(第23号)課税明細書(土地・家屋)で評価計算(内容)が分かるか?

 
(投稿・平成25年5月-見直し・令和7年1月)

 毎年4月~5月になると、市町村から固定資産税の納税通知書とともに課税明細書が送付されてきますが(東京23区は6月)、今回は、課税明細書がどうなっているか、これでどこまで評価内容が分かるかです。

 まず土地の場合は、平成6年度から、土地の価格を地価公示地価格の7割としたことから、急に引き上げることができないため、緩和措置としての負担調整措置を平成9年度から行っていることにより、計算過程が複雑になっています。

 また家屋の場合は、固定資産税評価自体が複雑なため、課税明細書に記載できるようなものではありません。

 なお、ここで掲げる課税明細書(例)は横浜市のホームページに掲載されているものから作成したものですが、市町村により表記方法が異なりますのでご注意ください。

土地の課税明細書(例)


<拡大してご覧になる場合は、こちらのPDFをご覧ください。>

 
 土地の場合は、負担調整措置が行われていることから、表記も評価計算も複雑になっています。

 まず、⑤と⑥から、この土地は200㎡以下の小規模住宅用地であることが分かります。

 ⑦「価格」は地価公示レベルの7割となっており19325697円で、⑩「固定資産税本則課税標準額」1/6で3220949円、⑪「都市計画税本則課税標準額」は1/3で6441889円となります。

<小規模住宅用地の負担調整措置>

 本来であれば、⑩「本則課税標準額」=⑫「(今年度)課税標準額」になるのですが、負担調整措置により、⑧「前年度課税標準額」と③「負担水準」により調整がなされています。

 負担調整措置としては、⑧「前年度固定資産税課税標準額」3020000円が⑩「固定資産税本則課税標準額」3220949円のどこまで達しているかの③「負担水準」を求めます。この土地の場合は、⑧/⑩により③「負担水準」93%となっています。

 ③「負担水準」が93%であれば100%に達していないため、「⑧+⑩×5%」の計算により⑫「(今年度)固定資産税課税標準額」を求めます。

 その結果、⑫「固定資産税課税標準額」3181047円、⑬「都市計画税課税標準額」6441899円となります。税相当額は、それぞれ1.4%、0.3%を乗じて⑭44534円、⑮19325円となります。

 なお、固定資産税の税額は100円未満切り捨てですので、税金は⑭44,500円と⑮19,300円となります。

 現在の固定資産税土地の評価は、このように⑧⑨「前年度課税標準額」と③「負担水準」を挟む負担調整措置により複雑になっています。

家屋の課税明細書(例)

 次は家屋の課税明細書の例です。

<拡大してご覧になる場合は、こちらのPDFをご覧ください。>

 
 まず、②「所在・地番」、③「家屋番号」、⑤「種類・構造」、⑥課税床面積を確認して自分(自社)の家屋に間違いないことを確認します。

 市町村によっては、新築年月日の記載がありますが、この課税明細書には記載がありません。新築年月日が記載されていれば、この家屋が住宅減額の特例に該当するか否かが分かります。

 この家屋では、④「軽減相当税額・減額事由」に小さな文字で「6A」とあります。右欄の「主な減額事由コード」によると、「6A」は「一般の新築住宅」とありますので、この家屋は「一般の新築住宅」としての減額がされていることを意味しています。ということは、この家屋は新築後3年以内であることが分かります。
(課税明細書は所有者に送付されますので、築年数は所有者が良く分かっているでしょう。)

 「一般の新築住宅」の固定資産税の減額は、居住部分の割合が全体の床面積の1/2以上で、その床面積が120㎡以下、かつ2階以下の家屋については、新築後3年間は課税標準額(税額)が1/2に減額されます。

 この家屋は、⑤「種類・構造」が居宅・木造、⑥「課税床面積」が103.00㎡で「6A」とあるので、⑫「固定資産税の課税標準額」4377500円が⑦「価格」8755000円の1/2になっています。

 なお、「一般の新築住宅」の場合は、3年間減額になるのは固定資産税のみで都市計画税は減額にはなりません。ですから⑦=⑬8755000円となっている訳です。

 ⑫×1.4%=⑭「固定資産税相当額」61285円、⑬×0.3%=⑮「都市計画税相当額」26265円となっています。

 以上のとおり、家屋の課税明細書は簡略な表記になっていますが、問題は「なぜ、この価格(評価額)になっているのか」が「課税明細書では分からない」ということです。(「明細書」の言葉が一人歩きしています。)
 
2022/5/15/9:00
 

 

(第22号)物的(用途)非課税の例(2)-社会福祉法人等による「老人福祉施設」

 
(投稿・平成25年-見直し・令和7年1月)<100号達成時の閲覧数3位>

 固定資産税の非課税については、第13号「固定資産税が課税されない非課税制度とは」と第21号「物的(用途)非課税の例(1)ー私道でも「公共の用に供する道路」であれば非課税」で紹介しています。

 

「老人福祉施設」に対する非課税

「老人福祉施設」の非課税内容

 「老人福祉施設」の非課税については、地方税法第348条2項十の五に規定されています。

<固定資産税の「老人福祉施設」非課税>
※地方税法348条2項十の五
「2.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
……………
十の五 社会福祉法人その他政令で定める者が老人福祉法第五条の三に規定する老人福祉施設の用に供する固定資産で政令で定めるもの」

 ここでは、所有者が「社会福祉法人その他政令で定める者」で、固定資産が「固定資産で政令で定めるもの」とされ、「者」と「もの」それぞれの政令を確認する必要があります。

 まず、「老人福祉施設」で非課税が認められる者は、必ずしも運営主体が社会福祉法人に限りません。
 地方税法施行令第49条の13では、1項で(1)の運営する「者」が、2項で(2)の固定資産が非課税となる「もの」とされています。

(1)運営主体
①社会福祉法人
②社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
③公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、消費生活協同組合、健康保険組合、国民年金基金、商工組合、医療法人等
④老人介護支援センターの届出をした者

(2)非課税となる固定資産
a.①が経営する養護老人ホーム
b.①②が経営する特別養護老人ホーム
c.①②③が経営する老人デイサービスセンター、老人短期入所施設軽費老人ホーム、老人福祉センター
d.①②③④が経営する老人介護支援センター

 なお、社会福祉法人はそもそも地方税法348条2項十の五で規定されていますので、地方税法施行令では「社会福祉法人以外の者」が規定されています。

<老人福祉施設等の「運営主体」
※地方税法施行令第49条の13第1項
「法第348条第2項第十の五に規定する政令で定める者は、次に掲げる者とする。
1.老人福祉法附則第6条の2の規定により社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
2.公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、農業協同組合連合会(前号に掲げるものを除く。)、消費生活協同組合、消費生活協同組合連合会、健康保険組合、健康保険組合連合会、企業年金基金、確定給付企業年金法に規定する企業年金連合会、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、国民健康保険組合、国民健康保険団体連合会、国民年金基金、国民年金基金連合会、商工組合(組合員に出資をさせないものに限る。)、商工組合連合会(会員に出資をさせないものに限る。)、石炭鉱業年金基金、全国市町村職員共済組合連合会、地方公務員共済組合、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団及び医療法人
3.前2号に掲げる者以外の者で老人福祉法第20条の7の2に規定する老人介護支援センターの設置について同法第15条第2項の規定による届出をしたもの」

<老人福祉施設等で「非課税となる固定資産」>>
※地方税法施行令第49条の13第2項
「法第348条第2項第十の五に規定する政令で定める固定資産は、次に掲げる固定資産とする。
1.社会福祉法人が経営する老人福祉法第二十条の四に規定する養護老人ホームの用に供する固定資産
2.社会福祉法人及び前項第1号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の5に規定する特別養護老人ホームの用に供する固定資産
3.社会福祉法人並びに前項第1号及び第2号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の2の2に規定する老人デイサービスセンター、同法第20条の3に規定する老人短期入所施設、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム及び同法第20条の7に規定する老人福祉センターの用に供する固定資産
4.社会福祉法人及び前項各号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の7の2に規定する老人介護支援センターの用に供する固定資産」

 特に「医療法人」(地方税法施行令第49条の13第1項2号の最後尾)が運営する「老人福祉施設等の用に供する固定資産」の非課税については、かなりの市町村で課税誤り(非課税にもかかわらず課税していた)があった、とそれぞれの市町村のホームページで明らかにされています。

 某市町村の発表によりますと、「平成11年度地方税法改正により非課税範囲が拡大した(「医療法人」が追加された)ものの、市町村職員の理解が不十分であったため、非課税にもかかわらず課税を行った」とのことです。

 なお、株式会社が経営する「老人福祉施設」は非課税にはなりません。

「老人福祉施設」に有償で土地を貸すと課税

 ところで、固定資産税が非課税になるのは、運営法人等が固定資産を所有している場合に限りません。土地所有者が、運営法人等の利用の用に供するために土地を無償で貸している場合、その土地も非課税になります。

 ただし、有償で土地を貸している場合は、その土地は固定資産税が課税されます。
 例えば、次の図のように、社会福祉法人(A)が「老人福祉施設」を建設して運営し、その土地を(B)所有者から借りている場合です。

<社会福祉法人が土地を借りている場合>

 
 社会福祉法人が土地と家屋を所有し、目的の用途に沿っていれば、当然、土地、家屋ともに固定資産税は非課税となります。

 しかし、固定資産がその目的以外に使用される場合は、固定資産税は非課税となりません。地方税法348条3項にその「課税規定」があります。

<課税規定-地方税法348条3項>
「3.市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」
 
2022/5/14/13:00
 

 

(第21号)物的(用途)非課税の例(1)-私道でも「公共の用に供する道路」であれば非課税

 
(投稿・平成25年-見直し・令和7年1月)

 第13号で、固定資産税の非課税としては、「人的非課税」と「物的非課税(用途による非課税)」があり、「物的(用途)非課税)」として69項目が地方税法上規定されていると紹介しました。

 
 今回は、私道が「物的(用途)非課税)」となる場合の要件等を解説します。

「公共の用に供する道路」は非課税

 道路は通常、国道、県道、市町村道等のいわゆる公道ですので、固定資産税では公道は「人的非課税」になっています。

 それに対して、私道は個人の所有土地ですので、一般的には固定資産税の課税対象になります。

 しかし、その私道が「公共の用に供する道路」であれば、非課税になります。

<固定資産税の「私道」非課税>
※地方税法第348条2項5号
「2.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
……………
5号 公共の用に供する道路、運河用地及び水道用地」

「公共の用に供する道路」私道とは

 では、「公共の用に供する道路」としての私道とは、どのような道路なのでしょうか。

 「公共の用に供する道路」の形態として、(1)「通り抜け私道」(2)「行止り私道」(3)「コの字型私道」(4)セットバック部分の私道があります。
 なお、(4)のセットバック部分は、道路法の道路又は(1)から(3)の私道と一体となって道路の効用を果たしている土地であることが必要です。

<私道の種類>

(1)通り抜け私道
 起終点が公道に接する幅員1.8m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(2)行止り私道
 2以上の家屋の用に供されている4m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(3)コの字型私道
 2以上の家屋の用に供されている4m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(4)セットバック部分(私道)
 セットバック部分は建築基準法道路の拡幅(私道)部分。

 なお、「セットバック部分」の道路部分が分筆されていれば問題ありませんが、分筆されてない場合でも、地積測量図などの資料を添えて申請すれば、「公共の用に供する道路」として非課税を認めてもらえます。

「公共の用に供する道路」の必要要件

 私道が「公共の用に供する道路」として非課税となるためには、上記(1)~(4)のほかに次の(5)~(9)の要件が必要です。

(5) 登記上分筆され位置が特定されているもの
(6) 客観的に道路として認定できるもの
(7) アパート、マンション、貸家、駐車場等における敷地内の道路でないもの
(8) 建築敷地として含まれていないもの
(9) 賃料、通行料を徴収していないもの

「公共の用に供する道路」は申告が必要

 そして、以上の私道を「公共の用に供する道路」として認めてもらうためには、市町村(東京都23区は都)に申告をする必要があります。

 「住宅用地の減額特例」においても市町村の条例に申告が義務付けられ、申告無しでも適用されますが、「非課税」の場合は申告が無いと認められませんので注意です。

 ここに、例として東京都の非課税に関する条例を紹介します。

<東京都条例・固定資産税に係る非課税申告>
※東京都都税条例施行規則第12条の14
「法第348条第2項本文、法附則第14条又は法附則第41条第8項(固定資産税に係る部分に限る。)の規定の適用を受けるべき者は、土地については第1号、第2号、第5号及び第6号に、家屋については第1号、第3号、第5号及び第6号に、償却資産については第1号及び第4号から第6号までに掲げる事項を記載した申告書を、当該土地、家屋又は償却資産を別の者に無料で使用させている場合には、その旨を証明する書類を当該申告書に添付して、知事に提出しなければならない。
1.住所及び氏名又は名称
2.土地の所在、地番、地目及び地積並びにその用途
3.家屋の所在、家屋番号、種類、構造及び床面積並びにその用途
4.償却資産の所在、種類及び数量並びにその用途
5.当該土地、家屋又は償却資産を法第348条第2項各号、法附則第14条又は法附則第41条第8項に規定する用に供し始めた時期
6.前各号に掲げるもののほか、知事において必要があると認める事項」
 
2022/05/12/10:00
 

 

(第20号)住宅用地の減額特例は「申告が無くても適用される」

 
(投稿・平成27年-見直し・令和7年2月)

 今回は第5号「固定資産税土地の住宅用地(小規模住宅用地・一般住宅用地)とは何か)」の続編となります。

 

住宅用地の減額は申告が義務

 固定資産税では、土地が住宅用地であれば、面積によって評価額が6分の1、又は3分の1に減額されます。

 住宅用地のうち200㎡以下は、固定資産税の本則課税標準額が1/6になります。これを小規模住宅用地の特例と言います。
 また、これが200㎡を超える部分は一般住宅用地と言い、本則課税標準額は1/3になります。

 下の図は第5号の再掲です。土地が300㎡なので、200㎡までが小規模住宅用地で1/6の減額特例、これを超える100㎡部分が一般住宅用地です。仮に土地が更に大きい場合には一般住宅用地部分が増える訳ですが、その限度は建物床面積の10倍(この場合は1,500㎡まで)とされています。

<住宅用地の減額特例>

 ところで、地方税法では、土地所有者に住宅用地であることを申告させることができるとされています。(地方税法384条1項)

<住宅用地の申告>
※地方税法384条1項
「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。」

 この地方税法の規定を受けて、ほとんどの市町村では条例により申告を義務づけています。

 それでは「条例により申告が義務づけられているにも拘わらず、申告がされていない住宅用地」は減額特例が適用されるのでしょうか。

申告が無くても適用される

 ところが、納税者の中には、その地方税法の規定や条例の存在を知らずに、住宅用地の申告がされていない場合もあります。

 今回のテーマですが、それでは「条例により申告が義務づけられているにも拘わらず、申告がされていない住宅用地は減額特例が適用されるのでしょうか」。

 結論として、(市町村の条例により)住宅用地の申告が義務付けられていても、その申告が無くても住宅用地の特例は適用されます。

 これは、固定資産税が申告課税ではなく、役所が一方的に評価・課税する賦課課税であることと、住宅用地であれば外部からも判断し易いからです。

 この問題については、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決で「申告が無いからといって、減額特例を適用しないとすることが許されるものではない」との判断が示されています。

<平成4年2月24日浦和(現さいたま)地裁判決>
「固定資産税の賦課決定は、市町村長の納税義務者に対する納税通知書の交付によってされるのであって(地方税法第364条)、納税義務者からの申告によるものではないのであり、同法第384条第1項本文が、市町村長は、住宅用地の所有者に対して、当該市長村の条例の定めるところに従い、土地の所在及び面積等、固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものではないことは課税の当局者にとっては見易い道理である。」

 この判決を受けて、総務省としても「住宅用地であれば申告がなくても住宅用地の認定はなされなければならない」(「要説固定資産税」)としています。

 このように、市町村での条例で申告が義務づけられていますが。仮に納税者が気が付かずに申告しなかった場合はどうなるかですが。

 この点について、ときどき報道されることもありますが、納税者の申告が無いので課税をする市町村もあるようですが、これは「課税誤り」となります。

 なお、平成18年3月の大阪高裁から、「条例による申告が無かった場合、所有者側の過失により3割の過失相殺」を認めています。

<平成18年3月24日大阪高裁判決>
「法が、条例の定めによって、住宅用地の所有者に固定資産税の賦課徴収に必要な事項の申告をさせることができるとしたのは、賦課課税方式を採用しつつ、調査等の過誤を防止するため、住宅用地の特例によって固定資産税等の逓減措置を受けられる住宅用地の所有者に必要事項の申告義務を負わせることとしたものであって、その限りでは、法は、申告により利益を得られる者が申告しない以上、利益を得られなくてもある程度はやむを得ないという立場を採っているともいい得るところ、被控訴人は、市税条例により申告を義務づけられている(違反には過料の制裁まで科せられる。)にもかかわらず、正当な理由なく所定の申告をせず、しかも毎年控訴人から送付される納税通知書及び課税明細書を子細に検討すれば、本件土地について住宅用地の特例の適用がされていないことが判明するのに、控訴人が自ら過誤に気づき平成16年に是正手続を採るまで過誤にも気づかず、何らの不服申立ても行わなかったというのであるから、被控訴人についても、損害の発生及びその増大につき過失があるのは明らかである。
そして、上記過失の内容・程度のほか、本件における諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、被控訴人の損害額からその3割を控除するのが相当である。」

2022/5/10/12:00
 

 

(第19号)固定資産税の家屋とはどういうものか(基本編)

 
(投稿・令和1年-見直し・令和7年2月)<100号達成時の閲覧数7位>

 今回は、「固定資産税の家屋とはどういうものか」という基本編ですが、その前に、家屋の税金としての歴史を簡単に見ていきます。

固定資産税家屋の歴史

 固定資産税としての家屋は、昭和24年にシャウプ勧告が出されて、昭和25年に地方税法が制定され、そこで市町村税として土地、償却資産とともにスタートしました。

 それ以前は、明治15年に家屋税が大府県(東京、大阪、京都、神奈川)に対して創設され、明治21年にこれらの府県の市町村に家屋税付加税が、その後明治23年に全国で課税されるに至っています。

 このように、現在の税としての家屋は、土地(地租)、償却資産(船税、電柱税、軌道税)に対する課税とともに、長い歴史を有しています。

固定資産税家屋の定義

 そこで、固定資産税の家屋とは何かということですが、地方税法341条に次のとおり規定されています。

<固定資産税に関する用語の意義(家屋)>
※地方税法341条第3号
「家屋とは、住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。」

 この用語の定義は、地方税法創設から一貫して変わっていませんが、これは単に種類を列挙して間接的に定義しているにすぎません。

 では、具体的に固定資産税の家屋とは何かということですが、不動産登記法における建物と意義を同じくする、とされています。

 次の「地方税法の施行に関する取扱について(市町村税関係)」は総務省の通知ですが、次のとおり説明されています。

※地方税法の施行に関する取扱について(市町村税関係)
「 家屋とは不動産登記法の建物とその意義を同じくするものであり、したがって登記簿に登記されるべき建物をいうものであること。」

 そこで、「不動産登記法上の建物」についてみていきます。

不動産登記法の建物とは

 不動産登記法の建物は、不動産登記規則(113条)で12種類、不動産登記事務取扱手続準則(80条)で25種類、併せて37種類が規定されています。ただし、これにより難い場合には、建物の用途により適当に定めるものとする、とされています。

<不動産登記規則113条(12種類)>
・ 居宅、店舗、寄宿舎、共同住宅、事務所、旅館、料理店、工場、倉庫、車庫、発電所及び変電所

<不動産登記事務取扱手続準則80条(25種類)>
・ 校舎,講堂,研究所,病院,診療所,集会所,公会堂,停車場,劇場,映画館,遊技場,競技場,野球場,競馬場,公衆浴場,火葬場,守衛所,茶室,温室,蚕室,物置,便所,鶏舎,酪農舎,給油所

固定資産税家屋としての要件

 固定資産税の課税客体となる家屋の認定に当たっては、次の(1)から(5)の要件が必要とされています。

(1)屋根を有すること

 屋根は、雨露をしのぐために必要不可欠です。不動産登記規則111条では「屋根及び周壁又はこれらに類するものを有すること」(外気分断性)とあります。

 ただし、高架下の建造物については、家屋として評価すべき屋根はないが、屋根に相当する構築物があるため家屋として取り扱われます。

<高架下の建造物は家屋として認定>

(2)周壁を有すること

 家屋は、周壁により内側に一定の利用空間が発生し、外気分断性有りと判断されます。
 ここで周壁を有するとは、概ね3面以上に周壁がある(その面の3分の2程度以上の部分に壁があることをもってその面は周壁を有する)ことをいいます。

 ただし、周壁については、厳密な意昧での外気との分断がされていなくても、建造物の使用目的、利用状況等を考慮して外気分断性があると判断される場合もあります。例えば、駐車場では外周壁が腰壁程度しかないものが見受けられますが、外気分断性があると認められます。

<3面に周壁を有するので家屋として認定>

(3)土地に定着した建造物であること(土地への定着性)

 土地に定着した建造物であるということは、建造物が建造されている土地から容易に移動できないことで、次の2つの要件を充足している必要があります。

① 建物の大きさ、重さ、構造、基礎の施工の程度、 建築設備の状況により物理的または経済的に他の場所に移動させて利用することが容易でないこと
② 建物の用途、目的からしてある程度の期間(通常賦課期日をはさんで1 年以上)継続し利用することが予定されていること

 逆に、土地に対する定着性が欠ける建造物と考えられるものは、次のようなものです。
① 容易に運搬できる切符売場、入場券売場等
② 単に置いた程度のスチール製の物置、簡易便所等

(4)家屋本来の用途に供しうること(用途性)

 家屋本来の目的は、その空間を居住、作業、貯蔵、営業、保管等の用途に供しうるものでなくてはなりません。

 次のようなアーケードは、道路の用途を高めるものであって家屋本来の目的とは異なるので家屋とは認定できません。

<アーケードは家屋として認定しない>

(5)恒久性を有すること

 不動産登記法準則第77条に「半永久的な建造物と認められるものに限る」とあるように、家屋は、恒久性を有することが必要です。

 家屋として認定しないものを例示するとつぎのものがあります。
① 園芸用ハウス(温室)で屋根、周壁がビニール・シートのもの
② ビニール・シート等で葺き上げた車庫
③ 簡易な鶏舎、豚舎等の畜舎、堆肥舎等

(※)賦課期日に完成していること

 これは家屋の意義とは異なりますが、建築中の建物がどの程度まで完成していれば家屋の課税対象となるかについては、昭和59年の最高裁判決により「固定資産税の性質目的及び地方税法の規定の仕方からすれば、新築の家屋は、一連の新築家屋が完了したときに、固定資産税の課税客体となる」とされ、1月1日現在で完成していることが必要とされます。

2022/5/8/13:00