(第114号)固定資産税の価格に不服がある場合の留意点-その1(「審査の申出」)

 
(投稿・令和6年4月-見直し・令和6年8月)

 今年度(平成6年度)は、3年に1度の固定資産税の基準(評価替え)年度にあたり「審査の申出」が可能な年度になります。そこで、「縦覧」とともに、価格に不服がある場合の「審査の申出」の際には、どのような点に留意すべきかを説明します。

 なお、「縦覧」と「閲覧」制度については、前号(第113号)「固定資産税の『縦覧』と『閲覧』制度について」をご覧ください。

「審査の申出」は価格に対する不服

 固定資産税の価格に対して不服がある場合、一定期間内に不服審査の申し出(以下「審査の申出」)を行うことができます。

 この「審査の申出」は、納税通知書を受け取った日の翌日から起算して3ヵ月以内に市町村に設置された固定資産評価審査委員会に対して行うことができます。

<基準年度の年間スケジュール>

 ところで、この「審査の申出」はあくまでも価格に対する不服ですが、価格以外の処分、例えば「固定資産税の課税処分など」に対する不服は、その処分を行った市長村長に「審査請求」をすることが出来ます。

※「審査請求」の内容については、第96号「固定資産税に不服がある場合の手続きは、「審査の申出」(価格)と「審査請求」(価格以外)の2通り」で説明していますので、そちらをご覧ください。

 
 また、この「審査の申出」は、原則として3年毎の基準(評価替え)年度(令和6年度、9年度…)に限られています。

 なお、この「審査の申出」の手続等の基本的内容については、第7号「固定資産税の年間スケジュール(毎年課税で納期は年4期)」及び第8号「土地と家屋は3年毎に評価替え(基準年度と据置年度)」で解説していますのでご覧ください。

 
 ところで、「審査の申出」は価格に対して不服がある場合ですが、どのような内容(不服)が提出され審査されているのでしょうか。

 特に統計的資料はありませんが、筆者がこれまでコンサルタントとして納税者の皆様からご相談いただいた中から、留意すべき点をいくつか紹介させていただきます。

土地の価格で留意すべきこと

 土地の価格で留意すべき内容は「評価・課税の誤り」ですが、その中でも(1)住宅用地の減額特例、(2)私道が非課税となる土地、(3)無道路地と不整形地が併合している土地、(4)急傾斜地崩壊危険区域等の土地、について解説します。

(1)住宅用地の減額特例

 住宅用地とは、居住用の家屋の敷地とされている土地のことですが、200㎡までが小規模住宅用地で1/6、それを超える部分が一般住宅用地で1/3に減額されます。

 この住宅用地については、市町村の税条例で申告が義務づけられているためか、申告がされていない宅地は減額特例が適用されずに評価・課税されているケースが希にあります。

 ところが、税条例で申告が義務づけられているのに「申告が無い場合でも市町村は住宅用地として減額特例を行う必要がある」とされているのです。

 なぜ「申告が無くても減額特例が適用される」のでしょうか。

 そもそも固定資産税は申告が無くても市町村が一方的に評価・課税する「賦課課税方式」であることと、住宅用地であれば家屋があるので現地調査で確認できる筈であることから、減額特例をしないことは「課税誤り」とされているのです。

 これには、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決で「申告が無いからといって、減額特例を適用しないとすることが許されるものではない」との判断が示されています。

 また、平成22年6月3日の最高裁判決において、市町村側に「過失」があった場合には「国家賠償の請求を認める」との判断がなされ、減額特例の不適用は「過失」(「手抜き」)とされ、最高20年間の還付・返還が認められる可能性があります。

 ところで、例えば商店街で1階が店舗、2階を住居にしている場合、又は店舗を廃業した場合は、その土地は住宅用地となります。
 しかし、外観からは把握しにくいことから、住宅用地の減額特例がされていない(見逃している)場合がありますので、注意が必要です。

 

(2)私道が非課税となる土地

 私道は個人の方の所有土地ですので、一般的には固定資産税の課税対象になります。
 しかし、その私道が「公共の用に供する道路」であれば、非課税になります。

 その私道が「公共の用に供する道路」となる形態は次の図のとおりですが、(1)「通り抜け道路」、(2)「行止り道路」、(3)「コの字型道路」、(4)「セットバック部分」があります。

<私道の種類>

(1)通り抜け私道
 起終点が公道に接する幅員1.8m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(2)行止り私道
 2以上の家屋の用に供されている4m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(3)コの字型私道
 2以上の家屋の用に供されている4m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(4)セットバック部分(私道)
 セットバック部分は建築基準法道路の拡幅(私道)部分。

 なお、私道が「公共の用に供する道路」として非課税となるためには、上記(1)~(4)のほかに次の①~⑤の要件が必要とされます。

登記上分筆され位置が特定されているもの
客観的に道路として認定できるもの
アパート、マンション、貸家、駐車場等における敷地内の道路でないもの
建築敷地として含まれていないもの
賃料、通行料を徴収していないもの

 

(3)無道路地と不整形地が併合している土地

 固定資産評価基準(土地)には、画地計算法として、無道路地と不整形地がそれぞれ規定されています。

 それでは、無道路と不整形が併合している土地はどうなのでしょうか。

 結論として、この場合は両者の画地計算法を併せて適用し、ダブル評価により土地の評価額を求めることになります。

 具体的な評価方法は、第59号で説明していますので、そちらをご覧ください。

 

(4)急傾斜地崩壊危険区域等の土地

 我が国は、最近の能登半島地震もそうですが、自然災害発生の多い国でありまして、様々な自然災害に対応した固定資産税の減額修正(市町村単位の「所要の補正」)が認められています。

 その一つに急傾斜地崩壊危険区域があります。

 急傾斜地崩壊危険区域とは、「急傾斜地法」に基づき知事が指定するもので,急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護することを目的に,崩壊するおそれのある急傾斜地で,その崩壊により相当数の居住者その他の者に危害が生じるおそれのあるもの及びこれに隣接する土地のうち,当該急傾斜地の崩壊が助長され,又は誘発されるおそれがないようにするため,一定の行為が禁止若しくは制限される区域のことです。

 具体的な説明は第98号にありますが、急傾斜地崩壊危険区域は、①急傾斜地と②誘発助長区域からなります。

① 急傾斜地
 崩壊するおそれのある急傾斜地(傾斜度が30度以上の土地)で、その崩壊により相当数の居住者その他の者に被害のおそれのあるもの
② 誘発助長区域
 ①に隣接する土地のうち、急傾斜地の崩壊が助長・誘発されるおそれがないようにするため、一定の行為制限の必要がある土地の区域

 これらの区域における評価の減額は、市町村単位の「所要の補正」のため、減価割合はそれぞれですが、0.7~0.95等市町村によって様々ですので、当該の市町村で確認してください。

 

家屋の評価で留意すべきこと

 家屋の評価は、(1)再建築価格方式は複雑で分かりにくいので、まず家屋評価の内容を市町村に十分説明してもらうことが大切です。その上で「この家屋の価格は高い」と思ったら、(2)家屋は新築時の評価検証が必要ですので「審査の申出」でも主張すべきです。また、「審査の申出」の審査において(3)「口頭意見陳述」の活用も検討すべきです。

(1)再建築価格方式は複雑で分かりにくい

 固定資産税家屋の評価は、再建築価格方式が当初から採用されていますが、実はこの評価方式が複雑で分かりにくい内容になっているのです。

 この再建築価格方式は、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築費評点数)を求め、この再建築費評点数に時の経過等によって生ずる損耗の状況による減価を考慮し、必要に応じて需給事情による減価を考慮して家屋の価格を算出します。

 この家屋の評価方法については、これまでも評価の簡素化が検討・実施されてきていますが、そもそも抜本的な簡素化自体が困難な手法でもある訳です。

 このため、評価を担当している市町村の職員も気が付いていない「潜在的な課税誤り」が多いのです。
 例えば、Google検索画面で「固定資産税・課税誤り・お詫び」とのキーワードを入力すると、全国市町村のホームページが次から次へと現れてきます。

 

(2)家屋は新築時の評価検証が必要

 これまで筆者が相談に預かった中では、「家屋の評価額が高いのではないか」との「審査の申出」を行ったところ、「基準年度の前年度における再建築費評点数に3年間の建築物価の変動状況を反映して求めているので正しく評価されている」との審査結果が殆どなのです。

 この方法は、たしかに在来(中古)家屋の評価方法としては正しいものです。

 しかし、この前提になっている在来家屋の再建築費評点数は「新築時の評価を受け継いでいる」のです。

 また納税者は「家屋の評価が高いのでは」と思って「審査の申出」をしますが「今までは良かったけど今年度が高い」などとは考えてはいないのです。「今までも高いと思っていたけど今回『審査の申出』を決断した」、あるいは「自分の家屋評価が高いことに初めて気がついた」というのが本音なのです。

 従って、再建築費評点数が正しいか否かを判断するためには「新築時の評価が正しかったのか否か」を検証すべきなのです。そうでないと、仮に新築時の評価に誤りがあっても、その部分をスルーしてしまっているのです。

 しかしまた、新築時が仮に20年以上前となると、当時(新築時)の資料が保管されていない市町村もあるようで、実はこれは大きな問題なのです。
※10年で廃棄している市町村もあります。

 そして納税者が「この審査結果には不満です」と市町村に伝えても、市町村からは「では訴訟を提起してください」と言われてしまう訳です。

 

(3)「口頭意見陳述」の活用

 「審査の申出」の審理においては、形式審査(不適法な審査の申出として却下等)と実質審査が行われます。

 実質審査では、審査申出人が希望される場合、委員に対して口頭で意見を述べることができる「口頭意見陳述」がありますので、これも活用すべきでしょう。

家屋と償却資産の二重課税

 家屋は賦課課税方式で市町村が一方的に評価・課税するのに対して、償却資産は所有者からの申告方式になっています。

 そこで懸念されるのは、特に家屋の建築設備部分ですが、家屋で課税されている部分が償却資産としても申告されることによって、二重課税となる問題があります。

 この点については、市町村の償却資産担当が所有者(委任を受けている税理士)に対して注意を促していますので、申告の際には十分に気をつけてください。

 
2024/4/17/19:00
 

 

(第113号)固定資産税の「縦覧」と「閲覧」制度について

 
(投稿・令和6年3月-見直し・令和6年8月)

 毎年4月になると固定資産税の納税通知書と課税明細書が送られてきます(標準納期の場合)。
 そして、4月1日から市町村で「縦覧」が行われます。

 今号では、この「縦覧」とはどういうものかについてお知らせします。

 また納税者にとっては、1年中自分の課税内容を確認できる「閲覧」という制度がありますので、併せて説明します。

「縦覧」と「閲覧」の比較表

 

「縦覧」は他と比較する制度

「縦覧」は他の土地・家屋と比較する

 固定資産(土地・家屋)の価格は、総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づいて評価され、市町村長(東京都23区内の場合は都知事)がその価格等を決定し、固定資産課税台帳に登録されます。

 「縦覧」とは、この登録された価格について、固定資産税(土地・家屋)の納税者が、その価格が適正であるかを他の土地・家屋と比較できる制度です。

(土地価格等縦覧帳簿及び家屋価格等縦覧帳簿の縦覧)
地方税法第416条
「1項. 市町村長は、固定資産税の納税者が、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る土地又は家屋について土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格と当該土地又は家屋が所在する市町村内の他の土地又は家屋の価格とを比較することができるよう、毎年4月1日から、4月20日又は当該年度の当該年度の最初の納期限の日までの間、その指定する場所において、土地価格等縦覧帳簿又はその写しを当該市町村内に所在する土地に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供し、かつ、家屋価格等縦覧帳簿又はその写しを当該市町村内に所在する家屋に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供しなければならない。(中略)」

土地・家屋の縦覧帳簿を確認する

 「縦覧」にあたっては、土地については土地価格等縦覧帳簿、家屋については家屋価格等縦覧帳簿を確認します。

 この土地・家屋価格等縦覧帳簿への記載事項は、土地課税台帳又は家屋課税台帳の登録事項のうち、所有者情報と課税標準額を除いたものとなります。

土地価格等縦覧帳簿
 主に所在、地番、地目、地積、価格が記載されています。
家屋価格等縦覧帳簿
 主に所在、家屋番号、種類、構造、床面積、価格が記載されています。

<元になる土地・家屋(補充)課税台帳>
土地(補充)課税台帳
 登記簿に登記されている土地について、土地の所有者の住所、氏名、所在、地番、地目、地積及び価格等が登録されている帳簿です。
 ※補充とは、登記簿に登記されていない土地で固定資産税を課することができるもの、例えば埋立地等。
家屋(補充)課税台帳
 登記簿に登記されている家屋について、家屋の所有者の住所、氏名、所在、地番、床面積、用途及び価格等が登録されている帳簿です。
 ※補充とは、登記簿に登記されていない家屋で固定資産税を課することができるもの、例えば未登記家屋等。

 土地は負担調整措置がありますので、価格は必ずしも税額計算の元になる課税標準額とは一致しません。

「縦覧」の対象者は原則・納税者

 縦覧の対象者は、固定資産税の原則として納税者ですが、相続人(戸籍謄本などの確認書類が必要)、納税管理人、代理人(委任状が必要)、法定代理人(法定代理人であることの確認書類が必要)も可能です

 なお、借地・借家人は縦覧はできません。

「縦覧」は4月1日~第1期納期限

 「縦覧」の期間は「毎年4月日から第1期納期限の日までの間」とされています。

 なお、地方税法第416条1項では「毎年4月1日から、4月20日又は当該年度の当該年度の最初の納期限の日までの間」とありますが、「4月20日」は特殊事情を考慮した規定で、通常は「最初(第1期)の納期限の日まで」と理解されています。

 なお、標準納期では第1期が4月ですが、全国的には5月が第1期となっている市町村もあります(東京都23区は6月)。

「閲覧」は1年中可能

 よく「縦覧」と間違えられる制度が「閲覧」ですが、「閲覧」は地方税法第410条「固定資産の価格等の決定等」に規定されています。

(固定資産の価格等の決定等)
地方税法第410条
「1項. 市町村長は、前条第4項に規定する評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年3月31日までに決定しなければならない。
2項 市町村長は、前項の規定によつて固定資産の価格等を決定した場合においては、遅滞なく、総務省令で定めるところにより、地域ごとの宅地の標準的な価格を記載した書面を一般の閲覧に供しなければならない。」

 「閲覧」に供される資料は、主に固定資産(補充)課税台帳及び土地・家屋名寄帳となります。

固定資産(補充)課税台帳
 固定資産の所在、所有者、状況及び課税標準である価格等が登録された帳簿です。
土地・家屋名寄帳
 納税義務者ごとの土地及び家屋に関する登録事項(評価額、課税標準額、相当税額、軽減・減免税額)を一覧にした帳簿です。

 「閲覧」の場合は、納税者本人だけでなく、借地人、借家人も借用物件の課税台帳等を見ることができます。

 また、「閲覧」の手数料は、無料か有料かは市町村により異なります。ただし、証明書の発行はどの市町村でも有料です。

2024/04/15/15:00
 

 

(第112号)固定資産税・土地の「課税誤り」は「住宅用地の見落とし」が多い

 
(投稿・令和6年3月-見直し・令和6年8月)

 前号(第111号)では、「固定資産税の家屋がなぜ分かりにくく『課税誤り』が多いのか」をお知らせしましたが、今号は「土地の課税誤り」についてです。

 

ホームページに「課税誤り」が掲載

 ところで、「固定資産税の『課税誤り』がどのくらいあるのか」ということは正直なところ誰にも分かりません。
 課税当局の市町村担当者でも、仮に「課税誤り」があっても気がつかずに課税を続けていると思われます。

 そこで、Googleの検索サイトで「固定資産税・課税誤り・お詫び」とのキーワードで検索しますと、数えられない程の市町村のホームページが登場します。

 ここに、最近(令和6年3月)「固定資産税・課税誤り・お詫び」で検索した結果の一部を掲載します。

※ 「課税誤り」の掲載ホームページがどのくらいあるかチェックしてみましたが、100件(市町村)までは数えることはできましたが、更にあります。
※ なお、市町村によっては「課税誤り情報」は3ヵ月程度で削除している場合もありますので、仮に3ヵ月後に「固定資産税・課税誤り・お詫び」のキーワードで改めて検索すると、別の市町村のホームページが現れてきます。

 そのことは、固定資産税の「潜在的な課税誤りが多い」ことを示しているとも考えられます。

<Googleでの検索「固定資産税・課税誤り・お詫び」結果(一部)>

 土地の「課税誤り」の内容は様々ですが、ホームページを確認しますと、「住宅用地の見落とし」が多いのが分かります。

 ところで昔は、固定資産税の「課税誤り」があっても公にはされませんでしたが、20年以上前頃から、役所でもコンプライアンス(法令遵守)とディスクロージャー(情報開示)を重視すべきことが確認されてきました。

 そのため、固定資産税の業務において「課税誤り」があった場合には、マスコミに情報を伝えるとともに、市町村のホームページにも掲載することが求められているのです。

住宅用地の「負担調整措置」

 土地の固定資産税は、本来は価格(地価公示価格の7割)に税率(一般的には固定資産税1.4%、都市計画税0.3%)を乗じて求めるのですが、現状はそのようにはなってはいません。

 平成6年度に地価公示価格の7割を固定資産税の価格とすることにしたものの、それまでは実質的に10%〜20%程度であったものを一気に上げることが出来ないことから、少しずつ上げていくという経過的措置(「負担調整措置」)が平成9年度から採用されました。

住宅用地は小規模住宅用地と一般住宅用地

 まず住宅用地とは、居住用の家屋の敷地とされている土地のことですが、200㎡までが小規模住宅用地で、それを超える部分が一般住宅用地とされています。

 ここに300㎡の土地の上に、延床面積150㎡の家屋があることを想定します。

 この場合、200㎡までが小規模住宅用地で評価額が1/6となり、残りの100㎡が一般住宅用地1/3となります。

 なお、一般住宅用地の上限は、家屋の延床面積の10倍(この図では1500㎡)までとされています。


 

住宅用地の「負担調整措置」の仕組み

 土地の課税標準額(税額の元になる評価額)は地価公示価格の7割が本来ですが、小規模住宅用地の場合はそれの1/6、一般住宅用地の場合は1/3が本則課税標準額となります。

 この仕組みは平成9年度に成立していますが、その年の課税標準額は本則課税標準額(地価公示価格×7割×1/6又は1/3)よりかなり低い水準にありました。

 そこで、前年度の課税標準額が本則課税標準額に達していない場合(ほとんどがそうですが)には、本則課税標準額に達するまで徐々に引き上げていくことにしました。


 
 まず、前年度の課税標準額(B)が本則課税標準額(A)にどこまで達しているのかをB/Aにより求めます。このB/Aを負担水準と言います。

 仮に負担水準(B/A)が80%であった場合は、「前年度の課税標準額B+(本則課税標準額A×5%」として、本則課税標準額の5%を加えて今年度課税すべき課税標準額(今年度課税標準額)を算出します。

 そして負担水準(B/A)が100%以上となった場合は、今年度課税標準額は本則課税標準額(A)に引き下げます。

非住宅用地の負担調整措置

 固定資産税の宅地系評価では、住宅用地と非住宅用地に分かれています。

 非住宅用地(商業地と更地)の「負担調整措置」の仕組みは、平成9年度の実施から現在まで変わっておりません。

非住宅用地の「負担調整措置」の仕組み


 
 非住宅用地の固定資産税の価格(本則課税標準額)は、地価公示価格の70%となり、これが負担水準では100%となります。

 しかし、これでは以前との乖離が大きいため、更にその70%を非住宅用地の上限とされており、負担水準がこの70%を上回った場合は70%まで引下げることになり、この負担水準70%~100%が「引下げゾーン」となります。

 つまり、非住宅用地では、地価公示価格のレベルからすると70%×70%で49%が上限となります。

 また、負担水準の60%~70%までを「据置きゾーン」とされています。

 そして、負担水準が60%に達しない場合は、今年度課税標準額を「前年度課税標準額+本則課税標準額×5%(引上げゾーン)」とします。


 

「空き家」が取り壊されると3~4倍となる

 前号でも説明しましたが、「空き家」が取り壊されると住宅用地(小規模住宅用地は1/6、一般住宅用地1/3)の軽減措置が無くなります。

 しかし、上図の仕組みのとおり、更地(非住宅用地)としての負担調整措置が適用されるため、単純に6倍となるのではなく「3~4倍」になるのが正解です。

住宅用地は申告が無くとも適用

住宅用地は申告が義務づけられている

 住宅用地の申告については、地方税法では「市町村長は条例により申告させることができる」との「できる規定」ですが、具体的には、市町村の条例により「申告が義務づけ」られています。

<住宅用地の申告>
地方税法第384条1項
「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。(後略)」

 そして、この地方税法の規定を受けて、全国すべての市町村の条例で「申告が義務づけ」られているのです。

なぜ申告が無くとも認められるのか

 そもそも固定資産税(土地、家屋)は、申告が無くとも役所が一方的に評価・課税する賦課課税方式であり、申告は必要無いのです。

 では、なぜ市町村の条例で申告が義務づけられているのかということですが、これは、市町村の職員が「住宅用地の認定誤りを防ぐため」と理解すべきなのです。

 かつては、市町村の税務職員から「条例で申告が義務づけられているのに申告が無いので適用されないのは当然でしょう」と言われたとの相談を受けたこともありますが、最近はどうなのでしょうか。

 実は、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決で「申告が無いからといって、減額特例を適用しないとすることが許されるものではない」との判断が示されています。

 この点については、第20号「住宅用地の減額特例は申告が無くても適用される」で説明していますのでご覧ください。

 
 つまり、住宅用地について、申告が無かった場合でも減額特例がされていない場合、それは「課税誤り」となる訳です。

還付(返還)期間は最高20年間

  それでは、住宅用地の見落としの「課税誤り」があった場合、何年間遡って還付(返還)されるのかということです。

  この点については、第27号及び第28号で説明しています。

 
 まず、地方税法では、徴収し過ぎた税金(過徴収金)の返還請求権は5年で消滅時効になる、つまり5年間遡って還してもらえると定められています。

<還付金の消滅時効>
※地方税法第18条の3
「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年を経過したときは、時効により消滅する。」

 ところが、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁判決及び平成22年6月3日の最高裁判決において、市町村側に「過失」があった場合には「国家賠償の請求を認める」との判断がなされたのです。

 この「過失」とは「手抜きがあった場合」とされていますが、過徴収金返還の時効は民法第724条が適用され最高20年間になります。

 仮に20年間の返還時効が認められた場合は、最初の5年間を地方税法上の「還付金」で、それを上回る期間分を国家賠償法・民法による「返還金」と称されています。

 昨今では、国家賠償法の訴訟を経ずに、市町村自らがが「過失」と認めて、最高20年間の還付(返還)を行う場合もあるようです。
 
2024/04/9/18:00
 

 

(第111号)固定資産税の家屋がなぜ分かりにくく「課税誤り」が多いのか

 
(投稿・令和6年2月-見直し・令和6年8月)

 今回は、固定資産税の家屋評価方法が「分かりにくく『課税誤り』が多い」ことについてです。

評価方法(再建築価格方式)が複雑

 固定資産税家屋の評価方法は、「再建築価格方式」が採用されています。

 この「再建築価格方式」は、昭和34年から昭和36年にかけて固定資産評価制度調査会において審議され、家屋の評価方法として決定されて以来一貫して採用されています。

 この固定資産評価制度調査会においては、①再建築価格方式、②取得価格方式、③賃貸料収益方式、④売買実例価格方式が併せて検討されましたが、①の再建築価格方式が家屋の構成要素として基本的なものであり、その評価の方式化も比較的容易である、との理由で採用されています。

 「再建築価格方式」は、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築価格)を求め、この再建築価格に時の経過等によって生ずる損耗の状況による減価を考慮し、必要に応じて需給事情による減価を考慮して家屋の価格を算出します。

 
 しかし実は、この「再建築価格方式」は「評価の方式化が比較的容易」とありますが、建築の専門家でないと理解できない内容も数多くあり、大変複雑な内容になっています。

 

市町村での新築家屋評価の対応

「再建築費評点数」の査定が難しい

 この「再建築価格方式」は、評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点において新築するとした場合に必要となる建築費を査定することになりますが、実際にその家屋をいくらで建築したのか、あるいはいくらで取得したのかの建築費(取得費)とは異なるもので、あくまでも固定資産評価基準(以下「評価基準」)に従って算出します。

<固定資産税家屋の評価方法>

 ところが、この評価基準の仕組み自体が複雑で、特にこの図の「評点数」→「再建築費評点数」の査定が最大の難関となります。

「再建築評点数」を求める作業

 「再建築価格方式」は「実際にその家屋をいくらで建築したのか、あるいはいくらで取得したのかとは異なる」のですが、「再建築費評点数」を求めるためには「当該新築家屋の内容を把握する」ことが必要になるため次の作業を行います。

  家屋所有者に調査協力を依頼し、新築家屋の見積書や竣工図等を借用し情報を取得します。
  実際に当該家屋に赴き、用途別区分とともに家屋の外観や内部の使用資材等を確認します。
  借用・保存した見積書等から評価基準の部分別区分に照らして、必要な資材を拾い出し部分別分類を行います。.
  その上で、市町村が有する評価システムに評価基準の評点項目と使用資材量の数値を入力して評点数を算出します。

 いかがでしょうか、大変ですが評価基準による「再建築価格方式」は、このような手順が必要とされているのです。

市町村の組織対応について     

市町村の職員は事務職で異動も頻繁

 そもそも市町村の固定資産課税部門の職員は事務職が殆どで、建築部門の知識を有していないのが現実です。

 例えば、建築専門用語として「屋根小屋組(屋根を支えるために設けた骨組み)」の名称だけでも、次のようなものがあります。

 「敷桁(しきげた)、小屋梁(こやばり)、小屋束(こやづか)、小屋貫(こやぬき)、火打梁(ひうちばり)、小屋折違(こやすじかい)、母屋(もや)、棟木(むなぎ)、隅木(すみぎ)、谷木(たにぎ)、垂木(たるき)、陸梁(ろくばり)、合掌(がっしょう)、真束(しんづか)、対束(ついづか)、釣束 (つりづか)、方杖(ほうづえ)」。

 しかも、通常4~5年で職場異動する職員が多いことから、組織として固定資産税家屋評価の知識を蓄積するのも十分ではないことになります。

市町村の固定資産税評価の対応

 仮に固定資産税職員が初心者の場合には、家屋の評価作業は難しいものです。

 所有者から提出された見積書を見て、記載されている資材・機器のうちどれが固定資産税の家屋評価に必要なのかを見分けること、必要な資材であると理解してもそれがどこに使用されているのか(上部分なのか下地材なのか等)、資材のグレードや規格を判断する等々の作業が必要となります。

 そこで、総務省及び一般財団法人資産評価システム研究センターでは、全国の市長村固定資産税職員に対する研修を積極的に進めています。

 また、市町村によっては、固定資産税の専門的な職員(「専任職」)や組織(「固定資産税センター」)等を設ける工夫もされています。
(※「専任職」や「固定資産税センター」は仮名です。)

 ところで、政令指定市以外の市町村では、300㎡あるいは500㎡以上の非木造家屋の評価は県(県税事務所)が対応しています。課税権は市町村長なのですが、家屋評価は県に委託しているのです。

 これは、地方税法第73条の21の1項に「道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。(以下略)」が根拠規定になります。

家屋の「課税誤り」の検証

 以上のような、固定資産税家屋の評価や市町村組織等からすると、残念ながら「課税誤り」が生じることも想定できます。

 例えば、Google検索ページで「固定資産税、課税誤り、お詫び」とのキーワードを入力すると、「課税誤り」があった市町村のホームページが数多く表示されます。
 これは、「課税誤り」のあった市町村では公表する義務があるからですが、(推測の域を出ませんが)明らかになっていない「潜在的な課税誤り」もあるのではないでしょうか。

「課税誤り」の検証には新築時資料が必要

 固定資産税の家屋評価では、新築家屋の評価が複雑で大変ですが、在来(中古)家屋の評価はそれほどでもありません。

<在来家屋の評価>

 在来家屋の評価は、①前基準年度再建築費評点数×②再建築費評点補正率×③経年減点補正率となります。

 ここで、①は前基準年度(3年前)の評価額で、②は3年毎に東京都23区を基準とした建設物価率が総務省から示され、③は評価基準の該当表から補正率を適用します。 
 したがって、①の前基準年度再建築費評点数は「新築時の評価」を引き継いでいることになります。

 よく「固定資産税評価の見直しサポート」の依頼者様から、「所有している中古ビルの評価額が高いのでは」とのご相談があります。そこで、審査申出を行った場合、『在来家屋の評価として問題無い』との審査結果が出されることが多くあります。

 つまり、前基準年度再建築費評点数(新築時評価を引き継いでいる)が正しいものとの前提で審査されている訳です。

 これでは「ビルの評価そのものが正しいのか否か」の審査にはなっていません。
 そこで、新築時の評価計算書を求めても、『10年以上前の資料は廃棄して存在しない』との回答がある場合もあります。これでは、当該ビルの評価が正しいのかどうかをチェックすること自体できなくなる訳です。

家屋評価簡素化の動き

 これまで、総務省及び一般財団法人資産評価システム研究センターにより、「家屋評価の簡素化」の検討が進められてきています。

 その一つは「広域的比準評価方式」です。

 これは、都道府県等の一定の地域内に所在する家屋を、その実態に応じ、構造、程度、規模等に区別し、各区分ごとに標準とすべき家屋を標準家屋として定め、そこから比準して評価する方式ですが、非木造家屋にも適用している市町村もあります。

 そして、評価基準の「用途別区分」と「部分別区分」の見直し(整理統合)です。
 令和6年度においては、特に木造家屋の用途別区分が13種類であったところが7種類に整理統合されました。

 また、評価計算のデジタル化の開発(一般財団法人資産評価システム研究センターの「レクパス・オート5」等)も進められています。

 しかし、これらの簡素化はいずれも再建築価格方式におけるもので、必ずしも「抜本的な簡素化」になる訳ではありません。

 筆者は、以前から家屋評価の簡素化では「取得価格方式を採用すべき」と主張していますが、これについては第63号「『家屋評価の簡素化』の検討と今後の在り方」をご覧ください。

 

固定資産税業務の改革の動き

 現在、家屋評価だけでなく固定資産税業務全体の改革の動きが総務省及び各市町村で進められ始めています。

 固定資産税業務の標準化やIT社会に即したデジタル化並びに外部業者への委託等ですが、これらについては課題(問題点)もありますので、別号において報告する予定です。
 
2024/03/20/11:00
 

 

(第110号)固定資産税と相続税の評価・課税の違いについて

 
(投稿・令和6年1月-見直し・令和6年8月)

 今回は、「固定資産税と相続税の評価・課税の違い」について説明します。

 「固定資産税と相続税の違い」については、これまで「宅地評価方法の違い」として、第42号(基本的事項)から第43号(1)~第47号(5)で紹介してきました。

 
 そこで今回は、内容は大きく分けて、(1)固定資産税と相続税の根拠法、(2)固定資産税と相続税の評価方法、(3)固定資産税と相続税の課税方法、(4)相続税でも固定資産税評価を活用、について説明します。

固定資産税と相続税の根拠法

固定資産税の根拠法

(1) 地方税法
 まず、固定資産税の根拠法は地方税法になります。
 地方税法第三章「市町村の普通税」の第二節に「固定資産税」があります。

<固定資産税とは>
※地方税法341条1項1号~4号
「1号 固定資産 土地、家屋及び償却資産を総称する。
2号 土地 田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地をいう。
3号 家屋 住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。
4号 償却資産 土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもののうちその取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のものをいう。ただし、自動車税の種別割の課税客体である自動車並びに軽自動車税の種別割の課税客体である原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除くものとする(中略)。」

 なお、固定資産税とともに都市計画税が課税される場合には同時に課税されており、納税通知書・課税明細書にも併せて記載されています。

 固定資産税は普通税ですが、都市計画税は目的税で地方税法の第四章「目的税」の第六節「都市計画税」に規定されています。

<都市計画税の課税客体等>
※地方税法702条1項
「1項 市町村は、都市計画法に基づいて行う都市計画事業又は土地区画整理法に基づいて行う土地区画整理事業に要する費用に充てるため、当該市町村の区域で都市計画法第5条の規定により都市計画区域として指定されたもののうち同法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し、その価格を課税標準として、当該土地又は家屋の所有者に都市計画税を課することができる。当該都市計画区域のうち同項に規定する市街化調整区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対して都市計画税を課さないことが当該市街化区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対して都市計画税を課することとの均衡を著しく失すると認められる特別の事情がある場合には、当該市街化調整区域のうち条例で定める区域内に所在する土地及び家屋についても、同様とする。(中略)」

(なお、以下本号では固定資産税を中心にして解説します。)

(2) 市町村の条例、規則
 固定資産税(土地、家屋)は、全国に存在する土地(1億8,076筆)及び家屋(5,877万棟)は基本的に全て課税されることが原則ですが、地方税法のみでは、必ずしも全て網羅できないことから、地方税法の委任により、各市町村において条例(東京都23区は都税条例)を制定されることとされています。

(3) 総務省の「基本通知(改正告示)」
 固定資産税の手続について、総務省から全国の市町村に周知するため、総務省の「基本通知(改正告示)」が必要に応じて発せられています。
 市町村では、その「基本通知(改正告示)」に従って固定資産税業務を遂行することになります。

相続税の根拠法

 相続税の根拠法は、民法及び相続税法です。

(1)民法
 民法は、第五編に「相続編」(第822条~1050条)があり、相続及び贈与に関する権利関係等の一般的ルールが定められています。

(2)相続税法
 これに対して相続税法は、相続税額の計算等細かい税のルールが規定されています。

 相続に関しては、民法が一般法ですが、相続税の計算等は相続税法が特別法になります。
 相続税法は、課税の公平性という観点から、民法に一定の修正を加えていますが、その場合は、特別法である相続税法が民法より優先されることになります。

固定資産税と相続税の評価根拠

固定資産税は「固定資産評価基準」

 まず、固定資産税の評価は、「固定資産評価基準」によります。

 この「固定資産税評価基準」は、地方税法第403条で規定されており、法的拘束力が強いものです。

<固定資産評価基準>
※地方税法403条
「1項 市町村長は(中略)固定資産評価基準によって、固定資産税の価格を決定しなければならない。」

相続税は「財産評価基本通達」

 一方、相続税の評価方法は国税庁による「財産評価基本通達」により定められていますが、相続税の評価は、あくまでも時価を求めるもので、必ずしもこの「財産評価基本通達」が100%とは限りません。

 例えば、時価を証明するために、不動産鑑定評価による評価が採用される場合があります。
 土地の個別画地の評価について、固定資産税では不動産鑑定評価は原則認められませんが、この点が相続税では異なります。

公的土地評価の一元化

 平成元年に「土地基本法」が成立し、そこで土地の公的評価の一元化が図られました。

 土地の公的評価とは、時価(実勢価格)、地価公示価格、相続税路線価、固定資産税評価額を指します。

 過去には、この4価格がアンバランスであったことから、一元化(地価公示を100とした場合の割合)を図ることなりました。

<公的土地評価の一元化>
※土地基本法第17条
「国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。」

 その結果、地価公示は時価と同一レベル(100)とし、相続税を地価公示の8割、固定資産税を地価公示の7割と決められました。

固定資産税土地の負担調整措置

 実は平成5年以前の土地の固定資産税評価額は地価公示ベースの10~20%であった訳ですが、これをいきなり70%に引上げる訳にはいかないため、固定資産税では負担調整措置という制度が設けられました。

 これは、いきなり70%に引き上げるのではなく、徐々に近づけていく方法ですが、この負担調整措置の仕組みが土地評価を複雑にしています。

 なお、この内容については、第4号と第6号で説明しています。

 

固定資産税と相続税の課税方法

固定資産税は「賦課課税方式」

 固定資産税は全国の土地、家屋が基本的に全て課税されており、都市計画税と併せると市町村税の47%を占めており「市町村の基幹税」とも言われています。

 そのため、課税方法も所有者の申告を経ずに、役所が一方的に評価・課税する方式(「賦課課税方式」)となっています。
 ※償却資産は、毎年1月末までに申告が義務づけられている申告課税です。

相続税は申告課税方式

 固定資産税は賦課課税方式ですが、相続税は申告課税方式です。

 相続(又は遺贈)により財産を取得し、相続税の納税義務がある者は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に被相続人の最寄の税務署に申告書の提出が必要となります。

<相続税の申告書>
※相続税法第27条
「1.項 相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。(中略)」

相続税でも固定資産税評価額を活用

土地の倍率方式

 相続税の土地評価には路線価方式と倍率方式があります。

 路線価方式は、設定されている路線価を基に「財産評価基本通達」により評価額を算定します。

 一方、倍率方式における土地の相続税評価は、その土地の固定資産税評価額に地域、地目ごとに定められた倍率を乗じて評価額を算出します。
 例えば、相続税対象の土地(宅地)の固定資産税額が800万円で、宅地の倍率が1.1の場合には、800万円×1.1で8,80万円となります。

家屋の相続税評価額

 家屋の相続税評価額は、固定資産税の評価額をそのまま活用して相続税の評価額とすることになります。
 
2024/03/10/15:00