(第117号)「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因及びコンサルタントとしての「意見」

 
(投稿・令和4年12月-見直し・令和6年8月)

 今回は、「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因と、筆者の行政での経験やコンサルタントとしての実践から、率直な疑問と意見をさせていただきます。

固定資産税はなぜ理解し難いのか

 
 ところで、「固定資産税の仕組み」は何故十分に理解されていないのでしょうか。

 この「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因は様々ありますが、大きな原因は
(1)土地と家屋は「賦課課税方式」であること
(2)土地と家屋の「評価方法が複雑」なこと
が考えられます。
 これに対して償却資産は「申告課税方式」ですが、こちらの問題点としては
(3)家屋と償却資産の二重課税、があります。

土地と家屋は「賦課課税方式」

 
 固定資産税の土地と家屋の評価方法は、固定資産評価基準に基づき行われることとされています。そして、毎年、納税通知書とともに課税明細書が送られてきますが、これを見てもよく分かりません。

 これは、土地と家屋は基本的に全国全ての資産を対象とするため、納税者の申告によらず役所が一方的に評価・課税する「賦課課税方式」によることが大きな原因で、納税者からすると、評価の内容(計算方法)までは分からないのです。

 ここで大事なことは、市町村の課税当局としては、毎年の課税明細書の発送や縦覧・閲覧制度が行われていますが、納税者から説明を求められた場合には、地方税法417条の「重大な錯誤」があるかどうかを確認した上で、内容を納税者に十分説明するべきなのです。

 ところが、納税者からの説明では、市町村の窓口で「価格に不服があるのなら、審査申出でお願いします」と言われて、事実上「門前払い」にされてしまう場合もあるそうなのです。

土地と家屋の「評価方法が複雑」

土地は「負担調整措置」が原因

 土地の評価方法については、平成9年度から行われている土地の「負担調整措置」の仕組みにより分かりにくくなっているのが現状です。

 本来であれば、課税(基準)年度の課税標準額に税率を乗じて税額を求める訳ですが、負担水準(前年度課税標準額/本則課税標準額)の値により、課税年度の課税標準額が決められるという複雑な内容になっています。

 
 「負担調整措置」制度がスタートしてから四半世紀が経っていますが、非住宅用地(商業地等)の据置ゾーンによる不公平や、住宅用地での負担水準が100に近づいている土地も多くなっている(これは統計が無いため推測です)など、そろそろ見直す時期ではないでしょうか。

家屋は「再建築価格方式が」が複雑

 また家屋については、「再建築価格方式」という極めて複雑な評価方法が採用されていることです。

 「再建築価格方式」とは、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築価格)を求める方法です。

 この家屋の「再建築価格方式」は、固定資産評価基準による評価方式が始まって以来継続されています。

 「再建築価格方式」が決定される経過は、昭和34年4月から昭和36年3月の間に固定資産評価制度調査会において、家屋の評価方法として
再建築価格を基準として評価する方法
取得価格を基準として評価する方法
賃貸料の収益を基準として評価する方法
売買実例価格を基準として評価する方法
の4つの方法について検討されましたが、その結果、の「再建築価格方式」が採用され今日に至っています。

 その理由として、再建築価格は、家屋の構成要素として基本的なものであり、その評価の方式化も比較的容易であるので、「再建築価格方式」が適当であるとして決定された訳です。

 これまでも、家屋評価の簡素化については、総務省及び一般財団法人資産評価システム研究センターを中心に検討されてきていますが、あくまでも「再建築価格方式」枠内の簡素化検討に終始しているのではないかと思わざるを得ません。

 さらに最近では、家屋評価のAI化が図られたり(これ自体は良いことですが)、民間業者へ委託するなどがされ始めています。これは、職員の作業の簡素化(合理化)であって、家屋評価方式の簡素化とは異なります。

家屋と償却資産の二重課税に注意

 
 償却資産は「申告課税方式」なのですが、「家屋=賦課課税、償却資産=申告課税」のため、家屋の一部がダブって課税される二重課税(課税誤り)もある、ということですので注意が必要です。

 この内容は第66号「家屋と償却資産の二重課税(課税誤り)に注意(「建築設備」の場合)」で紹介してあります。

 

固定資産税評価に関する疑問点と意見

 
 固定資産税評価に関する疑問等はいくつかありますが、今回は(1)土地の「適正な時価=交換価値」で良いのか、(2)在来(中古)家屋評価が何故下がらないのか、(3)家屋の評価は「再建築価格方式」で良いのか、の3点について説明します。

(1)土地の「適正な時価=交換価値」で良いのか

 まず地方税法では「固定資産税の価格とは」との説明があり、「価格=適正な時価」と定義されています(地方税法第341条5号)。

<固定資産税の価格とは>ー地方税法第341条5号
「固定資産税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 5号 価格 適正な時価をいう。」
 
 そして、平成15年6月26日の最高裁判決で、「適正な時価とは……客観的な交換価値をいう」との見解が出され、土地の「適正な時価=客観的交換価値」とされています。

<平成15年6月26日最高裁判決>
「適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地課税台帳に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法となる。」
 
 ところで、「交換価値」となると、土地評価においては「市場流通性(※)」の要素が含まれるのが一般的である訳ですが、固定資産評価基準では、例えば大規模画地評価は「奥行価格補正で足りる」として「市場流通性」が考慮はされていません。これでは「適正な時価=客観的な交換価値」に疑問を呈さざるを得ません。

※「市場流通性」とは……土地の売買においては、面積が大きくなるに従って総額が嵩むためその分単価が小さくなるという「不動産取引の世界」では一般的な考え方です。

 
 固定資産税の評価は、「保有価値」に着目した「資産税」である訳ですから、「交換価値」ではなく「使用価値」とすべきではないでしょうか。「適正な時価=使用価値」です。

(2)在来(中古)家屋評価が何故下がらないのか

 相談者の方から「何故、中古家屋の評価額(税額)が下がらないのですか」とよく聞かれますが、その原因は次の2つ考えられます。

建設物価の上昇期には「評価額の据置」が行われること

 現在の「再建築価格方式」では、在来(中古)家屋の評価において、築後の経過年数(「経年減点補正率」)だけでなく、建設物価の状況(「再建築費評点補正率」)により物価上昇期には「評価額据置」が行われています。

<建設物価による家屋評価の上下> 

 この図のとおり、単に築年数の減価だけではなく、「前年度における再建築費評点数」に「再建築費評点補正率」(工事原価の物価水準)も関連づけて評価されているため、築年数を経るに従って単に評価額が下がる仕組みにはなっていません。

 右側の<物価上昇期>には、経年による減価は下がるものの、建設物価の上昇が大きく、計算上では前基準年度の評価額を上回る場合もあります。

 しかし、固定資産税の評価額を上げる訳にはいかないために「評価額据置」(前基準年度と同じ評価額)となりますが、これが「在来家屋の評価が下がっていない」仕組みである訳です。

 ところで、「再建築費評点補正率」とは、東京都特別区の工事原価の物価水準で3年前の水準と比較してどの程度上下しているのかその割合ということになります。

 令和6年度では、木造1.11、非木造1.07とされており上昇していることになります。実は、この再建築費評点補正率は、ここ4基準年度(12年間)上がり続けているのです。

<再建築費評点補正率の推移>

 一般的には、家屋は築年数が経過するにつれて評価が下がっていくと考えられていますが、「評価額据置」はこの感覚には合わないものでもあります。

 つまり、在来(中古)家屋の評価において、「再建築費評点補正率(建設物価)」は「必要無い」のではと思います

固定資産税家屋の評価では「残価率(20%)」があること

 固定資産税の家屋評価では、もう一つ「残価率」という特徴があります。
 それは、家屋が存在している限りは、築年数が何年経っても「20%の評価額が続く」ということです。

<家屋評価の残価率>

 この図で固定資産税の取得価格(出発点)が60%としていますが、これは家屋の新築評価を行ったときの「実績」として、取得価格の60~70%程度に収まっているケースが多いことからです。

 このように、固定資産税家屋評価では、家屋を使用し続けている限りは何年経っても「残価率20%」が課税されています。

 なお、家屋が「空き家」として放置されるのは良く無いことですが、固定資産税は「行政サービスの対価」との性格がありますので、「20%が良いかどうかは別」として、一定の「残価率」は必要ではないかと思います。

(3)家屋の評価は「再建築価格方式」で良いのか

 そこで、家屋評価の簡素化としては、この際「再建築価格方式」の枠を超えて検討すべきであり、筆者の「意見」としては「『取得価格方式』を採用すべき」ではないかと考えます。

 
 固定資産税はその名のとおり「資産税」ですので、事業用、非事業用にかかわらず実際に費やした費用を根拠にした「取得価格方式」が納税者にとっても理解しやすい評価方法になります。

 現在の「再建築価格方式」では、計算した価格が結果として概ね取得価格の6~7割程度となっていますので、「取得価格方式」では、取得価格に6~7割の調整率を加え、経年減価補正率を乗じて評価額を求める方法です。

<「取得価格方式」の内容>
 評価額 = 取得価格 × 調整率(※)× 経年減価補正率
 ※木造:6割、非木造:7割を想定

 もちろん家屋評価方式の変更は、これまでの評価方法との整合性等課題が多く問題が多いことは承知しています。

 しかし、ここは長期的視点に立って評価の簡素化を図るべきで、「取得価格方式」によれば市町村での評価実務も簡素化され、「課税誤り」も少なくなるものと考えられます。

※ なお、取得価格とは「新築時の購入価格」又は「建築費用」ですが、取得価格を申告することになりますので、それが正しいものであることが立証できる仕組みを構築する必要があります。
 
2024/08/15/08:00
 

 

(第116号)固定資産税家屋の再建築費基準表の改正(用途別・部分別の整理統合)ー令和6基準年度

 
(投稿・令和6年4月-見直し・令和6年8月)

 今回は、令和6基準年度に改正された家屋の再建築費基準表、その中でも用途別区分と部分別区分の整理・統合を紹介します。

家屋評価はなぜ難しいのか

 固定資産税の家屋評価は「再建築価格方式」が採用されており、これは実際にその家屋をいくらで建築したのか、あるいはいくらで取得したのか(取得費)とは異なるものです。

 あくまでも、固定資産評価基準により決められた再建築費基準表により再建築評点数を算出し評価計算をします。

 とにかく固定資産税家屋の評価で一番難しいのは、固定資産評価基準の再建築費基準表により新築時の再建築費評点数を算出することなのです。

 なお、第39号「家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(1)」及び第40号「家屋評価「再建築価格方式」の複雑な評価方法について(2)」で、令和3基準年度における「再建築価格方式」を説明しています。

 
 ところで、なぜ新築時の家屋評価が難しいのか、第111号「固定資産税の家屋がなぜ分かりにくく「課税誤り」が多いのか」から一部を再掲します。

 
 「再建築費評点数」を求めるためには「当該新築家屋の内容を把握する」ことが必要になるため次の作業を行います。

  家屋所有者に調査協力を依頼し、新築家屋の見積書や竣工図等を借用し情報を取得します。
  実際に当該家屋に赴き、用途別区分とともに家屋の外観や内部の使用資材等を確認します。
  借用・保存した見積書等から評価基準の部分別区分に照らして、必要な資材を拾い出し部分別分類を行います。.
  その上で、市町村が有する評価システムに評価基準の評点項目と使用資材量の数値を入力して評点数を算出します。

 いかがでしょうか、大変ですが評価基準による再建築価格方式は、このような手順が必要とされているのです。

令和6基準年度の用途別区分 

 家屋は、固定資産評価基準で木造家屋と非木造家屋とに区分され、その木造、非木造家屋それぞれに、再建築費評点基準表による用途別区分と部分別区分が規定されています。

 まず用途別区分ですが、令和3基準年度では木造家屋が13種類、非木造家屋が9種類に分類されていましたが、令和6基準年度では木造家屋が7種類、非木造家屋が9種類に整理統合されています。 

木造家屋の用途別区分

 木造家屋の用途別区分では、「併用住宅用建物」が廃止されましたが、全国ベースでの適用件数が少ないことからです。

 また、「専用住宅用建物」と「附属家用建物」が統合されて「戸建形式住宅用建物」とされましたが、附属家であっても建築基準法に基づき母屋である「戸建形式住宅用建物」と同等の施工量が必要となることを踏まえたものからです。

<木造家屋の用途別区分の整理統合>

 

非木造家屋の用途別区分

 非木造家屋の用途別区分では、「住宅、アパート用建物」を「戸建形式住宅用建物」と「集合形式住宅用建物」に分類することで、木造家屋と共通化されています。

<非木造家屋の用途別区分の整理統合>

 

令和6基準年度の部分別区分 

 部分別区分では、令和3基準年度の木造家屋が11種類、非木造家屋が14種類とされていましたが、令和6基準年度では、木造家屋が10種類、非木造家屋が11種類に整理統合されました。

<木造家屋の部分別区分(10種類)>
(1) 構造部
(ア)主体構造部、(イ)基礎
(2)外壁仕上、(3)内壁仕上、(4)床仕上、(5)天井仕上、(6)屋根仕上、(7)建具、(8)建築設備、(9)仮設工事、(10)その他工事

<非木造家屋の部分別区分(11種類)>
(1) 構造部
(ア)主体構造部、(イ)基礎工事、(ウ)外周壁骨組、(エ)間仕切骨組み
(2)外壁仕上、(3)内壁仕上、(4)床仕上、(5)天井仕上、(6)屋根仕上、(7)建具、(8)特殊設備、(9)建築設備、(10)仮設工事、(11)その他工事

家屋再建築費評点基準表(例) 

 今回は、固定資産税家屋の「再建築価格方式」が如何に複雑で、新築時の評価作業が大変なのかを分かっていただくために、敢えて再建築費評点基準表の一部を掲載することにしました。

 ここに掲載するのは木造家屋の「戸建形式住宅用建物」の再建築費評点基準表です。

 「戸建形式住宅用建物」だけでも、次のとおりA4版の7ページになりますが、用途別区分では木造7種類、非木造9種類になりますので、如何に大変かがお分かりになると思います。

<木造家屋再建築費評点基準表>
 (戸建形式住宅用建物)







 
2024/4/29/14:00
 

 

(第115号)固定資産税の価格に不服がある場合の留意点-その2(「訴訟対応」)

 
(投稿・令和6年4月-見直し・令和6年8月)

 前号は、「価格に不服がある場合の留意点-その1(審査の申出)」でしたが、今号は、この「審査の申出」の審査決定に対しても納得がいかない場合の法的措置(訴訟対応)についてです。

 なお、「審査の申出」から訴訟への手続については、第33号でも解説していますが、固定資産税の価格に不服があり「審査の申出」が出来るのは3年に1度の基準年度(評価替え年度)に限られているからです(令和6年度、9年度、12年度…)。

 

訴訟には「審査請求前置主義」が

 まず固定資産税の価格に不服がある場合は、納税通知書の交付を受けた日の翌日から起算して3ヵ月以内に固定資産評価審査委員会へ「審査の申出」を行うことができます。

取消訴訟は「審査の申出」裁決から6ヵ月以内

 そして、固定資産評価審査委員会の決定に不服がある場合に取消訴訟を提起できることになります。

 出訴期間は、「審査の申出」の裁決があったことを知った日から6ヵ月以内とされています。

<出訴期間>
※行政事件訴訟法14条1項
「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から6ヵ月を経過したときは、提起することができない。」

 このように、地方税法による原則的な手続は、裁判所に訴える前に、まず固定資産評価審査委員会に「審査の申出」を行う必要があります。これを「審査請求前置主義」と言います。

<審査請求前置主義>
※地方税法434条1項
「固定資産税の納税者は、固定資産評価審査委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる。」

国家賠償法での訴訟対応も

 地方税法では、このように取消訴訟を提起する前には「審査の申出」が必要とされています。

最高裁の判決-国家賠償請求が可能

 ところが、平成22年6月3日の最高裁判決において、「行政に過失があった場合には、取消訴訟の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得る」(要約)との判断がなされています。

<最高裁判決>
※平成22年6月3日(第一小法廷)
「公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」

 これは「通常尽くすべき注意義務が尽くされていない」=過失があった場合には、審査の申出を経ないで国家賠償請求をすることができるということです。

 この法的根拠は国家賠償法第1条になります。

<国家賠償法>
「第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」

「過失」は最高20年間の返還請求

 そこで、「過失とは何か」ということですが、これは「手抜きがあった場合」と解されています。

 そして、過徴収金返還の時効は20年になりますが、これは民法第724条によります。

<不法行為による損害賠償請求権の消滅時効>
※民法第724条
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。」

 つまり、国家賠償請求が認められた場合には、民法により最高20年の返還請求が可能となる訳です。

 最高20年間の返還期間になりますと、地方税法上の5年間の「還付金」と残りの15年間の「返還金(補填金))となります。

 この最高裁の判断は、地方税法を超えた最高20年間の返還期間ということですが、実は全国の市町村では、訴訟が無くても「過失」があったと認めた場合には20年間の返還も実施されているのです。

地方税法417条による価格の修正

「重大な錯誤」があれば直ちに修正が必要

 これは、そもそも固定資産課税台帳に登録された価格に「重大な錯誤」があることを発見した場合には、直ちにこの価格を修正しなければならないとされているからです。

<価格等の決定又は修正等>
※地方税法417条1項
「市町村長は、…登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに…決定された価格等を修正しなければならない。」

 この「重大な錯誤」とは、
① 固定資産課税台帳に登録する際の誤記
価格を決定する際の計算間違い
明瞭な誤記又は認定の誤り等、客観的に見て価格の決定に重大な誤りがあると認められるような場合
 とされています。

 つまり、市町村の課税当局は、「審査の申出」や訴訟の決定を待つのではなく、「重大な誤り」があれば、自ら是正する必要があるのです。

 納税者の皆さんは、固定資産税の価格に不服がある場合は、安易に訴訟を提起するのではなく、この地方税法417条の制度を価格是正の手続きとして考えるべきなのです。
 
2024/4/19/16:00
 

 

(第114号)固定資産税の価格に不服がある場合の留意点-その1(「審査の申出」)

 
(投稿・令和6年4月-見直し・令和6年8月)

 今年度(平成6年度)は、3年に1度の固定資産税の基準(評価替え)年度にあたり「審査の申出」が可能な年度になります。そこで、「縦覧」とともに、価格に不服がある場合の「審査の申出」の際には、どのような点に留意すべきかを説明します。

 なお、「縦覧」と「閲覧」制度については、前号(第113号)「固定資産税の『縦覧』と『閲覧』制度について」をご覧ください。

「審査の申出」は価格に対する不服

 固定資産税の価格に対して不服がある場合、一定期間内に不服審査の申し出(以下「審査の申出」)を行うことができます。

 この「審査の申出」は、納税通知書を受け取った日の翌日から起算して3ヵ月以内に市町村に設置された固定資産評価審査委員会に対して行うことができます。

<基準年度の年間スケジュール>

 ところで、この「審査の申出」はあくまでも価格に対する不服ですが、価格以外の処分、例えば「固定資産税の課税処分など」に対する不服は、その処分を行った市長村長に「審査請求」をすることが出来ます。

※「審査請求」の内容については、第96号「固定資産税に不服がある場合の手続きは、「審査の申出」(価格)と「審査請求」(価格以外)の2通り」で説明していますので、そちらをご覧ください。

 
 また、この「審査の申出」は、原則として3年毎の基準(評価替え)年度(令和6年度、9年度…)に限られています。

 なお、この「審査の申出」の手続等の基本的内容については、第7号「固定資産税の年間スケジュール(毎年課税で納期は年4期)」及び第8号「土地と家屋は3年毎に評価替え(基準年度と据置年度)」で解説していますのでご覧ください。

 
 ところで、「審査の申出」は価格に対して不服がある場合ですが、どのような内容(不服)が提出され審査されているのでしょうか。

 特に統計的資料はありませんが、筆者がこれまでコンサルタントとして納税者の皆様からご相談いただいた中から、留意すべき点をいくつか紹介させていただきます。

土地の価格で留意すべきこと

 土地の価格で留意すべき内容は「評価・課税の誤り」ですが、その中でも(1)住宅用地の減額特例、(2)私道が非課税となる土地、(3)無道路地と不整形地が併合している土地、(4)急傾斜地崩壊危険区域等の土地、について解説します。

(1)住宅用地の減額特例

 住宅用地とは、居住用の家屋の敷地とされている土地のことですが、200㎡までが小規模住宅用地で1/6、それを超える部分が一般住宅用地で1/3に減額されます。

 この住宅用地については、市町村の税条例で申告が義務づけられているためか、申告がされていない宅地は減額特例が適用されずに評価・課税されているケースが希にあります。

 ところが、税条例で申告が義務づけられているのに「申告が無い場合でも市町村は住宅用地として減額特例を行う必要がある」とされているのです。

 なぜ「申告が無くても減額特例が適用される」のでしょうか。

 そもそも固定資産税は申告が無くても市町村が一方的に評価・課税する「賦課課税方式」であることと、住宅用地であれば家屋があるので現地調査で確認できる筈であることから、減額特例をしないことは「課税誤り」とされているのです。

 これには、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決で「申告が無いからといって、減額特例を適用しないとすることが許されるものではない」との判断が示されています。

 また、平成22年6月3日の最高裁判決において、市町村側に「過失」があった場合には「国家賠償の請求を認める」との判断がなされ、減額特例の不適用は「過失」(「手抜き」)とされ、最高20年間の還付・返還が認められる可能性があります。

 ところで、例えば商店街で1階が店舗、2階を住居にしている場合、又は店舗を廃業した場合は、その土地は住宅用地となります。
 しかし、外観からは把握しにくいことから、住宅用地の減額特例がされていない(見逃している)場合がありますので、注意が必要です。

 

(2)私道が非課税となる土地

 私道は個人の方の所有土地ですので、一般的には固定資産税の課税対象になります。
 しかし、その私道が「公共の用に供する道路」であれば、非課税になります。

 その私道が「公共の用に供する道路」となる形態は次の図のとおりですが、(1)「通り抜け道路」、(2)「行止り道路」、(3)「コの字型道路」、(4)「セットバック部分」があります。

<私道の種類>

(1)通り抜け私道
 起終点が公道に接する幅員1.8m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(2)行止り私道
 2以上の家屋の用に供されている4m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(3)コの字型私道
 2以上の家屋の用に供されている4m以上で不特定多数人の利用に供されているもの。

(4)セットバック部分(私道)
 セットバック部分は建築基準法道路の拡幅(私道)部分。

 なお、私道が「公共の用に供する道路」として非課税となるためには、上記(1)~(4)のほかに次の①~⑤の要件が必要とされます。

登記上分筆され位置が特定されているもの
客観的に道路として認定できるもの
アパート、マンション、貸家、駐車場等における敷地内の道路でないもの
建築敷地として含まれていないもの
賃料、通行料を徴収していないもの

 

(3)無道路地と不整形地が併合している土地

 固定資産評価基準(土地)には、画地計算法として、無道路地と不整形地がそれぞれ規定されています。

 それでは、無道路と不整形が併合している土地はどうなのでしょうか。

 結論として、この場合は両者の画地計算法を併せて適用し、ダブル評価により土地の評価額を求めることになります。

 具体的な評価方法は、第59号で説明していますので、そちらをご覧ください。

 

(4)急傾斜地崩壊危険区域等の土地

 我が国は、最近の能登半島地震もそうですが、自然災害発生の多い国でありまして、様々な自然災害に対応した固定資産税の減額修正(市町村単位の「所要の補正」)が認められています。

 その一つに急傾斜地崩壊危険区域があります。

 急傾斜地崩壊危険区域とは、「急傾斜地法」に基づき知事が指定するもので,急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護することを目的に,崩壊するおそれのある急傾斜地で,その崩壊により相当数の居住者その他の者に危害が生じるおそれのあるもの及びこれに隣接する土地のうち,当該急傾斜地の崩壊が助長され,又は誘発されるおそれがないようにするため,一定の行為が禁止若しくは制限される区域のことです。

 具体的な説明は第98号にありますが、急傾斜地崩壊危険区域は、①急傾斜地と②誘発助長区域からなります。

① 急傾斜地
 崩壊するおそれのある急傾斜地(傾斜度が30度以上の土地)で、その崩壊により相当数の居住者その他の者に被害のおそれのあるもの
② 誘発助長区域
 ①に隣接する土地のうち、急傾斜地の崩壊が助長・誘発されるおそれがないようにするため、一定の行為制限の必要がある土地の区域

 これらの区域における評価の減額は、市町村単位の「所要の補正」のため、減価割合はそれぞれですが、0.7~0.95等市町村によって様々ですので、当該の市町村で確認してください。

 

家屋の評価で留意すべきこと

 家屋の評価は、(1)再建築価格方式は複雑で分かりにくいので、まず家屋評価の内容を市町村に十分説明してもらうことが大切です。その上で「この家屋の価格は高い」と思ったら、(2)家屋は新築時の評価検証が必要ですので「審査の申出」でも主張すべきです。また、「審査の申出」の審査において(3)「口頭意見陳述」の活用も検討すべきです。

(1)再建築価格方式は複雑で分かりにくい

 固定資産税家屋の評価は、再建築価格方式が当初から採用されていますが、実はこの評価方式が複雑で分かりにくい内容になっているのです。

 この再建築価格方式は、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築費評点数)を求め、この再建築費評点数に時の経過等によって生ずる損耗の状況による減価を考慮し、必要に応じて需給事情による減価を考慮して家屋の価格を算出します。

 この家屋の評価方法については、これまでも評価の簡素化が検討・実施されてきていますが、そもそも抜本的な簡素化自体が困難な手法でもある訳です。

 このため、評価を担当している市町村の職員も気が付いていない「潜在的な課税誤り」が多いのです。
 例えば、Google検索画面で「固定資産税・課税誤り・お詫び」とのキーワードを入力すると、全国市町村のホームページが次から次へと現れてきます。

 

(2)家屋は新築時の評価検証が必要

 これまで筆者が相談に預かった中では、「家屋の評価額が高いのではないか」との「審査の申出」を行ったところ、「基準年度の前年度における再建築費評点数に3年間の建築物価の変動状況を反映して求めているので正しく評価されている」との審査結果が殆どなのです。

 この方法は、たしかに在来(中古)家屋の評価方法としては正しいものです。

 しかし、この前提になっている在来家屋の再建築費評点数は「新築時の評価を受け継いでいる」のです。

 また納税者は「家屋の評価が高いのでは」と思って「審査の申出」をしますが「今までは良かったけど今年度が高い」などとは考えてはいないのです。「今までも高いと思っていたけど今回『審査の申出』を決断した」、あるいは「自分の家屋評価が高いことに初めて気がついた」というのが本音なのです。

 従って、再建築費評点数が正しいか否かを判断するためには「新築時の評価が正しかったのか否か」を検証すべきなのです。そうでないと、仮に新築時の評価に誤りがあっても、その部分をスルーしてしまっているのです。

 しかしまた、新築時が仮に20年以上前となると、当時(新築時)の資料が保管されていない市町村もあるようで、実はこれは大きな問題なのです。
※10年で廃棄している市町村もあります。

 そして納税者が「この審査結果には不満です」と市町村に伝えても、市町村からは「では訴訟を提起してください」と言われてしまう訳です。

 

(3)「口頭意見陳述」の活用

 「審査の申出」の審理においては、形式審査(不適法な審査の申出として却下等)と実質審査が行われます。

 実質審査では、審査申出人が希望される場合、委員に対して口頭で意見を述べることができる「口頭意見陳述」がありますので、これも活用すべきでしょう。

家屋と償却資産の二重課税

 家屋は賦課課税方式で市町村が一方的に評価・課税するのに対して、償却資産は所有者からの申告方式になっています。

 そこで懸念されるのは、特に家屋の建築設備部分ですが、家屋で課税されている部分が償却資産としても申告されることによって、二重課税となる問題があります。

 この点については、市町村の償却資産担当が所有者(委任を受けている税理士)に対して注意を促していますので、申告の際には十分に気をつけてください。

 
2024/4/17/19:00
 

 

(第113号)固定資産税の「縦覧」と「閲覧」制度について

 
(投稿・令和6年3月-見直し・令和6年8月)

 毎年4月になると固定資産税の納税通知書と課税明細書が送られてきます(標準納期の場合)。
 そして、4月1日から市町村で「縦覧」が行われます。

 今号では、この「縦覧」とはどういうものかについてお知らせします。

 また納税者にとっては、1年中自分の課税内容を確認できる「閲覧」という制度がありますので、併せて説明します。

「縦覧」と「閲覧」の比較表

 

「縦覧」は他と比較する制度

「縦覧」は他の土地・家屋と比較する

 固定資産(土地・家屋)の価格は、総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づいて評価され、市町村長(東京都23区内の場合は都知事)がその価格等を決定し、固定資産課税台帳に登録されます。

 「縦覧」とは、この登録された価格について、固定資産税(土地・家屋)の納税者が、その価格が適正であるかを他の土地・家屋と比較できる制度です。

(土地価格等縦覧帳簿及び家屋価格等縦覧帳簿の縦覧)
地方税法第416条
「1項. 市町村長は、固定資産税の納税者が、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る土地又は家屋について土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格と当該土地又は家屋が所在する市町村内の他の土地又は家屋の価格とを比較することができるよう、毎年4月1日から、4月20日又は当該年度の当該年度の最初の納期限の日までの間、その指定する場所において、土地価格等縦覧帳簿又はその写しを当該市町村内に所在する土地に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供し、かつ、家屋価格等縦覧帳簿又はその写しを当該市町村内に所在する家屋に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供しなければならない。(中略)」

土地・家屋の縦覧帳簿を確認する

 「縦覧」にあたっては、土地については土地価格等縦覧帳簿、家屋については家屋価格等縦覧帳簿を確認します。

 この土地・家屋価格等縦覧帳簿への記載事項は、土地課税台帳又は家屋課税台帳の登録事項のうち、所有者情報と課税標準額を除いたものとなります。

土地価格等縦覧帳簿
 主に所在、地番、地目、地積、価格が記載されています。
家屋価格等縦覧帳簿
 主に所在、家屋番号、種類、構造、床面積、価格が記載されています。

<元になる土地・家屋(補充)課税台帳>
土地(補充)課税台帳
 登記簿に登記されている土地について、土地の所有者の住所、氏名、所在、地番、地目、地積及び価格等が登録されている帳簿です。
 ※補充とは、登記簿に登記されていない土地で固定資産税を課することができるもの、例えば埋立地等。
家屋(補充)課税台帳
 登記簿に登記されている家屋について、家屋の所有者の住所、氏名、所在、地番、床面積、用途及び価格等が登録されている帳簿です。
 ※補充とは、登記簿に登記されていない家屋で固定資産税を課することができるもの、例えば未登記家屋等。

 土地は負担調整措置がありますので、価格は必ずしも税額計算の元になる課税標準額とは一致しません。

「縦覧」の対象者は原則・納税者

 縦覧の対象者は、固定資産税の原則として納税者ですが、相続人(戸籍謄本などの確認書類が必要)、納税管理人、代理人(委任状が必要)、法定代理人(法定代理人であることの確認書類が必要)も可能です

 なお、借地・借家人は縦覧はできません。

「縦覧」は4月1日~第1期納期限

 「縦覧」の期間は「毎年4月日から第1期納期限の日までの間」とされています。

 なお、地方税法第416条1項では「毎年4月1日から、4月20日又は当該年度の当該年度の最初の納期限の日までの間」とありますが、「4月20日」は特殊事情を考慮した規定で、通常は「最初(第1期)の納期限の日まで」と理解されています。

 なお、標準納期では第1期が4月ですが、全国的には5月が第1期となっている市町村もあります(東京都23区は6月)。

「閲覧」は1年中可能

 よく「縦覧」と間違えられる制度が「閲覧」ですが、「閲覧」は地方税法第410条「固定資産の価格等の決定等」に規定されています。

(固定資産の価格等の決定等)
地方税法第410条
「1項. 市町村長は、前条第4項に規定する評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年3月31日までに決定しなければならない。
2項 市町村長は、前項の規定によつて固定資産の価格等を決定した場合においては、遅滞なく、総務省令で定めるところにより、地域ごとの宅地の標準的な価格を記載した書面を一般の閲覧に供しなければならない。」

 「閲覧」に供される資料は、主に固定資産(補充)課税台帳及び土地・家屋名寄帳となります。

固定資産(補充)課税台帳
 固定資産の所在、所有者、状況及び課税標準である価格等が登録された帳簿です。
土地・家屋名寄帳
 納税義務者ごとの土地及び家屋に関する登録事項(評価額、課税標準額、相当税額、軽減・減免税額)を一覧にした帳簿です。

 「閲覧」の場合は、納税者本人だけでなく、借地人、借家人も借用物件の課税台帳等を見ることができます。

 また、「閲覧」の手数料は、無料か有料かは市町村により異なります。ただし、証明書の発行はどの市町村でも有料です。

2024/04/15/15:00