(第85号)土地と家屋の価格に不服がある場合の「審査の申出」について

 
(投稿・令和4年9月-見直し・令和6年8月)

 今回は、固定資産税の土地と家屋の価格に不服がある場合の、「審査の申出」の手続き及び流れについて説明します。

 これまでも、価格に不服がある場合の手続きについては(部分的ですが)説明してきました。

 
 第60号では、価格に不服があるからとしても、安易に「審査の申出」を行うのではなく、まずは課税庁に評価内容を問い合わせて、納得できるかどうかを確認すること。そして、その過程の中で「課税誤り」も見つかることがあることも説明してきました。

 しかし、「審査の申出」は、地方税法上で審査申出前置主義として、訴訟を提起する前提の原則的手続きとなっていますので、この内容は理解しておかなければなりません。

 そこで今号では、今まで「審査の申出」の中でも触れてこなかった部分について解説することとします。

固定資産評価審査委員会とは

 固定資産税の「審査の申出」は、納税者で固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日の翌日から起算して3ヵ月以内に、文書をもって固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」)に「審査の申出」をすることができます。(地方税法432条1項)

<固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出>
※地方税法第432条1項
「固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては、第411条第2項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3月を経過する日までの間において、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。(中略)」

固定資産評価審査委員会の設置

 固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服を審査決定するために、市町村に審査委員会を設置することとされています。

<固定資産評価審査委員会の設置、選任等>
※地方税法第423条1項
「固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服を審査決定するために、市町村に、固定資産評価審査委員会を設置する。」

 そこで、なぜ審査委員会の制度が採用されているかですが、平成2年の最高裁(小法廷)判決では、次の説明があります。

<最高裁小法廷判決(平成2年1月18日)>
「法が固定資産登録価格についての不服の審査を評価、課税の主体である市町村長から独立した第三者機関である委員会に行わせることとしているのは、中立の立場にある委員会に固定資産の評価額の適否に関する審査を行わせ、これによって固定資産の評価の客観的合理性を担保し、納税者の権利を保護するとともに、固定資産税の適正な賦課を期そうとするものであり…」

審査委員の定数及び選任

 審査委員会の委員の定数は3人以上ですが、具体的には市町村の条例で定めることとされています。

<審査委員会の委員の定数>
※地方税法第423条2項
「固定資産評価審査委員会の委員の定数は3人以上とし、当該市町村の条例で定める。」

 そこで、主な大都市の条例(施行規則)を調べてみますと、「定数は○名(以内)」と様々な人数となっていますが、審査(審査委員会)は3人の合議体で行われています。

 合議体は事案ごとに構成され、審査委員会が指定する者1人が審査長となり、議事は合議体を構成する委員の過半数(2人以上)をもって決定されます。

<審査委員会の委員の選任>
※地方税法第423条3項
「固定資産評価審査委員会の委員は、当該市町村の住民、市町村税の納税義務がある者又は固定資産の評価について学識経験を有する者のうちから、当該市町村の議会の同意を得て、市町村長が選任する。」

 この「市町村税の納税義務がある者」ですが、その市町村に納税義務を負う者であれば、税目は固定資産税には限られません。

「審査の申出」ができる者

 「審査の申出」が出来る者(審査申出人)は、固定資産税の納税者(課税年度の賦課期日である1月1日現在の固定資産の所有者)で、固定資産課税台帳に登録された価格に不服がある者です。

 ただし、次の事項に注意する必要があります
(1) 借地人や借家人等の利害関係人は審査申出人となることはできません。
(2) 納税管理人も代理人でないかぎりは審査申出人とはなりません。
(3) 固定資産を共有している場合、共有者は単独で審査申出をすることができます。
(4) 区分所有家屋の場合、各区分所有者は単独で「審査の申出」をすることができます。
(5) 「審査の申出」は代理人によってもすることができます。ここでの代理人は、弁護士、税理士、公認会計士等には限られてはいません。

審査申出の流れ

審査申出書の形式審査

 審査申出書が提出されると、不服の内容を審査する前に、まず必要な添付書類があるか、期間内に提出されたものであるかなど、適法な形式を備えているかが審査されます。
 例えば、審査申出期間後に提出された審査申出書等は不適法となるため、却下となります。

 合議体による1回目の審査委員会を開催し、審査の申出の内容が適法であるか審査し、受理または却下を決定します。却下となった場合、内容の審査は行われません。

「審査の申出」の実質審査

(1) 審査委員会は審査申出書を受理したら、審査申出書の副本を評価庁(評価・課税部局)に送付します。
(2) 審査委員会は評価庁へ「弁明書」の提出を求めます。そして提出された「弁明書」の副本を審査申出人へ送付します。
(3) 審査申出人は反論がある場合、「反論書」を審査委員会へ提出します。
(4) 審査申出人は、希望をすれば審査委員会に対して、口頭で意見を述べることができます(「口頭意見陳述」)。
(5) また、審査委員会は、必要に応じて、実地調査等を行います。

「審査の申出」の審査決定

 審査委員会は、弁明書、反論書、実地調査、口頭意見陳述などを経て、審査の申出にかかる事案の適正な価格(評価額)の適否を判断します。

 そして、審査決定には「却下」、「棄却」、「認容」の3種類があります。

「却下」(審査の不受理)

 内容の審査に入らず不受理となるものです。受理後審査途中であっても、価格(評価額)の修正があり、審査の申出目的の一部又は全部が消滅したときは不適法となり、一部又は全部却下となります。
<

「棄却」(主張を退ける)

 審査申出人の主張は、価格(評価額)を修正すべき正当な理由にはあたらないとして、主張を退けることです。

「認容」(主張を認める)

 審査申出人の主張の一部または全部を認め、価格(評価額)を修正することです。
 審査委員会は審査決定のあった日から10日以内に審査申出人及び評価庁に決定書を通知します。

「審査の申出」決定までの期間

 審査委員会が「審査の申出」を受けて審理をし決定するまでの期間がどのくらいかかるかは、事案毎に内容が異なるため一概には言えません。
 ただし、上記で説明したとおり、審査は形式審査のみならず実質審査や現地調査も行うこととなると、それなりの期間を要することになります。

 いくつかの市町村のホームページを見ると、次のようなコメントが掲載されています。
『委員会では、できるだけ早期に審査の決定を行うよう審理手続を進めますが、審理手続には慎重を期する必要があり、決定までに時間がかかることがありますのでご了承ください。』

 ところが、地方税法では「申出を受けた日から30日以内に審査の決定をしなければならない」と規定されています。また、「30日以内の決定がないときは、却下の決定があったとみなされます」。そうしますと、審査申出人にもよりますが、その「却下決定」に不服があるとして、取消訴訟を提起することも出来る訳です。しかし、その一方では審査申出の審査は続いている状態です。

 この地方税法の趣旨は、「速やかに納税者の不服を処理すること」にありますが、実務的には30日以内に決定が可能となるケースは「審査を経た却下」程度で、実質審査を経る審査は数ヶ月(以上)はかかるのが通常です。

 それにもかかわらず、「申出を受けた日から30日以内に決定がないときは却下の決定があったとみなす」との地方税法の規定は、現実と乖離したものと感じざるを得ません。
 
2022/09/28/21:00
 

 

(第84号)「建築設備」以外の家屋と償却資産の区分について

 
(投稿・令和4年9月-見直し・令和6年8月)

 償却資産については、第31号「固定資産税の償却資産とは(基本編)」と第66号「家屋と償却資産の二重課税(課税誤り)に注意(「建築設備」の場合)」で、お知らせしてきました。

 

償却資産の定義と範囲

 
 今回は、「建築設備」以外の家屋と償却資産との区分についてですが、改めて固定資産税の償却資産とは何かについて確認しておきます。

<固定資産税の償却資産とは>
「土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、その減価償却額(又は減価償却費)が法人税法(又は所得税法)の規定による所得の計算上損金(又は必要な経費)に算入されるもののうち、その取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のものをいう(中略)」

(1)「事業の用に供する」とは

①  「事業」とは
 一定の目的のために一定の行為を継続、反復して行うことをいうものであって、必ずしも営利又は収益そのものを得ることを直接の目的とするものである必要はありません。

②  「事業の用に供する」とは
 その本来業務に直接使用するもののみならず、その事業について直接であると間接であるとを問わず使用される資産で税務会計上減価償却できるものであれば、償却資産として課税客体となります。

※(例)企業の福利厚生施設(医療施設、食堂施設、寄宿舎、娯楽施設等)等

(2)「事業の用に供することができる」とは

 「事業の用に供することができる」とは、現に事業の用に供している資産が含まれることはもちろん、事業の用に供する目的をもって所有され、かつ、それが事業の用に供することができると認められる状態にあれば足ります。

※「遊休・未稼働資産」…いつでも稼働し得る状態にあるものは課税客体となります。
※「用途廃止資産」…解体等されていないだけで、今後も使用されないものは課税客体とはなりません。

(3)「損金(又は必要な経費)に算入されるもの」とは

 その減価償却費が現に損金(又は必要な経費)に算入されない資産であっても、本来損金(又は必要な経費)に算入されるべき性格のものであれば課税客体となります。

※(例)簿外資産、償却済資産、建設仮勘定中の資産で事業の用に供している資産等

家屋と償却資産の区別

 まず「建築設備以外の家屋と償却資産の区別」表を掲げます。

<建築設備以外の家屋と償却資産の区別>

 「建築設備」以外の家屋については、「建築設備」と償却資産の二重課税と比較すると課税誤りは少ないと思われますが、むしろ逆に、その部分が固定資産税の償却資産に該当することに気がついていない=「無申告」の場合が多いのではないかと推測されます。
 
2022/09/09/13:00
 

 

(第83号)石川県N市のビルオ-ナーが「楽待」動画で「自治体のミスを疑う」

 
(投稿・令和4年8月-見直し・令和6年8月)

 第57号「家屋の新築時データを廃棄すると、在来家屋の検証も出来ない」で紹介しました『石川県N市にビルを所有しているKさん』が大手不動産投資会社の株式会社ファーストロジックが運営するYouTube「楽待」動画に登場しました。
(動画ではKさんの本名と顔は伏せられています。)

 
 また、なぜ在来家屋であるのに新築時の評価検証が必要かについては、前号の(第82号)「在来家屋の評価検証には新築時の見直しが必要(『評価計算書』)」で説明してあります。

 

N市課税当局対応の問題点

 ところで第57号では、「課税当局対応の問題点」として、①評価データを廃棄したこと、②建築当初の評価額が審査されないこと、の2点を指摘しています。

 当然ですが、①があってこその②ということになりますが、これは「所有者の申告によらずに役所が一方的に評価・課税する『賦課課税方式』」としての固定資産税を取り扱う部署としては、あってはならないことなのです。

 しかも、石川県N市からは「もしこの家屋の評価が高いと思うならば、その計算根拠を示してください」とも言われているのです。

 Kさんが審査申出において、「新築時の再建築費評点数(評価)がおかしいのではないか、この点を明らかにして欲しい」と申出たのに対して、審査委員会の結果は「在来家屋の評価の妥当性」に終始していました。

 もっとも、本件では家屋の新築時のデータが廃棄されていることから検証することも出来ない訳です。

行政不服審査請求の結果

 Kさんは、審査申出で棄却された後に、文書公開請求を行ったものの「文書保存年限満了により不存在」との決定がされました。またその後、行政不服審査法による行政不服審査請求を行いましたが、請求した7ヵ月後に「処分実施機関が、本件対象行政文書について、不存在を理由として非公開とした本件処分は妥当であると認められる」との裁決が下されています。

 この審査請求には弁護士が代理人として関与していましたので、筆者は裁決書を読ませていただきましたが、これは「7ヵ月掛けて何をしていたのか?」と思わざるを得ない内容の裁決書でした。

 その後Kさんが、この裁決書の内容と根拠規定を課税当局に問い合わせても、まともな回答は得られなかったそうです。

在来家屋で新築評価が可能か

 ところで、Kさんから「現在の家屋を新築評価して、それを補正することはできないのですか」との相談を受けました。

 これは、固定資産評価基準による評価方法からは難しいと思います。

<在来分の家屋に係る再建築費評点数の算出方法>
※固定資産評価基準(非木造・四)
「在来分の家屋に係る再建築費評点数は、次の算式によつて求めるものとする。ただし、当該市町村に所在する在来分の家屋の実態等からみてこの方法によることが適当でないと認められる場合又は個々の在来分の家屋に地方税法第349条第2項各号に掲げる事情があることによりこの方法によることが適当でないと認められる場合においては、二(部分別による再建築費評点数の算出方法)又は三(比準による再建築費評点数の算出方法)によつて再建築費評点数を求めることができるものとする。」

 この評価基準の中で、「ただし書き」として次の2項目が規定されています。
当該市町村に所在する在来分の家屋の実態等からみてこの方法によることが適当でないと認められる場
在来分の家屋に地方税法第349条第2項各号に掲げる事情があることによりこの方法によることが適当でないと認められる場合

 まず、①については「新築時の評価データを廃棄した」との場合は該当しないでしょう。また②についての家屋の場合は「増築又は改築」が該当します。

 つまり、現在の再建築価格方式では、在来家屋の評価は、基本的に新築当時の評価が継続されることになっているのです。

 
 また、平成25年4月16日の東京高等裁判所の判決において、在来家屋の評価においても新築時の評価が正しいかどうかの審査を求めることができるとされています。さらに、この判決が、平成26年7月24日の最高裁において決定されています。

 
 ところで、不動産鑑定評価で家屋評価は出来るかということについては、第75号「固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通じるか(家屋編)」でも紹介していますが、訴訟で「特別な事情」があると認められない限りは難しいです。

 

今後の改善のための提案

 ということで、この件では、まさに事実上の「お手上げ状態」になっているのです。

 これまでの号でも提案してきましたが、このようなことが無いように「新築時家屋の評価データは『永年保存』か『課税中保存』にすべき」であります。

 なお、筆者が関わっている案件の中には、「家屋の新規データを廃棄した」という市町村がいくつかありますが、多くの市町村では、家屋の新築時データを保管していることも事実です。
 
2022/09/05/12:00
 

 

(第82号)在来(中古)家屋の評価検証には新築時の見直しが必要(「評価計算書」)

 
(投稿・令和4年8月-見直し・令和6年8月)

 筆者は『固定資産税評価見直しサポート(コンサルタント)』を運営していますが、その中で「自分が所有する中古家屋(ビル)の評価が高いのではないか」との相談及び見直し依頼があります。

 ビルを購入した人が、自分が所有している他のビルと比べて「このビルの固定資産税は高いのでは」と感じての相談です。

在来家屋の検証には新築時評価が必要

 そこで今回は、そのような依頼を受けた場合、コンサルタントとしては、どのように在来家屋の評価見直しをするのかについての説明になります(地方税法では、中古家屋を「在来家屋」と称しています)。

 在来家屋評価見直しのうち最も重要でかつ大変な作業は、「再建築費評点数算出表及びその内訳書」(以下「評価計算書」)を取り寄せて、新築時点の評価の妥当性(再建築費評点数)をチェックすることです。
(ご依頼をいただいた場合は、委任状をいただいて当方で取得します。)

 つまり、在来(中古)家屋の評価が正しいか否かチェックする場合には、新築時の評価が間違っていないかどうかをチェックする必要がある訳です。

 
 ところが、多くの市町村では「書類は10年保存」と決められていて、新築時の資料が廃棄されている場合があるのです。そうすると、その家屋のチェックが事実上出来なくなってしまうのですが、希にこのような事態に遭遇します。

家屋の「評価計算書」とは

 非木造家屋の部分別区分は、固定資産評価基準により規定されており、次の部分から成っています。

<非木造家屋評点基準表の部分別区分>
①主体構造部、②基礎工事、③外周壁骨組、④間仕切骨組、⑤外壁仕上、⑥内壁仕上、⑦床仕上、⑧天井仕上、⑨屋根仕上、⑩建具、⑪特殊設備、⑫建築設備、⑬仮設工事、⑭その他工事

 この全ての部分が、新築時の評価において「評価計算書」で評価されているのです。

 「評価計算書」は内部資料で、所有者(又は代理人)のみに示されるもので、一般には公表はされておりません。

 ここに参考までに築30年の在来家屋(ビル)の「評価計算書(例)」を紹介します(北海道北広島市の非木造家屋)。
※「評価計算書」は、「再建築費評点算出表(総括表)」とその「内訳表」から成ります。

<再建築費評点算出表(総括表)>

<再建築費評点算出内訳表>
※「内訳表」は5ページになっていますのでPDFで紹介します。

 

在来家屋の評価方法(再掲)

 ところで、なぜ在来家屋の評価検証であるのに、新築時の評価=「評価計算書」の検証が必要かということですが、それは、在来家屋の再建築費評点数が「新築時の評価を受け継いでいる」からなのです。

 では、ここで改めて在来家屋の評価の流れ(1)~(4)を説明します。

(1)再建築費評点数の算出

 在来家屋に係る再建築費評点数は、原則として、前基準年度に適用した固定資産評価基準によって求められた再建築費評点数に、再建築費評点補正率を乗じて求めます。

 この再建築費評点補正率とは、東京都の物価水準により算定した工事原価に相当する費用の、新旧基準年度の3年間の変動割合を基礎として定められている補正率のこ とです。

 すなわち、基準年度の前年度における再建築費評点数に3年間の建築物価の変動状況を反映して再建築費評点数を求めます。
(令和3年度の再建築費補正率は、固定資産評価基準により「木造1.11、非木造1.07」とされています。)

 再建築費評点数=基準年度の前年度の再建築費評点数×再建築費評点補正率

(2)見直し後の評価額の算出

 新たに求めた再建築費評点数に、新築時からの経過年数に応じた経年減点補正率を乗じて見直し後の評価額を算出します。

 見直し後の評価額=再建築費評点数×新築時からの経過年数に応じた経年減点補正率

(3)見直し前の評価額との比較

 固定資産評価基準に示された再建築費評点補正率及び経年減点補正率を適用して見直しを行った評価額を、見直し前の評価額と比較します。

 その結果、見直し後の評価額が見直し前の評価額を上回った場合には、見直し前の評価額に据え置きされます。

 見直し後の評価額>見直し前の評価額⇒見直し前の評価額に据え置き

(4)市町村長の価格決定

 算出結果に基づき、3月31日までに市町村長が価格を決定します。 

 このとおり、現在の再建築価格方式では、在来家屋の評価は、基本的に新築当時の評価が継続されることになっているのです。

 ですから、「在来家屋の評価が高い、評価に誤りはないのか」というときには、新築時の評価が正しいのかどうかを検証する必要があるのです。

「評価計算書」は永年保存すべき

 ということであれば、「評価計算書」は『永年保存』か少なくとも『課税中保存』にすべきなのです。

 ところが、最近関わった市町村の中には「『評価計算書』は10年で廃棄して存在しない」(石川県N市-第68号)とか、「5年で廃棄した」(岩手県K町)もあります。

 大都市以外の市町村では、500㎡以上(一部では300㎡以上)の非木造家屋の新築評価を県税事務所に委任していますので、非木造家屋の新築家屋評価については当事者意識が薄いのではないかと思わざるをえません。とは言っても、課税権は市町村長にあるのですから、これは理由にはなりません。

 なお、大都市以外の市町村でも、新築時データを保存している例も多くあります(上記の築30年の非木造家屋「評価計算書」は北海道北広島市のものです)。
 
2022/09/01/10:00
 

 

(第81号)豪雨・洪水や土砂災害等の被害に対する固定資産税の減免措置について

 
(投稿・令和4年8月-見直し・令和6年8月)

 近年では、地球全体の気候変動の影響もあってか、猛暑が続いたと思ったら、線状降水帯による豪雨による河川の氾濫と洪水、土砂災害による被害発生も相次いでいます。

 また、日本は、東日本大震災・巨大津波や能登地震等に代表されるように”巨大地震の巣”とも言われており、同様な震災がいつ起きても不思議ではありません。

 これらの災害により、命が失われてしまう被害もありますし、家屋が倒壊したり、流される等の被害も相次いでいます。

 そこで、このような中で土地と家屋の被害に対して、固定資産税はどのような減免措置が用意されているのかについて見ていきます。

地方税法の減免規定

 地方税法では、上記の災害があった固定資産税については、減免する制度が古くからあります。

<固定資産税の減免>
※地方税法第367条
「市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することができる。」

 「減免」とは法律又は条例の定めるところによって課税権を行使した後に、納税者の申請により税額の全部又は一部を免除する制度です。
 これは、「非課税」(=当初から課税権を行使することができない)や「課税免除」(=本来課税の対象ではあるが地方団体自らが課税権を行使しない)とは異なります。

 この地方税法第367条により減免することができる者の範囲は、次の三つとされています。
天災その他特別の事情がある場合において減免を必要と認める者
貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者
その他特別の事情がある者

 大まかな減免要件は、上記①~③のとおりですが、具体的な内容は市町村の条例により定められています。

 なお、地方税法では、この条文のほかに「被災住宅用地の特例措置」があります(地方税法第349条の3の3)。

条例による固定資産税の減免

 地方税法第367条の「固定資産税の減免」についての具体的な内容は、市町村の条例及び条例施行規則等で定められています。

 ところで、この市町村の条例の歴史は古いこともあってか、市町村毎に規定内容がかなり異なっています。

 そこで、ここでは東京都23区、横浜市、大阪市の三都市の条例等の内容について紹介させていただきます。

 なお、今回は「①天災その他特別の事情がある場合において減免を必要と認める者」に限定させていただきます。また、ここでは”農地に対する被害”については、割愛します。

東京都(23区)の都税条例

<「東京都都税条例」(一部)>
第134条(固定資産税の減免)
「1項 次の各号のいずれかに該当する固定資産であつて、知事において必要があると認めるものに対する固定資産税の納税者に対しては、当該固定資産税を減免する。
一 生活保護法により生活扶助を受ける者の納付すべき固定資産税に係る固定資産
二 公益のために直接専用する固定資産(固定資産の所有者に課する固定資産税にあつては、当該所有者が有料で使用させるものを除く。)
三 災害等により、滅失し、又は甚大な損害を受けた固定資産で規則で定めるもの
四 前各号に掲げるものの外、規則で定める固定資産」

 「東京都都税条例」第134条1項3号に規定する「災害等により、滅失し、又は甚大な損害を受けた固定資産で規則で定めるもの」は、「東京都都税条例施行規則」第31条で次のとおりとされています。

<「東京都都税条例施行規則」第31条1項1号-まとめ>
 固定資産の10分の1以上が被災した場合における当該固定資産に係る被災の程度に応じ、それぞれの減免額とする。
 

横浜市の市税条例

<「横浜市市税条例」>
第62条(固定資産税の減免)
「1項 市長は、次の各号の一に該当する固定資産に対し、特に必要があると認めた場合は、その固定資産税を減免することができる。
(1) 災害若しくは天候不順のため、収穫が著しく減じた田畑
(2) 生活保護法の規定により、生活扶助を受ける者の納付すべき固定資産税にかかる土地又は家屋
(3) 公益上その他の事由により特に減免を必要とする固定資産」

 横浜市の場合は、1号の災害関連の条項は「田畑」が該当となっており、土地、家屋に関する減免は第3号の「その他の事由」として、「横浜市市税条例施行規則」第19条の3で次のとおり規定されています。

<「横浜市市税条例施行規則」第19条の3・3項イ-まとめ>

大阪市の市税条例

 大阪市の場合は、「大阪市市税条例」の第91条~94条が固定資産税の減免規定ですが、そのうち第91条が「災害により損害を受けた固定資産に対する固定資産税の減免」となっています。

 また大阪市では、本条例及び条例施行規則のほかに「大阪市固定資産税・都市計画税減免取扱要綱」及び「大阪市固定資産税・都市計画税減免事務実施要領」により、詳細に規定されています。

<「大阪市市税条例」>
第91条(災害により損害を受けた固定資産に対する固定資産税の減免)
「1項 災害により損害を受けた土地に対する固定資産税は、申請に基づき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるところにより減免する。
2項 災害により損害を受けた家屋に対する固定資産税は、申請に基づき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるところにより減免する。」

 
※第3項が償却資産に対する固定資産税の減免が規定されていますが割愛します。

 どうでしょうか、東京都(23区)、横浜市、大阪市の3つの都市を見ただけでも、損害(被害)の程度と減免税額が異なっています。

被災住宅用地の特例措置

 「被災住宅用地の特例措置」とは、土地上の家屋が被災によって無くなった場合の「被災住宅用地のみなし特例」になります。

 この「被災住宅用地等に対する固定資産税の課税標準の特例」は、地方税法第349条の3の3に規定されていますが、条文自体が”長く難解な表現”になっていますので、条文の紹介は割愛させていただきます。

 「被災住宅用地の見なし特例」は、平成13年度の地方税法の改正により新設されましたが、主な内容は次のとおりです。

 「震災、風水害、火災その他の災害により滅失し、又は損壊した家屋の敷地の用に供されていた土地」は、その土地上には家屋が存在しないため、本来であれば住宅用地(200㎡までが6分の1、200㎡を超える部分は3分の1に減額されている)ではなくなる訳ですが、この特例措置により一定の期間は住宅用地とみなされます。

 平成13年度の地方税法改正では、既に住宅用地としての課税標準の特例措置を受けていた被災住宅用地について、市町村長が当該土地を住宅用地として使用できないことを認定した場合には、震災等の発生後2年度分の固定資産税(都市計画税)が住宅用地としてみなされます。

 なお、平成17年度の改正で「災害対策基本法」に基づく避難指示等の期間や、平成29年度の改正による「被災市街地復興特別措置法」に基づく被災市街地復興推進地域においては、上記の2年に限定されませんので確認が必要です。

 固定資産税の減免の内容は市町村により相当異なりますので、確認が必要です。Google等の検索サイトで「○○市町村・固定資産税・災害・減免」とのキーワードで検索されると確認できます。
 
2022/08/30/09:00