(第60号)「固定資産税が高い・間違っている」と思ったときの対応方法は

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年7月)

 今号は「固定資産税の価格が高い」あるいは「評価が間違っているか」と思ったときは、どのような対応をしたら良いのかについて解説します。

 同様なタイトルは第33号「固定資産税の価格(評価額)に不服(評価誤り)がある場合の手続き(「審査の申出」)」でも記載しましたが、今回は、筆者が民間コンサルタントとして、納税者の皆様からのご相談や各市町村と交渉してきた経験等から、気づいた点や「提言」等をさせていただきます。

 
 筆者は、民間コンサルタントの前に、行政で固定資産税業務も経験してきましたが、コンサルタントでの経験と学びの方が遙かに得た知識が大きいと考えております。

市町村から審査申出が勧められる

地方税法では「審査申出ができる」

 地方税法では、「固定資産税の価格に不服がある場合は、「審査の申出」ができる(「できる」です!)」とあり、これが地方税法上の原則ではあります。

 市町村の窓口に行くと、「価格に不服があるならば、納税通知書が送られてくるので、3ヶ月以内に「審査の申出」ができるのでそちらでお願いします」などと“門前払い”をされる場合があります。
※納税通知書は毎年送られてきますが、「審査の申出」ができるのは、通常3年毎の基準年度に限られます。

 それではと「審査の申出」を行った場合どうなるでしょうか。

「審査の申出」の棄却決定がほとんど

 「審査の申出」は第三者機関である固定資産評価審査委員会に対して行い、そこで審査・決定がされますが、実質的には課税当局の弁明(言いなり)どおりの決定(棄却される)がほとんどというのが実態です。

 この「審査の申出」の棄却決定に「あとはどうすれば良いのでしょうか」と課税当局に聞くと「決定に不服があるならば6ヵ月以内に訴訟を提起できますので、そちらでお願いします」と『そっけない返事』がほとんどです。

 訴訟ともなると、弁護士を探しそれなりの費用がかかることになりますが、納税者としては事実上『打つ手無し』という状態にもなってしまいます。

 民間コンサルタントとして、既に「審査の申出」を行って「棄却」決定された納税者の方々からのご相談によりますと、「こちらの要求した内容にほとんど答えてもらえていない」との「苦情」がかなりあります。実際に申出書、弁明書、決定書等を見せていただくと、確かに「審査の申出」の決定が納税者の要望に答えていないものが、それなりにあります。

 例えば、所有しているビルの評価額が自己所有の他のビルより相当高い理由は何か、新築当初の評価内容から説明して欲しいと求めたものの、審査では「在来(中古)家屋の評価」(前年度の評価が正しいとの前提で評価される)により棄却決定された等、いくつか筆者に相談が寄せられています。

 従って課税当局の「審査申出でお願いします」との言葉に安易に従ってはいけません。
 「固定資産税の価格が高い」あるいは「評価が間違っている」と思ったときは、まず市町村の課税当局に確認し、交渉することをお勧めします。

 なぜなら、課税当局が気がついていない「課税誤り」があるかも分からないですし、実際にこれまでもそのような事例が存在しています。

 ただし、「審査の申出」の結果のすべてが「棄却」となる訳ではなく「容認」もありますが、筆者の実感としては「棄却」の可能性の率が高いと思います。

まず課税当局に確認し交渉する

 市町村の課税当局には、いま課税している固定資産税の評価内容に間違いがないかを確認し、所有者に説明する義務と責任があります。

 そもそも固定資産税は所有者の申告に基づかず、行政が一方的に評価・課税する“賦課課税方式”なのですので、所有者は評価の具体的内容まで分からないのです。

 もっとも、家屋の場合については、大規模非木造家屋の評価を県に委任していることから、市町村の担当者でも十分に説明できないという場面に出会うこともありますが。

地方税法第417条の「重大な錯誤」

 地方税法第417条1項では、仮に決定された価格に「重大な錯誤」があった場合には直ちにこれを修正しなければならないとされています。

この「重大な錯誤」の例としては、「課税台帳に登録の際の誤記」「計算単位のとり違い」「課税客体の明瞭な誤り」「価格の決定に重要な誤り」等とされています。

<固定資産の価格等は修正等(中略)>
※地方税法第417条
「市町村長は、登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産の価格と均衡を失しないように価格等を決定し、又は決定された価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録しなければならない。(一部略)」

 そうなると、課税当局は「正しく評価・課税している」と考えていても、納税者から申し出があった場合には確認してみることが必要ですし、納税者に対しては、資料(「評価計算書」等)により丁寧に説明する義務があります。

 納税者がどうしてもこの価格には納得がいかないので、市町村の担当課に相談したところ、実は「重大な錯誤」であったと判明したというケースも実際にあります。

 所有者の方から「固定資産税の評価内容を細かく説明されても良く分からない」とのご相談がありますが、この場合には、固定資産税評価に詳しいコンサルタント等に相談してください。

※ただし「委任は弁護士と税理士以外は認めない」という市町村もありますので注意が必要です。東京23区がそうですが、その理由は「弁護士法・税理士法の趣旨に反するから」とのことです。しかし、他の多くの市町村では弁護士、税理士以外の代理を認めています。(「審査の申出」では、弁護士、税理士以外の代理も認められています。)

「重大な錯誤」であれば10年から20年間の還付

 そして、仮に「重大な錯誤」があり価格等が修正されるとなると、過徴収金の還付ということになりますが、地方税法での還付金の消滅時効は5年ですが(地方税法第18条の3)、「重大な錯誤」による課税誤りがあった場合には、市町村の「過徴収金返還要綱」(市町村により名称が異なる)により、10年間あるいは20年間遡って返還されるということになります。
(5年間分は「還付金」でそれ以上の期間の返還は「補填金」となります。)

 この「過徴収金返還要綱」によると、「重大な錯誤」による誤りがあった場合、固定資産税の課税台帳の保存期間である10年間を原則として、領収書等により確認できる場合は20年間返還することができるとされています(この「領収書等により確認」も問題ですが)。

 「過徴収金返還要綱」は、市町村が独自に定めているもので、全国でも約7割程度の市町村で実施されていると言われていましたが、最近では廃止している市町村もあるようです。

 

必要に応じての法的手続き

 課税当局と直接話し合っても”埒があかない”という段階になった場合は、(必要に応じて)法的な手続きを採用することになります。

 法的の手続きとしては、審査の申出 → 訴訟というレベルになってきますが、この法的手続きについては、第33号で説明してあります。

 いずれにしても、固定資産税の価格に不服がある場合は、直ぐに審査申出をするのではなく、詳しいコンサルタント等に相談されることをお勧めいたします。
 
2022/06/07/09:00
 

 

(第59号)「無道路地」で「不整形地」の宅地はダブル評価が必要

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年7月)

 今号は、「宅地が無道路地であり不整形地でもある場合の固定資産税評価はどうなるのか」についてお知らせします。

 まず結論ですが、無道路地と不整形地は全く異なる画地形態である訳ですので、この両者が揃っている土地については「無道路地評価」と「不整形地評価」を併せて行うダブル評価が必要です。

 なお、第11号「土地の路線価方式による宅地の『画地計算法』について」で無道路地と不整形地の固定資産税の宅地評価方法について簡単に紹介しています。

 

固定資産税の無道路地評価法の変遷

 無道路地すなわち路線に接しない画地については、宅地としての利用上の制約によって、その価値は著しく低下することになります。

 第43号でもお知らせしましたが、無道路地の路線価評価では、固定資産税と相続税の評価方法はかなり異なります。

 
 相続税評価においては、古くから「蔭地割合評価方式」が採用されており、計算方法は複雑ですが、固定資産税評価も平成8年度まで同様の方法を採用していました。

 しかし、固定資産税の無道路地評価は平成9年度から「通路開設補正率」と「無道路地補正率」が導入され簡素化されています。

 この理由は、固定資産税は平成9年度から負担調整措置が導入されていますが、これに併せて無道路地の評価方法が簡素化されました

<無道路地の固定資産税評価>
※「固定資産評価基準」
「原則として、当該無道路地を利用する場合において、その利用上最も合理的であると認められる路線の路線価に奥行価格補正率表(附表1)によつて求めた補正率、通路開設補正率表(附表9)によつて求めた補正率及びその無道路地の近傍の宅地との均衡を考慮して定める無道路地補正率(下限0.60)を乗じて1平方メートル当たりの評点数を求め、これに当該無道路地の地積を乗じてその評点数を求めるものとする。」

無道路地の固定資産税評価法

 固定資産税の無道路地評価は、次のとおり行います。

無道路地評価の具体例

<無道路地の例図(固定資産税)>


 では、上図の固定資産税評価を行います。
 固定資産税の無道路地補正率は(下限0.6)とされていますので、無道路地であれば最大減価率▲40%となります。
 実際に適用する無道路地補正率は、市町村での「固定資産(土地)評価取扱要項」で定められていますが、0.6(▲40%)が多いようです。

<無道路地の補正率>
 遠い奥行の奥行価格補正率(0.95)×近い奥行の通路開設補正率(0.80)×無道路地補正率(0.6) =無道路地補正率(0.46)

<無道路地の評価額>
 路線価(70,000円/㎡)×無道路地の補正率(0.46)×地積(150㎡)=無道路地の評価額(4,800,000円)
 なお、固定資産税の場合、200㎡以下の小規模住宅用地は1/6となります。
 4,800,000円×1/6=800,000円(固定資産税評価額)

「無道路地かつ不整形地」の評価

 評価対象地が不整形地で無道路地の場合には、上記の無道路地評価に加えて不整形地の評価をプラスします。
 評価対象地が道路に接していることを想定した上で、蔭地割合による不整形地補正率を乗じて1㎡当たり評点数を求めることになります。

<無道路地かつ不整形地の例図(固定資産税)>


<無道路地の補正率>
 遠い奥行の奥行価格補正率(0.95)×近い奥行の通路開設補正率(0.80)×無道路地補正率(0.6) =無道路地の補正率(0.46)

<蔭地割合>
{想定整形地の地積(150㎡)−評価対象地の地積(125㎡)}÷想定整形地の地積(150㎡)×100=17%

<1㎡当たり評点数>
 正面路線価(70,000)×無道路地の補正率(0.46)×蔭地割合17%の不整形地補正率(0.96)=30,900円/㎡

<不整形無道路地の評価額>
 1㎡当たり評点数(30.900円/㎡)×地積(125㎡)×小規模住宅用地(1/6)=643,800円

(補足)「無道路地補正率」について

 固定資産税の「無道路地補正率」は、上記の固定資産評価基準で「無道路地補正率(下限0.60)」とされており、0.6~1.0の適用が可能となっています。

 この具体的な補正率は、市町村毎の「固定資産評価取扱要項」(名称は市町村によって異なる)によって定められています。可能な範囲で市町村の「固定資産評価取扱要項」を調べてみますと様々ありますが、多くの市町村では「無道路地補正率を一律0.6」としているようです。
 
2022/06/06/07:00
 

 

(第58号)区分所有マンションの専有部分の面積は3種類

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年7月)

 今号は、区分所有マンションの専有部分の面積はどのように把握されるかについて解説します。
 なお、「一般家屋の(固定資産税)床面積の算定について」は第29号で紹介しています。

 
 区分所有マンションの建物は戸建住宅とは異なり、一棟の建物に独立した住居や店舗・事務所からなる「専有部分」とともに、廊下・エレベーター・階段などのように区分所有者が共同で利用する「共用部分」からなっています。

 なお、戸建住宅などの一般建物の場合には、所有権がすべての土地建物に及びますので「専有面積」という概念はありません。従って、戸建住宅等一般建物の固定資産家屋の床面積は、基本的に壁芯面積を基にして評価します。

マンション専有部分の床面積は3種類

 マンションの「専有部分」の床面積は、①壁芯面積(販売面積)、②内法面積(登記面積)、③課税床面積(固定資産課税上の床面積)の3種類あります。

販売時の専有面積(壁芯面積)

 マンションなどの区分所有建物を購入される場合、販売図面やパンフレットに専有面積が記載されていますが、この専有面積は、壁や柱の中心(壁芯)から計算した壁芯面積で示します。つまり、壁や柱の厚みを半分含めて面積を算出します。建築基準法でも床面積といえば、この壁芯面積を意味します。

 壁芯面積は、マンション管理規約の別表に記載されていることが多いため、不動産会社が売買契約を行う場合、この規約別表を確認することにより、専有部分の壁芯面積を売買面積とされるのが一般的です。

不動産登記上の面積(内法面積)

 マンションなど区分所有建物の場合には、登記するときの面積は壁や床の境界より内側を登記簿上の面積とします。つまり、壁や柱などの厚みを一切考慮しない「内法(うちのり)面積」と呼ばれる面積を計算します。この「内法(うちのり)面積」は、居住者が実際に生活で使用する空間が使用している部分である、との考え方からです。

<不動産登記法上の建物床面積>
※不動産登記規則第115条
「1棟の建物を区分した各建物(各専有部分等の登記部分)の床面積は、内壁で囲まれた 部分の水平投影面積により定める。」

 ここに、壁芯面積と内法(うちのり)面積の図を示します。

 左の「壁芯面積」は壁や柱の中心から計算した面積で、建築基準法上で用いられる面積で、右の「内法面積」は壁や柱の境界より内側の面積で不動産登記で用いられています。

固定資産課税の床面積(現況床面積)

 固定資産税の評価で使われるマンションの場合の床面積は、これまで説明してきたとおり、内法面積で測った「専有部分」の面積(登記面積)に、「共用部分」の持分面積(按分)を加えた面積=課税床面積となります。
※ この部分の説明は別途行います。

 毎年送られてくる固定資産税の課税明細書にある家屋の床面積が、購入したときの面積、登記簿面積より大きくなっているのはこのような理由によります。
 
2022/06/05/20:00
 

 

(第57号)固定資産税の在来(中古)家屋の評価がなぜ下がらないのか

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年7月)

 今回は、在来(中古)家屋(以下「在来家屋」)の固定資産税評価がなぜ下がらないのかについて解説します。

 ある読者の方から「自分の保有しているビルの固定資産税がこの10年程下がっていないが、どうなのでしょうか」との問合せがありました。

 家屋の評価は、再建築価格方式を採用しており、これが複雑な仕組みで「課税誤り」の原因にもなっていることはこれまでもお伝えしてきました(第38~40号)。

 
 ところで、「なぜ在来家屋の評価額が下がっていないのか」の理由ですが、それは「在来家屋の評価の仕組み」にあります。

 そこで、今回は「在来家屋の評価の仕組みに」焦点をあてて見ていくことにします。

在来家屋の評価の仕組み

 下の図のとおり、在来家屋の評価は赤の太枠内のとおり、再建築評点数の評価にあたって、経年減価補正率だけでなく再建築費評点補正率が入っています。実は、この再建築費評点補正率が家屋評価を引き下げていない原因であります。

<固定資産税家屋評価の仕組み>

在来家屋の再建築評点数とは

 それでは在来家屋の再建築費評点数とはどういうものなのかということです。

 在来家屋の再建築評点数は、「前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率」となり、単に築年数による減価をするだけでは済まず「再建築費評点補正率」を乗ずる方法になっています。

在来家屋の再建築費評点数=前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率

 「前年度における再建築費評点数」とは、3年毎の基準年度に評価される前回の実際に評価・課税されている評点数です。

 つまり、固定資産税の在来家屋の評価は、それまでの評価が正しいものとしての前提の上に成り立っている訳です。

再建築費評点補正率とは

 そして、その「前年度における再建築費評点数」に「再建築費評点補正率」を乗ずるのですが、では「再建築費評点補正率」とはどういうものかです。 

 「再建築費評点補正率」は固定資産評価基準に次のように定義されています。

<在来分の木造・非木造家屋の再建築費評点補正率>
※固定資産評価基準(木造・非木造家屋)
「再建築費評点補正率は、基準年度の賦課期日の属する年の2年前の7月現在の東京都(特別区の区域)における物価水準により算定した工事原価に相当する費用の前基準年度の賦課期日の属する年の2年前の7月現在の当該費用に対する割合を基礎として定めたものである。」

 つまり、再建築費評点補正率とは、東京都特別区の工事原価の物価水準で3年前の水準と比較してどの程度上下しているのかその割合ということになります。
 令和6年度では、木造1.11、非木造1.07とされており上昇していることになります。
 実は、この再建築費評点補正率はここ4基準年度上がり続けているのです。

<再建築費評点補正率の推移>

 このように、固定資産税家屋の再建築価格方式では、単に築年数の減価だけではなく、工事原価の物価水準も関連づけて評価されているため、築年数を経るに従って単に評価額が下がる仕組みにはなっていません。
 これが、固定資産税家屋の再建築価格方式の特色でもあります。

家屋評価の「据置」と「残価率」

 さらに固定資産税の在来家屋評価の仕組みには、「据置」と「残価率」というものがあります。

建設物価上昇期の「据置」

 普通であれば家屋は築年数の経過に伴って評価額も下がるのですが、再建築価格方式では、この時期の工事原価の物価水準をも反映させる必要があるため、仮に建設物価が上昇しているときには、計算上の評価額が上がる場合もあります。

<建設物価上昇期の家屋評価> 

 上の図の左側が<物価下落期>で「経年による減価」は当然下がっていることから、「評価額引下」となり問題はありません。

 逆に右側が<物価上昇期>の場合で、「経年による減価」は当然年数に従って下がりますが、「建設物価上昇」が相当高い時には、計算上の評価額(「本来の評価額」)が上がる場合があります。

 しかし、この場合には、固定資産税の評価額を上げる訳にはいかないために「評価額据置」(前基準年度と同じ評価額)となりますが、これが「在来家屋の評価が下がっていない」仕組みである訳です。

家屋は存在する限り20%課税=「残価率」

 固定資産税の家屋評価では、もう一つ「残価率」という特徴があります。

 それは、家屋が存在している限りは、築年数が何年経っても「20%の評価額が続く」ということです。

<家屋評価の残価率>

 この図で固定資産税の取得価格(出発点)が60%となっていますが、これは家屋の新築評価を行ったときの「実績」として、取得価格の60~70%程度に収まっているケースが多いことからです。

 この「残価率」には賛否両論ありますが、そもそも固定資産税は「行政サービスの対価」という性格があります。
 例えば、家屋があれば公道等を使用することになり、その行政サービスを受けているため、その対価として固定資産税が課税されているという説明です。

在来家屋の審査は新築時の検討が必要

 以上のように、在来家屋の評価は、それまでの再建築費評定数が正しいことを前提にして成り立っている訳です。

 それでは、仮に中古ビルを購入した所有者が「この家屋の固定資産税(評価額)は高いのでは」と疑念を持ち、審査申出を行った場合、課税当局の弁明も固定資産評価審査委員会からの審査結果も「適正に在来家屋評価が行われているので問題は無い」と棄却されるのが常ですが、これは問題無いのでしょうか?

 これまで説明してきたとおり、在来家屋の評価が正しいのか間違っているのかを確認する場合には、「新築時の評価(評点数)が正しいのかどうか」を確認する必要があるのです。

 しかも、新築時の評価資料は廃棄して存在しないのであれば、固定資産評価基準に基づいて評価が行われている固定資産税である以上、その案件に対しての訴訟提起も難しくなるのです。

 そもそも、固定資産税家屋評価の方法が複雑で課税誤りの原因にもなっている「再建築価格方式で良いのか」との疑問があります。

 
2022/6/5/19:00
 

 

(第56号)「相続登記の義務化」で所有者不明土地・家屋の改善が期待

 
(投稿・令和3年5月-見直し・令和6年7月)

 所有者不明土地・家屋については、第54号「所有者が不明の土地・家屋の現状と課題」及び第55号「所有者不明土地・家屋の関連法の改正」で解説してきました。

 

所有者不明土地の問題と解決法

 固定資産税の納税義務者は、原則として登記記録上の所有者ですが、当該所有者が死亡している場合には「現に所有している者」(通常は相続人)となります。

 しかし、納税義務者が死亡し相続登記がなされない場合、新たな納税義務者となる「現に所有している者」を市町村が自ら調査し、特定する必要があり、当該調査に多大な時間と労力を要し、迅速・適正な課税に支障が生じています。

 これまで、地方税法の改正により、所有者不明の固定資産税(土地・家屋)については、①現に所有している者(相続人等)の申告の制度化(地方税法第384条の3)②使用者を所有者とみなす制度の拡大(同法第343条5項)が創設されました。

 残る課題は所有者不明土地の一番の要因となっている「相続登記が義務化されていない」ことですが、令和3年4月28日に「民法等の一部を改正する法律(民法等一部改正法)」の中で不動産登記法改正が公布され、相続登記の義務化等が具体化されました。

 なお今回の不動産登記法の改正では、「相続登記申請の義務化」とともに、「住所変更登記等の義務化」も制度化されています。

 また、所有者不明土地の発生を抑制するため、相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させる制度(「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」)も創設されましたので説明します。

不動産登記法の改正-所有者不明土地

相続登記申請の義務化

 相続登記申請の義務化に関する不動産登記法の改正は、次の2点になります。

(1) 不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける。(不動産登記法第76条の2)
(2) 正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処することとする。(同法第164条第1項)

<相続等による所有権の移転の登記の申請>
※不動産登記法第76条の2
「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

<過料>
※不動産登記法第164条1項
「(中略)第76条の2第1項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。」

住所変更登記等の申請の義務化

 所有権の登記名義人が住所等を変更してもその登記がされない原因としては、①住所変更登記等の申請は任意とされており、かつ、変更しなくても大きな不利益がない②転居等の度にその所有する不動産についてそれぞれ変更登記をするのは負担であること等があります。

 住所変更登記等の申請の義務化は、次の2点になります。
(1) 所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける。(同法76条の5)
(2) 正当な理由がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとする。(同法第164条第2項)

<所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請>
※不動産登記法第76条の5
「所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」

<過料>
※不動産登記法第164条第2項
「 第76条の5の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処する。」

相続人申告登記の創設

 相続が発生した場合、遺産分割の協議や書類の収集等、登記申請に当たっての手続きの負担が大きいことから、相続人の申請義務を簡易に履行することができるようにする、新たな相続人申告登記が設けられました。

 その内容は、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなされます。

<相続人である旨の申出等>
※不動産登記法第76条の3
「1項 前条第1項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
2項 前条第1項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第1項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
3項 登記官は、第1項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。
4項 第1項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第1項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

土地所有権を国庫に帰属させる制度

 「不動産登記法」とは別に、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(「相続土地国庫帰属法」)が創設されました。

 相続した土地を、法務大臣に申請し承認を得た上で国庫に帰属させることができるようになります。土地を所有し続ける負担が大きく、手放したいと思ったときに国有地にしてもらう制度です。

 但し、承認申請する土地が①更地であること②担保権の設定が無いこと③境界に争いが無いこと等が必要です。(相続土地国庫帰属法第2条)

 なお、要件審査を受けて法務大臣の承認を受けた者は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金(詳細は政令で規定)を納付する必要があります。(同法第10条)

<承認申請>
※相続土地国庫帰属法第2条
「1項 土地の所有者( 相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る 。)は 、法務大臣に対し 、そ の土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる 。
2項 士地が数人の共有に属する場合には 、前項の規定による承認の申請(以下「 承認申請」という 。)は、共有者の全員が共同して行うときに限り 、することができる 。この場合においては 、同項の規定にかかわらず 、その有する共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても 、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して 、承認申請をすることができる 。
3項 承認申請は 、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない 。
一 建物の存する土地
二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている士地
三 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
四 土壌汚染対策法第11条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるも のに限る 。)により汚染されている土地
五 境界が明らかでない士地その他の所有権の存否 、帰属又は範囲について争いがある土地」

<負担金の納付>
※相続土地国庫帰属法第10条
「承認申請者は、第五条第一項の承認があったときは、同項の承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。」

 国有地になるとしても、国が買い取るのではなく、逆に手数料を支払う制度ですので、ご注意ください。
 
2022/6/5/18:30