(第64号)区分所有マンションの固定資産税評価について

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和7年3月)

 区分所有マンションにおける区分所有者は「専有部分」、「共用部分」の共有持分及び「共用土地」(敷地の共有持分)という3種類の権利を持っていることになります。
 このため、区分所有マンションの固定資産税評価は複雑で分かりにくくなっているのです。

 なお、区分所有マンションの「専有部分の面積査定」については、第58号「区分所有マンションの専有部分の面積は3種類」で説明してありますのでご覧ください。

 

マンション区分所有権の仕組み

区分所有建物とは

 まず、そもそも建物の区分所有とはどういうものかについてです。

<建物の区分所有>
「区分所有法第1条」
「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」

<定義>
「区分所有法第2条1項2項」
「1項 この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により「共用部分」とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2項 この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。」

 マンションでは、一棟の建物が隔壁や階層などによって他の部分と遮断されていますが、その一つ一つの独立した部分が住居・店舗・事務所として家屋本来の用途に供することができる状態にあるとき、その建物を区分所有することができることになっています。

 ここで区分所有建物とは、構造上区分され、独立して住居・店舗・事務所・倉庫等の用途に供することができる数個の部分から構成されているような建物のことです。

 区分所有建物となるためには次の2つの要件を満たすことが必要です。

① 建物の各部分に構造上の独立性があること
 これは、建物の各部分が他の部分と壁等で完全に遮断されていることで、ふすま、障子、間仕切りなどによる遮断では足りません。

② 建物の各部分に利用上の独立性があること
 これは、建物の各部分が、他の部分から完全に独立して、用途を果たすことを意味しています。例えば居住用の建物であれば、独立した各部分がそれぞれ一つの住居として使用可能でます。

 上記①と②を満たすような建物の各部分について、それぞれ別個の所有権が成立しているとき、その建物は区分所有建物と呼ばれ、民法の特別法である「建物の区分所有等に関する法律」(「区分所有法」又は「マンション法」)が適用されます。

 そして、このように建物を区分所有した場合、その建物は「専有部分」と「共用部分」とに分類して取り扱われます。

区分所有の「専有部分」とは

 「専有部分」とは、一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの(つまり、構造上の独立性と利用上の独立性を有する部分)であって、区分所有権の目的であるものです。

<専有部分>
「区分所有法第2条3項」
「3項 この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。」

区分所有の「共用部分」とは

  分譲マンションのような区分所有建物について、廊下、階段等のように区分所有者が全員で共有している建物の部分を「共用部分」と言います。

<共用部分の定義>
「区分所有法第2条4項」
「4項 この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により「共用部分」とされた附属の建物をいう。」

「区分所有法第4条」
「1項 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2項 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により「共用部分」とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。」

 上記により、「共用部分」は法定共用部分(第4条1項)と規約共用部分(第4条2項)からなります。

① 法定共用部分
 数個の「専有部分」に通じる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供される建物の部分です。
(例:玄関ホール、廊下、階段、エレベーターホール、内外壁、界壁、床スラブ、基礎部分、ベランダ、バルコニー、屋内駐車場、電気室等)
※よくベランダ、バルコニーを「専有部分」と勘違いしている人がいますが、これは「共用部分」です(但し、専有部分所有者の専用使用権があります)。

 ベランダは、一般的には2階以上にあり、住戸から外に張り出していてある程度の雨風をしのげる屋根のあるスペースを指します。雨の日でもそこで濡れずに過ごせますし、洗濯物も干すことができます。
 バルコニーはベランダと同様のスペースですが、大きく異なるのは屋根が無いことです。

② 規約共用部分
 本来は「専有部分」ですが、規約により「共用部分」とすることができる部分です。
(例:管理事務室、管理用倉庫、集会室)

区分所有マンション敷地の課税

 分譲マンションなどの区分所有家屋の敷地の用に供されている土地(共用土地)のうち、次の①②の要件をみたすことが必要です。

① 共用土地の共有
 共用土地が区分所有家屋の所有者全員によって共有されていることが必要です。

② 土地は床面積の割合で共有
 各共有者の土地の持分割合が、その者の区分所有家屋の専有部分の床面積の割合と一致することが必要です。

 共用土地に対する固定資産税については、まず敷地全体の税額を求め、次に各区分所有者の共用土地の持分割合により按分した税額により分割課税されます。
 この共有土地の持分割合は、専有部分の面積割合によります。

 なお、通常、マンション用地は居住用土地ですので、評価額においては、土地全体の本則課税標準額が1/6となります(「専有部分」1戸当たり200㎡が換算されますので、まず土地全体が1/6になると考えて差し支えありません)。

区分所有マンション家屋の課税

 地方税法の規定では、区分所有に係る家屋に対する固定資産税の課税は、区分所有に一棟の家屋を一括して評価したうえ、当該家屋の税額を算定し、その税額を各々の区分所有者に配分し、その額を各区分所有者の納付すべき税額とされます。

<区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税>
「地方税法第352条1項」
「1項 区分所有に係る家屋に対して課する固定資産税については、当該区分所有に係る家屋の建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分(以下この条及び次条において「専有部分」という。)に係る同法第2条第2項に規定する区分所有者(以下固定資産税について「区分所有者」という。)は、第10条の2第1項の規定にかかわらず、当該区分所有に係る家屋に係る固定資産税額を同法第14条第1項から第3項までの規定の例により算定した専有部分の床面積の割合(専有部分の天井の高さ、附帯設備の程度その他総務省令で定める事項について著しい差違がある場合には、その差違に応じて総務省令で定めるところにより当該割合を補正した割合)により按分した額を、当該各区分所有者の当該区分所有に係る家屋に係る固定資産税として納付する義務を負う。」

<共用部分の持分の割合>
「建物の区分所有等に関する法律第14条」
「1項 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
2項 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。
3項 前二項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。」

一棟家屋の評価額の算出

 区分所有者以外の家屋と同様に、固定資産評価基準を用いて一棟全体の1㎡当たりの再建築評点数を算出します。

各区分所有者の課税床面積の算出

 各区分所有の課税床面積は、次の算式により求めます。
 課税床面積=①「専有部分」の床面積 + ②共用面積の割合分

①「専有部分」の床面積
 この専有面積の床面積は、不動産登記法により定められた内壁で囲まれた部分の面積(内法面積)です。

② 共用面積の割合分
 共用面積は、一棟全体の床面積から各専有面積の合計を引いた床面積を、各専有面積の合計専有面積に対する割合に応じて按分した面積となります。

 つまり、区分所有マンションの専有部分の面積は、壁芯面積でも内法面積でもなく、「内法面積+共用面積の割合分」となりますので、購入したときの面積や不動産登記の面積より大きい面積となります。

区分所有マンションの課税明細書(例)

 ここで横浜市のホームページにある課税明細書(例)を紹介します。

 区分所有マンションの評価は、土地は区分所有者全員の共有(専有部分の持分割合)であり、家屋は所有者自身の専有部分と共用部分割合(専有部分の持分割合)との合計面積となっています。

 この課税明細書(例)では、土地面積は敷地全体の面積のみで、「敷地権の割合」は不動産登記簿で確認しないと分かりません。

 また、課税明細書のみでは課税床面積を形成する「共用部分の面積」も分からないことから、計算方法も課税した市長村に確認しないと分からないのです。
 
2022/06/09/19:00
 

 

(第63号)「家屋評価の簡素化」の検討と今後の在り方

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和7年4月)

 今回は、前回に続く「家屋評価の簡素化」の検討と今後の在り方についての説明です。

今までの「家屋評価の簡素化」の検討

  「家屋評価の簡素化」については、これまでも財団法人資産評価システム研究センター内の「固定資産税制度に関する調査研究委員会」や「家屋に関する調査研究委員会」等で検討がされてきています。

 そこで検討された主な評価方法は、取得価格方式、広域的比準評価方式、㎡単価方式で、それぞれのメリット、デメリットも指摘されています。

取得価格方式

 取得価格方式とは、事業用家屋について、申告された取得価格を基礎として、取得後の経過年数に応じた減価を考慮して評価する方式です。

 この取得価格方式については、「事業用家屋の評価事務の簡素化」や「申告を基本とするため、評価の透明性や納税者から理解が得られやすい」といったメリットがある一方で、「申告義務が課されることで、新たな負担が生じる」といったデメリットが指摘されています。

広域的比準評価方式

 広域的比準評価方式は、都道府県等の一定の地域内に所在する家屋を、その実態に応じ、構造、程度、規模等に区別し、各区分ごとに標準とすべき家屋を標準家屋として定め、そこから比準して評価する方式ですが、固定資産評価基準に定められている比準評価方法を広域的に適用しようとの方式です。

 この広域的比準評価方式については、「同様の家屋について広域的に均衡が図られる」、「現状の評価方法との差異が少なく、取り入れやすい」等のメリットがある一方で、「広域設定の基準が課題となる」、「対象家屋が類型化しやすいものに限定される」等のデメリットが指摘されています。

 なお、この広域的比準評価方式については、現在、多くの市長村で採用されつつあります。

㎡単価方式

 ㎡単価方式は、基準となる家屋の延べ床面積1㎡当たりの再建築評点数を再建築価格基準単価とし、これに補正率及び評価対象家屋の延べ床面積を乗ずることにより評価する方式です。

 この㎡単価方式については、「個々の自治体で、基準家屋を設定する必要がなく、事務の軽減につながる」、「同様の家屋について広域的に均衡が図られる」等のメリットがある一方で、「全国一律の家屋を設定した場合、地域的な要因を反映しにくい」、「部分別評価と比較し、乖離が生じる可能性が高い」等のデメリットが指摘されています。

取得価格方式を採用すべき

取得価格方式を採用すべき理由

 以上の簡素化検討の3方式については、長年検討がされてきていますが、未だに(広域的比準評価方式は別として)実現には至っていません。

 筆者としましては、家屋評価簡素化として検討されている3方式のうち「取得価格方式を採用すべき」と考えます。

 「取得価格方式を採用すべき」とする主な理由は次のとおりです。

(1)固定資産税はその名のとおり「資産税」ですので、事業用、非事業用にかかわらず実際に費やした費用を根拠にした取得価格方式が納税者にとっても理解しやすい評価方法になります

(2)これまでの検討の中での取得価格方式のデメリットとして「申告義務が課されることで、新たな負担が生じる」とあり、そのため事業用家屋に限って検討されています(事業用であれば法人税で税務署へ申告されるからとの理由です)が、現在の再建築価格方式においても、新築時の再建築評点数を評価する場合においては、所有者(建築主)から竣工図や見積書などの資料の提出を求めています。

 この取得価格方式では、償却資産と異なり「毎年の申告は必要なく」、家屋を新増築したときの申告ですので「不動産登記の申請」レベルと考えれば良い訳です。

(3)現在の家屋評価の問題点として、大都市以外の市町村では、大規模非木造家屋の評価を県(県税事務所)に委ねており、市町村において新築家屋評価の説明が十分に出来ないという問題があります。この取得価格方式を採用すれば、県に委任することも必要なくなります。

(4)上記の(1)~(3)からすると、取得価格方式は現実的で、家屋評価を行う市町村にとっても評価(事務)の簡素化を図ることができるでしょう。

採用すべき取得価格方式の内容

 現在の再建築価格方式では、計算した価格が結果として概ね取得価格の6~7割程度となっているようですので、取得価格方式では、取得価格に調整率を加え、経年減価補正率を乗じて評価額を求める方法となります。

<提案の取得価格方式>
 評価額 = 取得価格 × 調整率(※)× 経年減価補正率
※木造:6割、非木造:7割を想定

 この方法で進めるとなると、「申告課税方式」になり、また、既存家屋の在来家屋評価との不整合も生じる可能性も有りありますが、ここは長期的な視点から、大胆にこの取得価格方式を採用すべきではないかと考えます。
 
2022/06/08/13:00
 

 

(第62号)固定資産税の「家屋評価の簡素化」がなぜ必要か

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和7年3月)

 今回と次回は「家屋評価の簡素化について」ですが、今回では現在の方式(特に再建築価格方式)を中心に説明します。

 これまでのブログでも触れているとおり、現行の固定資産家屋の評価は、固定資産評価基準によって再建築価格方式により行われています。

再建築価格方式が決定された経緯

 この再建築価格方式が決定される経過は、昭和34年4月から昭和36年3月の間に「固定資産評価制度調査会」において、家屋の評価方法として、①再建築価格を基準として評価する方法、②取得価格を基準として評価する方法、③賃貸料の収益を基準として評価する方法、④売買実例価格を基準として評価する方法の4つの方法について検討された結果、①の再建築価格方式が採用されています。

 その理由として「再建築価格は、家屋の構成要素として基本的なものであり、その評価の方式化も比較的容易であるので再建築価格方式が適当であるため」とされています。

 この方式は、現行の固定資産評価基準が制定された昭和39年度から現在まで採用され続けている評価方法です。

<再建築価格方式の概要>

再建築価格方式の内容(復習)

 再建築価格方式は固定資産評価基準により、木造、非木造ともに次の3つの方法が規定されています。

部分別による再建築費評点数の算出方法

 部分別評価方法は、現在採用されている再建築価格方式の本来的な方法です。

 再建築価格方式は、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築価格)を求め、この再建築価格に時の経過等によって生ずる損耗の状況による減価を考慮し、必要に応じて需給事情による減価を考慮して家屋の価格を算出します。

 この方式は、用途別区分(木造13種類、非木造9種類)及び部分別区分(木造11種類、非木造14種類)により、再建築費評点基準表により再建築費表点数を算出するなど、大変複雑で「課税誤り」の原因ともなっています。

※令和6基準年度から、用途別区分(木造7種類、非木造9種類)、部分別区分(木造10種類、非木造11種類)に簡素化されました。

 また、この実施においては、評価担当者の相当数の確保や建築構法と建築資材等に関する知識、評価実務経験を得るための相応の期間が必要不可欠となりますが、最近では、市町村職員の人事異動のサイクルが短くなる傾向にあり、この部分別評価方法の習得環境も厳しくなっています。

比準による再建築費評点数の算出方法

 比準評価方法は、上記の部分別評価方法の煩雑さを軽減し、評価事務の簡素化を図る目的として固定資産評価基準で位置づけられました。

 この比準評価方法は、市町村で標準家屋を設定して、新築家屋をこの標準家屋の部分別建築費表点数に比準して求める方法ですが、現在、主に木造や軽量鉄骨造の住宅系家屋で主に採用されています。

在来分の家屋に係る再建築費評点数の算出方法

 在来分評価方法は中古家屋の評価方法となっており、既に算出されている前評価基準による再建築費表点数に対し、資材費等の価格の変動割合を基礎として定められた再建築費評点補正率を乗じることにより、基準年度の再建築費表点数を求める方法です。

再建築価格方式の課題(簡素化)

 再建築価格方式は、これまでも指摘してきましたが、主に次の点が課題(問題点)としてあげられています。
(1)自治体において資材内容や補正等について判断する部分が多く、自治体間の均衡が図りにくい。
(2)評価事務が繁雑で、多くの人件費を要する。
(3)納税者の視点から見たときに、制度が複雑で分かりにくく、取得価格との差が大きい場合に理解が得られにくい。
(4)昨今では、建築資材、建築工法等の進化、家屋の多様化、複雑化、大規模化が進んでおり建築技術等も進んでいて、現在の評価方法は制度疲労を起こしつつある。

 なお、家屋評価の再建築価格方式が複雑過ぎて課税誤りの原因にもなっていることについては、第39号と第40号に掲載してありますので、そちらをご覧ください。

 

不動産鑑定における建物評価(原価法)

不動産鑑定評価(建物の原価法)

 不動産鑑定評価では、建物(※)の評価方法の一つに原価法があります。
(※鑑定評価では「家屋」の用語は用いません。)
 原価法では、中古建物又は土地・建物一体の評価が一般的ですが、建物の新築相当額を求める考え方は、固定資産評価基準の再建築価格方式とほぼ同じ考え方です。

 不動産鑑定評価の原価法では、再調達原価額から減価額を控除して積算価格を求めます。

① 再調達原価……再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額を言います。建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めます。

 しかし、不動産鑑定評価の場合は、大量・画一的な評価ではないため、固定資産評価基準のような「基準」はなく、不動産鑑定士が案件ごとに必要な分析と建築専門家等の意見等を参考にして、再調達価格を査定し、延床面積を乗ずることにより再調達原価とします。

② 減価額……建物の減価額の査定として、耐用年数に基づく方法と観察減価法の2つの方法があり、原則として併用します。

 耐用年数に基づく方法の場合は、新築時からの経過年数と経済的残存耐用年数から査定します。経済的残存耐用年数とは、仮に法定耐用年数が残り5年であっても、対象建物が実際に今後何年使用可能か(例えば10年)との観点から査定します。観察減価法は、不動産鑑定士が対象建物を実際に現地で観察して査定します。

③ 積算価格の決定……①の再調達原価額から②の控除額を控除して積算価格を試算します。

不動産鑑定評価で固定資産評価を修正できるか

 問題は、では「不動産鑑定評価で固定資産家屋評価の価格を修正することが可能か」ということです。

 固定資産評価の訴訟で不動産鑑定評価を用いて争っている事例はそれなりにあります。しかし、地方裁判所と高等裁判所で不動産鑑定書による修正が認められたケースはありますが、最高裁判所においては認められていない、というのが現状です。

 代表的な最高裁判決は平成15年7月18日の「審査決定取消請求事件」ですが、札幌高等裁判所までは不動産鑑定書が認められましたが、最高裁判所の判決においては、「不動産鑑定士の評価額ではなく固定資産評価基準による価格が『適正な時価』である」とされ札幌高等裁判所に破棄差戻しされています。

※平成15年7月最高裁判決の要旨
「固定資産評価基準に定める方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情」または「評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情」が存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。
納税者の鑑定評価書は、再調達原価と残価率の根拠をあきらかにしていないため、特別の事情があるということはできない。」

固定資産税評価基準の法的拘束性

 では、何故これほどまで固定資産評価基準が基本と考えられるのでしょうか。

 この理由は、これまでも指摘してきましたが、地方税法に固定資産評価基準が規定されており、法的拘束力があるためです。

(土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準)
「地方税法349条1項」
「基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものとする。」

(固定資産税に係る総務大臣の任務)
「同法388条1項」
「総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。この場合において、固定資産評価基準には、その細目に関する事項について道府県知事が定めなければならない旨を定めることができる。」

(固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務)
「同法403条1項」
「市町村長は、第389条又は第743条の規定によって道府県知事又は総務大臣が固定資産を評価する場合を除く外、第388条第1項の固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない。」

 つまり、市町村長は総務大臣により告示された固定資産評価基準により、固定資産税の評価額(価格)を決定しなければならないのです。

 この403条1項は、かつて(昭和37年以前)は「固定資産評価基準に準じて」決定すべきとなっていましたが、現行は「固定資産評価基準によって」決定しなければならないとされており、固定資産税の評価額決定に対する固定資産評価基準の法的拘束力がより強まっている訳です。
 
2022/06/08/11:00
 

 

(第61号)固定資産税評価の問題点は何か、また、どのように改善すべきか

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和7年3月)

 今回は、固定資産税評価の問題点と若干の提言をさせていただきます。

 それと、不動産鑑定士は地価公示と地価調査の評価とともに固定資産税の土地評価では標準宅地の評価も担っていますが、では、固定資産税での個別土地や家屋の不動産鑑定評価が可能なのか、の解説です。

 なお、土地評価での不動産鑑定士の役割については第35号「固定資産税土地評価における不動産鑑定士の役割」で紹介しています。

 

固定資産税評価の問題提起

課税誤りは家屋の方が多い

 固定資産税の土地と家屋は賦課課税で、市町村の課税当局が一方的に評価し課税していますが、評価・課税誤りでは「家屋の方が多い」というのが率直な感想です。

 土地の評価・課税誤りとしては、例えば住宅用地の見逃しや負担調整措置の認定誤り、画地計算の誤り等が見られます。最近の相談の中では、無道路地であるのにその評価が適用されていなかったケースや太陽光発電施設用地(市町村により評価レベルが様々)があります。

 しかし、土地の場合は現地確認が可能ですので、所有者(代理人)も課税当局とともに確認できる可能性が高いところが家屋とは違います。

 一方、家屋の場合は、評価方法(再建築価格方式)が非常に複雑で難しく課税誤りの原因ともなっています。

新築時の家屋評価データが廃棄されている

 また、新築時の家屋評価の検証が必要であるにもかかわらず、市町村によっては「古い家屋の評価データは廃棄してありません」と回答される場合があります。

 こうなると、その家屋の評価を検証することが不可能となります。それはすなわち、課税当局も評価が正しいかどうかを所有者に説明できないということにもなるのです。そのため、「審査の申出」に対しても『在来家屋評価が正しく行われているため問題ありません』との棄却決定がなされているのです。

 最近相談を受けた件で、課税当局から「評価データは廃棄してありませんが、評価は正しく行っています。もし価格が高いと主張されるなら、所有者の方で証明してください。」と無茶苦茶なことを言われました。この発言は行政としては完全に「アウト」です。正しく評価しているならばその内容を説明しなければなりません。

大規模非木造家屋の評価は県が担当

 また、大都市でない市町村の非木造で一定規模以上(500㎡以上が多い)の家屋評価を道府県(県税事務所)に委ねていることから、市町村では、その家屋の新築時の評価を十分に説明出来ないというのも現実としてあります。

 なぜ道府県税事務所が家屋評価を担当しているのかということですが、道府県税事務所では新築家屋の不動産取得税を課税していることから、道府県と市町村との協定により行われています。

 家屋評価そのものは同一でも良いのですし、地方税法にも「道府県知事が市町村長に通知した価格があるときは、その価格に基づいて評価しなければならない」(409条2項)とあります。しかし、固定資産税と不動産取得税とは課税内容、なかでも課税期間(固定資産税の非木造家屋は数10年間課税)が大きく異なります。

固定資産税評価に対する「提言」

 そこで、これまでの経験から、固定資産税評価に関する「提言」をさせていただきます。

家屋の新築時評価データは廃棄しないこと

 家屋については、新築時の評価データは廃棄せずに固定資産税の課税中は保存していただきたいことです。

 市町村では、文書の保存年限の規定がありますが、固定資産家屋の評価データについては「永年保存」か「課税中の保存」にしていただきたいということです。

 最近では、評価も電子データ化されていますので、今後については、この選択は難しいものではありません。

家屋評価の簡素化を図ること

 そして何よりも、固定資産税の家屋評価については、現在の評価方式が複雑過ぎるため、この複雑な再建築価格方式を見直して「評価の簡素化」を図っていただきたいことです。

 固定資産家屋の評価方法については、これまでも総務省、財団法人資産評価システム研究センターを中心に各市町村とともに、「固定資産税家屋評価の簡素化」を検討してきていますが、未だ簡素化の結論には達していないのが現状です。

 最近では、家屋評価にIT化を導入、あるいは民間企業へ委託している市町村もあるようですが、これは評価担当者にとっての簡素化になる部分はありますが、目指すべきは「固定資産税家屋評価の簡素化」=「分かり易い評価内容」ですので、少し方向性が異なるようにも感じます。

 筆者は、家屋評価の方式として「取得価格方式を採用すべき」と主張していますが、この方式であれば大規模非木造家屋の評価であっても道府県(県税事務所)に委任せずに済みます。

大規模画地評価の基準を検討すべきこと

 土地の固定資産税評価でもいくつかありますが、面積の大きな土地(大規模画地)補正が固定資産評価基準に無く奥行価格補正で足りるとされていることは問題で、画地計算法に大規模画地補正を入れていただきたいことです。

 大規模画地になれば、市場流通性の観点からすると、総額が嵩むことや潰れ地が生じること等からすると、大きな減価要因となります。これは、奥行価格補正の適用のみでは不足していることは間違いありません。

鑑定評価で固定資産税の見直しが可能か

 そもそも不動産鑑定士は、固定資産税の土地については、標準宅地の鑑定評価や地価公示、地価調査を担当していますので、固定資産税評価の基本的な部分を担っていることには間違いありません。

 しかしそれではと、個別の土地、家屋の「固定資産税が高いので安くしよう」と役所の窓口に鑑定評価書を提出して交渉しても、直ちにその鑑定評価額が採用される訳ではありません。

 固定資産税は市町村が一方的に評価・課税を決定する賦課課税方式でして、その評価の根拠は固定資産評価基準によります。土地と家屋のほぼ全筆・全家屋を評価・課税するため、評価の統一・均衡を確保する必要があり、固定資産評価基準によることが義務付けられているからです。

<固定資産税に係る総務大臣の任務>
「地方税法第388条」
「総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」

<固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務>
「地方税法第403条」
「市町村長は、(中略)固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。」

 このため、個別の土地の固定資産評価の是正については、不動産鑑定書による是正ではなく、あくまでも固定資産評価基準の適用の誤り等を正す方法が原則となります。

 また、家屋の評価においても、再建築価格方式という膨大な固定資産評価基準によって評価されていますので、不動産鑑定士が鑑定評価書で家屋の固定資産税を是正することはまず困難な状態にあります。

 「それでは固定資産評価基準が絶対なのか」と言うと、必ずしもそれも正しくはありません。

 例えば土地の価格が固定資産評価基準どおりに評価されていたとしても、「賦課期日における客観的な交換価値を上回る価格を算定することまでも委ねたものではない」との最高裁の判決もあります(平成15年6月判決)。

※ この問題につきましては、後日改めて説明いたします。
 
2022/06/07/13:00
 

 

(第60号)「固定資産税が高い・間違っている」と思ったときの対応方法は

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和7年3月)

 今回は「固定資産税の価格が高い」あるいは「評価が間違っているか」と思ったときは、どのような対応をしたら良いのかについて解説します。

 同様なタイトルは第33号「固定資産税の価格(評価額)に不服(評価誤り)がある場合の手続き(「審査の申出」)」でも記載しましたが、今回は、筆者が民間コンサルタントとして、納税者の皆様からのご相談や各市町村と交渉してきた経験等から、気づいた点や「提言」等をさせていただきます。

 

市町村から審査申出が勧められる

地方税法では「審査申出ができる」

 地方税法では、「固定資産税の価格に不服がある場合は、「審査の申出」ができるとあり、これが地方税法上の原則であります。

 市町村の窓口に行くと、「価格に不服があるならば、納税通知書が送られてくるので、3ヶ月以内に「審査の申出」ができるのでそちらでお願いします」などと“門前払い”をされる場合があります。
※納税通知書は毎年送られてきますが、「審査の申出」ができるのは、通常3年毎の基準年度に限られます。

 それではと「審査の申出」を行った場合どうなるでしょうか。

「審査の申出」の棄却決定がほとんど

 「審査の申出」は第三者機関である固定資産評価審査委員会に対して行い、そこで審査・決定がされますが、実質的には課税当局の弁明(言いなり)どおりの決定(棄却される)がほとんどというのが実態です。

 この「審査の申出」の棄却決定に「あとはどうすれば良いのでしょうか」と課税当局に聞くと「決定に不服があるならば6ヵ月以内に訴訟を提起できますので、そちらでお願いします」と『そっけない返事』がほとんどです。

 訴訟ともなると、弁護士を探しそれなりの費用がかかることになりますが、納税者としては事実上『打つ手無し』という状態にもなってしまいます。

 民間コンサルタントとして、既に「審査の申出」を行って「棄却」決定された納税者の方々からのご相談によりますと、「こちらの要求した内容にほとんど答えてもらえていない」との「苦情」がかなりあります。

 実際に申出書、弁明書、決定書等を見せていただくと、確かに「審査の申出」の決定が納税者の要望に答えていないものが、それなりにあります。

 例えば、所有しているビルの評価額が自己所有の他のビルより相当高い理由は何か、新築当初の評価内容から説明して欲しいと求めたものの、審査では「在来(中古)家屋の評価」(前年度の評価が正しいとの前提で評価される)により棄却決定された等、いくつか筆者に相談が寄せられています。

 従って課税当局の「審査申出でお願いします」との言葉に安易に従ってはいけません。
 「固定資産税の価格が高い」あるいは「評価が間違っている」と思ったときは、まず市町村の課税当局に確認し、交渉することをお勧めします。

 なぜなら、課税当局が気がついていない「課税誤り」があるかも分からないですし、実際にこれまでもそのような事例が存在しています。

 ただし、「審査の申出」の結果のすべてが「棄却」となる訳ではなく「容認」もありますが、筆者の実感としては「棄却」の可能性の率が高いと思います。

まず課税当局に確認し交渉する

 市町村の課税当局には、いま課税している固定資産税の評価内容に間違いがないかを確認し、所有者に説明する義務と責任があります。

 そもそも固定資産税は所有者の申告に基づかず、行政が一方的に評価・課税する“賦課課税方式”なのですので、所有者は評価の具体的内容まで分からないのです。

 もっとも、家屋の場合については、大規模非木造家屋の評価を県に委任していることから、市町村の担当者でも十分に説明できないという場面に出会うこともありますが。

地方税法第417条の「重大な錯誤」

 地方税法第417条1項では、仮に決定された価格に「重大な錯誤」があった場合には直ちにこれを修正しなければならないとされています。

この「重大な錯誤」の例としては、「課税台帳に登録の際の誤記」「計算単位のとり違い」「課税客体の明瞭な誤り」「価格の決定に重要な誤り」等とされています。

<固定資産の価格等は修正等(中略)>
「地方税法第417条」」
「市町村長は、登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産の価格と均衡を失しないように価格等を決定し、又は決定された価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録しなければならない。(一部略)」

 そうなると、課税当局は「正しく評価・課税している」と考えていても、納税者から申し出があった場合には確認してみることが必要ですし、納税者に対しては、資料(「評価計算書」等)により丁寧に説明する義務があります。

 納税者がどうしてもこの価格には納得がいかないので、市町村の担当課に相談したところ、実は「重大な錯誤」であったと判明したというケースも実際にあります。

 所有者の方から「固定資産税の評価内容を細かく説明されても良く分からない」とのご相談がありますが、この場合には、固定資産税評価に詳しいコンサルタント等に相談してください。

※ただし「委任は弁護士と税理士以外は認めない」という市町村もありますので注意が必要です。東京23区がそうですが、その理由は「弁護士法・税理士法の趣旨に反するから」とのことです。しかし、他の多くの市町村では弁護士、税理士以外の代理を認めています。(「審査の申出」では、弁護士、税理士以外の代理も認められています。)

「重大な錯誤」であれば10年から20年間の還付

 そして、仮に「重大な錯誤」があり価格等が修正されるとなると、過徴収金の還付ということになりますが、地方税法での還付金の消滅時効は5年ですが(地方税法第18条の3)、「重大な錯誤」による課税誤りがあった場合には、市町村の「過徴収金返還要綱」(市町村により名称が異なる)により、10年間あるいは20年間遡って返還されるということになります。
(5年間分は「還付金」でそれ以上の期間の返還は「補填金」となります。)

 この「過徴収金返還要綱」によると、「重大な錯誤」による誤りがあった場合、固定資産税の課税台帳の保存期間である10年間を原則として、領収書等により確認できる場合は20年間返還することができるとされています(この「領収書等により確認」も問題ですが)。

 「過徴収金返還要綱」は、市町村が独自に定めているもので、全国でも約7割程度の市町村で実施されていると言われていましたが、最近では廃止している市町村もあるようです。

 

必要に応じての法的手続き

 課税当局と直接話し合っても”埒があかない”という段階になった場合は、(必要に応じて)法的な手続きを採用することになります。

 いずれにしても、固定資産税の価格に不服がある場合は、直ぐに審査申出をするのではなく、詳しいコンサルタント等に相談されることをお勧めいたします。
 
2022/06/07/09:00