(第80号)遊休農地のままの評価と農地中間管理機構に貸付けたときの減額特例

 
(投稿・令和4年8月-見直し・令和6年8月)

 農地(田・畑)の固定資産税評価と課税にいついては、第30号で解説してきました。

 
 今回の農地(田・畑)は一般農地(市街化調整区域農地)の場合となります。

 まず、今回テーマの要約を記載しておきます。

 農地が遊休農地として把握され放置されている場合は、農地の固定資産税評価額が「売買価格×0.55(農地の限界収益率)」となるべきところ、この0.55を乗じない課税が強化され、結果的に1.8倍になります。

「農地の限界収益修正率」とは

 農地の売買は、一般的に小規模な面積を単位として行われます。この場合、買受側は、買足しに伴う耕作面積の拡大ににより農業経営の効率が増進されます。
 このため、農地の売買実例価額は農地の平均収益額を超える限界収益額を前提として成立していると考えられていることから、その割高分を修正する必要があるためです(第56号参照)。

 しかし、この農地を農地中間管理機構に貸し付けた場合は、固定資産税が2分の1に軽減されることになります。

遊休農地の課税の強化(1.8倍)

対象となる遊休農地 

 遊休農地とは、「現に耕作されておらず、今後も耕作される見込みがない農地」(1号遊休農地)、または「周辺地域の農地に比べて利用の程度が著しく劣っている農地」(2号遊休農地)です。
(※ この1号2号とは、農地法第32条1項1号、2号です。)

<利用意向調査>
※農地法第32条1項
「農業委員会は、第30条の規定による利用状況調査の結果、次の各号のいずれかに該当する農地があるときは、農林水産省令で定めるところにより、その農地の所有者(その農地について所有権以外の権原に基づき使用及び収益をする者がある場合には、その者。以下「所有者等」という。)に対し、その農地の農業上の利用の意向についての調査(以下「利用意向調査」という。)を行うものとする。
1 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
2 その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣つていると認められる農地(前号に掲げる農地を除く。)」

 具体的に遊休農地とは、農地法に基づき、農業委員会からの利用意向調査において、機構への貸付けへの意思を表明せず、自ら耕作の再開も行わないなど放置している場合、農地中間管理機構と協議すべきことを勧告された農業振興地域内の農地となります。

※農業振興地域とは
 農業振興地域とは、農業の振興を促進することを目的として、今後相当期間(おおむね10年以上)にわたって農業振興を図るべき地域です。

農地中間管理機構とは 

 農地中間管理機構(農地バンク)とは、平成26年度に設置された都道府県の第3セクターで、「信頼できる農地の中間的受け皿」です。農地所有者が、この農地中間管理機構を活用できる場合は、「リタイアするので農地を貸したいとき」「利用権を交換して、分散した農地をまとめたいとき」「新規就農するので農地を借りたいとき」になります。

農地中間管理機構の活用(1/2に減額)

遊休農地に関する手続き 

 農業委員会は、毎年1回、農地の利用状況調査を行います。

<利用状況調査>
※農地法第30条1項
「農業委員会は、農林水産省令で定めるところにより、毎年一回、その区域内にある農地の利用の状況についての調査(以下「利用状況調査」という。)を行わなければならない。」

 農地法に基づく、遊休農地に関する手続きは、次の流れで行われます。

農業委員会が毎年1回、農地の利用状況を調査して、遊休農地の所有者等にに対する意向調査を実施します。

利用意向調査の内容は、「自ら耕作するか」「農地中間管理事業を利用するか」「誰かに貸し付けるか」等です。

意向どおり取組を行わない場合、農業委員会は、農地中間管理機構との協議を勧告し、最終的に都道府県知事の裁定により、同機構が農地中間管理権を取得できるよう措置します。

農地中間管理機構を活用した場合 

 平成28年度の税制改正により、所有する全農地(10アール未満の自作地は残すことも可能)を、農地中間管理機構に10年以上の期間で貸し付けたときは、次の期間にわたり、農地の固定資産税の課税標準額が2分の1に軽減されます。

10年以上15年未満の期間で貸し付けたときは3年間が2分の1
15年以上の期間で貸し付けたときは5年間が2分の1

 なお、農業委員会から勧告を受けた上記の1号遊休農地や2号遊休農地を、農地中間管理機構の活用を行わずに放置すると、固定資産税が1.8倍に増額されますので、注意が必要です。
 
2022/08/28/09:00
 

 

(第79号)私道が非課税(公共の用に供する道路)でない場合は「1割評価」が多い

 
(投稿・令和4年8月-見直し・令和6年8月)

 第21号で私道が「公共の用に供する道路」の場合は物的非課税(用途による非課税)」となると解説しました。

 
 そもそも私道は個人が所有する土地であるため、固定資産税が課税されるのが普通なのです。

 しかし、「公共の用に供する道路」として非課税にはならなくても、私道の評価には市町村単位での減額措置があります。

 その前に第21号の「公共の用に供する道路」の場合を簡単に復習しておきます。

「公共の用に供する道路」の要件 

 私道は個人の方の所有土地ですので、一般的には固定資産税の課税対象になりますが、「公共の用に供する道路」であれば、非課税になります。

「公共の用に供する道路」の私道として非課税となるためには、次の要件が必要です。
利用上の制約を設けず不特定の人の利用に供されていること
客観的に道路として認定できる形態を有すること

 そして、私道の種類ごとの要件は次のとおりです。

<非課税になる私道の種類>
(a)「通り抜け私道」
「通り抜け私道」は、起終点が公道に接していること、幅員が1.8m以上であること、不特定多数の人に利用されていることが必要です。
(b)「行止り私道」
「行止り私道」は、2軒以上の家屋に利用されていること、幅員が4m以上であること、利用制限されずに不特定多数の人に利用されていることの要件が必要となります。
(c)「コの字型私道」
「コの字型私道」も(b)の「行止り私道」と同じく、2軒以上の家屋に利用されていること、幅員が4m以上であること、利用制限されずに不特定多数の人に利用されていることの要件が必要となります。
(d)「セットバック部分」
 幅員4mに満たない公道に面している土地の「セットバック部分」で、一体となって道路の効用を果たしているものは非課税になります。

 なお、「公共の用に供する道路」として非課税にするために、必要に応じて市町村への申告が求められています。

非課税にならない私道とは 

私道とはどのような土地か

 「公共の用に供する道路」ではない私道の類型(地目)は、正式には「その他の雑種地」に属します。
 その場合、雑種地の種類として、次の図の「近傍地比準方式」の「比準割合を適用」により評価されます。

<雑種地の分類>
 
 私道の定義は固定資産評価基準にはありませんが、一般に「私道とは、原則として私人が所有する公共の用に供する道路以外の道路で、かつ、道路部分が分割登記されているもの又はこれに類似するものをいう」とされています。

私道の補正率は0.1がほとんど

 ところで、肝心の、「公共の用に供する道路」ではない私道の補正率ですが、令和3年8月に総務省が行った「雑種地の評価方法に関する調査」(政令指定都市、中核市を中心とした139団体(東京都特別区を含む))によると、次のとおりです。

 比準元の土地の地目は「宅地」がほとんどで、比準割合については、市街化区域、市街化調整区域ともに「0.10~0.20未満」が一番多く、次に「0.10未満」となっています。

 なお、筆者が政令指定都市のいくつかを調査したところ、路線価方式の画地計算において、補正率「0.1」の私道補正率表を定めているところがほとんどでした。この場合、市町村の「所要の補正」として、「宅地」の画地計算の一つとして定めている市もあります。

<非課税でない私道例>
 
 なお、比準割合は、具体的には市町村毎に異なりますので、各市町村の「固定資産評価事務取扱要領」を確認してください。

相続税の私道評価(参考) 

 参考までに、相続税での私道評価を確認しておきます。
 相続税では財産評価基本通達(国税庁)により、「私道のしんしゃくは30%」とされています。

 相続税1㎡当りの評価額=路線価×奥行価格補正率×間口狭小補正率×奥行長大補正率
 評価額=1㎡当りの評価額×地積×30/100

 全てではありませんが、私道割合は「固定1割・相続3割」と頭に入れておくことお薦めです。
 
2022/08/01/10:00
 

 

(第78号)「その他の雑種地」の駐車場評価について-有料駐車場は償却資産も課税

 
(投稿・令和4年7月-見直し・令和6年8月)

 今回は、「その他の雑種地」のうち駐車場の固定資産税評価について解説します。

 その前に、雑種地の固定資産税評価の「基本」と「その他雑種地」について、第68号と第69号で説明していますので、そちらをご覧ください。

 

その他雑種地の評価方法

 ところで、「その他の雑種地」の例として一般的に考えられている利用形態としては、駐車場、資材・廃材置場、太陽光パネル設置用地、干場、鉄塔用地、私道、農業用施設用地、高圧線下地等があげられています。

 そして、固定資産評価基準による「その他の雑種地」の評価方法は、売買実例地比準方式と近傍地比準方式が規定されています。

 今回は駐車場評価についてですが、例えば宅地と一体となっている駐車場は宅地評価がされています。また、周辺一帯が宅地利用とされている地域での宅地転用が可能な駐車場も宅地評価されるのが一般的です。

 令和3年8月に行った総務省の「雑種地の評価方法に関する調査(アンケート調査)」(政令指定都市、中核市を中心とした139団体(東京都特別区を含む))では、駐車場は「その他の雑種地」と位置づけられています。

駐車場の近傍地比準方式

 多くの市町村での駐車場の評価方法は、近傍地比準方式がほとんどですが、その方法として①宅地に比準する評価方法と②比準割合による評価方法の2通りの方法になっています。

① 宅地に比準する評価方法

a.市街化区域の駐車場
 この方法による市街化区域の駐車場の評価方法は、宅地に比準して求めた基本価額から、当該雑種地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額を控除して求めます。
 この評価方法は、市街化区域農地の評価方法と同じで、造成費相当額も市街化区域農地の造成費相当額を適用します。
<造成費相当額>
 造成費相当額とは、市街化区域農地を宅地に転用する場合において、通常必要と認められる造成費に、宅地の評価割合(地価公示価格等の割)を乗じて求めた評価上の造成費です。
 造成費相当額の判定にあたっては、平坦地(特に容易、容易、やや困難、困難)、傾斜地」(緩傾斜地、中傾斜地、急傾斜地)を前提にして査定します。
b.市街化調整区域の駐車場
 市街化調整区域内に所在し、かつ、開発許可等の区域内で建築行為が可能でない駐車場敷地の場合は、造成費相当額控除前の基本価額を70%減額されるのが一般的です。つまり、市街化調整区域の駐車場基本価額は市街化区域の3割相当とされています。

② 比準割合による評価方法

 全国の中でもかなりの市町村では、「その他の雑種地」の宅地比準割合表を作成して適用する評価方法を採用しています。
 この方法を採用している市町村では、「固定資産評価事務取扱要領」により「雑種地基準・宅地比準割合表」が定められています。

 なお、総務省が行ったアンケート調査によると、駐車場については、次のような状況が報告されています。

a.市街化区域の場合に適用する比準割合
 比準割合1.0が最も多く、0.7~0.9がやや多く、0.5未満はほとんどみられません。ただし、比準割合1.0の場合でも造成が必要な場合には0.8とする等の団体もあります。
b.市街化調整区域の場合に適用する比準割合
 比準割合0.5~0.6未満が最も多く、次に0.4~0.5未満、0.7~0.8未満の順となっており、0.8以上としている団体はほとんどありません。

 なお比準割合は、具体的には市町村毎に異なりますので、各市町村の「固定資産評価事務取扱要領」を確認してください。

有料駐車場は償却資産も課税

 ところで、土地の有料駐車場は事業用の資産になりますので、固定資産税は土地とともに償却資産が課税されます。

 固定資産税の償却資産とは、土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、その減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上、損金又は必要な経費に算入されるものをいいます。

 償却資産を所有されている者は、毎年1月1日現在所有している償却資産の内容(取得年月、取得価額、耐用年数等)について、1月31日までに償却資産の所在する市町村に申告する必要があります。

 固定資産税の償却資産(建築設備)については、第66号「家屋と償却資産の二重課税(課税誤り)に注意(「建築設備」の場合)で説明しています。

 
 土地の有料駐車場内の償却資産の例としては、舗装路面(アスファルト、コンクリート舗装・砂利敷)、看板、精算機等の資産があり、申告・課税の対象となります。
 なお、精算機や昇降板、防犯カメラ、看板などの資産を管理会社が取付けた場合は、管理会社が申告義務者となります。

 また、償却資産には耐用年数がありますが、固定資産税の償却資産は、耐用年数が経過しても事業用資産として所有している限りは取得価額の5%が課税され続きますので、ご注意ください。

<有料駐車場の償却資産(松戸市のホームページより)>
 償却資産は、外灯・フェンス・防犯カメラ・看板・舗装路面・精算機などが申告対象となります。
 
2022/07/31/18:00
 

 

(第77号)生産緑地の2022年問題は予想外-89%が特定生産緑地(農地の継続)を希望

 
(投稿・令和4年10月-見直し・令和6年8月)

 第76号「生産緑地指定解除の2022年問題と固定資産税の対応」でお知らせしたとおり、1991年(平成3年)から指定されている生産緑地が、30年後の2022年(令和4年)に指定の解除(買取りの申出)が可能になりました。

 

 生産緑地の解除が可能となると、多くの生産緑地(農地)が宅地化されるのではないか(2022年問題)との予想は見事に外れました。つまり、生産緑地のほとんどが特定生産緑地(農地)として継続されるということです。

 特定生産緑地制度は、2017年(平成29年)に生産緑地法が改正され、市町村長が、生産緑地の所有者等の同意を得て、買取り申出基準日より前に特定生産緑地として指定され、買取りの申出が可能となる期日を10年延期する制度(「特定生産緑地制度」)が創設され、既に平成30年4月から施行されています。

特定生産緑地制度の概要

 この特定生産緑地に指定されることにより、引き続き生産緑地が保全され、良好な都市環境の形成が図られることが期待されます。

 昨今では、多くの都市で人口減少が進み、宅地需要が沈静化しつつある中、農地の転用により住宅供給等を推進する必要性が低下しています。

 また、生産緑地は、身近な農業体験の場や災害時の防災空間などとして多様な機能をする場として、都市における重要な土地利用でもあります。

 特定生産緑地制度の概要は次のとおりです。

生産緑地の所有者等の意向を基に、市町村長は告示から30年経過するまでに、生産緑地を特定生産緑地として指定できます。
 ただし、30年経過した後は特定生産緑地として指定できません。
指定された場合、買取りの申出ができる時期が10年間延期されます。
10年経過する前であれば、改めて所有者等の同意を得て、10年の延長ができます。
特定生産緑地の税制については、従来の生産緑地に措置されてきた固定資産税の一般農地としての評価、課税及び相続税の納税猶予が継続されます。

特定生産緑地の指定メリット

営農を続ける際のメリット

固定資産税等は引き続き一般農地として評価、農地課税となります。
特定生産緑地の指定を受けてから10年毎に継続の可否を判断できます。
 特定生産緑地の指定は、10年毎の更新制です。
 10年間の間に相続等が生じた場合は、これまで同様、買取りの申出が可能です。

相続する際のメリット

次の相続での選択肢が広がります。
 次世代の方は、次の相続時点で相続税の納税猶予を受けて営農するか、買取りの申出をするか選択できます。
農地を残しやすくなります。
 次世代の方が、第三者に農地を貸しても、相続税の納税猶予が継続します。

特定生産緑地の指定見込みが89%

 ところで、国土交通省が実施した、「特定生産緑地の指定意向に関する調査」によると、令和4年6月末時点で、「指定済」「指定受付済」「意向あり」が面積ベースで89%を占めています。

<特定生産緑地の指定見込み>

 令和4年6月時点で「生産緑地の継続(特定生産緑地)」の希望が89%とは驚きました。

 しかし、大都市圏の市町村においては、30年前には「市街化区域であるので市街化を進める」と考えていたのですが、昨今では「できるだけ都市にも緑を残したい」と変わってきているのも事実で、これは市町村の思惑も反映されているものと思われます。

 その状況が如実に表れているのが、次の都道府県別の指定見込みグラフですが、東京都、大阪府での「指定済・指定見込み」が圧倒的な割合となっています。

<都道府県別の指定見込み>
 
2022/07/31/12:00
 

 

(第76号)生産緑地指定解除の2022年問題と固定資産税の対応

 
(投稿・令和3年7月-見直し・令和6年8月)

 生産緑地とは、1991年(平成3年)から生産緑地法により、都市圏の市街化区域内の農地のうち、生産緑地地区として都市計画決定がされている農地です。

<生産緑地地区の標識>
 現在では東京ドーム約3,000個分にも相当する農地が生産緑地として指定されていますが、そのほとんどが東京都、大阪府、愛知県とその近郊の圏内に集中しています。

 この生産緑地が指定から30年後の2022年(令和4年)に指定の解除が可能となりました。そうなると、土地を売却するなど、これまで生産緑地だった土地が一気に市場に流出し、土地の価格が暴落したりすることも懸念されていました。

 これを「生産緑地の2022年問題」とも言われていました。
 しかし、次号でお知らせしますが「生産緑地の2022年問題」は”取り越し苦労”でありました。

生産緑地とは何か

(1)30年間の営農義務(2022年まで)

 生産緑地に指定されている土地の所有者に対しては、「30年間の営農義務」が課されていました。また、営農義務以外にも次のことを守る必要があります。

生産緑地を農地として管理しなければならない。
生産緑地である旨を掲示しなければならない。
生産緑地地区において建築物や工作物の造成、土地に手を加える行為はできない。ただし、農林漁業を営むための施設等は市町村長の許可を得て設置・管理できる。

(2)固定資産税の優遇

 市街化区域内にある農地(市街化区域農地)は、通常宅地並みの固定資産税の評価・課税がされますが、生産緑地地区内にある農地は、市街化調整区域内の農地(一般農地)として評価・課税されています。

 

(3)相続税の納税猶予

 相続や遺贈により生産緑地を取得した場合、その取得者は生産緑地分の相続税の納税猶予を受けることができます。ただし、あくまでも「納税猶予」であることに注意が必要です。
 例えば、相続人が営農を廃止した場合、相続時までさかのぼって相続税が課税されるとともに、猶予期間に応じた利子税まで支払うことになります。

生産緑地の2022年問題

 生産緑地に指定されている間は「営農義務」が課され、他人に譲渡することもできませんでしたが、30年の「営農義務」経過後は市町村に対して買取の申し出を行い、市町村が買い取らない場合は、民間に売却することが可能でした。

 この結果として、土地が大量に市場に供給され、地価の下落を引き起こすことも懸念されています。この生産緑地問題は「2022年問題」とも言われていました。
 生産緑地の指定が解除されると固定資産税の減免もなくなることから、所有し続けることの負担が大きいことも「2022年問題」が懸念される理由の一つでもありました。

生産緑地法の変遷

(1)新生産緑地法改正(2017年)

 2017年に改正された生産緑地法の内容とポイントです。

① 特定生産緑地指定
 生産緑地は30年の「営農義務」経過後は市町村に対して買取の申し出ができますが、特定生産緑地に指定された土地は、買取の申し出をできる時期が10年先送りにされることになりました。ここで先送りされた場合は、固定資産税の減免などの減税措置を引き続き受けることができます。これにより「2022年問題」の影響を緩和する意図があります。
② 条例による面積要件の引き下げ
 生産緑地地区の面積要件はこれまで500㎡でしたが、市町村が一定の基準のもと、条例により面積要件を300㎡に引き下げることが可能となりました。これは、500㎡という要件が都市部の農地にしては広いものだったことが改正に至った要因です。
③ 行為制限の緩和
 これまで生産緑地内に設置できるのは農業用施設のみでしたが、これでは所有者が生産緑地を使って収益を得ることが難しい状況にありました。こうしたことから、改正後には地元の農産物を使った商品の製造、加工、販売のための施設やレストランを設置できるように変更されました。

(2)田園住居地域創設

 2018年4月1日に改正された都市計画法の施行に伴い、用途地域に田園住居地域が新たに追加されました。
 田園住居地域は住居系の「農業の利便の推進を図りつつ、良好な低層住宅の環境を保護する地域」です。つまり、農地と市街地の共存を図る目的で田園住居地域が追加されたということです。

(3)都市農地賃借法制定(2018年)

 「都市農地賃借法」を一言で表すと、「生産緑地の所有者が生産緑地を第三者に貸しやすくなる法律」です。

① 法定更新適用なし
 一般農地も第三者に貸すことはできますが、農地法により賃貸借契約が自動更新される法定更新制度が適用されてしまい、一度農地を貸したら返してほしいタイミングで返ってこない可能性がありました。しかし、都市農地賃借法の適用を受けられる生産緑地においては、法定更新制度の適用から除外されるため、安心して農地を貸せるようになっています。
② 相続税納税猶予制度は継続
 都市農地賃借法の適用を受けて生産緑地を貸し出すと、生産緑地を第三者に貸しだしても相続税の納税猶予制度を継続して利用できるようになりました。

2022年における選択肢と固定資産税

(1)生産緑地の買取申出後に売却か有効活用する

 30年経過後、市町村に生産緑地の買取りを求め、市町村が買取らず3ヵ月間経過した時点で、民間への売却が自由となりました。

(2)特定生産緑地の指定を受けて営農を継続する

 今後10年間、従来どおりの生産緑地(営農)を続けるため、特定生産緑地の指定を受ける。
<固定資産税は、一般農地課税が継続されます(延長も可能です)。>

(3)特定生産緑地の指定を受けて市民農園等に貸借する

 特定生産緑地の指定を受け都市農地賃借法の適用を受けて、市民農園等で第三者に貸借する。
<固定資産税は、一般農地課税が継続されます。>

(4)特定生産緑地指定に指定されなかったが農地を継続する

 この場合は宅地並みの市街化区域農地となりますが、激変緩和措置があります。
<固定資産税は、30年経過後1年目(市街化区域農地の0.2)・2年目(0.4)・3年目(0.6)・4年目(0.8)・5年目~(1.0)>
 
2022/07/31/10:00