(第43号)固定資産税と相続税の宅地評価方法の違い(2)(「無道路地」)

 
(投稿・令和2年-見直し・令和7年2月)

 今号は「『無道路地』の固定資産税評価と相続税評価の違い」についてです。

 「無道路地」の固定資産税評価と相続税評価は、平成8年度までは同じ評価方法(「陰地割合評価方式」)でしたが、固定資産税評価については平成9年度から簡便な方式(「無道路地補正率方式」)に変わっています。

相続税の無道路地評価

 相続税の無道路地評価方法は、次のとおりです。

(1)無道路地の奥行価格補正後の価額 → (2)不整形地補正(又は間口狭小・奥行長大補正) → (3)無道路地としてのしんしゃく(通路部分の価額) → (4)無道路地相続税評価額

<無道路地の例(相続税)>

(1)無道路地の奥行価格補正後の価額

<奥行価格補正率(相続税)>

① 無道路地〔1〕と前面宅地〔2〕を合わせた土地の奥行価格後の価額
◆奥行価格補正率(普通住宅地40m)…0.91
◆〔1〕と〔2〕の地積の合計…800㎡
<160千円×0.91×800㎡=116,480千円>

② 前面宅地〔2〕の奥行価格補正後の価額
◆奥行価格補正率(普通住宅地20m)…1.00
◆〔2〕の地積…400㎡
<160円×1.00×400㎡=64,000千円>

③  ①の価額から②の価額を控除して求めた無道路地〔1〕の奥行価格補正後の価額
<116,480千円ー64,000千円=52,480千円>

(2)不整形地補正(又は間口狭小・奥行長大補正)

<不整形地補正率(相続税)>

<間口狭小・奥行長大補正率(相続税)>

◆不整形地補正率(普通住宅地区・地積区分A・かげ地割合50%)…0.79
◆間口狭小補正率(間口距離2m)…0.90
◆奥行長大補正率(間口距離2m・奥行距離40m)…0.90
(不整形地補正率×間口狭小補正率)0.79×0.90=0.71(a)
(間口狭小補正率×奥行長大補正率)0.90×0.90=0.81(b)
(a)<(b)により、不整形地補正率は0.71
◆〔1〕の奥行価格補正後の価額×不整形地補正率
<52,480千円×0.71=37,260千円>(不整形地補正後の〔1〕の価額])

(3)無道路地としてのしんしゃく(通路部分の価額)

<160千円×40㎡=6,400千円>
限度額(<37,260千円×0.4=14,904千円)
※不整形地補正後の〔1〕の価額の4割以下

(4)無道路地の相続税評価額

◆不整形地補正後の〔1〕の価額ー通路部分の価額=無道路地の相続税評価額
<37,260千円ー6,400千円=30,860千円>

固定資産税の無道路地評価

 固定資産税の無道路地の評価方法は、次のとおりです。
(1)無道路地の補正率 → (2)1㎡当たりの評点数

<無道路地の例(固定資産税)>

(1)無道路地の補正率

 無道路地〔1〕の奥行価格補正率×前面宅地〔2〕の通路開設補正率×無道路地補正率0.6
※無道路地補正率0.6は「下限」とされていますが、0.6適用の場合が多いようです。

<奥行価格補正率(固定資産税)>

無道路地〔1〕の奥行価格補正率(40m普通住宅地)…0.92

<通路開設補正率(固定資産税)>

前面宅地〔2〕の通路開設補正率(20m)…0.80
無道路地補正率…0.60
無道路地の補正率(①×②×③)
<0.92×0.80×0.60=0.44>

(2)1㎡当たりの表点数

<140,000円×0.44=61,600円>

※以上のとおり、固定資産税の無道路地評価は、無道路地補正率が適用されるとされているため、相続税の評価より簡単な方法になっています。

 なお、土地の固定資産税評価額は、路線価方式による計算に加えて「住宅用地の特例」や「負担調整措置の仕組み」もありますので、ご注意ください。
 
2022/5/30/16:00
 

 

(第42号)固定資産税と相続税の宅地評価方法の違い(1)(「基本的事項」)

 
(投稿・令和2年-見直し・令和7年2月)

 今回から「固定資産税と相続税の宅地評価方法の違い」について連載します。

 まず、固定資産税と相続税の評価内容が異なる今後解説の項目を一覧表にします。
 なお、この第1回目では下記表の(1)(2)の部分を説明します。

<固定資産税評価と相続税評価>
 この表は相続税の全ての評価方法ではなく、奥行価格補正、側方路線影響加算、二方路影響加算、間口狭小補正、奥行長大補正等は固定資産税と相続税はほぼ同じとなっていますので省略します。

固定資産税評価と相続税評価の法的根拠

 これまでも説明してきましたが、固定資産税の土地と家屋は役所が一方的に評価・課税する「賦課課税方式」であるのに対して、相続税は納税者(相続人)により申告される「申告課税方式」である点が大きく異なります。

固定資産税評価の法的根拠

 固定資産税の根拠法は地方税法になります。さらに、その地方税法により「固定資産評価基準により評価する」ことが規定されていることから、この「固定資産評価基準」は法的拘束性が強いとされています。

 
 また固定資産税については、市町村毎の「固定資産評価事務要領」で「所要の補正」が定められていますので、細かな評価内容を確認する場合には、各市町村に問い合わせる必要があります。この「所要の補正」は市町村にもよりますが、かなりの項目が規定されています。

相続税評価の法的根拠

 相続税評価については、土地と建物等の資産の評価方法は相続税法にはなく、財産の評価に関する取扱い方法の全国的な統一を図るため、国税庁による「財産評価基本通達」により定められ、基本的にこの「財産評価基本通達」により相続税評価が行われます。

 なお、相続税については、評価の前提として「相続財産は何があるか」「相続人は誰か」「被相続人による遺言があるか」等々の調査すべき項目があるとともに、相続人間で争う「争続」ではなく「笑顔の相続」にしなければなりません。そのためには、相続税法とともに民法の相続編が重要な根拠規定ともなっています。

固定資産税と相続税の評価方法の基本

固定資産税の評価方法

 固定資産税の宅地の評価方法としては、①市街地宅地評価法(路線価方式)と②その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)の2つがあります。

① 市街地宅地評価法(路線価方式)
 主に都市部の住宅が密集した地域における土地の固定資産税評価に用いられる方法(方式)で、路線価は地価公示価格の7割とされています。

 
② その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)
 比較的市街化的ではない地域において用いられている方法(方式)で、状況類似地区ごとに標準宅地を設定し、評価対象宅地と宅地比準を行う方法です。

 

相続税宅地の評価方法

 相続税の宅地の評価方式には、路線価方式と倍率方式があります。
① 路線価方式
 路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方式ですが、固定資産税評価の市街地宅地評価法(路線価方式)と同じ方式になります。固定資産税の路線価は地価公示価格の7割ですが、相続税路線価は地価公示価格の8割とされています。
② 倍率方式
 これに対して、倍率方式は、固定資産税評価額に各地域ごとに定められた倍率を乗じて評価する方式です。

相続税建物の評価方法

 なお、建物の相続税評価は、固定資産税家屋の評価額を100%用いることになります。
 
2022/5/30/15:00
 

 

(第41号)「一物四価」とは何か-公的土地評価の均衡化・適正化

 
(投稿・令和2年-見直し・令和7年2月)

 今回は「一物四価」とは何か、そして「一物四価」(公的土地評価)が均衡化・適正化されていることの解説です。

 また、固定資産税評価額(路線価)はこの四価のうちの一つですが、平成6年~9年に行われた「土地の負担調整措置」に繋がっていきます。

「一物四価」とは何か

 「一物四価」とは、土地を評価・価値を指標化する際の4つの価格(評価価値)のことで、時価(実勢価格)、地価公示価格、相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額(路線価)を指します。

時価(実勢価格)

 時価(実勢価格)は、実際に売買する場合の土地の価格です。
 過去に売買が成立した際の価格や、近隣の土地の取引価格を参考にして決められてくるのが一般的です。

 不動産売買における不動産広告(物件概要書)に掲載されている価格が実勢価格ではないかと思うかもしれませんが、その価格はあくまで売り主側の「売却希望価格」であり、それが実勢価格であるとは限りません。

 また、不動産売買の対象物件の周辺において取引事例が少ない場合や、類似するような土地の取引事例がない場合は、正確さに欠けることもあります。

地価公示価格

 地価公示価格は、毎年1月1日の価格を3月下旬頃に国土交通省により公表される土地の価格で、一般の土地取引価格の指標ともなっています。

 この価格は、地域における標準地の更地1㎡当りの正常な価格を不動産鑑定士による鑑定評価で評価されます。

 地価公示価格の鑑定評価においては、実際の取引事例を元に標準化して評価額を求めていることから、時価(実勢価格)とほぼ等しい価格と思われます。

 ただし、時価(実勢価格)は、売り主側と買い手側との取引であることや、物価変動が著しいときなどには地価公示価格と乖離することもあります。

相続税評価額(路線価)

 相続税評価額は、土地の相続税や贈与税を計算する際の基準となる価格で、その年の1月1日時点での価格が毎年7月中旬頃に国税庁により公表されています。

 相続税の路線価は、道路に面する宅地1㎡あたりの価格を基準に算出され、地価公示価格の80%の割合を目安に設定されています。

 路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額に、国税庁が公表している倍率表に基づいた倍率を掛けて評価額を計算することになります。

 相続税評価額は、税金を計算する際に基準となるだけでなく、金融機関が土地の担保額を決める際にも参考にすると言われています。

固定資産税評価額(路線価)

 固定資産税評価額は、固定資産税のみならず都市計画税、不動産取得税、登録免許税などを計算する際に基準となっています。

 固定資産税路線価は、各市町村が3年に一度、3月末までに前年の1月1日を基準にした価格の見直しの結果公表されています。

「一物四価」(公的土地評価)の適正化 

 この「一物四価」の価格はそれぞれ異なるのですが、異なるにしても一定のバランスが必要であることから、平成元年に土地基本法が制定され、第17条に「公的土地評価の適正化」規定があります。

<公的土地評価の適正化等>
土地基本法第17条
「国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。」

 この「公的土地評価について相互の均衡と適正化」を図るため、次の内容が定められました。
(1)まず、地価公示価格(含む地価調査価格)を実勢価格を表示するように努めること。
(2)相続税路線価を地価公示価格の8割とすること。(平成4年度から実施)
(3)固定資産税路線価を地価公示価格の7割とすること。(平成6年度から実施)

 これを図で示すと次のようになります。

<「一物四価」の適正化>

「土地の負担調整措置」が実施

 ところで、土地の時価(実勢価格)と固定資産税評価額は時代の経済変化によって、大きく変わってきました。

 昭和の初期頃には、固定資産評価額は時価の7割程度でしたが、昭和末期のバブル最盛期には15%程度へと低下していました。

 そこで、上記のとおり、平成元年に土地基本法が制定され、「公的土地評価の適正化」が図られ、固定資産税路線価を地価公示価格の7割とされました。

 しかし、一挙に15%程度から7割に引き上げる訳にはいかないため、徐々に引き上げる方法としました。

 これが「土地の負担調整措置」で、これにより固定資産税の土地評価が複雑になり分かりづらくなった訳です。

 なお、「土地の負担調整措置」については、第4号で「非住宅用地の場合」、第6号で「小規模住宅用地の場合」を説明していますのでご覧ください。

 
2022/05/30/12:00
 

 

(第40号)家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(2)

 
(投稿・令和2年-見直し・令和7年2月)

 前号(39号)「家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(1)」では、「再建築価格方式」は合理的で公平な方式ではあるが複雑煩瑣な仕組みで、課税誤りの原因の一つともなっていると指摘しました。

 
 なにしろ固定資産評価基準(家屋)の別表だけでも200ページ(A4版)を超える分量ですし、その上、各市町村では「固定資産評価事務要領」(市町村により名称は異なる)に膨大な基準が定められています。

 今回は、「家屋評価の仕組み」で記した、時の経過によって生ずる損耗の状況による減点補正の仕組みを説明します。

経年減価の基準=経年減点補正率基準表

 家屋は時の経過とともに損耗が生じるため、固定資産評価基準による経年減点補正率基準表に基づき、3年に一度の基準年度ごとに評価替えを行い評価額が減額されます。

 ただし、次の場合は減額とはなりません。
①基準年度単位での物価上昇率が減価率を上回る場合は「据置」となります。
②評価割合(残価率)が20%になると、それより評価額は低くはならず、家屋が存在する限り20%の評価・課税となります(以下「最終残価率」)。

 家屋の損耗の状況による減点補正は、新築後の年数の経過に応じて生ずる通常の減価ですが、固定資産評価基準では、この他に積雪寒冷地域に存する家屋の積雪寒冷地域の補正や天災、火災その他の事由により通常以上の損耗が生じている場合の損耗残価率も定められています。

<木造家屋の経年減点補正率基準表>
 木造家屋の経年減点補正率基準表は、次の9種類に分類されています。
①専用住宅、共同住宅、寄宿舎及び併用住宅用建物、②農家住宅用建物、③ホテル、旅館及び料亭用建物、④事務所、銀行及び店舗用建物、⑤劇場及び病院用建物、⑥公衆浴場用建物、⑦工場及び倉庫用建物、⑧土蔵用建物、⑨附属家

<木造家屋経年減点補正率基準表の例(専用住宅、共同住宅等)>

<非木造家屋の経年減点補正率基準表>
 非木造家屋の経年減点補正率基準表は次の8種類に分類されています。
①事務所、銀行用建物及び②~⑧以外の建物、②住宅、アパート用建物、③店舗及び病院用建物、④百貨店、劇場及び娯楽場用建物、⑤ホテル及び旅館用建物、⑥市場用建物、⑦公衆浴場建物、⑧工場、倉庫、発電所、変電所、停車場及び車庫用建物

<非木造家屋経年減点補正表の例(事務所、銀行用建物等)>

 上記の木造、非木造ともに次の最終残価率20%まで、基本的に経年減点補正が行われますが、木造及び非木造の住宅・アパート用建物のみ初期減価が行われます。初期減価は新築後1年目に0.8(つまり20%減価)されるということです。

固定資産税特有の最終残価率20%

 上記のとおり、固定資産税評価は時の経過とともに価値が減少していきますが、固定資産税評価においては、最終的に価値はゼロとはならず、20%の価値が残り続けます。

 この最終残価率20%の制度は、「年数の経過に伴って家屋の価値は減少していくが、通常の維持補修を行い家屋として効用を発揮している家屋であれば、家屋の持つ使用価値はゼロにはならず、最低限の価値は保たれる。」と従来から説明されています。

 つまり、家屋の固定資産税は、何年経過しても家屋を使用(保有)している限りは最低限20%の評価・課税がされ続けるということになります。

固定資産税家屋評価の論点

 固定資産税の家屋評価については、これまでも様々な検討が行われきていますが、いくつか論点を上げてみます。

(1)木造・非木造の区分けについて

 前号(39号)と今号で家屋評価の再建築費評点基準表と経年減点補正率基準表を掲げましたが、木造、非木造ともに両者の分類区分が一致していません。このことも家屋評価の複雑さの一因となっています。

 ところで、近年では木造建築の技術も進み、かつての無垢材ではなく木材の集成材により非木材と同様の耐久性もみられる家屋も現に建築されています。

 このような状況にもかかわらず、現在の固定資産評価基準の再建築費評点基準表と経年減点補正率基準表の内容は「時代遅れ」と言わざるを得ません。

(2)リフォームや用途変更が行われた場合の適用について

 家屋を新増築した場合は評価担当側でも把握は可能ですが、リフォームをされた場合や途中で用途が変更された場合(例えば住宅用から事務所用)、適切に経年減価変動率の適用が出来ているのかどうかは疑問です。

(3)最終残価率20%について 

 法人税の減価償却において法定耐用年数が定められていますが、固定資産税の最終残価年数とは制度趣旨が異なるため、必ずしも同一ではありません。しかし、法人税の減価償却では1円まで償却されますが、固定資産税は残価率20%で評価額はそれ以下には下がりません。

<法人税の法定耐用年数>

 この固定資産税の残価率20%については、「最終残価率はなぜゼロにならないのか」との反対意見もあります。逆に、木造にしても非木造にしても、現実の耐久性も良くなっており、建築専門家の方々からは「最終残価までの年数が短か過ぎる」との意見もあります。

 ところで、「最終残価率をゼロに」との意見に対しては、「そもそも固定資産税は何故課税されているのか」という”そもそも論”に目を向ける必要があります。”そもそも論”とは「固定資産税は行政サービスの対価としての費用分担の一つである」ということです。最近では、この「行政サービスの対価」との主張がほとんどなされていないようですが、この点も不思議です。

 この観点からすると、土地は「交換価値」とされていますが、家屋は「使用価値」という側面が強いとも言えます。 

不動産取引における建物の評価

 不動産取引や鑑定評価の世界では、「家屋」ではなく「建物」の名称を使うのが一般的です。

 日本では、土地から独立して建物のみの取引は伝統的に採用されていないこともあり、不動産取引における建物価値の査定では、上記の法定耐用年数を参考にするケースが多く、希に固定資産税評価額を建物の価格として採用する場合もあります。

 また、不動産鑑定の評価では、建物の減価率査定においては、「経済的残存耐用年数」という概念を採用し、仮に法定耐用年数を経過している建物でも、実際にあと何年使用できるかという年数により査定します。現に居住に供されている建物でも相当程度劣化が進んでいれば、土地・建物一体の最有効使用を更地と査定して、建物取り壊し費用を土地価格から控除する評価を行う場合もあります。

「再建築価格方式」の見直し

 固定資産税評価における「再建築価格方式」は、昭和25年に地方税法が創設されて以来一貫して採用されており、「適正な時価」や「正常価格」の基準となりうる最適な方式とされています。

 しかし、一方では、市町村での評価担当者からすると、この「再建築方式」は複雑過ぎて難しいという指摘がされており、また当然、納税者にとっても理解が難しく、何度か固定資産評価の簡素・合理化についての検討はされてはいますが、未だ実現に至ってはいません。
 
2022/5/29/10:30
 

 

(第39号)家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(1)

 
(投稿・令和2年-見直し・令和7年2月)

 前号(第38号)「固定資産税の家屋評価と「再建築価格方式」について」に続いて、家屋評価の複雑な「再建築価格方式」についてです。

 
 実は、この「再建築価格方式」の仕組みが大変複雑で、市町村の評価実務にも負担が大きく、家屋の課税誤りが発生する一つの原因であるとも考えられます。

 では、「再建築価格方式」とはどのようなものなのでしょうか。

再建築価格とは

 再建築価格とは、評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点において新築するとした場合に必要となる建築費をいいます。
 不動産鑑定評価での、原価法による再調達原価と同一の概念です。

 この再建築価格(再調達原価)は、実際にその家屋をいくらで建築したのか、あるいはいくらで取得したのか建築費(取得費)とは異なるものです。

 この「再建築価格方式」は50年以上にわたって採用されている評価方法ですが、この方式は仕組みが複雑であるため、これまで総務省や市町村では(資産評価システム研究センターを通じて)、家屋評価の簡素合理化が検討されてきています。 しかし、これまでの経緯や様々な要因により、抜本的な簡素合理化には至っていないのが現実でもあります。

再建築評点数の算出方法

 家屋評価は「再建築価格方式」により、まず用途別区分(木造13種類、非木造9種類)及び部分別区分(木造11種類、非木造14種類)により、再建築費評点基準表により再建築費表点数を算出します。

 次に、この求められた再建築表点数に時の経過によって生ずる損耗の状況による減点補正等を行い、評価の対象となった家屋の表点数を算出します。

 この場合の評点一点当たりの価額は、1円に物価水準による補正率及び設計管理費等による補正率を乗じた価額となります。

<家屋評価の仕組み>

家屋評価の用途別区分

 家屋は、固定資産評価基準で木造家屋と非木造家屋とに区分され、その木造、非木造家屋それぞれに、再建築費評点基準表による用途別区分が規定されています。

 そこで、まず用途別区分ですが、木造家屋が13種類、非木造家屋が9種類に分類されています。

<木造家屋の用途別区分(13種類)>
①専用住宅用建物、②共同住宅及び寄宿舎用建物、③併用住宅用建物、④ホテル、団体旅館及び簡易旅館用建物、⑤普通旅館及び料亭用建物、⑥事務所及び銀行用建物、⑦店舗用建物、⑧劇場用建物、⑨病院用建物、⑩工場、倉庫用建物、⑪附属家用建物、⑫簡易附属家用建物、⑬土蔵用建物

<非木造家屋の用途別区分(9種類)>
①事務所、店舗、百貨店用建物、②住宅、アパート用建物、③病院、ホテル用建物、④劇場、娯楽場用等のホール型建物、⑤工場、倉庫、市場用建物、⑥住宅用コンクリートブロック造建物、⑦軽量鉄骨造建物(ア.住宅、アパート用建物、イ.工場、倉庫、市場用建物、ウ.事務所、店舗、百貨店等用建物)

 この用途別区分は、以前は木造、非木造ともに20~30種類ほどありましたが、平成30年度基準では上記のとおり13種類と9種類に統合されています。(実際の建築現場では逆に種類が増えているのが現実です。)

家屋評価の部分別区分

 次に上記の用途別区分ごとに部分別区分が規定されています。

 木造家屋では11種類、非木造家屋では14種類に区分され、再建築費表点数を計算します。そして、それらの部分別を合計して、その家屋の再建築表点数を算出することになりますが、家屋評価においては、この作業で大部分を占めることになります。

<木造家屋の部分別区分(11種類)>
①屋根、②基礎、③外壁、④柱・壁体、⑤内壁、⑥天井、⑦床、⑧建具、⑨建築設備、⑩仮設工事、⑪その他の工事

非木造家屋の部分別区分(14種類)>
①主体構造部、②基礎工事、③外周壁骨組、④間仕切骨組、⑤外部仕上げ、⑥内部仕上、⑦床仕上、⑧天井仕上、⑨屋根仕上、⑩建具、⑪特殊設備、⑫建築設備、⑬仮設工事、⑭その他工事

 この部分別区分は、建築された家屋の表面に表れている部分から隠れた内部をも推定して評価できるように、家屋の構造を外見的な面から区分されています。したがって、この部分別区分は、実際の建築の見積書の区分とは異なることになります。

 また、この部分別区分ごとに使用資材の種類、品質、施工の態様に応じて「標準評点数」が決められており、さらに実際に家屋を見て「補正項目」「補正係数」を査定し、床面積等の「計算単位」を乗じることにより部分別再建築費表点数を求めることになります。
(計算内容は詳細に亘るため割愛します。)

複雑さが課税誤りの原因に

 上記のとおり、固定資産評価の区分と実際の建築見積書の工事別区分とは異なります。
 そのため、市町村の担当者は実際の建築見積書や図面から、固定資産評価の用途別区分及び部分別区分に該当する項目を拾い出す作業を行わなければなりません。

 仮に、固定資産評価基準での木造家屋の専用住宅用建物再建築評点基準表だけでも8ページに亘り、非木造家屋の事務所、店舗、百貨店用建物となると24ページに亘る基準表になっています。

<木造の例(専用住宅用建物)>

<非木造の例(事務所・店舗・百貨店用建物)>
 上記のとおり、非木造家屋の用途別は9種類ですので、この再建築費評点基準表の9倍になる訳で膨大な量になります。

 市町村の税務担当者は、通常、事務職であることから建築の専門家ではありません。もちろん、研修等は行われますが、建築の専門的名称や構造等を十分に理解するのには時間が掛かります。

 ところが、市町村の事務職は3~5年程度で異動するのが一般的であり、折角慣れた時期には異動するという事態が発生します。

 そのような事態を防ぐため、市町村によっては、家屋評価の専門的な職員を配置することや、京都府内の京都地方税機構のように京都府と(京都市を除く)25市町村での広域連合のような共同化の試みも進められています。

 また、政令指定市以外の市町村では、300㎡あるいは500㎡以上の非木造家屋の評価は県(県税事務所)に依頼しています。

 ところで、毎年送られてくる固定資産税(都市計画税)納税通知書を見ると、土地については「前年度課税標準額、本則課税標準額、課税標準額」の金額が異なる等分かりにくくなっています。

 家屋は「単に課税標準額」に税率を乗ずると税額が分かる記載になっていますが、そもそも家屋評価自体が大変複雑で、固定資産税家屋の評価・課税の潜在的な誤りが多いと思われます。

※なお、この用途別区分は令和3年度基準までの基準でして、令和6年度基準からは、木造家屋が13種類から7種類へ、非木造家屋が9種類から6種類に整理統合されています。
 また、この部分別区分については、令和6年度基準からは、木造家屋が11種類から10種類へ、非木造家屋が14種類から11種類に整理統合されています。

 
2022/05/29/10:00