(第89号)固定資産税を担当している行政組織(課税団体)はどのようなものか

 
(投稿・令和4年12月-見直し・令和7年3月)

 皆さんは毎年、固定資産税を納税されていますが、この固定資産税を担当している組織はどのようなものかご存じでしょうか。

 今回は、固定資産税を担当している課税団体(課税権の主体である市町村=通称「役所」)の紹介です。

 なお、これはあくまでも筆者の行政経験とコンサルタントを通じて得た範囲における認識で、これが全国全ての行政組織にあてはまるものではありません。

固定資産税の課税団体

固定資産所在の市町村

 固定資産税は市町村税であり、その課税団体は原則として固定資産所在地の市町村となります。

<固定資産税の課税客体等>
「地方税法第342条」
「1項.固定資産税は、固定資産に対し、当該固定資産所在の市町村において課する。」

 なお、大規模償却資産については、一定の課税限度額は市町村が担当し、それを超える部分については、その市町村を包括する道府県が課税団体となる等の例外規定がありますが、これについては今後解説します。

 この「固定資産所在の市町村」とされる原則は、固定資産が当該市町村内に所在することによって、その市町村の行政サービスを受けることになるため、応益負担的な考え方に基づいているものです。

市町村固定資産税の担当組織

 市町村の固定資産税を担当している組織の名称は、一般的に「課税課」、「税務課」が多いと思われます。
 政令指定都市になりますと、区役所とそれをまとめる市役所があるため、区役所、市役所それぞれに固定資産税担当の組織があります。

 なお最近では、政令指定都市程度の大型市になりますと、市役所、区役所とは別に「固定資産税事務所」(仮称)を設置する自治体も多くなってきています。

 市(区)町村の職員は3~5年単位で異動するのが一般的ですが、税務署や県税事務所と異なり、税務以外の部・課も多いことから、税務関係の部・課から離れる職員も多いのです。

 そうなると、どうなるかということですが。
 これまでのブログでも説明してきましたが、固定資産税(特に家屋)の評価内容が複雑なため、3~4年で評価に慣れたと思ったら、固定資産税以外の部・課に異動されてしまうということです。

 また、「課税課」「税務課」の中でも、固定資産税の土地、家屋、償却資産の担当は区別されていて、例えば土地の担当者は家屋については一切分からないという場合もあります。

 規模の大きな市町村では、特定の職員は3~5年で異動せずにその組織に留まり土地や家屋を専門に扱う「専門職(又は専任職)」や「償却資産センター」等(名称は市町村により異なります)の専門的地位や組織を設置するなどの配慮がされています。

固定資産税評価における道府県の役割

 地方税法では、道府県知事は市町村長に対して、固定資産税評価について援助(助言)や勧告をすること、と規定されています。

 その中で固定資産評価事務として大きな役割を担っているのが「一定規模以上の新築非木造家屋の評価」です。
 これは、市町村における非木造家屋の新築評価を道府県(道府県税事務所)が担っているということです。

 道府県によって詳細は異なりますが、おおよそ次の仕組みとなっています。

新築の大規模(300㎡~500㎡以上)非木造家屋の評価を道府県が担当します。
(旧政令指定都市のような大都市では1,000㎡以上の非木造家屋も対象としている道府県もあります。しかし、旧政令指定都市のような大都市では、自ら家屋の評価を行っています。)

評価が出来上がると、道府県知事から市町村長に対して決定通知書と電子データが渡されます。

その資料の保存期間は道府県では10年間で、渡された市町村では独自に保存期間を設定することができます。

以上の法的根拠は、地方税法第73条の21の2項(不動産の価格の決定等)になります。

<不動産の価格の決定等>
「地方税法第73条の21」
「1項 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。但し、当該不動産について増築、改築、損かヽいヽ、地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでない。
2項 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は前項但書の規定に該当する不動産については、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。
3項 道府県知事は、前項の規定によつて不動産の価格を決定した場合においては、直ちに、当該価格その他必要な事項を当該不動産の所在地の市町村長に通知しなければならない。」
 
 なお、大規模の非木税家屋の評価は県(県税事務所)に委任しているため、市町村では新築時の評価方法を十分に説明できていない場合もあり、これらが家屋の「課税誤り」の要因になっていることも推測されるのです。

 

都の特別区の特例

 東京都の特別区(23区)の存する区域については、市町村が置かれておらず、この特別区の存する区域については、都が固定資産税を課するものとされていて、課税団体は東京都になります。(地方税法734条1項)

 東京都の固定資産税担当は、東京都主税局資産税部に固定資産税課、固定資産評価課がありますが、実際の評価及び課税の事務は23区の都税事務所が担当しています。
 なお、23区には「都区財政調整制度」により、都の固定資産税収の55%が特別区に交付されています。

固定資産税の統括組織

総務省の自治税務局

 総務省自治税務局の固定資産税課は、全国の固定資産税制度を司っており、法改正や通知により市町村への周知徹底等を行っている組織です。

 また、自治税務局には固定資産税課とともに資産評価室がありますが、どちらにも自治省本来の職員(官僚)の他に、全国の市長村から(期限付きで)出向している職員が在籍しています。

(財)資産評価システム研究センター

 それと、行政とは異なる外部組織ですが、総務省の外郭団体ともいうべき一般財団法人 資産評価システム研究センターがあります。
 (財)資産評価システム研究センターには、正規職員のほかに総務省や市長村で定年退職された固定資産税に精通している者も含めて構成されています。

 このセンターは、固定資産税の研究や全国市長村職員への研修に力を入れている組織です。

 (財)資産評価システム研究センターからは、毎年度、土地、家屋、償却資産に関する「調査研究報告書」や「全国地価マップ」(固定資産税・相続税路線価図等)、全国市町村の取組等が発表されていますが、固定資産税に関する書物としては一番信頼のおける情報ではないかと思います。

 
2022/12/17/17:00
 

 

(第88号)固定資産税(都市計画税)が地方税で占める割合は47%

 
(投稿・令和5年9月見直し・令和7年3月)

 今回は、固定資産税・都市計画税が地法税の中でどのような位置づけになっているかを図と表を中心に見ていきます。

固定資産税・都市計画税の概要

 固定資産税・都市計画税の内容については、これまで複数の号で説明してありますので、ここでは一覧表を掲載します。

 固定資産税は、土地、家屋、償却資産から構成されますが、課税客体は、全国で土地が約1億8,042万筆、家屋が約5,880万棟存在しています。
 また、納税義務者は、土地が約4,122万人、家屋が約4,192万人、償却資産が約466万人となっています。
 一方税収は、土地3兆4,853億円、家屋3兆9,578億円、償却資産1兆7,556億円となっており、税収比率は4:4:2の関係になっています。

地方税の中での地位は

 では、固定資産税は地方税の中でどのような地位にあるのでしょうか。

 固定資産税は、令和4年度決算額のうち「国税・地方税の税収内訳」として、地方税合計の20.7%を占め、市町村税においては41.1%、都市計画税と併せると47%を占める基幹的な税であります。

<固定資産税の地方税収の地位(令和4年度)>

 
2022/12/17/16:00

 

(第87号)固定資産税における償却資産とは(申告・評価編)

 
(投稿・令和4年12月-見直し・令和7年3月)

 今回は、第31号「固定資産税における償却資産とは(基本編)」に続く「申告・評価編」になります。

 

申告対象となる償却資産

業種別の主な償却資産

 まず固定資産税の償却資産とはどのようなものか、改めて一般的な償却資産の例を掲げます。

<一般の償却資産の例>

※1 自動車税、軽自動車税の対象となるものは償却資産の申告対象外
※2 建物所有者以外の者で事業の用に供している附属設備は償却資産の申告対象
※3 鑑賞用・興業用の生物は償却資産の申告対象

特殊な申告対象資産

 特殊な資産について、固定資産税の償却資産申告の対象になるかどうかの内容です。
①  簿外資産
 固定資産台帳簿に記載されていない資産であっても、事業の用に供することができるものについては、本来減価償却可能な性質を有しており、申告対象になります。

②  償却済資産
 法人税法、所得税法で減価償却が終了して残存価額のみが計上されている資産についても、その資産が事業の用に供することができる資産であれば申告対象になります。

③  減価償却を行っていない資産
 事業を行っている者が赤字決算、配当政策等のため、減価償却を行っていない場合で、事業の用に供することができる資産であれば申告対象になります。

④  建設仮勘定で経理されている資産
 建設仮勘定の資産は、一般的には稼働できる状態ではないため申告対象ではありませんが、その一部が完成し、その部分が事業の用に供されている場合には、申告対象になります。

⑤  自転車及び荷車
 企業が現に減価償却資産としてその減価償却額又は減価償却費を損金または必要な経費に算入している自転車、荷車は申告対象になります。

⑥  大型特殊自動車
 大型特殊自動車は、本来、建設等のための機械としての効用を発揮することを主目的としていることから、自動車税の課税客体から除外されていますので、償却資産として申告対象になります。

⑦  遊休又は未稼働の資産
 メンテナンス等を行い使用できる状態にある遊休資産や使用予定のある未稼働資産は、その資産が事業の用に供することができる状態にあるものとして申告対象になります。

⑧  福利厚生用資産
 福利厚生用の資産は、本来の事業の用に直接供されていませんが、更衣室のロッカー、社員用食堂の厨房設備等は、事業を行うものとして申告の対象になります。

⑨  租税特別措置法による即時償却等の適用資産
 租税特別措置法の特例を適用して損金算入した資産は、償却資産の申告対象になります。

⑩  取得価額が1点100万円未満の美術品等
 平成27年1月1日以降に取得する美術品等のうち、取得額が1点100万円未満のものについては、減価償却資産として取り扱われます。ただし、1点100万円未満の美術品等であっても、時の経過によりその価値が減少しないことが明らかな資産であれば、減価償却資産としては取扱われません。

申告対象にならない資産

 償却資産の申告対象にならない資産は次のとおりです。

① 自動車税・軽自動車税の課税対象となる自動車
 自動車、原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車に対しては、自動車税又は軽自動車税が課税されているので課税対象から除外されます。

② 無形固定資産
 鉱業権、特許権、ソフトウェア等の無形固定資産は、資産が具体的に存在するものでないため、課税対象から除外されます。

③ 繰延資産
 法人又は個人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので創立費、開業費、開発費、社債発行費等の繰延資産は、固定資産税の償却資産には含まれません。

④ 少額資産等
(ア) 取得価額が10万円未満又は耐用年数が1年未満のもので、当該資産の取得に要した経費の全額が法人税法、所得税法の規定による所得の計算上一時に損金又は必要経費に算入されるものは、償却資産の申告対象から除外されます。
(イ) 取得価額が20万円未満の償却資産で、事業年度ごとに一括して3年間で減価償却を行うことを選択したものは、課税対象から除外されます。
(ウ) 法人税法第64条の2第1項、所得税法第67条の2第1項に規定するリース資産で、その所有者がリース資産を取得した際における取得価額が20万円未満のものは、償却資産の申告対象から除外されます。

国税との主な違い

 固定資産税の償却資産は、その課税対象として基本的に国税上の有形減価償却資産を想定しています。
 そのため、法人税・所得税の法規と密接な関係がありますが、国税上の有形償却資産が必ずしも固定資産税(償却資産)の課税対象となるわけではありません。

 また、国税と固定資産税(償却資産)の申告を行う納税義務者が一致しない場合や評価の計算方法も異なります。

 ここでは、次表により、国税と固定資産(償却資産)の取扱いが異なる点について説明します。

<国税との主な違い>

※「減価償却の方法」が国税では定額法、固定資産税(償却資産)では定率法ですが、次はそのイメージ図です。なお、固定資産税の家屋の経年減価は定額法です。

償却資産の評価

評価額の計算方法

 償却資産の評価の考え方が、固定資産評価基準第3章第1節第一に次のとおり規定されています。
「償却資産の評価は、前年中に取得された償却資産にあっては当該償却資産の取得価額を、前年中に取得された償却資産にあっては当該償却資産の前年度の評価額を基準とし、当該償却資産の耐用年数に応ずる減価を考慮して価額を求める方法による。」

 申告された資産を1件ずつ資産の取得時期、取得価額及び耐用年数を基本にして計算し評価額を算出します。

①  前年中に取得したもの
    取得価額×前年中取得のものの減価残存率=評価額

②  前年前に取得のもの
 前年度評価額×前年前取得のものの減価残存率=評価額

 以後、毎年この方法により計算し評価額が取得価額の5%になるまで償却します。評価額が取得価額の5%未満になる場合は5%でとどめます。

<「減価残存率表」(rは下記表)>

 
<耐用年数と減価率(r)>

 

(2)価格の決定

 税額=課税標準額×税率(1.4%)
 課税標準額とは、市町村区域内に所在する資産の価格の合計で、150万円未満の場合は課税されません。
 
2022/12/8/15:00
 

 

(第85号)土地と家屋の価格に不服がある場合の「審査の申出」について

 
(投稿・令和4年9月-見直し・令和7年3月)

 今回は、固定資産税の土地と家屋の価格に不服がある場合の、「審査の申出」の手続き及び流れについて説明します。

 これまでも、価格に不服がある場合の手続きについては(部分的ですが)説明してきました。

 
 第60号では、価格に不服があるからとしても、安易に「審査の申出」を行うのではなく、まずは課税庁に評価内容を問い合わせて、納得できるかどうかを確認すること。そして、その過程の中で「課税誤り」も見つかることがあることも説明してきました。

 しかし、「審査の申出」は、地方税法上で「審査申出前置主義」として、訴訟を提起する前提の原則的手続きとなっていますので、この内容は理解しておかなければなりません。

 そこで今号では、今まで触れてこなかった部分について解説することとします。

固定資産評価審査委員会とは

 固定資産税の「審査の申出」は、納税者で固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日の翌日から起算して3ヵ月以内に、文書をもって固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」)に「審査の申出」をすることができます。(地方税法432条1項)

<固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出>
「地方税法第432条1項」
「固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては、第411条第2項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後3月を経過する日までの間において、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。(中略)」

固定資産評価審査委員会の設置

 固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服を審査決定するために、市町村に審査委員会を設置することとされています。

<固定資産評価審査委員会の設置、選任等>
「地方税法第423条1項」
「固定資産課税台帳に登録された価格に関する不服を審査決定するために、市町村に、固定資産評価審査委員会を設置する。」

 そこで、なぜ審査委員会の制度が採用されているかですが、平成2年の最高裁(小法廷)判決では、次の説明があります。

<最高裁小法廷判決(平成2年1月18日)>
「法が固定資産登録価格についての不服の審査を評価、課税の主体である市町村長から独立した第三者機関である委員会に行わせることとしているのは、中立の立場にある委員会に固定資産の評価額の適否に関する審査を行わせ、これによって固定資産の評価の客観的合理性を担保し、納税者の権利を保護するとともに、固定資産税の適正な賦課を期そうとするものであり…」

審査委員の定数及び選任

 審査委員会の委員の定数は3人以上ですが、具体的には市町村の条例で定めることとされています。

<審査委員会の委員の定数>
「地方税法第423条2項」
「固定資産評価審査委員会の委員の定数は3人以上とし、当該市町村の条例で定める。」

 そこで、主な大都市の条例(施行規則)を調べてみますと、「定数は○名(以内)」と様々な人数となっていますが、審査(審査委員会)は3人の合議体で行われています。

 合議体は事案ごとに構成され、審査委員会が指定する者1人が審査長となり、議事は合議体を構成する委員の過半数(2人以上)をもって決定されます。

<審査委員会の委員の選任>
「地方税法第423条3項」
「固定資産評価審査委員会の委員は、当該市町村の住民、市町村税の納税義務がある者又は固定資産の評価について学識経験を有する者のうちから、当該市町村の議会の同意を得て、市町村長が選任する。」

 この「市町村税の納税義務がある者」ですが、その市町村に納税義務を負う者であれば、税目は固定資産税には限られません。

「審査の申出」ができる者

 「審査の申出」が出来る者(審査申出人)は、固定資産税の納税者(課税年度の賦課期日である1月1日現在の固定資産の所有者)で、固定資産課税台帳に登録された価格に不服がある者です。

 ただし、次の事項に注意する必要があります
(1) 借地人や借家人等の利害関係人は審査申出人となることはできません。
(2) 納税管理人も代理人でないかぎりは審査申出人とはなりません。
(3) 固定資産を共有している場合、共有者は単独で審査申出をすることができます。
(4) 区分所有家屋の場合、各区分所有者は単独で「審査の申出」をすることができます。
(5) 「審査の申出」は代理人によってもすることができます。ここでの代理人は、弁護士、税理士、公認会計士等には限られてはいません。

審査申出の流れ

審査申出書の形式審査

 審査申出書が提出されると、不服の内容を審査する前に、まず必要な添付書類があるか、期間内に提出されたものであるかなど、適法な形式を備えているかが審査されます。
 例えば、審査申出期間後に提出された審査申出書等は不適法となるため、却下となります。

 合議体による1回目の審査委員会を開催し、審査の申出の内容が適法であるか審査し、受理または却下を決定します。却下となった場合、内容の審査は行われません。

「審査の申出」の実質審査

(1) 審査委員会は審査申出書を受理したら、審査申出書の副本を評価庁(評価・課税部局)に送付します。
(2) 審査委員会は評価庁へ「弁明書」の提出を求めます。そして提出された「弁明書」の副本を審査申出人へ送付します。
(3) 審査申出人は反論がある場合、「反論書」を審査委員会へ提出します。
(4) 審査申出人は、希望をすれば審査委員会に対して、口頭で意見を述べることができます(「口頭意見陳述」)。
(5) また、審査委員会は、必要に応じて、実地調査等を行います。

「審査の申出」の審査決定

 審査委員会は、弁明書、反論書、実地調査、口頭意見陳述などを経て、審査の申出にかかる事案の適正な価格(評価額)の適否を判断します。

 そして、審査決定には「却下」、「棄却」、「認容」の3種類があります。

「却下」(審査の不受理)

 内容の審査に入らず不受理となるものです。受理後審査途中であっても、価格(評価額)の修正があり、審査の申出目的の一部又は全部が消滅したときは不適法となり、一部又は全部却下となります。

「棄却」(主張を退ける)

 審査申出人の主張は、価格(評価額)を修正すべき正当な理由にはあたらないとして、主張を退けることです。

「認容」(主張を認める)

 審査申出人の主張の一部または全部を認め、価格(評価額)を修正することです。
 審査委員会は審査決定のあった日から10日以内に審査申出人及び評価庁に決定書を通知します。

「審査の申出」決定までの期間

 審査委員会が「審査の申出」を受けて審理をし決定するまでの期間がどのくらいかかるかは、事案毎に内容が異なるため一概には言えません。
 ただし、上記で説明したとおり、審査は形式審査のみならず実質審査や現地調査も行うこととなると、それなりの期間を要することになります。

 いくつかの市町村のホームページを見ると、次のようなコメントが掲載されています。
『委員会では、できるだけ早期に審査の決定を行うよう審理手続を進めますが、審理手続には慎重を期する必要があり、決定までに時間がかかることがありますのでご了承ください。』

 ところが、地方税法では「申出を受けた日から30日以内に審査の決定をしなければならない」と規定されています。また、「30日以内の決定がないときは、却下の決定があったとみなされます」。そうしますと、審査申出人にもよりますが、その「却下決定」に不服があるとして、取消訴訟を提起することも出来る訳です。

 この地方税法の趣旨は、「速やかに納税者の不服を処理すること」にありますが、実務的には30日以内に決定が可能となるケースは「審査を経た却下」程度で、実質審査を経る審査は数ヶ月(以上)はかかるのが通常です。
 
2022/09/28/21:00
 

 

(第84号)「建築設備」以外の家屋と償却資産の区分について

 
(投稿・令和4年9月-見直し・令和7年3月)

 償却資産については、第31号「固定資産税の償却資産とは(基本編)」と第66号「家屋と償却資産の二重課税(課税誤り)に注意(「建築設備」の場合)」で、お知らせしてきました。

 

償却資産の定義と範囲

 
 今回は、「建築設備」以外の家屋と償却資産との区分についてですが、改めて固定資産税の償却資産とは何かについて確認しておきます。

<固定資産税の償却資産とは>
「土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、その減価償却額(又は減価償却費)が法人税法(又は所得税法)の規定による所得の計算上損金(又は必要な経費)に算入されるもののうち、その取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のものをいう(中略)」

(1)「事業の用に供する」とは

①  「事業」とは
 一定の目的のために一定の行為を継続、反復して行うことをいうものであって、必ずしも営利又は収益そのものを得ることを直接の目的とするものである必要はありません。

②  「事業の用に供する」とは
 その本来業務に直接使用するもののみならず、その事業について直接であると間接であるとを問わず使用される資産で税務会計上減価償却できるものであれば、償却資産として課税客体となります。

※(例)企業の福利厚生施設(医療施設、食堂施設、寄宿舎、娯楽施設等)等

(2)「事業の用に供することができる」とは

 「事業の用に供することができる」とは、現に事業の用に供している資産が含まれることはもちろん、事業の用に供する目的をもって所有され、かつ、それが事業の用に供することができると認められる状態にあれば足ります。

※「遊休・未稼働資産」…いつでも稼働し得る状態にあるものは課税客体となります。
※「用途廃止資産」…解体等されていないだけで、今後も使用されないものは課税客体とはなりません。

(3)「損金(又は必要な経費)に算入されるもの」とは

 その減価償却費が現に損金(又は必要な経費)に算入されない資産であっても、本来損金(又は必要な経費)に算入されるべき性格のものであれば課税客体となります。

※(例)簿外資産、償却済資産、建設仮勘定中の資産で事業の用に供している資産等

家屋と償却資産の区別

 まず「建築設備以外の家屋と償却資産の区別」表を掲げます。

<建築設備以外の家屋と償却資産の区別>

 「建築設備」以外の家屋については、「建築設備」と償却資産の二重課税と比較すると課税誤りは少ないと思われますが、むしろ逆に、その部分が固定資産税の償却資産に該当することに気がついていない=「無申告」の場合が多いのではないかと推測されます。
 
2022/09/09/13:00