(第96号)固定資産税に不服がある場合の手続きは、「審査の申出」(価格)と「審査請求」(価格以外)の2通り

 
(投稿・令和5年8月-見直し・令和6年8月)

 これまで、固定資産税に不服がある場合の手続きとして「審査の申出」について紹介してきました。

 
 しかし、固定資産税に対する不服は、価格(評価額)に限ったものではありません。

 では、価格以外の固定資産税に対して不服がある場合はどうしたら良いのでしょうか。
 これは「審査請求」という手続きになります。

 つまり、固定資産税に対する不服対応(審査)としては「審査の申出」と「審査請求」の2通りある訳です。

 今回は、この後者の「審査請求」についての解説になりますが、まず両者の相違を紹介します。

「審査請求」とは

 そもそも、行政庁の処分に対して不服がある場合の救済手続きの一般法としては行政不服審査法が制定されています。
 そして、固定資産税に関する不服申立についても、原則として、この行政不服審査法に定めるところによるとされていますが、地方税法第19条で特例がまとめられています。

<行政不服審査法との関係>
※地方税法第19条
「地方団体の徴収金に関する次の各号に掲げる処分についての審査請求については、この款その他この法律に特別の定めがあるものを除くほか、行政不服審査法の定めるところによる。(以下省略)」

「審査請求」の手続き

「審査請求」を出来る者及び対象

 固定資産税の賦課等について「審査請求」をすることができる者は、その固定資産税の賦課等を受けた者であり、その賦課等について不服がある場合です。
 ただし、固定資産税の価格については「審査の申出」が出来ることから、「審査請求」としての不服の理由とすることはできません。

<固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出>
※地方税法第432条3項
「固定資産税の賦課についての審査請求においては、第1項の規定により審査を申し出ることができる事項についての不服を当該固定資産税の賦課についての不服の理由とすることができない。」

「審査請求」の相手(被告)

 行政不服審査法における「審査請求」は、行政庁の処分又は不作為について行うもので、固定資産税については市町村長に対して行います。
 なお、地方税に関しては、再審査請求は認められないこととなっています。(行政不服審査法6条1項)

「審査請求」が出来る期間

 「審査請求」をすることができる期間は、納税通知書の交付受けた日の翌日から起算して3ヵ月以内です。

「審査請求」の主な例

 「審査請求」の事例及び問題となるケースとしては、主に次のようなものがあります。
 ただし、棄却か容認かは個別具体的な判断が必要となります。

納税義務者の認定

①賦課期日現在の所有者
 固定資産税の納税義務者は賦課期日(1月1日)の登記簿に記載されている所有名義人ですが、相続による登記が行われていない場合は納税義務者にはなりません。
②解散手続中の法人
 法人は法律上消滅し権利能力を失うまで納税義務を負うこととなるため、解散手続中でも法人として納税義務を負います。

課税客体の認定

①土地の存否
 固定資産税の対象となっている土地が登記簿上は存在するが、実際に存在していない場合、固定資産税の課税客体は現況主義のため実際に存在しないなら課税されません。
②償却資産と家屋(設備)の区分
 家屋を借り受けて事業をする者が自己の費用により事業の用に供する附加加工した内装、造作、建築設備は、その者を所有者とみなして償却資産が課税されます。

公共の用に供する道路

 土地の一部が公共の用に供する道路として非課税にされるためには、不特定多数の用に供されていて、車両が置かれていないこと等が必要となります。

課税標準の特例

①新築家屋の特例
 新築住宅の軽減される税額の幅は、新築一戸建ての場合で3年間は2分の1に減額、新築マンションでは5年間が2分の1に減額となります。
②住宅用地の特例
 賦課期日(1月1日)現在で住宅が存在している場合には住宅用地の特例措置が適用されます。
③負担調整措置・住宅用地の特例
 土地の負担調整措置は、負担水準(その土地の前年度課税標準額が今年度の評価額に対してどの程度の水準まで達しているか)により決められるため、仮に土地の評価額が下がっていても固定資産税の課税標準額が上がる場合もあります。
 
2023/08/05/10:00

 

(第95号)私道が「公共の用に供する道路」として非課税になる場合(具体的要件)

 
(投稿・令和5年3月-見直し・令和6年8月)

 私道が「公共の用に供する道路」であれば非課税となることについては、第21号でお知らせしましたが、今回はその続編として、どのような場合に私道が非課税となるのか、具体的な要件等についてみていきます。

 
 なお、固定資産税の地目の認定は現況主義で、これは固定資産評価基準(自治省告示第158号)の第1章(土地)第1節(通則)一(土地の評価の基本)に定められています。また地目の意義の定義については、不動産登記事務取扱手続準則の定めているとおりとされています。
 なお、この内容については、第16号「固定資産税(土地)の地目は現況主義による」で説明してあります。

 

固定資産税における私道の非課税

 固定資産税における私道の非課税の根拠規定は、地方税法348条(固定資産税の非課税の範囲)2項(物的非課税)5号となります。

<固定資産税の「私道」非課税>
※地方税法348条2項5号
「2項 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
 5号 公共の用に供する道路、運河用地及び水道用地」

「公共の用に供する道路」に関する通達・行政実例

 この「公共の用に供する道路」については、これまで、自治省(現在の総務省)からの通達(現在は「通知」です)や行政実例が出されています。

<昭和26年7月13日地財委税1140号(地方財政委員会通達)> 
「『公共の用に供する道路』の解釈につき,所有者において何等の制約を設けず,広く不特定多数人の利用に供するものをいう。」 

<昭和26年9月14日地財委税1456号(行政実例)>
「『公共の用に供する道路』の解釈につき,原則として,道路法の適用を受ける道路をいうものであるが,林道,農道,作業道等であっても,所有者において何等の制約を設けず,広く不特定多数人の利用に供し,道路法にいう道路に準ずるものと認められるものについては,『公共の用に供する道路』に包含され,また,特定人が特定の用に供する目的で設けた道路であっても,当該道路の現況が,一般的な利用について何等の制約を設けず広く不特定多数人の利用に供するものと認められるものについては『公共の用に供する道路』に該当する。」 

<昭和42年4月5日自治固34号(行政実例)>
「一般的に,特定人が特定の用に供する目的で設置した道路が『公共の用に供する道路』に該当するためには,当該道路の現況が一般的利用について何等の制約を設けず開放されている状態にあり,かつ,当該私道の他の道路への連絡状況,周囲の宅地の状況等からみて客観的に広く不特定多数人の利用に供される性格を有するものであることを要する。」

市町村の取扱要領・指針

 また、この地方税法の非課税規定は歴史も長いことから、多くの市町村で「公共の用に供する道路」の取扱要領や指針が定められています。

 ここに、東京都(23区)の「道路に対する非課税のご案内」と大阪市の「『公共の用に供する道路』に係る事務処理要領(一部)」を紹介します。
(いずれもホームページに掲載されています。)

 
 この東京都(区)・大阪市の内容はほぼ同じで、また他の全国の市町村の要領、指針も同様の内容となっています。

 ところで、「公共の用に供する道路」について取扱要領や指針を設けていない市町村もありますが、上記の通達、行政実例を踏まえて同様の取扱いが行われているものと思われます。

私道の固定資産税課税の取扱い

私道とは何か

(1)私道の定義
 私道とは、道路の設置と管理主体の観点から、個人や企業などの私人により設置及び維持管理等されている、通行の用に供されている道路です。

 これに対して公道は、国や公共団体等により設置及び維持管理されている、公衆の通行の用に供されている道路で、地方税法348条1項で「人的非課税」とされています。

(2)不動産登記の観点から
 不動産登記法による土地の地目は不動産登記事務取扱手続準則68条で23種類規定されていますが、そのうちの公衆用道路(21号)は「一般交通の用に供する道路(道路法による道路であるかどうかを問わない。)」とされています。
 つまり、公衆用道路は必ずしも公道とは限らないのです。

(3)建築基準法の観点から
 建築基準法では42条1項と2項に道路の種類が定義されていますが、建築基準法の道路は必ずしも公道とは限らず私道も含まれています。

<建築基準法上の道路>

 

裁判例にみる「公共の用に供する道路」

 「公共の用に供する道路」の適用をめぐって、これまでいくつか訴訟が行われてきていますが、定義自体は上記の通達や行政実例を踏まえて一貫しているようです。
 したがって訴訟の内容は、案件私道が「公共の用に供する道路」に該当するか否かの内容となっています。

 これまでの裁判例にみる「公共の用に供する道路」の定義は、「開放性」「公共性」「準道路性」の3要件から成りますが、ここに判決文から引用させていただきます。

<福岡高等裁判所判決/平成26年(行コ)第18号>
「『公共の用に供する道路』とは,原則として道路法が適用される道路を意味し,所有者において何らの制約も設けず(開放性),広く不特定多数人の利用に供されている(公共性)ものをいうが,道路法による道路でなくても,それに準ずる土地であって,何らの制約なく一般公衆の利用に供されているものを別異に解する理由はないから,『道路法にいう道路に準ずるもの』と認められるもの(準道路性)を含むと解すべきである。」

(1)開放性
・所有者において何らの制約も設けられていないこと。
・例えば「夜間通行禁止」等の時間制約や道路上に植木鉢を置いたりしている場合は開放性が認められません。

(2)公共性
・広く不特定多数人の利用に供されていること。
・例えばショッピングモールで「利用者以外通行禁止」等の制約は公共性が認められません。

(3)準道路性
・道路法にいう道路に準ずるものとみとめられるもの。
・準道路性では、私道所有者の私権の行使(用途変更・廃止)が制限されます。

条例による申告義務

 なお、非課税等特別措置(非課税、課税標準の特例等)の適用に当たっては、取扱通知(「地方税法の施行に関する取扱いについて」平成22年)により、「条例により申告義務を課することが適当である」とされています。

<取扱通知-地方税法の施行に関する取扱いについて(第3章第1節19)> 
「非課税等特別措置の適用に当たっては、定期的に実地調査を行うこと等により利用状況を的確に把握し、適正な認定を行うこと。また、実地調査時点の現況等を記載した対象資産に関する諸資料の保管、整理等に努め、その的確な把握を行うとともに、利用状況の把握のため必要があると認められる場合には、条例により申告義務を課することが適当であること。」 

 なお、非課税となるべき土地の申告については、全て調べてある訳ではありませんが、ホームページ上で確認する限りでは、取扱要領や指針さえも存在しない市町村もあります。

「公共の用に供する私道」の判例紹介

 ここに「公共の用に供する私道」の判例の一部を紹介します。
 上記の「公共の用に供する道路」の定義で引用した福岡高等裁判所判決/平成26年(行コ)第18号です。

 この訴訟は、第1審(福岡地方裁判所/平成24年)で、福岡市にある商店街として使用されている土地を所有する原告らが「非課税とすべき土地が課税対象とされた」として訴え原告勝訴でした。

 しかし、第2審の福岡高等裁判所では「本件土地の一部である商店街の各通路は、「公共の用に供する道路」に該当するとはいえず、固定資産税等を非課税とすべき理由はないと」して原判決を取消し請求を棄却しました。

 詳細につきましては、次の判決要旨をご覧ください。

 
2023/03/25/10:00
 

 

(第94号)「空き家対策」の強化へ-「空家対策特別措置法」の改正⇒『管理不全空き家』を創設

 
(投稿・令和5年3月-見直し・令和6年8月)

 政府は増え続ける空き家の問題で、管理が不十分な物件については固定資産税を減額する措置を解除することなどを盛り込んだ「空家対策特別措置法」(以下「空き家法」)を改正することになりました。

 令和5年6月7日の参議院本会議において、「空き家法」の改正法が可決・成立し、施行されています。

 また京都市では、法定外普通税(固定資産税ではない)としての「空き家税」(「非居住住宅利活用促進税」)が検討されていますので、参考までにお知らせします。

これまでの「空き家法」による対応

平成26年に「空き家法」が成立

 空き家対策をめぐっては、平成26年に成立した「空き家法」で、空き家を放置して倒壊の恐れがあるなど特に危険性が高い物件を「特定空家」に指定し、空き家を撤去できるようにしました。

 この「特定空家」に指定されると、固定資産税の住宅用地減額特例(200㎡以下が1/6、200㎡を超える部分が1/3に減額)が解除されることになります。

 

『管理不全空き家』を新設

 しかし、「空き家法」による「特定空家」指定によっても、これまで空き家が増え続けていることから、今回、対策強化を盛り込んだ「空き家法」の改正が行なわれた訳です。

 この改正法では、放置すれば「特定空家」になるおそれがある物件を新たに『管理不全空き家』に指定し、固定資産税の減額措置を解除できるとしています。

 これまでの制度では、空き家でも住宅用地として土地の固定資産税が1/6に減額される続けていることが空き家放置につながっていると指摘されていて、今回の「空き家法」の改正は、所有者に空き家の撤去などの適切な管理を促す狙いとのことです。

 このほか改正法では、「特定空家」を撤去する際の行政の権限を強化することも盛り込まれています。

京都市で「空き家税」を検討

 京都市で、全国で初めての「空き家税」(「非居住住宅利活用促進税」)の創設が検討されています。

 この税は固定資産税とは別に、法定外普通税(市税)として創設されますので、具体的には「京都市非居住住宅利活用促進税条例」によります。
 なお、同条例により、令和8年度以降課税されるとのことです。

 注目すべきことは、今後、他市町村も同様の法定外税を設立するのかどうかです。

 具体的には京都市のホームページ「非居住住宅利活用促進税の導入に向けた取組について」(「京都市情報館」)をご覧ください。

 
2023/03/03/20:00
 

 

(第93号)「わがまち特例」制度とはどのようなものか

 
(投稿・令和5年2月-見直し・令和6年8月)

 聞き慣れない名称かもしれませんが、地方税法の特例で「わがまち特例」という制度があります。この「わがまち特例」とは通称で、正式名は「地域決定型地方税制特例措置」です。

 この「わがまち特例」は、地方税法の定める範囲内で市長村が特例率を条例で定めることができる仕組みとして、平成24年度の税制改正により導入されています。

「わがまち特例」制度とは

 「わがまち特例」は、法律に基づき、国が市長村に対して特例措置の実施を求める場合であっても、市長村の裁量を認めた方が効果的な特例措置については、全国一律の特例措置ではなく、法律の定める範囲で、市長村が特例措置の内容を条例で定めることができる仕組みです。

<地域決定型特例措置>

「わがまち特例」の導入例

 「わがまち特例」は市長村の条例によるものですので、市長村毎に導入されている特例が異なります。

 では、どのようなものが「わがまち特例」なのか、ここに主な導入例を紹介します。
 ※必ずしも、この表で掲げた例が全国の市長村で採用されてはいませんし、逆に、ここに無い制度が導入されている市長村もあります。

<「わがまち特例」導入例>

「わがまち特例」の特例割合

 上記の表(導入例)のとおり、地方税法第349条の3第27~29項及び地方税法附則第15条等により、導入された固定資産税の特例ですが、特例割合(特例率)は市長村の条例により異なっています。

 しかし、地方税法(含む附則)の条文では、表にあるように「参酌率○/○」を示した上で「○/○以上○/○以下の範囲内で市長村の条例で定める」とあることから、多くの市長村ではこの「参酌率」を特例割合としているようです。

 なお「参酌」とは、条例の制定にあたって、法令の「参酌する基準」を十分参照し、これによることの妥当性を検討した上で判断しなければならないとの意味で、要は国の法令を十分参考にして条例をつくるべき、ということです。

 そこで、参考までに「汚水又は廃液処理施設」の条文を掲げます。

<汚水又は廃液処理施設> 
※地方税法附則第15条第2項第1号 
「2項 公共の危害防止のために設置された次の各号に掲げる施設又は設備のうち、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得されたものに対して課する固定資産税の課税標準は、第349条の2又は第349条の3第2項若しくは第3項の規定にかかわらず、当該償却資産に係る固定資産税の課税標準となるべき価格に、それぞれ当該各号に定める割合を乗じて得た額とする。 
 1号 水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設又は同条第3項に規定する指定地域特定施設を設置する工場又は事業場の汚水又は廃液の処理施設で総務省令で定めるもの 1/2を参酌して1/3以上2/3以下の範囲内において市町村の条例で定める割合」 

 なお、市町村により導入項目も特例割合も様々ですので、具体的には該当の市町村の条例を確認することをお願いします。 

「太陽光発電設備」の特例

 最近では、太陽光発電設備が多くの市長村で設置されていますが、土地(太陽光パネル設置用地)については、第70号で説明してあるとおり雑種地になります。

 
 しかし、太陽光発電施設は土地だけでなく、土地上に設置されている太陽光パネル等が償却資産として課税されています。

 その償却資産の特例措置として「わがまち特例」が導入されています。

 具体的には、再生可能エネルギー事業者支援事業費の補助を受けて取得した太陽光発電設備及びこれと同時に設置する専用の架台、集光装置、追尾装置、蓄電装置、制御装置、直交変換装置又は系統連続用保護装置が該当します。

 この太陽光発電施設の特例割合は、次の2つに分かれます。

① 出力1千kW未満の設備(地方税法附則第15号第26項第1号イ)
 「固定資産税の課税標準となるべき価格に2/3分参酌して1/2以上5/6以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額」

② 出力1千kW以上の設備(地方税法附則第15号第26項第2号イ)
 「固定資産税の課税標準となるべき価格に3/4を参酌して7/12以上11/12以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額」

※地方税法附則第15号第26項(一部)
「26項 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法第2条第2項に規定する再生可能エネルギー発電設備のうち、同条第3項第6号に掲げる再生可能エネルギー源を電気に変換する設備以外の設備であつて、令和2年4月1日から令和6年3月31日までの間に新たに取得されたものに対して課する固定資産税の課税標準は、第349条の2の規定にかかわらず、当該特定再生可能エネルギー発電設備に対して新たに固定資産税が課されることとなつた年度から3年度分の固定資産税に限り、次の各号に掲げる特定再生可能エネルギー発電設備の区分に応じ、当該各号に定める額とする。 
1号 次に掲げる特定再生可能エネルギー発電設備 当該特定再生可能エネルギー発電設備に係る固定資産税の課税標準となるべき価格に2/3を参酌して1/以上5/6以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額 
イ 太陽光を電気に変換する特定再生可能エネルギー発電設備で総務省令で定めるもので総務省令で定める規模未満のもの 
(中略) 
2号 次に掲げる特定再生可能エネルギー発電設備 当該特定再生可能エネルギー発電設備に係る固定資産税の課税標準となるべき価格に3/4を参酌して7/12以上11/12以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額 
イ 特定太陽光発電設備(前号イに掲げるものを除く。) 
(以下略) 
 
2023/01/20/10:00
 

 

(第92号)物的(用途)非課税の例(4)-「墓地」は非課税、「納骨堂」は多くが課税

 
(投稿・令和5年2月-見直し・令和6年8月)

 固定資産税の物的(用途)非課税の例として、第86号で「宗教法人の境内建物と境内地」を紹介しましたが、今回は、この施設と関係が深い「墓地」と「納骨堂」はどうなのか、についてです。

 

「墓地」は基本的に非課税

 まず、「墓地」は地方税法に非課税規定があり、基本的に非課税となります。

「墓地」の非課税規定

 地方税法348条2項4号には、固定資産税の非課税として「墓地」が規定されています。

 この地方税法348条2項4号では、同項3号の「宗教法人と境内地」の条文とは異なり、運営主体や条件の規定はなく単に「墓地」とだけ規定されているのみです。

 まず、地方税法の非課税規定です。

<「墓地」の非課税>
※地方税法348条2項3号、4号
「3号 宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。
 4号 墓地 」

 固定資産税の物的(用途)非課税は、これらの固定資産が供されている用途の特質にかんがみ非課税とされているもので、基本的には、地方税法で所有者及び固定資産が特定されていない場合は、所有者が誰であろうと非課税とされます。

 多くの市長村では、「墓地、埋葬等に関する法律」に「墓地」の定義がされていることから、この法律に基づく区域にある「墓地」を非課税対象とされています。

<「墓地」とは>
※「墓地、埋葬等に関する法律」第2条
「5項 この法律で「墓地」とは、墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受けた区域をいう。」

 なお、この法律が施行される前から存在する古い「墓地」も、同法の区域に拘わらず非課税とされています。

「納骨堂」は多くが課税

 次に、では「納骨堂」は非課税となるのでしょうか。

「納骨堂」とは何か

 まず「納骨堂」とはどのようなものかです。

<納骨堂とは>
※「墓地、埋葬等に関する法律」第2条6項
「納骨堂とは、他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。」

 最近では、核家族化や埋葬に対する価値観の多様化によって、「先祖代々の墓」という従来の概念にとらわれることなく、自分のライフスタイルに合ったお墓を求める人が増えてきました。

 近年、じわじわと浸透してきた散骨や樹木葬に続き、「新たなお墓の形」として注目を集めているのが「納骨堂」です。

 「納骨堂」は運営母体によって、寺院が運営する「寺院納骨堂」、自治体が運営する「公営納骨堂」、宗教法人等が運営する「民営納骨堂」の3種類に分けられます。

 なお、「納骨堂」を経営するためには、都道府県知事の許可を受ける必要があります。

<墓地、納骨堂及び火葬場>
※墓地、埋葬等に関する法律第10条
「1項 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
2項 前項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も、同様とする。」

 そこで、問題は「納骨堂」が地方税法348条2項3号の「境内建物及び境内地」に該当するかどうかということになります。

東京地裁(平成28年5月24日)の判決

 東京都が「納骨堂」に対して課税処分した件で、原告(A宗を宗派とする宗教法人)が提訴した、平成28年5月24日に東京地裁判決において、この「納骨堂」に関係する判決が出されています。

(1) 訴訟事案の内容

 この訴訟は、原告・宗教法人が「納骨堂」として使用している土地及び建物に対して、被告・東京都が「寺務所、本堂、庫裏等は非課税とした」が、「参拝堂、納骨堂、客殿等の建物部分及びこれに対応する土地面積相当分については固定資産税を課税する」との賦課決定処分をした、という内容です。

 つまり、「納骨堂」の固定資産税が非課税となる「境内建物及び境内地」に当たるかどうかが争われたものです。

(2) 東京地方裁判所の判断

<地方税法348条2項3号について(判決の一部)>
「地方税法348条2項3号に規定する「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」とは,次のことを言う。
 ① 当該宗教法人にとって,宗教の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物,工作物及び土地で,同条各号に列挙されたようなものであり、かつ
 ② 当該宗教法人が,当該境内建物及び境内地を,専ら,宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるものをいうと解すべきであり,当該要件該当性の判断は,当該建物及び土地の実際の使用状況について,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にこれを行うべきである。」

 そして東京地裁は、本件での「納骨堂」は「宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地には該当しない」と判断しました。

<東京地裁判決(一部)>
「(本件非課税対象外部分)の使用状況を,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にみると,原告は,本件非課税対象外部分につき,A宗の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために使用していないとはいえないが,当該目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物の一部であると評価することにはやや困難がある。
 また,仮にそのような評価が可能であるとしても,本件「納骨堂」の使用者については宗旨宗派を問わないとされているのみならず,本件建物においては,原告以外の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要などの儀式行事が行われることが許容され,その場合,使用者は原告に対して施設使用料を支払うこととされ,実際にも,それが例外的とはいえない割合で行われており,原告は,上記のような使用者を訴外会社を通じて広く募集していることに照らすと,原告が,上記の各部分(本件非課税対象外部分)を,専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるとは認められないといわざるを得ない。」

 
 本件の対象となっている「納骨堂」は今後も増加することが予想されますが、現在、東京都だけでなく全国の市長村でも、宗教法人の家屋であっても、「納骨堂」部分は課税対象とされ、土地は家屋内部の課税部分と非課税部分に面積按分のうえ課税されています。

 ところで、「納骨堂」が「専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態」にあれば非課税となり得ます。

 しかし最近では、本件同様「某宗を宗派とする宗教団体の建物において他の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要等にも使っている納骨堂事業」が多く、課税されている場合が多いのです。
 
2023/01/19/17:00