(第40号)家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(2)

 
(投稿・令和2年-見直し・令和6年7月)

 前号(39号)「家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(1)」では、固定資産税家屋の評価が「再建築価格方式」であり、合理的で公平な方式ではあるが複雑煩瑣な仕組みで、課税誤りの原因の一つともなっていると指摘しました。

 
 なにしろ固定資産評価基準(家屋)の別表だけでも200ページ(A4版)を超える分量ですし、その上、各市町村では「固定資産評価事務要領」(市町村により名称は異なる)に膨大な基準が定められています。

 今回は、「家屋評価の仕組み」で記した、時の経過によって生ずる損耗の状況による減点補正の仕組みを説明します。

経年減価の基準=経年減点補正率基準表

 家屋は時の経過とともに損耗が生じるため、固定資産評価基準による経年減点補正率基準表に基づき、3年に一度の基準年度ごとに評価替えを行い評価額が減額されます。

 ただし、次の場合は減額とはなりません。
①基準年度単位での物価上昇率が減価率を上回る場合は「据置」となります。
②評価割合(残価率)が20%になると、それより評価額は低くはならず、家屋が存在する限り20%の評価・課税となります(以下「最終残価率」)。

 家屋の損耗の状況による減点補正は、新築後の年数の経過に応じて生ずる通常の減価ですが、固定資産評価基準では、この他に積雪寒冷地域に存する家屋の積雪寒冷地域の補正や天災、火災その他の事由により通常以上の損耗が生じている場合の損耗残価率も定められています。

<木造家屋の経年減点補正率基準表>
 木造家屋の経年減点補正率基準表は、次の9種類に分類されています。
①専用住宅、共同住宅、寄宿舎及び併用住宅用建物、②農家住宅用建物、③ホテル、旅館及び料亭用建物、④事務所、銀行及び店舗用建物、⑤劇場及び病院用建物、⑥公衆浴場用建物、⑦工場及び倉庫用建物、⑧土蔵用建物、⑨附属家

<木造家屋経年減点補正率基準表の例(専用住宅、共同住宅等)>

<非木造家屋の経年減点補正率基準表>
 非木造家屋の経年減点補正率基準表は次の8種類に分類されています。
①事務所、銀行用建物及び②~⑧以外の建物、②住宅、アパート用建物、③店舗及び病院用建物、④百貨店、劇場及び娯楽場用建物、⑤ホテル及び旅館用建物、⑥市場用建物、⑦公衆浴場建物、⑧工場、倉庫、発電所、変電所、停車場及び車庫用建物

<非木造家屋経年減点補正表の例(事務所、銀行用建物等)>

 上記の木造、非木造ともに次の最終残価率20%まで、基本的に経年減点補正が行われますが、木造及び非木造の住宅・アパート用建物のみ初期減価が行われます。初期減価は新築後1年目に0.8(つまり20%減価)されるということです。

固定資産税特有の最終残価率20%

 上記のとおり、固定資産税評価は時の経過とともに価値が減少していきますが、固定資産税評価においては、最終的に価値はゼロとはならず、20%の価値が残り続けます。

 この最終残価率20%の制度は、「年数の経過に伴って家屋の価値は減少していくが、通常の維持補修を行い家屋として効用を発揮している家屋であれば、家屋の持つ使用価値はゼロにはならず、最低限の価値は保たれる。」と従来から説明されています。

 つまり、家屋の固定資産税は、何年経過しても家屋を使用(保有)している限りは最低限20%の評価・課税がされ続けるということになります。

固定資産税家屋評価の論点

 固定資産税の家屋評価については、これまでも様々な検討が行われきていますが、いくつか論点を上げてみます。

(1)木造・非木造の区分けについて

 前号(45号)と今号で家屋評価の再建築費評点基準表と経年減点補正率基準表を掲げましたが、木造、非木造ともに両者の分類区分が一致していません。このことも家屋評価の複雑さの一因となっています。

 ところで、近年では木造建築の技術も進み、かつての無垢材ではなく木材の集成材により非木材と同様の耐久性もみられる家屋も現に建築されています。

 このような状況にもかかわらず、現在の固定資産評価基準の再建築費評点基準表と経年減点補正率基準表の内容は「時代遅れ」と言わざるを得ません。

(2)リフォームや用途変更が行われた場合の適用について

 家屋を新増築した場合は評価担当側でも把握は可能ですが、リフォームをされた場合や途中で用途が変更された場合(例えば住宅用から事務所用)、適切に経年減価変動率の適用が出来ているのかどうかは疑問です。

(3)最終残価率20%について 

 法人税の減価償却において法定耐用年数が定められていますが、固定資産税の最終残価年数とは制度趣旨が異なるため、必ずしも同一ではありません。しかし、法人税の減価償却では1円まで償却されますが、固定資産税は残価率20%で評価額はそれ以下には下がりません。

<法人税の法定耐用年数>

 この固定資産税の残価率20%については、「最終残価率はなぜゼロにならないのか」との反対意見もあります。逆に、木造にしても非木造にしても、現実の耐久性も良くなっており、建築専門家の方々からは「最終残価までの年数が短か過ぎる」との意見もあります。

 ところで、「最終残価率をゼロに」との意見に対しては、「そもそも固定資産税は何故課税されているのか」という”そもそも論”に目を向ける必要があります。”そもそも論”とは「固定資産税は行政サービスの対価としての費用分担の一つである」ということです。最近では、この「行政サービスの対価」との主張がほとんどなされていないようですが、この点も不思議です。

 この観点からすると、土地は「交換価値」とされていますが、家屋は「使用価値」という側面が強いとも言えます。 

不動産取引における建物の評価

 不動産取引や鑑定評価の世界では、「家屋」ではなく「建物」の名称を使うのが一般的です。とは言え固定資産評価基準の再建築費評点基準表と経年減点補正率基準表では「建物」の用語が使われています。この理由はよく分かりません。

 日本では、土地から独立して建物のみの取引は伝統的に採用されていないこともあり、不動産取引における建物価値の査定では、上記の法定耐用年数を参考にするケースが多く、希に固定資産税評価額を建物の価格として採用する場合もあります。

 また、不動産鑑定の評価では、建物の減価率査定においては、「経済的残存耐用年数」という概念を採用し、仮に法定耐用年数を経過している建物でも、実際にあと何年使用できるかという年数により査定します。現に居住に供されている建物でも相当程度劣化が進んでいれば、土地・建物一体の最有効使用を更地と査定して、建物取り壊し費用を土地価格から控除する評価を行う場合もあります。

再建築価格方式の見直し

 固定資産税評価における再建築価格方式は、昭和25年に地方税法が創設されて以来一貫して採用されており、「適正な時価」や「正常価格」の基準となりうる最適な方式とされています。

 しかし、一方では、市町村での評価担当者からすると、この再建築方式は複雑過ぎて難しいという指摘がされており、また当然、納税者にとっても理解が難しく、何度か固定資産評価の簡素・合理化についての検討はされてはいますが、未だ実現に至ってはいません。
 
2022/5/29/10:30
 

 

(第39号)家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(1)

 
(投稿・令和2年-見直し・令和6年7月)

 前号(第38号)「固定資産税の家屋評価と「再建築価格方式」について」に続いて、家屋評価の「再建築価格方式」についてです。

 
 実は、この「再建築価格方式」の仕組みが大変複雑で、市町村の評価実務にも負担が大きく、家屋の課税誤りが発生する一つの原因であるとも考えられます。

 では、「再建築価格方式」とはどのようなものなのでしょうか。

再建築価格とは

 再建築価格とは、評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点において新築するとした場合に必要となる建築費をいいます。
 不動産鑑定評価での、原価法による再調達原価と同一の概念です。

 この再建築価格(再調達原価)は、実際にその家屋をいくらで建築したのか、あるいはいくらで取得したのか建築費(取得費)とは異なるものです。

 この「再建築価格方式」は50年以上にわたって採用されている評価方法ですが、この方式は仕組みが複雑であるため、これまで総務省や市町村では(資産評価システム研究センターを通じて)、家屋評価の簡素合理化が検討されてきています。 しかし、これまでの経緯や様々な要因により、抜本的な簡素合理化には至っていないのが現実でもあります。

再建築評点数の算出方法

 家屋評価は「再建築価格方式」により、まず用途別区分(木造13種類、非木造9種類)及び部分別区分(木造11種類、非木造14種類)により、再建築費評点基準表により再建築費表点数を算出します。

 次に、この求められた再建築表点数に時の経過によって生ずる損耗の状況による減点補正等を行い、評価の対象となった家屋の表点数を算出します。

 この場合の評点一点当たりの価額は、1円に物価水準による補正率及び設計管理費等による補正率を乗じた価額となります。

<家屋評価の仕組み>

家屋評価の用途別区分

 家屋は、固定資産評価基準で木造家屋と非木造家屋とに区分され、その木造、非木造家屋それぞれに、再建築費評点基準表による用途別区分が規定されています。

 そこで、まず用途別区分ですが、木造家屋が13種類、非木造家屋が9種類に分類されています。

<木造家屋の用途別区分(13種類)>
①専用住宅用建物、②共同住宅及び寄宿舎用建物、③併用住宅用建物、④ホテル、団体旅館及び簡易旅館用建物、⑤普通旅館及び料亭用建物、⑥事務所及び銀行用建物、⑦店舗用建物、⑧劇場用建物、⑨病院用建物、⑩工場、倉庫用建物、⑪附属家用建物、⑫簡易附属家用建物、⑬土蔵用建物

<非木造家屋の用途別区分(9種類)>
①事務所、店舗、百貨店用建物、②住宅、アパート用建物、③病院、ホテル用建物、④劇場、娯楽場用等のホール型建物、⑤工場、倉庫、市場用建物、⑥住宅用コンクリートブロック造建物、⑦軽量鉄骨造建物(ア.住宅、アパート用建物、イ.工場、倉庫、市場用建物、ウ.事務所、店舗、百貨店等用建物)

 この用途別区分は、以前は木造、非木造ともに20~30種類ほどありましたが、平成30年度基準では上記のとおり13種類と9種類に統合されています。(実際の建築現場では逆に種類が増えているのが現実です。)

家屋評価の部分別区分

 次に上記の用途別区分ごとに部分別区分が規定されています。

 木造家屋では11種類、非木造家屋では14種類に区分され、再建築費表点数を計算します。そして、それらの部分別を合計して、その家屋の再建築表点数を算出することになりますが、家屋評価においては、この作業で大部分を占めることになります。

<木造家屋の部分別区分(11種類)>
①屋根、②基礎、③外壁、④柱・壁体、⑤内壁、⑥天井、⑦床、⑧建具、⑨建築設備、⑩仮設工事、⑪その他の工事

非木造家屋の部分別区分(14種類)>
①主体構造部、②基礎工事、③外周壁骨組、④間仕切骨組、⑤外部仕上げ、⑥内部仕上、⑦床仕上、⑧天井仕上、⑨屋根仕上、⑩建具、⑪特殊設備、⑫建築設備、⑬仮設工事、⑭その他工事

 この部分別区分は、建築された家屋の表面に表れている部分から隠れた内部をも推定して評価できるように、家屋の構造を外見的な面から区分されています。したがって、この部分別区分は、実際の建築の見積書の区分とは異なることになります。

 また、この部分別区分ごとに使用資材の種類、品質、施工の態様に応じて「標準評点数」が決められており、さらに実際に家屋を見て「補正項目」「補正係数」を査定し、床面積等の「計算単位」を乗じることにより部分別再建築費表点数を求めることになります。
(計算内容は詳細に亘るため割愛します。)

複雑さが課税誤りの原因に

 上記のとおり、固定資産評価の区分と実際の建築見積書の工事別区分とは異なります。
 そのため、市町村の担当者は実際の建築見積書や図面から、固定資産評価の用途別区分及び部分別区分に該当する項目を拾い出す作業を行わなければなりません。

 仮に、固定資産評価基準での木造家屋の専用住宅用建物再建築評点基準表だけでも8ページに亘り、非木造家屋の事務所、店舗、百貨店用建物となると24ページに亘る基準表になっています。

<木造の例(専用住宅用建物)>

<非木造の例(事務所・店舗・百貨店用建物)>
 上記のとおり、非木造家屋の用途別は9種類ですので、この再建築費評点基準表の9倍になる訳で膨大な量になります。

 市町村の税務担当者は、通常、事務職であることから建築の専門家ではありません。もちろん、研修等は行われますが、建築の専門的名称や構造等を十分に理解するのには時間が掛かります。

 ところが、市町村の事務職は3~5年程度で異動するのが一般的であり、折角慣れた時期には異動するという事態が発生します。
 そのような事態を防ぐため、市町村によっては、家屋評価の専門的な職員を配置することや、京都府内の京都地方税機構のように京都府と(京都市を除く)25市町村での広域連合のような共同化の試みも進められています。

 また、政令指定市以外の市町村では、300㎡あるいは500㎡以上の非木造家屋の評価は県(県税事務所)に依頼しています。

 ところで、毎年送られてくる固定資産税(都市計画税)納税通知書を見ると、土地については「前年度課税標準額、本則課税標準額、課税標準額」の金額が異なる等分かりにくくなっています。

 家屋は「単に課税標準額」に税率を乗ずると税額が分かる記載になっていますが、そもそも家屋評価自体が大変複雑で、固定資産税家屋の評価・課税の潜在的な誤りが多いと思われます。
 
2022/05/29/10:00
 

 

(第38号)固定資産税の家屋評価の「再建築価格方式」について

 
(投稿・令和2年5月-見直し・令和6年7月)

 今号は、固定資産税家屋の評価方法の基本的な部分を解説していきます。

 固定資産税における家屋の評価は、「再建築価格方式」を基準として評価する方式を採用しています。
※不動産鑑定評価では、「原価法」の建物評価でこの「再建築価格方式」と同じ方法を採用しています。

「再建築価格方式」とは

 この「再建築価格方式」は、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築価格)を求め、この再建築価格に時の経過等によって生ずる損耗の状況による減価を考慮し、必要に応じて需給事情による減価を考慮して家屋の価格を算出します。

 「再建築価格方式」が決定される経過は、昭和34年4月から昭和36年3月の間に固定資産評価制度調査会において、家屋の評価方法として
再建築価格を基準として評価する方法
取得価格を基準として評価する方法
賃貸料の収益を基準として評価する方法
売買実例価格を基準として評価する方法
の4つの方法について検討されました。その結果、の「再建築価格方式」が採用され今日に至っています。

 その理由として、再建築価格は、家屋の構成要素として基本的なものであり、その評価の方式化も比較的容易であるので、「再建築価格方式」が適当であるとして決定された訳です。

 この「再建築価格方式」については、昭和50年12月の京都地裁判決や平成15年7月の最高裁判決においても「最も妥当な方法」「適正な時価であると推認するのが妥当」との判断がなされています。

 たしかに「再建築価格方式」は妥当で方式化は容易であるかもしれませんが、固定資産税評価でこの方式による事務作業は大変なものとなっているのも事実であります。

家屋評価額の計算方法

 まず、固定資産税家屋の計算方法の全体像を示します。

 ところで、固定資産税における評価の基礎とされる再建築価格は、建築費を構成する一切の費用に相当するもととされており、工事原価だけでなく、設計監理費や一般管理費等も含まれることになります。

<建築費と固定資産評価基準における再建築費の関係>

評点数の算定

 上図のとおり、固定資産税家屋の評価額は<評点数×評点一点当たりの価額>により求めますが、その評点数は<再建築費評点数 × 損耗の状況による減点補正率 × 需給事情による減点補正率>により求めます。

 まず「再建築費評点数」ですが、実は、固定資産税の新築家屋の評価において、この作業が大部分を占める大変な作業になります。

再建築評点数

 再建築評点数の付設については、「部分別による方法」と「比準による方法」がありますが、一般的(特に非木造家屋)では「部分別による方法」が採用されています。

 新築分の各部分別の再建築評点数の算式は<標準評点数×補正係数×計算単位の数値>ですが、ここでは①評点項目、②標準評点数、③標準量、④補正項目及び補正係数、⑤計算単位の順でみていきます。

① 評点項目
 評点項目は、家屋の構造に応じて、家屋評点基準表の各部分ごとに一般的に使用されている資材の種別及び品等、施工の態様等の区分によって標準評点数を付設する項目として設けられています。

② 標準評点数
 標準評点数は、評点項目の区分に従い、家屋の各部分別の標準的な単位当たり施工量である標準量に対する工事原価を基礎として算出されたものです。
 この標準評点数は、基準年度の賦課期日の属する年の2年前の7月現在の東京都における物価水準により算定した工事原価に相当する費用に基づいて、その費用を1円1点としています。

③ 標準量
 標準量とは、家屋の評点基準表に示されている標準評点数の積算基礎となった各用途別、部分別の標準的な施工量です。

④ 補正項目及び補正係数
 評点項目及び標準評点数は、標準的な家屋の各部分の施工量等を基準として決定されていますが、評価する個々の家屋の施工態様は必ずしも標準的なものではないため、補正項目と補正係数が設けられています。

 補正係数は、施工数量と施工状況の良否に基づく、補正項目ごとに適用すべき「標準」「増点補正率」「減点補正率」が示されており、それを適用します。

⑤ 計算単位
 標準評点数は、各部分別の標準的な施工数量を基礎として積算されていますが、部分別再建築費評点数は、各部分別の標準評点数に床面積、個数、箇所数等の単位(m、㎡、㎥、t、個等)を乗じて算出します。

損耗の状況による減点補正率

 家屋の損耗の状況による減点補正率は、原則として経過年数に応ずる減点補正率(経年減点補正率)によります。

① 経年減点補正率
 経年減点補正率は、通常の維持管理を行う場合において、年数の経過に応じた通常生ずる減価を基礎として定められ、家屋の用途別区分及び構造別区分に従い、家屋経年補正率基準表に示されています。

 ただし、この補正率を乗じた経年減点補正率が100分の20に満たない場合は100分の20とされます。つまり、経年減点補正率は20%より下がらず、その家屋が存在する限りは20%相当の評価額が続くことになります。これを「最終残価率」と言います。

② 損耗減点補正率
 損耗減価率、各部分別の損耗の現況を通常の維持管理を行うものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる損耗の状態に修復するものとした場合に要する費用を基礎として定められたものであり、部分別損耗減点補正率基準表により求めます。ただし、この基準表は特別な場合のみ適用されます。

需給事情による減点補正率

 需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる家屋等について、その減少の価額の範囲において求めるものとされています。

評点一点当たりの価額

 評点一点当たりの価額は<1円 × 物価水準による補正率 × 設計管理費等による補正率>です。

物価水準による補正率

 物価水準による補正率は、家屋の資材費、労務費等の工事原価に相当する費用等の東京都特別区との地域的格差を考慮して定められます。

設計管理費等による補正率

 設計管理費等による補正率は、家屋の建築費に通常含まれる設計監理費、一般管理費、利潤等の工事原価に対する割合を考慮して定められています。

在来分家屋の再建築評点数


 在来(中古)家屋の計算方法は、上図の赤枠部分に該当します。

 在来分(中古)の家屋に係る再建築評点数は、原則として、基準年度の前年度における再建築評点数(全基準年度に適用した評価基準によって求めた再建築評点数)に再建築評点補正率を乗じて求めます。

 在来家屋の基準年度の評価額は、一つ前の基準年度の価格(正式には「再建築費評点数」)を基礎として算定されています。

 この場合、建築当初の価格は見直しがされないことから、仮に建築当初の価格の算定に誤りがあっても、誤ったままの状況が継続してしまうことになります。
 
2022/5/29/09:30
 

 

(第37号)固定資産税の評価・課税における都道府県の役割について

 
(投稿・令和4年5月-見直し・令和6年7月)

 今回は、固定資産税の評価、課税において都道府県はどのような位置づけになっているのか、ということの説明になります。

 固定資産税の課税主体(課税権者)は、基本的にその固定資産の所在する市町村長となります。

<市町村が課することができる税目>
※地方税法第5条第2項-固定資産税
「市町村は、普通税として、次に掲げるものを課するものとする。(後略)
一 市町村民税
二 固定資産税
三 軽自動車税
四 市町村たばこ税
五 鉱産税
六 特別土地保有税」

※地方税法第5条第6項-都市計画税
「市町村は、(中略)目的税として、次に掲げるものを課することができる。
一 都市計画税
二 水利地益税
三 共同施設税
四 宅地開発税
五 国民健康保険税」

 このように、市町村長が固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税」とする)の課税権者となっています。

東京都23区は固定資税産の課税権者

 ところが、東京都23区だけは、上記の例外として、固定資産税の課税権者となっているのです。

<都における普通税の特例>
※地方税法第734条第1項
「都は、その特別区の存する区域において、普通税として、第四条第二項に掲げるものを課するほか、第一条第二項の規定にかかわらず、第五条第二項第二号及び第六号に掲げるものを課するものとする。この場合においては、都を市とみなして第三章第二節及び第八節の規定を準用する。」
<都における目的税の特例>
※地方税法第735条第1項
「都は、その特別区の存する区域において、目的税として、道府県が課することができる目的税を課することができるほか、第一条第二項の規定にかかわらず、第五条第五項及び第六項第一号に掲げる目的税を課することができる。(後略)」

 このように東京都23区域内の固定資産税の課税権者は東京都とされ、都税として課税されています。具体的な課税及び徴収事務は、23区内都税事務所が行っています。

固定資産税評価における道府県の役割

 以上のとおり、基本的には市町村が、東京23区は東京都が固定資産税の評価・課税の担当となっていますが、東京都以外の道府県はどのような役割があるのでしょうか。

 地方税法では、道府県知事は市町村長に対して「固定資産税評価について援助(助言)や勧告をすること」と規定されています。

 その中で固定資産評価事務として大きな役割を担っているのが「一定規模以上の新築非木造家屋の評価」であります。

 これは、大都市以外の市町村における非木造家屋の新築評価を道府県(道府県税事務所)が担っているということです。

 道府県によって詳細は異なりますが、おおよそ次の仕組みとなっています。

新築の大規模(300㎡~500㎡以上)非木造家屋の評価を道府県が担当します。
(旧政令指定都市のような大都市では、自ら家屋の評価を行っています。)

評価が出来上がると、道府県知事から市町村長に対して決定通知書と電子データが渡され、課税権者による市町村長により課税されます。

 以上の法的根拠は、地方税法第73条の21の2項(不動産の価格の決定等)になります。

<不動産の価格の決定等>
※地方税法第73条の21
「1項 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。但し、当該不動産について増築、改築、損かヽいヽ、地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでない。
2項 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は前項但書の規定に該当する不動産については、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。
3項 道府県知事は、前項の規定によつて不動産の価格を決定した場合においては、直ちに、当該価格その他必要な事項を当該不動産の所在地の市町村長に通知しなければならない。」

今後改善(検討)すべき内容

 道府県知事が大規模非木造家屋の新築評価を担っている仕組みは昔からですが、筆者のコンサルタントとしての経験から、率直な感想を述べさせていただきます。

市町村の固定資産税担当に対して、非木造家屋の新築評価の説明を求めたところ、十分に説明をしていただけない場面が何度かあります。

 これは「自ら評価していない」ことから、非木造家屋のような複雑な評価内容の説明は難しいのだろうと推測しています。
 「自ら評価していない」とは、道府県が評価を行っていることと、新築当時の担当者が既に異動してしまっている、との二重の意味があります。

それだけではなく、ある市では、県から送られてきた資料(「評価計算書」)は「保存期間の10年を過ぎているため廃棄してありません」と言われてしまうことです。

 在来家屋の評価が正しいのかどうか、「評価誤り」があるのかを確認するためには、あくまでも新築当時の資料が必要であるのに、その資料が存在していないのです。
 つまり、課税権者の担当者も、その家屋の新築評価について説明が出来ないのです。

 「賦課課税方式」である固定資産税で、そのようなことで良いのでしょうか。

 是非とも、固定資産税家屋の資料保存期間は10年ではなく「家屋課税中保存、又は永年保存」にしていただきたいものです。

実は、上記の①②の根底をなしている問題は、固定資産税家屋の評価方法が「再建築価格方式」という非常に複雑な仕組みとなっていることにも原因があります。
 この件については、これまでも「評価の簡素化」が検討されてきていますが、是非とも実現を急いでいただきたいものです。
 
2022/05/28/15:00
 

 

(第36号)固定資産税の宅地の評価方法(「その他の宅地評価法-標準宅地比準方式」)

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年7月)<100号達成時の閲覧数1位>

 この第36号は、本ブログが100号達成したときの統計で第1位を獲得しました。
 正直なところ驚いたのですが、この統計はワードプレスの「Count per Day – 統計」機能が自動的に集計しているもので、人為的ではありません。

 固定資産税宅地の評価方法としては、「市街地宅地評価法」(路線価方式)と「その他の宅地評価法」(標準宅地比準方式)の2通りがありますが、今回は「その他の宅地評価法-標準宅地比準方式」の解説になります。

<宅地の評価方法>

「その他の宅地評価法」の評価とは

 「その他の宅地評価法」は、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地の評価に適用されます。

 具体的には、家屋の連たん度が低く「市街地宅地評価法」(路線価方式)を適用する必要が認められない地域について適用される評価方法です。

 まず状況類似地区ごとに標準宅地を選定し、この標準宅地の適正な時価から求めた評点数に比準して、状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設します。

「その他の宅地評価法」の評価

 「その他の宅地評価法」では、道路ごとに路線価を付設せずに、状況類似地区の区分とその中で標準宅地を選定し、土地の宅地比準を行い求めます。

 宅地の価格事情がほぼ同等で広域に亘るため、路線価を付設する必要性が無い等から路線価方式を採用しない訳です。

<「その他の宅地評価法」の流れ>

状況類似地区の区分

 「その他の宅地評価法」では、まず状況類似地区に地区区分します。

 「市街地宅地評価法」では、用途地区がありましたので状況類似「地域」と表現しましたが、「その他の宅地評価法」では状況類似「地区」となります。

標準宅地の選定と評価

 次に、その状況類似地区の中で標準宅地を選定し、標準宅地の評価額を設定します。

 これは「市街地宅地評価法」と同じく、地価公示と地価調査がある場合はその価格の7割を、無い場合には標準宅地を鑑定評価をして、その7割を標準宅地の適正な時価とします。数量からすれば、標準宅地が圧倒的に多いことになります。

 そして、標準宅地の評点数を計算し、原則として、全ての筆(画地)の評点数を計算します。

各筆の評点数の付設

 評点数の計算方法としては、標準宅地の比準計算により行われます。

 固定資産評価基準では、比準割合の項目として、「奥行による比準割合」、「形状等による比準割合」、「その他の比準割合」の3つの類型の相乗積により求めることとされています。

<「その他の宅地評価法」の比準割合>

 
2022/05/27/15:00