(投稿・令和5年11月-見直し・令和6年8月) <閲覧上位再生版(第22号&第13号)>
今回は過去の閲覧数で第3位の第22号と第9位の第13号の再生版です。
固定資産税は、毎年1月1日の固定資産の所有者が納税義務者となり、課税されます。
しかし、地方税法では、固定資産税が課税されない非課税制度というものが規定されています。
この非課税とは固定資産税を『課税しない』ということではなく、市町村の意思いかんにかかわらず納税義務を負わせることができない、固定資産税を『課税してはいけない』という法的な課税禁止の制度なのです。
この固定資産税の非課税制度には、2つの種類があります。
① 「人的非課税」…固定資産の所有者の性格によるもの。
② 「物的(用途)非課税」…固定資産それ自体の性格、用途によるもの。
「人的非課税」とは
地方税法第348条1項では、国、都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができないとされています。
<固定資産税の「人的非課税>
※地方税法第348条1項
「市町村は、国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができない。」
これらが所有する固定資産の典型的なものとしては、国道、県道、市町村道あるいは役所の庁舎、公立学校などが該当します。
この国、都道府県、市町村が有する固定資産については、それが、どのような性格を有するものであろうと、また、どのような用途に供されているものであるかを問わず、すべて固定資産を課することができないということを意味します。
しかし、「人的非課税」といえども、国や地方公共団体が所有している固定資産が一般の固定資産と異ならないような状態で使用収益されているもの、例えば、公務員の宿舎や民間への貸付土地等は、「人的非課税」扱いはされません。
この場合は、「国有資産等所在市町村交付金法」により、固定資産税に準ずるものとして、その固定資産の所有者は、所在の市町村等に対して固定資産税相当額(国有資産等所在市町村交付金)を納付しなければなりません。
「物的(用途)非課税」とは
固定資産税の「物的(用途)非課税」の内容
固定資産税の非課税で注目すべきは、「物的(用途)非課税」の方です。
「物的(用途)非課税」は、例えば、宗教法人、墓地、公共の用に供する道路(私道)、社会福祉法人、学校法人、国宝、重要文化財等が所有している固定資産の場合です。
地方税法第348条2項各号に列挙する固定資産及び同条第4項、第5項、第6項、第7項、第8項、第9項に規定する固定資産は69項目が規定されています。
この規定は、これ以外は認めることが出来ない「限定列挙」となります。
<固定資産税の「物的(用途)非課税」>
※地方税法第348条2項
「2項.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。」(本項のみ掲載—以下略)
「物的(用途)非課税」が適用されない場合
次の場合には、固定資産税の物的(用途)非課税は適用されません。
① 有料使用の場合の課税
地方税法第348条2項各号に列挙する資産に該当するものであっても、その固定資産を有料で借り受けた者がこれを使用する場合においては、その固定資産の所有者に固定資産税を課税することができます(地方税法第348条2項ただし書)。
例えば、国や地方公共団体が私人に地代及び家賃を支払って建物を借りている場合には、官公庁用が使用していても、貸している所有者に課税されます。
② 目的外使用の場合の課税
法第348条2項各号の固定資産がそれぞれ各号に定められている目的外の目的に使用される場合には、その固定資産税は課税されます。
<目的外使用の場合の課税>
※地方税法第348条第3項
「3項. 市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使 用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」
「物的(用途)非課税」には申告が必要
なお、「物的(用途)非課税」を適用するにあたっては申告が必要とされています。
この申告制度は、地方税法には規定されておらず、総務省の通知に基づいて、市町村毎の条例により定められています。
<地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)第3章第1節19>
「非課税等特別措置の適用に当たっては、定期的に実地調査を行うこと等により利用状況を的確に把握し、適正な認定を行うこと。また、実地調査時点の現況等を記載した対象資産に関する諸資料の保管、整理等に努め、その的確な把握を行うとともに、利用状況の把握のため必要があると認められる場合には、条例により申告義務を課することが適当であること。」
この場合の問題は、固定資産税は本来申告が必要無い「賦課課税方式」である訳ですので、仮に申告が無かった場合は過去に納付した分が還付されるのかということです。
「老人福祉施設」に対する物的非課税
ここでは、物的(用途)非課税のうち閲覧数の多い「老人福祉施設」(第36号—第3位)について説明します。
「老人福祉施設」の非課税内容
「老人福祉施設」の非課税については、地方税法第348条2項10の5に規定されています。
<固定資産税の「老人福祉施設」非課税>
※地方税法348条2項10の5
「2.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
…………
10の5 社会福祉法人その他政令で定める者が老人福祉法第5条の3に規定する老人福祉施設の用に供する固定資産で政令で定めるもの」
ここでは、所有者が「社会福祉法人その他政令で定める者」で、固定資産が「固定資産で政令で定めるもの」とされ、「者」と「もの」それぞれの政令を確認する必要があります。
まず、「老人福祉施設」で非課税が認められる「者」は、必ずしも運営主体が社会福祉法人に限りません。
地方税法施行令第49条の13では、1項で(1)の運営する「者」が、2項で(2)の固定資産が非課税となる「もの」とされています。
(1) 運営主体(「者」)
①社会福祉法人
②社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
③公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、消費生活協同組合、健康保険組合、国民年金基金、商工組合、医療法人等
④老人介護支援センターの届出をした者
(2) 非課税となる固定資産(「もの」)
a.①が経営する養護老人ホーム
b.①②が経営する特別養護老人ホーム
c.①②③が経営する老人デイサービスセンター、老人短期入所施設軽費老人ホーム、老人福祉センター
d.①②③④が経営する老人介護支援センター
なお、社会福祉法人はそもそも地方税法348条2項10の5で規定されていますので、地方税法施行令では「社会福祉法人以外の者」が規定されています。
<老人福祉施設等を運営する者-運営主体>
※地方税法施行令第49条の13第1項
「法第348条第2項第10の5に規定する政令で定める者は、次に掲げる者とする。
1.老人福祉法附則第6条の2の規定により社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
2.公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、農業協同組合連合会(前号に掲げるものを除く。)、消費生活協同組合、消費生活協同組合連合会、健康保険組合、健康保険組合連合会、企業年金基金、確定給付企業年金法に規定する企業年金連合会、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、国民健康保険組合、国民健康保険団体連合会、国民年金基金、国民年金基金連合会、商工組合(組合員に出資をさせないものに限る。)、商工組合連合会(会員に出資をさせないものに限る。)、石炭鉱業年金基金、全国市町村職員共済組合連合会、地方公務員共済組合、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団及び医療法人
3.前2号に掲げる者以外の者で老人福祉法第20条の7の2に規定する老人介護支援センターの設置について同法第15条第2項の規定による届出をしたもの」
<老人福祉施設等で非課税となる固定資産-施設>
※地方税法施行令第49条の13第2項
「法第348条第2項第10の5に規定する政令で定める固定資産は、次に掲げる固定資産とする。
1.社会福祉法人が経営する老人福祉法第20条の4に規定する養護老人ホームの用に供する固定資産
2.社会福祉法人及び前項第1号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の5に規定する特別養護老人ホームの用に供する固定資産
3.社会福祉法人並びに前項第1号及び第2号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の2の2に規定する老人デイサービスセンター、同法第20条の3に規定する老人短期入所施設、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム及び同法第20条の7に規定する老人福祉センターの用に供する固定資産
4.社会福祉法人及び前項各号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の7の2に規定する老人介護支援センターの用に供する固定資産」
特に「医療法人」(地方税法施行令第49条の13第1項2号の最後尾)が運営する「老人福祉施設等の用に供する固定資産」の非課税については、数年前ですが、かなりの市町村で課税誤り(非課税にもかかわらず課税していた)があった、とそれぞれの市町村のホームページで明らかにされています。
某市町村の発表によりますと、「平成11年度地方税法改正により非課税範囲が拡大した(「医療法人」が追加された)ものの、市町村職員の理解が不十分であったため、非課税にもかかわらず課税を行った」とのことです。
なお、株式会社が経営する「老人福祉施設」は非課税にはなりません。
「老人福祉施設」に土地を貸している場合
ところで、固定資産税が非課税になるのは、運営法人等が固定資産を所有している場合に限りません。土地所有者が、運営法人等の利用の用に供するために土地を無償で貸している場合、その土地も非課税になります。
ただし、有償で土地を貸している場合は、その土地は固定資産税が課税されます。
例えば、次の図のように、社会福祉法人(A)が「老人福祉施設」を建設して運営し、その土地を(B)所有者から借りている場合、無償か有償かで異なります。
社会福祉法人が土地と家屋を所有し、目的の用途に沿っていれば、当然、土地、家屋ともに固定資産税は非課税となります。
しかし、固定資産がその目的以外に使用される場合は、固定資産税は非課税となりません。地方税法348条3項にその「課税規定」があります。
<課税規定-地方税法348条3項>
「3.市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」
2023/11/5/14:00