(第64号)区分所有マンションの固定資産税評価について

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)

 区分所有マンションにおける区分所有者は「専有部分」、「共用部分」の共有持分及び「共用土地」(敷地の共有持分)という3種類の権利を持っていることになります。
 このため、区分所有マンションの固定資産税評価は複雑で分かりにくくなっているのです。

 なお、区分所有マンションの「専有部分の面積査定」については、第58号「区分所有マンションの専有部分の面積は3種類」で説明してありますのでご覧ください。

 

マンション区分所有権の仕組み

区分所有建物とは

 まず、そもそも建物の区分所有とはどういうものかについてです。

<建物の区分所有>
※区分所有法第1条
「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」

<定義>
※区分所有法第2条1項2項
「1項 この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により「共用部分」とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2項 この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。」

 マンションでは、一棟の建物が隔壁や階層などによって他の部分と遮断されていますが、その一つ一つの独立した部分が住居・店舗・事務所として家屋本来の用途に供することができる状態にあるとき、その建物を区分所有することができることになっています。

 ここで区分所有建物とは、構造上区分され、独立して住居・店舗・事務所・倉庫等の用途に供することができる数個の部分から構成されているような建物のことです。

 区分所有建物となるためには次の2つの要件を満たすことが必要です。

① 建物の各部分に構造上の独立性があること
 これは、建物の各部分が他の部分と壁等で完全に遮断されていることで、ふすま、障子、間仕切りなどによる遮断では足りません。

② 建物の各部分に利用上の独立性があること
 これは、建物の各部分が、他の部分から完全に独立して、用途を果たすことを意味しています。例えば居住用の建物であれば、独立した各部分がそれぞれ一つの住居として使用可能でます。

 上記①と②を満たすような建物の各部分について、それぞれ別個の所有権が成立しているとき、その建物は区分所有建物と呼ばれ、民法の特別法である「建物の区分所有等に関する法律」(「区分所有法」又は「マンション法」)が適用されます。

 そして、このように建物を区分所有した場合、その建物は「専有部分」と「共用部分」とに分類して取り扱われます。

区分所有の「専有部分」とは

 「専有部分」とは、一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの(つまり、構造上の独立性と利用上の独立性を有する部分)であって、区分所有権の目的であるものです。

<専有部分>
※区分所有法第2条3項
「3項 この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。」

区分所有の「共用部分」とは

  分譲マンションのような区分所有建物について、廊下、階段等のように区分所有者が全員で共有している建物の部分を「共用部分」と言います。

<共用部分の定義>
※区分所有法第2条4項
「4項 この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により「共用部分」とされた附属の建物をいう。」

※区分所有法第4条
「1項 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2項 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により「共用部分」とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。」

 上記により、「共用部分」は法定共用部分(第4条1項)と規約共用部分(第4条2項)からなります。

① 法定共用部分
 数個の「専有部分」に通じる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供される建物の部分です。
(例:玄関ホール、廊下、階段、エレベーターホール、内外壁、界壁、床スラブ、基礎部分、ベランダ、バルコニー、屋内駐車場、電気室等)
※よくベランダ、バルコニーを「専有部分」と勘違いしている人がいますが、これは「共用部分」です(但し、専有部分所有者の専用使用権があります)。
 ベランダは、一般的には2階以上にあり、住戸から外に張り出していてある程度の雨風をしのげる屋根のあるスペースを指します。雨の日でもそこで濡れずに過ごせますし、洗濯物も干すことができます。
 バルコニーはベランダと同様のスペースですが、大きく異なるのは屋根が無いことです。

② 規約共用部分
 本来は「専有部分」ですが、規約により「共用部分」とすることができる部分です。
(例:管理事務室、管理用倉庫、集会室)

区分所有マンション敷地の課税

 分譲マンションなどの区分所有家屋の敷地の用に供されている土地(共用土地)のうち、次の①②の要件をみたすことが必要です。

① 共用土地の共有
 共用土地が区分所有家屋の所有者全員によって共有されていることが必要です。

② 土地は床面積の割合で共有
 各共有者の土地の持分割合が、その者の区分所有家屋の専有部分の床面積の割合と一致することが必要です。

 共用土地に対する固定資産税については、まず敷地全体の税額を求め、次に各区分所有者の共用土地の持分割合により按分した税額により分割課税されます。
 この共有土地の持分割合は、専有部分の面積割合によります。

 なお、通常、マンション用地は居住用土地ですので、評価額においては、土地全体の本則課税標準額が1/6となります(「専有部分」1戸当たり200㎡が換算されますので、まず土地全体が1/6になると考えて差し支えありません)。

区分所有マンション家屋の課税

 地方税法の規定では、区分所有に係る家屋に対する固定資産税の課税は、区分所有に一棟の家屋を一括して評価したうえ、当該家屋の税額を算定し、その税額を各々の区分所有者に配分し、その額を各区分所有者の納付すべき税額とされます。

<区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税>
※地方税法第352条1項
「1項 区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税については、当該区分所有に係る家屋の建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分(以下この条及び次条において「専有部分」という。)に係る同法第2条第2項に規定する区分所有者(以下固定資産税について「区分所有者」という。)は、第10条の2第1項の規定にかかわらず、当該区分所有に係る家屋に係る固定資産税額を同法第14条第1項から第3項までの規定の例により算定した専有部分の床面積の割合(専有部分の天井の高さ、附帯設備の程度その他総務省令で定める事項について著しい差違がある場合には、その差違に応じて総務省令で定めるところにより当該割合を補正した割合)により按分した額を、当該各区分所有者の当該区分所有に係る家屋に係る固定資産税として納付する義務を負う。」

<共用部分の持分の割合>
※建物の区分所有等に関する法律第14条
「1項 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
2項 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。
3項 前二項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。」

一棟家屋の評価額の算出

 区分所有者以外の家屋と同様に、固定資産評価基準を用いて一棟全体の1㎡当たりの再建築評点数を算出します。

各区分所有者の課税床面積の算出

 各区分所有の課税床面積は、次の算式により求めます。
 課税床面積=①「専有部分」の床面積 + ②共用面積の割合分

①「専有部分」の床面積
 この専有面積の床面積は、不動産登記法により定められた内壁で囲まれた部分の面積(内法面積)です。

② 共用面積の割合分
 共用面積は、一棟全体の床面積から各専有面積の合計を引いた床面積を、各専有面積の合計専有面積に対する割合に応じて按分した面積となります。

 つまり、区分所有マンションの専有部分の面積は、壁芯面積でも内法面積でもなく、「内法面積+共用面積の割合分」となりますので、購入したときの面積や不動産登記の面積より大きい面積となります。

区分所有マンションの課税明細書(例)

 ここで横浜市のサイトにある課税明細書(例)を紹介します。

 区分所有マンションの評価は、土地は区分所有者全員の共有(専有部分の持分割合)であり、家屋は所有者自身の専有部分と共用部分割合(専有部分の持分割合)との合計面積となっています。

 この課税明細書(例)では、土地面積は敷地全体の面積のみで、「敷地権の割合」は不動産登記簿で確認しないと分かりません。
 また、課税明細書のみでは課税床面積を形成する「共用部分の面積」も分からないことから、計算方法も課税した市長村に確認しないと分からないのです。
 
2022/06/09/19:00
 

 

(第57号)固定資産税の在来(中古)家屋の評価がなぜ下がらないのか

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和7年3月)

 今回は、在来(中古)家屋(以下「在来家屋」)の固定資産税評価がなぜ下がらないのかについて解説します。

 ある読者の方から「自分の保有しているビルの固定資産税がこの10年程下がっていないが、どうなのでしょうか」との問合せがありました。

 家屋の評価は、再建築価格方式を採用しており、これが複雑な仕組みで「課税誤り」の原因にもなっていることはこれまでもお伝えしてきました(第38~40号)。

 
 ところで、「なぜ在来家屋の評価額が下がっていないのか」の理由ですが、それは「在来家屋の評価の仕組み」にあります。

 そこで、今回は「在来家屋の評価の仕組みに」焦点をあてて見ていくことにします。

在来家屋の評価の仕組み

 下の図のとおり、在来家屋の評価は赤の太枠内のとおり、再建築評点数の評価にあたって、経年減価補正率だけでなく再建築費評点補正率が入っています。実は、この再建築費評点補正率が家屋評価を引き下げていない原因であります。

<固定資産税家屋評価の仕組み>

在来家屋の再建築評点数とは

 それでは在来家屋の再建築費評点数とはどういうものなのかということです。

 在来家屋の再建築評点数は、「前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率」となり、単に築年数による減価をするだけでは済まず「再建築費評点補正率」を乗ずる方法になっています。

<在来家屋の再建築費評点数=前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率>

 「前年度における再建築費評点数」とは、3年毎の基準年度に評価される前回の実際に評価・課税されている評点数です。

 つまり、固定資産税の在来家屋の評価は、それまでの評価が正しいものとしての前提の上に成り立っている訳です。

再建築費評点補正率とは

 そして、その「前年度における再建築費評点数」に「再建築費評点補正率」を乗ずるのですが、では「再建築費評点補正率」とはどういうものかです。 

 「再建築費評点補正率」は固定資産評価基準に次のように定義されています。

<在来分の木造・非木造家屋の再建築費評点補正率>
「固定資産評価基準(木造・非木造家屋)」
「再建築費評点補正率は、基準年度の賦課期日の属する年の2年前の7月現在の東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用の前基準年度の賦課期日の属する年の2年前の7月現在の当該費用に対する割合を基礎として定めたものである。」

 つまり、再建築費評点補正率とは、東京都特別区の工事原価の物価水準で3年前の水準と比較してどの程度上下しているのかその割合ということになります。
 令和6年度では、木造1.11、非木造1.07とされており上昇していることになります。
 実は、この再建築費評点補正率はここ4基準年度上がり続けているのです。

<再建築費評点補正率の推移>

 このように、固定資産税家屋の再建築価格方式では、単に築年数の減価だけではなく、工事原価の物価水準も関連づけて評価されているため、築年数を経るに従って単に評価額が下がる仕組みにはなっていません。

 これが、固定資産税家屋の再建築価格方式の特色でもあります。

家屋評価の「据置」と「残価率」

 さらに固定資産税の在来家屋評価の仕組みには、「据置」と「残価率」というものがあります。

建設物価上昇期の「据置」

 普通であれば家屋は築年数の経過に伴って評価額も下がるのですが、再建築価格方式では、この時期の工事原価の物価水準をも反映させる必要があるため、仮に建設物価が上昇しているときには、計算上の評価額が上がる場合もあります。

<建設物価上昇期の家屋評価> 

 上の図の左側が<物価下落期>で「経年による減価」は当然下がっていることから、「評価額引下」となり問題はありません。

 逆に右側が<物価上昇期>の場合で、「経年による減価」は当然年数に従って下がりますが、「建設物価上昇」が相当高い時には、計算上の評価額(「本来の評価額」)が上がる場合があります。

 しかし、この場合には、固定資産税の評価額を上げる訳にはいかないために「評価額据置」(前基準年度と同じ評価額)となりますが、これが「在来家屋の評価が下がっていない」仕組みである訳です。

家屋は存在する限り20%課税=「残価率」

 固定資産税の家屋評価では、もう一つ「残価率」という特徴があります。

 それは、家屋が存在している限りは、築年数が何年経っても「20%の評価額が続く」ということです。

<家屋評価の残価率>

 この図で固定資産税の取得価格(出発点)が60%となっていますが、これは家屋の新築評価を行ったときの「実績」として、取得価格の60~70%程度に収まっているケースが多いことからです。

 この「残価率」には賛否両論ありますが、そもそも固定資産税は「行政サービスの対価」という性格があります。
 例えば、家屋があれば公道等を使用することになり、その行政サービスを受けているため、その対価として固定資産税が課税されているという説明です。

在来家屋の審査は新築時の検討が必要

 以上のように、在来家屋の評価は、それまでの再建築費評定数が正しいことを前提にして成り立っている訳です。

 それでは、仮に中古ビルを購入した所有者が「この家屋の固定資産税(評価額)は高いのでは」と疑念を持ち、審査申出を行った場合、課税当局の弁明も固定資産評価審査委員会からの審査結果も「適正に在来家屋評価が行われているので問題は無い」と棄却されるのが常ですが、これは問題無いのでしょうか?

 これまで説明してきたとおり、在来家屋の評価が正しいのか間違っているのかを確認する場合には、「新築時の評価(評点数)が正しいのかどうか」を確認する必要があるのです。

 しかも、新築時の評価資料は廃棄して存在しないのであれば、固定資産評価基準に基づいて評価が行われている固定資産税である以上、その案件に対しての訴訟提起も難しくなるのです。

 そもそも、固定資産税家屋評価の方法が複雑で課税誤りの原因にもなっている「再建築価格方式で良いのか」との疑問があります。

 
2022/6/5/19:00
 

 

(第56号)「相続登記の義務化」で所有者不明土地・家屋の改善が期待

 
(投稿・令和3年5月-見直し・令和7年3月)

 所有者不明土地・家屋については、第54号「所有者が不明の土地・家屋の現状と課題」及び第55号「所有者不明土地・家屋の関連法の改正」で解説してきました。

 

所有者不明土地の問題と解決法

 固定資産税の納税義務者は、原則として登記記録上の所有者ですが、当該所有者が死亡している場合には「現に所有している者」(通常は相続人)となります。

 しかし、納税義務者が死亡し相続登記がなされない場合、新たな納税義務者となる「現に所有している者」を市町村が自ら調査し、特定する必要があり、当該調査に多大な時間と労力を要し、迅速・適正な課税に支障が生じています。

 これまで、地方税法の改正により、所有者不明の固定資産税(土地・家屋)については、①現に所有している者(相続人等)の申告の制度化(地方税法第384条の3)②使用者を所有者とみなす制度の拡大(同法第343条5項)が創設されました。

 残る課題は所有者不明土地の一番の要因となっている「相続登記が義務化されていない」ことですが、令和3年4月28日に「民法等の一部を改正する法律(民法等一部改正法)」の中で不動産登記法改正が公布され、相続登記の義務化等が具体化されました。

 なお今回の不動産登記法の改正では、「相続登記申請の義務化」とともに、「住所変更登記等の義務化」も制度化されています。

 また、所有者不明土地の発生を抑制するため、相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させる制度(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」)も創設されましたので説明します。

不動産登記法の改正-所有者不明土地

相続登記申請の義務化

 相続登記申請の義務化に関する不動産登記法の改正は、次の2点になります。

(1) 不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける。(不動産登記法第76条の2)
(2) 正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処することとする。(同法第164条第1項)

<相続等による所有権の移転の登記の申請>
「不動産登記法第76条の2」
「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

<過料>
「不動産登記法第164条1項」
「(中略)第76条の2第1項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。」

住所変更登記等の申請の義務化

 所有権の登記名義人が住所等を変更してもその登記がされない原因としては、①住所変更登記等の申請は任意とされており、かつ、変更しなくても大きな不利益がない②転居等の度にその所有する不動産についてそれぞれ変更登記をするのは負担であること等があります。

 住所変更登記等の申請の義務化は、次の2点になります。
(1) 所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける。(同法76条の5)
(2) 正当な理由がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとする。(同法第164条第2項)

<所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請>
「不動産登記法第76条の5」
「所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」

<過料>
「不動産登記法第164条第2項」
「 第76条の5の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処する。」

相続人申告登記の創設

 相続が発生した場合、遺産分割の協議や書類の収集等、登記申請に当たっての手続きの負担が大きいことから、相続人の申請義務を簡易に履行することができるようにする、新たな相続人申告登記が設けられました。

 その内容は、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなされます。

<相続人である旨の申出等>
「不動産登記法第76条の3」
「1項 前条第1項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
2項 前条第1項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第1項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
3項 登記官は、第1項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。
4項 第1項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第1項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。」

土地所有権を国庫に帰属させる制度

 「不動産登記法」とは別に、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(「相続土地国庫帰属法」)が創設されました。

 相続した土地を、法務大臣に申請し承認を得た上で国庫に帰属させることができるようになります。土地を所有し続ける負担が大きく、手放したいと思ったときに国有地にしてもらう制度です。

 但し、承認申請する土地が①更地であること②担保権の設定が無いこと③境界に争いが無いこと等が必要です。(相続土地国庫帰属法第2条)

 なお、要件審査を受けて法務大臣の承認を受けた者は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金(詳細は政令で規定)を納付する必要があります。(同法第10条)

<承認申請>
「相続土地国庫帰属法第2条」
「1項 土地の所有者( 相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る 。)は 、法務大臣に対し 、そ の土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる 。
2項 士地が数人の共有に属する場合には 、前項の規定による承認の申請(以下「 承認申請」という 。)は、共有者の全員が共同して行うときに限り 、することができる 。この場合においては 、同項の規定にかかわらず 、その有する共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても 、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して 、承認申請をすることができる 。
3項 承認申請は 、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない 。
一 建物の存する土地
二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている士地
三 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
四 土壌汚染対策法第11条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるも のに限る 。)により汚染されている土地
五 境界が明らかでない士地その他の所有権の存否 、帰属又は範囲について争いがある土地」

<負担金の納付>
「相続土地国庫帰属法第10条」
「承認申請者は、第五条第一項の承認があったときは、同項の承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。」

 国有地になるとしても、国が買い取るのではなく、逆に手数料を支払う制度ですので、ご注意ください。
 
2022/6/5/18:30
 

 

(第55号)所有者不明土地・家屋の関連法の改正

 
(投稿・令和3年-見直し・令和7年3月)

 今回は前号(第54号)「所有者が不明の土地・家屋の現状と課題」に続く内容です。

 
 一般財団法人「国土計画協会」の所有者不明土地問題研究会による試算結果によると、日本全国の所有者不明土地は、現在推計で410万ヘクタール(所有者不明率20.3%)で、九州の土地面積(約368万ヘクタール)を越える面積となり、2040年までには720万ヘクタールに膨らむ見通しです。北海道本島の土地面積(約780万ヘクタール)に匹敵する面積になります。

 近年、所有者不明の土地が全国的に増加しており、公共事業の推進や生活環境面で様々な問題が生じています。

 そこで、所有者が不明の土地・家屋の固定資産税の課税上の課題に対応するため、所有者情報の円滑な把握や課税の公平性の観点から、令和2年度税制改正において、措置が講じられました。

所有者が不存在・特定できないケース

 まずは、所有者が不存在あるいは特定できないため課税できないケースを確認しておきます。

 総務省のホームページに、所有者が不存在・特定できないため課税できないケース(例)として、次の4つのケースが掲載されています。

死亡した登記名義人から賃借していた者が居住を継続している
 Aの生前からBが賃借していたが、登記簿は土地・建物のは死亡したA名義のまま、またAの相続人は全員相続放棄している場合ですが、土地・家屋ともに課税できません。

相続放棄した者とその関係者が居住している
 登記は土地・建物C名義だがCが死亡し、Cの相続人は全員が相続放棄している場合ですが、土地・家屋ともに課税できません。

登記が正常に記録されていない土地で店舗を営業している
 土地の登記が複数人によるもので、住所記載が無いなど正常に登記されておらず、建物はH名義で店舗を営業している場合ですが、土地は課税できず、家屋はHに対して課税されます。

外国籍の所有者が死亡し、相続人が特定できない
 マンションの一区画及び敷地を外国籍のX名義であるが死亡している場合ですが、国内に戸籍等が存在しないため、相続関係が確認できず、土地・家屋ともに課税できません。

所有者不明土地・家屋の地方税法改正

現に所有している者の申告の制度化

 これまで、登記簿上の所有者が死亡している場合、課税庁の市町村等では「現に所有している者」(通常は相続人)の把握のため、法定相続人全員の戸籍調査等多大な時間と労力を割いてきています。

 このため、相続登記がされるまでの間における現所有者(相続人等)に対し、市町村の条例で定めるところにより、氏名・住所等必要な事項を申告させることができることとされました。

<現に所有している者の申告>
「地方税法第384条3項」
「3項 市町村長は、その市町村内の土地又は家屋について、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている個人が死亡している場合における当該土地又は家屋を所有している者(以下この条及び第386条において「現所有者」という。)に、当該市町村の条例で定めるところにより、現所有者であることを知つた日の翌日から三月を経過した日以後の日までに、当該現所有者の住所及び氏名又は名称その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。」

使用者を所有者とみなす制度の拡大

 これまでは、法律上、震災等の事由によって所有者が不明の場合に、使用者を所有者とみなして課税できる規定がありました(地方税法第343条4項)が、調査を尽くしてもなお固定資産の所有者が一人も明らかにならない場合、(事前に使用者に通知をした上で)使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、固定資産税を課すことができることとされました(同法同条5項が追加)。

<固定資産税の納税義務者等>
「地方税法第343条4項5項」
「4項 市町村は、固定資産の所有者の所在が震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。
5項 市町村は、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなお固定資産の所有者の存在が不明である場合(前項に規定する場合を除く。)には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

 これは、土地や家屋を使用収益しているにもかかわらず、所有者が正常に登記されていない等の理由により、市長村が調査を尽くしてもなお所有者が一人も明らかにならない場合においては、固定資産税を課すことができないという実態でした。

 令和2年度税制改正により、課税の公平性の観点から、所有者の存在が一人も明らかにならない場合に、資産を使用収益し、所有者と同程度の利益を享受している者が存在しているときは、その者が所有者と同様に行政サービスを受益している点に着目して、使用者を所有者とみなして課税することができるようになりました。

相続登記の申請義務化が決定

 この度、所有者不明土地・家屋に関して「民法等一部改正法」が公布されましたが、この中で固定資産税に関係する法は不動産登記法で、最も関係する項目は「相続登記の申請義務化」です。

相続登記が義務でないことが最大の不明要因

 所有者不明土地・家屋問題の解消に道筋をつけるため、相続登記の申請が義務化となります。

 この「所有者不明の土地・家屋」の最大の原因が、相続登記が義務化されていないことであることからすると、固定資産税の課税からは「相続登記申請義務化」は明るいニュースと言えます。

 今回の相続登記に関する法改正の大きなポイントは、以下の3つあります。
相続登記の申請義務化
相続人申告登記の(仮称)の創設
所有権の登記名義人の氏名または名称、住所の変更の登記の義務づけ

相続登記の申請義務化は3年以内(新制度の概要)

 ここでは、①の相続登記の申請義務化(2年以内の施行)についてのみ、お知らせします。

 親が亡くなり、相続で不動産の所有権を取得した場合、相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内に移転の登記を申請しなければなりません。
 遺産分割で所有権を取得した際は、分割の日から3年以内の登記が義務づけられます。たとえば、遺産分割協議が2年後にまとまった場合、その日から3年以内に登記を申請しないといけません。もしも、正当な理由がないのにも関わらず、この二つの申請を怠った時は、10万円以下の過料を求められます。

 このように相続登記の義務化がされることとなりましたが、これにより固定資産税の課税がスムーズに進むことを期待したいものです。

(次号に続きます)
 
2022/06/05/13:00
 

 

(第54号)所有者が不明の土地・家屋の現状と課題

 
(投稿・令和2年-見直し・令和7年3月)

 今回は、所有者が不明な土地・家屋の現状と課題についてです。

 その前に「固定資産税の納税義務者とは誰か」については、第9号で説明してありますが、簡単に復習しておきます。

 
 固定資産税(土地及び家屋に限定)の納税義務者は、原則として登記簿に所有者として登記されている者(登記簿所有者)又は土地・家屋補充課税台帳に登録されている者をいいます。
 その意味では、固定資産税の納税義務者は、必ずしも真実の所有者とは限りません。

 また、この納税義務者は賦課期日(毎年の1月1日現在)に登記・登録されている者ですが、この登記・登録されている者が賦課期日前に死亡しているときは、固定資産税を「現に所有している者」が固定資産の所有者となります(地方税法第343条1項、2項)。

<固定資産税の納税義務者等>
「地方税法第343条」
「1項  固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
2項 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第2条第2項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。」

なぜ所有者不明の土地・家屋が発生する

所有者不明土地・家屋の発生要因

 ところで、納税義務者が死亡して相続登記がなされる場合には、その情報が課税する市町村に通知され新たな納税義務者を把握することが出来ますが、相続登記がなされない場合には、死亡の事実の把握も新たな納税義務者を決めることも簡単ではありません。

 近年では、土地・家屋の相続の問題や、国外に居住する納税義務者の増加等様々な理由により、固定資産税の納税義務者たるべき者の住所や実態等が不明確となり、市長村の現場における課税・徴収の実務に支障を来す事例も増えてきています。

 課税・徴収の実務に支障を来す事例としては、主に次のようなものが想定されます。
① 登記簿上の所有者(=納税義務者)の住所や存在が不明
 登記簿上の所有者が住民票の異動を行わず転出したのち居所不明となっているケースや、国外に住所等を有しており実態がつかみにくいケースなど。

② 登記簿上の所有者が死亡し、相続人(=納税義務者)が不明
 相続人に所有権が移転されたがその所在を把握できないケースや、相続人がおらず相続財産管理人も選任されていないケースなど。

③ 登記簿上の所有者である法人が解散したが、変更登記がなされていない
 承継法人がおらず、清算人又は破産管財人も選任されていないケースなど。

賦課・徴収にあたっての現状と課題

死亡の事実の把握と相続人調査

 納税義務者が死亡し相続が発生した場合、相続登記がなされれば、その情報は課税庁に通知され新たな納税義務者をを把握することができます。

 しかし、相続登記がなされない場合、死亡の事実及び新たな納税義務者となる相続人を課税庁が自ら調査・特定することとなり、この負担も増加しています。

死亡の事実の把握
 納税義務者の住所地(=死亡届の提出先)が固定資産課税と同一市町村内であれば、死亡届が戸籍担当部局から固定資産税担当部局と共有されます。

 一方で、住所地が課税庁と異なる納税義務者については、死亡事実の把握が限られることになります。住民登録外者についても、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」)を用いて照会し、本人情報を取得することが可能です。

相続人の調査・特定
 この調査はほとんどの市町村において、戸籍や住民票等の公簿上の調査を行っていますが、被相続人や法定相続人全員の本籍地にに対して戸籍等を請求・取得することから、費用対効果等において問題もあります。

 そのため、多くの市町村では、書類の送付先としての代表者を指定するための「相続人代表者届」(地方税法第9条の2)の届出を求めています。

<相続人からの徴収の手続> 
「地方税法第9条の2」 
「1項 納税者又は特別徴収義務者においては、第11条第1項に規定する第二次納税義務者及び第16条第1項第6号に規定する保証人を含むものとする。)につき相続があつた場合において、その相続人が二人以上あるときは、これらの相続人は、そのうちから被相続人の地方団体の徴収金の賦課徴収(滞納処分を除く。)及び還付に関する書類を受領する代表者を指定することができる。この場合において、その指定をした相続人は、その旨を地方団体の長に届け出なければならない。」 

相続人の一部に対する課税

 上記のとおり、法定相続人の全てを調査・特定するためには、相当の時間と労力を要することになるため、法定相続人の一部が判明した場合、その一部の者に納税通知書を送付している市町村が、アンケート調査の結果70%となっているとのことです。

 この相続人の一部に対する課税は、連帯納税義務が生じている共有者の一部に対する納税の告知で法的にも可能なのですが、これが、課税客体である土地・家屋に対する滞納処分となると、相続人全員に対して納税の告知、督促等を行う必要があることに注意が必要です。

相続人の存在が一人も明らかでない場合

 相続人の調査を行っても、法定相続人全員が相続放棄をしている等により、相続人の存在が一人も明らかでないケースもあります。

 この場合には、民法上、相続財産は法人となり、利害関係人の請求によって家庭裁判所が相続財産管理人を選任することとなりまた、課税庁においても、利害関係人として相続財産管理人の選任を請求することができます。

 しかし、そもそも課税庁としては、未納分の税額を回収する目途が立たない等コストをかけて選任を請求するメリットはあまりありません。

所有者不明の固定資産税への対応策

 以上のように、課税庁たる市町村では、法定相続人の調査が出来きれない場合、法定相続人の一部が判明した場合には、その一部の者に対して納税通知書を送付している場合も多いようです。

 また、賦課期日に現に所有している者が一部が特定できているばあい、判明している所有者のみに課税を行っている市町村もあります。

 一方では、戸籍等による相続人調査が途中で途切れてしまい、相続人の存否すら明らかにならない場合もあり、お手上げ(課税保留)の場合もあります。

 そこで、この所有者不明な土地・家屋への対応として、「相続登記の義務化」や「使用者を所有者とみなす制度の拡大」等の制度改正が行われることになりました。

(次号に続きます)
 
2022/06/05/12:00