点になります。
< 本件家屋の建築当初の単位当り再建築費評点数の算出が誤っていることを理由として平成18年度価格の妥当性を争うことができるか否か。>

東京地裁の判断

 東京地裁の判断は、次のとおりです。

「地方税法は、原則として、建築当初の評価後の基準年度が到来した後においては、建築当初の評価の誤りを理由として、当該基準年度において固定資産課税台帳等に登録された家屋のの価格を主張することや、当該誤りを理由に当該不服に理由がある旨の決定や判決をすることを予定していないものというのが相当である。」

 このように、東京地裁の判断では原告・Aの主張は「否定」されています。

 

東京高裁(平成25年4月16日)判決

 東京高裁での判断では、逆に原告・Aの主張が「容認」されています。

「被控訴人・東京都は,平成18年度価格についての不服として,本件家屋の建築当初の評価を争うことは原則としてできず,その評価を争うことができるのは,建築当初の評価において適切に評価できなかった事情がその後に判明した場合や,建築当初の評価の誤りが重大で,それを基礎に評価をすることが適正な時価の算定方法として不合理であると認められるような場合に限られるとし,このように解さないと,①建築当初の評価額についての争いをいつでも蒸し返すことができることになり,固定資産税の賦課決定処分の前提問題である固定資産税評価額を早期に確定させることによって法的安定性を招来しようとする地方税法の趣旨に反する結果となる,②当初の評価から時間が経過するほど,評価の対象となった建物には経年変化が生じ,また,補修や増改築等による変更が生じることが当然に予想され,そうなれば,当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になっていくことが当然に予想される,などと主張する。」

 「しかし,固定資産評価基準に従って決定された価格は「適正な時価」であると推認されるというにすぎない。このことは,その適用の誤りが,前記のような「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」である場合であっても,当該基準年度における価格の決定に影響を及ぼすものである限り,同様である。本件において,「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」は,「前年度(平成17年度)の再建築費評点数」に影響を及ぼし,ひいては平成18年度の価格に影響を及ぼすことが明らかである。」

「地方税法432条1項も、基準年度の登録価格に関して審査の申出をすることができる場合について何らの制限を設けていないのであり、被控訴人主張のような制限をすることはできない。」
「以上の次第で、被控訴人・東京都の主張は採用することができない。」

 以上、東京高裁判決では、在来家屋の評価においても新築当時の評価が正しいかどうかの審査を求めることができるとされています。

 

最高裁(平成26年7月24日)決定

 この判決に対して、東京都から最高裁へ上告されたものの、最高裁判所第一小法廷において棄却され、東京高裁の判断が確定されています。

 
 以上により、家屋の固定資産税評価においては、在来家屋の審査時においても、新築時の評価が正しいか否かを検証することができますし、検証する必要がある訳です。
 
2022/06/21/17:00
 

 

(第71号)家屋の新築時データを廃棄すると、在来家屋の検証も出来ない

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)

 過日(令和3年9月)、石川県河北郡津幡町に居住するKさんから、石川県N市に所有している家屋(マンション)の固定資産評価について、次のようなご相談をいただきました。

  自分の所有しているマンションの評価額が隣接のマンションと比較して約1.4倍、また自分が所有している他のマンションと比べても約1.6倍と高いので、5月に固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」)に審査申出を行ったものの棄却決定されました。

その審査申出に対する課税当局からの弁明と審査委員会の決定では「建築時に算出した再建築費評点数に対して評価替ごとに再建築費評点補正率を乗じて、現在の再建築費評点数を算出している」とありました。しかし、仮に課税誤りがあるとすれば、新築当初の評価(再建築費評点数)に誤りがあった筈なのに、今までの評価は正しいとの前提なのです。

そこで、課税当局(税務課)に、新築当時の課税内容の説明を求めたところ、「当時の評価データは廃棄して無いが、間違いなく正しく評価している」との回答がありました。

石川県N市対応の問題点

 この石川県N市の問題点としては、次の点にあります。

① 評価データを廃棄したこと

 評価データは家屋の再建築費評点算出表(以下「評価計算書」)ですが、どこの市町村でも所有者から説明を求められると、この資料により評価内容を説明し渡されるのが一般的です。

 所有者が評価内容を検討するためにも「評価計算書」が必要であるとともに、課税当局では、その家屋の評価額がどのように算定されているのかを説明し「課税誤り」が無いことを示す必要がある訳です。

 最近では、どこの市町村でも家屋評価データを電子システム化していますが、電算化システムになる前は「データパンチ」(手書きの資料を電子化する)という方法で作成・保管され、仮に担当者がコピーを廃棄したとしても、組織としてはデータが保存されているのが普通なのです。特に家屋については、課税している間はデータを保存すべきなのです。

 そうでなければ、所有者にとって大切な財産である固定資産に対して評価・課税している根拠が疑われ、信頼性も損なわれることになります。

②新築時の評価額が審査されないこと

 Kさんの審査申出の趣旨は「そもそも再建築費評点数の算定が正しいのか」ですが、課税当局の弁明と審査委員会の決定は、前年の再建築評評点数に補正率を乗ずる在来家屋の評価方法の説明に終始されています。

 審査委員会の決定(棄却)もほとんど課税当局の弁明書を踏襲した結果となっています。審査委員会は第三者機関ですが、審査申出の手続きでは、課税当局の主張(原案)がそのまま採用されることがほとんどではないかと思います。

 「そもそも新築時の再建築費が正しいのか」との請求に対して、審査申出の棄却決定では、新築時の評価検証が一切行われずに、在来家屋の評価方法で決定(棄却)されていることは問題です。

 この理由は、①の「家屋の新築時データを廃棄した」ことから、在来家屋の新築時の評価検証ができないからなのです。

 そこで問題は、在来家屋の納税者は、現在の基準年度において、新築時(過去の)価格に対して意見等を申出ることができるかということになります。

在来家屋では新築時の評価を引き継ぐ

 そもそも在来家屋の評価は新築時の評価が引き継がれています。
 この在来家屋の評価の方法については、第57号「固定資産税の在来(中古)家屋の評価がなぜ下がらないのか」で説明しています。

 
 家屋の基準年度の評価額は、一つ前の基準年度の価格(正式には「再建築費評点数」)を基礎として算定されています(在来家屋家屋の評価)。この場合、建築当初の価格は見直しがされないことから、仮に建築当初の価格の算定に誤りがあっても、誤ったままの状況が継続してしまうことになります。

 この点については、平成25年4月16日の東京高等裁判所において、「新築時の審査を認める」司法判断が示されています。

 この事例では、被控訴人(東京都)は、在来家屋の評価が適正であるので問題無いと主張したのですが、東京高等裁判所の判決では、新築時の評価が正しかったのか否かの証明が必要と判断されています。

 ここに東京高等裁判所判決の一部を紹介します。

<平成25年4月16日高等裁判所判決(一部)>
「しかし,(中略)「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」は,「前年度(平成17年度)の再建築費評点数」に影響を及ぼし,ひいては平成18年度の価格に影響を及ぼすことが明らかである。(中略)被控訴人主張のような制限をすることはできない。」
(※詳細は次号で紹介します。)

 石川県N市ではデータを廃棄しただけではなく、税務課の幹部から「もしこの家屋の評価が高いと思うならば、納税者自身から計算して示してください」とまで言われているのです。データを廃棄しているのに納税者としても「検証」できる訳がありません。

大規模非木造家屋の評価は県が担当

 上記の東京高等裁判所の判決文にはまた「建築当初の建築関係書類が廃棄又は紛失されることがあることも想像に難くなく,そうすると,時の経過と共に建築当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になることも当然に予想されるということはできる。」とありますが、石川県N市の対応はまさにこのとおりである訳です。

 しかし、大都市でない市町村では、大規模の非木造家屋の新築評価は県(県税事務所)に委ねていることです。県と市町村の協定によっても異なりますが、通常は500㎡以上の非木造家屋がその対象です。

 その場合、評価データは実際に評価した県税事務所が保存していて、市町村では紙レベルの「評価計算書」のみを保有しているという場合が多いのです。また県税事務所では、不動産取得税の課税ですので、評価データはそれほど長期間保有していないと思います。

新築時家屋評価データの保存の必要性

 しかし、市町村の固定資産税の家屋(特に非木造家屋)であれば長期間の課税になりますので、データも長期間保有すべきです。 

 特に新築時の再建築評点数をどう評価したのかを所有者に説明するときにも必要ですし、仮に所有者が課税誤りに対して訴訟を提起した場合には必要な資料が存在しないことになってしまうのです。

 そこで、「新築時のデータを保存年限で廃棄している」市町村には、今後、是非とも「永年保存」か「課税中保存」にしていただきたいものです。

 
2022/06/18/16:00