(第20号)住宅用地の減額特例は「申告が無くても適用される」

 
(投稿・平成27年-見直し・令和6年7月)

 本号は第5号「固定資産税土地の住宅用地(小規模住宅用地・一般住宅用地)とは何か)」の続編となります。

 

住宅用地の減額は申告が義務

 固定資産税では、土地が住宅用地であれば、面積によって評価額が6分の1、あるいは3分の1に減額されます。

 住宅用地のうち200㎡以下は、固定資産税の本則課税標準額が1/6になります。これを小規模住宅用地の特例と言います。
 また、これが200㎡を超える部分は一般住宅用地と言い、本則課税標準額は1/3になります。

 下の図は第5号の再掲です。土地が300㎡なので、200㎡までが小規模住宅用地で1/6の減額特例、これを超える100㎡部分が一般住宅用地です。仮に土地が更に大きい場合には一般住宅用地部分が増える訳ですが、その限度は建物床面積の10倍(この場合は1,500㎡まで)とされています。

<住宅用地の減額特例>

 ところで、地方税法では、土地所有者に住宅用地であることを申告させることができるとされています。(地方税法384条1項)

<住宅用地の申告>
※地方税法384条1項
「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。」

 この地方税法の規定を受けて、ほとんどの市町村では条例により申告を義務づけています。

 それでは「条例により申告が義務づけられているにも拘わらず、申告がされていない住宅用地」は減額特例が適用されるのでしょうか。

申告が無くても適用される

 ところが、納税者の中には、その地方税法の規定や条例の存在を知らずに、住宅用地の申告がされていない場合もあります。

 今回のテーマですが、それでは「条例により申告が義務づけられているにも拘わらず、申告がされていない住宅用地」は減額特例が適用されるのでしょうか。

 結論として、(市町村の条例により)住宅用地の申告が義務付けられていても、その申告が無くても住宅用地の特例は適用されます。

 これは、固定資産税が申告課税ではなく、役所が一方的に評価・課税する賦課課税であることと、住宅用地であれば外部からも判断し易いからです。

 この問題については、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決で「申告がないからといって、減額特例を適用しないとすることが許されるものではない」との判断が示されています。

<平成4年2月24日浦和(現さいたま)地裁判決>
「固定資産税の賦課決定は、市町村長の納税義務者に対する納税通知書の交付によってされるのであって(地方税法第364条)、納税義務者からの申告によるものではないのであり、同法第384条第1項本文が、市町村長は、住宅用地の所有者に対して、当該市長村の条例の定めるところに従い、土地の所在及び面積等、固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものではないことは課税の当局者にとっては見易い道理である。」

 この判決を受けて、総務省としても「住宅用地であれば申告がなくても住宅用地の認定はなされなければならない」(「要説固定資産税」)としています。

 このように、市町村での条例で申告が義務づけられていますが。仮に納税者が気が付かずに申告しなかった場合はどうなるかですが。

 この点について、ときどき報道されることもありますが、納税者の申告が無いので課税をする市町村もあるようですが、これは「課税誤り」となります。

 なお、これは参考ですが、平成18年3月の大阪高裁から、「条例による申告が無かった場合、所有者側の過失により3割の過失相殺」を認めています。

<平成18年3月24日大阪高裁判決>
「法が、条例の定めによって、住宅用地の所有者に固定資産税の賦課徴収に必要な事項の申告をさせることができるとしたのは、賦課課税方式を採用しつつ、調査等の過誤を防止するため、住宅用地の特例によって固定資産税等の逓減措置を受けられる住宅用地の所有者に必要事項の申告義務を負わせることとしたものであって、その限りでは、法は、申告により利益を得られる者が申告しない以上、利益を得られなくてもある程度はやむを得ないという立場を採っているともいい得るところ、被控訴人は、市税条例により申告を義務づけられている(違反には過料の制裁まで科せられる。)にもかかわらず、正当な理由なく所定の申告をせず、しかも毎年控訴人から送付される納税通知書及び課税明細書を子細に検討すれば、本件土地について住宅用地の特例の適用がされていないことが判明するのに、控訴人が自ら過誤に気づき平成16年に是正手続を採るまで過誤にも気づかず、何らの不服申立ても行わなかったというのであるから、被控訴人についても、損害の発生及びその増大につき過失があるのは明らかである。
そして、上記過失の内容・程度のほか、本件における諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、被控訴人の損害額からその3割を控除するのが相当である。」

2022/5/10/12:00
 

 

(第19号)固定資産税の家屋とはどういうものか(基本編)

 
(投稿・令和1年-見直し・令和6年7月)<100号達成時の閲覧数7位>

 今回は、「固定資産税の家屋とはどういうものか」という基本編ですが、その前に、家屋の税金としての歴史を簡単に見ていきます。

固定資産税家屋の歴史

 固定資産税としての家屋は、昭和24年にシャウプ勧告が出されて、昭和25年に地方税法が制定され、そこで市町村税として土地、償却資産とともにスタートしました。
 それ以前は、明治15年に家屋税が大府県(東京、大阪、京都、神奈川)に対して創設され、明治21年にこれらの府県の市町村に家屋税付加税が、その後明治23年に全国で課税されるに至っています。

 このように、現在の税としての家屋は、土地(地租)、償却資産(船税、電柱税、軌道税)に対する課税とともに、長い歴史を有しています。

固定資産税家屋の定義

 そこで、固定資産税の家屋とは何かということですが、地方税法341条に次のとおり規定されています。

<固定資産税に関する用語の意義(家屋)>
※地方税法341条第3号
「家屋とは、住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。」

 この用語の定義は、地方税法創設から一貫して変わっていませんが、これは単に種類を列挙して間接的に定義しているにすぎません。

 では、具体的に固定資産税の家屋とは何かということですが、不動産登記法における建物と意義を同じくする、とされています。次の「地方税法の施行に関する取扱について(市町村税関係)」は総務省の通知ですが、次のとおり説明されています。

※地方税法の施行に関する取扱について(市町村税関係)
「 家屋とは不動産登記法の建物とその意義を同じくするものであり、したがって登記簿に登記されるべき建物をいうものであること。」

 そこで、「不動産登記法上の建物」についてみていきます。

不動産登記法の建物とは

 不動産登記法の建物は、不動産登記規則(113条)で12種類、不動産登記事務取扱手続準則(80条)で25種類、併せて37種類が規定されています。ただし、これにより難い場合には、建物の用途により適当に定めるものとする、とされています。

<不動産登記規則113条(12種類)>
・ 居宅、店舗、寄宿舎、共同住宅、事務所、旅館、料理店、工場、倉庫、車庫、発電所及び変電所

<不動産登記事務取扱手続準則80条(25種類)>
・ 校舎,講堂,研究所,病院,診療所,集会所,公会堂,停車場,劇場,映画館,遊技場,競技場,野球場,競馬場,公衆浴場,火葬場,守衛所,茶室,温室,蚕室,物置,便所,鶏舎,酪農舎,給油所

固定資産税家屋としての要件

 固定資産税の課税客体となる家屋の認定に当たっては、次の(1)から(5)の要件が必要とされています。

(1)屋根を有すること

 屋根は、雨露をしのぐために必要不可欠です。不動産登記規則111条では「屋根及び周壁又はこれらに類するものを有すること」(外気分断性)とあります。

 ただし、高架下の建造物については、家屋として評価すべき屋根はないが、屋根に相当する構築物があるため家屋として取り扱われます。

<高架下の建造物は家屋として認定>

(2)周壁を有すること

 家屋は、周壁により内側に一定の利用空間が発生し、外気分断性有りと判断されます。
 ここで周壁を有するとは、概ね3面以上に周壁がある(その面の3分の2程度以上の部分に壁があることをもってその面は周壁を有する)ことをいいます。

 ただし、周壁については、厳密な意昧での外気との分断がされていなくても、建造物の使用目的、利用状況等を考慮して外気分断性があると判断される場合もあります。例えば、駐車場では外周壁が腰壁程度しかないものが見受けられますが、外気分断性があると認められます。

<3面に周壁を有するので家屋として認定>

(3)土地に定着した建造物であること(土地への定着性)

 土地に定着した建造物であるということは、建造物が建造されている土地から容易に移動できないことで、次の2つの要件を充足している必要があります。

① 建物の大きさ、重さ、構造、基礎の施工の程度、 建築設備の状況により物理的または経済的に他の場所に移動させて利用することが容易でないこと
② 建物の用途、目的からしてある程度の期間(通常賦課期日をはさんで1 年以上)継続し利用することが予定されていること

 逆に、土地に対する定着性が欠ける建造物と考えられるものは、次のようなものです。
① 容易に運搬できる切符売場、入場券売場等
② 単に置いた程度のスチール製の物置、簡易便所等

(4)家屋本来の用途に供しうること(用途性)

 家屋本来の目的は、その空間を居住、作業、貯蔵、営業、保管等の用途に供しうるものでなくてはなりません。

 次のようなアーケードは、道路の用途を高めるものであって家屋本来の目的とは異なるので家屋とは認定できません。

<アーケードは家屋として認定しない>

(5)恒久性を有すること

 不動産登記法準則第77条に「半永久的な建造物と認められるものに限る」とあるように、家屋は、恒久性を有することが必要です。

 家屋として認定しないものを例示するとつぎのものがあります。
① 園芸用ハウス(温室)で屋根、周壁がビニール・シートのもの
② ビニール・シート等で葺き上げた車庫
③ 簡易な鶏舎、豚舎等の畜舎、堆肥舎等

(※)賦課期日に完成していること

 これは家屋の意義とは異なりますが、建築中の建物がどの程度まで完成していれば家屋の課税対象となるかについては、昭和59年の最高裁判決により「固定資産税の性質目的及び地方税法の規定の仕方からすれば、新築の家屋は、一連の新築家屋が完了したときに、固定資産税の課税客体となる」とされ、1月1日現在で完成していることが必要とされます。

2022/5/8/13:30
 

 

(第18号)固定資産税の歴史はシャウプ勧告(昭和24年)から始まる

 
(投稿・令和3年-見直し・令和6年7月)

 固定資産税は、土地、家屋、償却資産の三つの固定資産が課税客体となっていますが、いつからこのようになったのでしょうか。

 固定資産税は、第二次世界大戦後の昭和24年のシャウプ勧告に基づいて創設されました。
 このシャウプ勧告の中では、それまでの土地を課税客体としていた「地租」から土地へ、家屋を課税客体としていた「家屋税」から家屋へ引き継ぎ・統合した上で、新たに償却資産を課税客体に加えて固定資産税を創設することが勧告されました。

<固定資産税の歴史>

土地は「年貢制度」まで遡る

 土地に関する租税は、古代から現代に至るまで主要な税目の地位を保っています。

 近世の日本は、領主制の下で、領主ごとに土地に対する税が課されていました。農村の土地には年貢が課されていたのに対し、都市は年貢が免除されることも多く無税地が大きな割合を占めていました。

 明治政府は、このような制度を廃して、全国の土地について統一的な基準で全ての土地地籍を把握し、その土地に税を課すことを目指し、明治6年に地租改正を始めました。

 地租改正における地籍調査と地価調査は、その土地の所有者自身による申請から出発することが原則になっていました。府県は、提出された地籍と地価の検査を行い、必要に応じて再調査や書類の補訂を指示し、地券台帳を作成し、地券台帳から土地所有者に地券を発行し土地の証書としました。

 この明治6年の地租改正によって、近世の石高(こくだか)制による貢租(年貢)制度は廃止され、私的土地所有を前提にした「地租」が国税として誕生しました。

 そして、明治11年には、府県が「地租付加税」として課税できるようになり、明治21年には市町村でも「地租付加税」を課税できるようになりました。

 「地租」は第二次大戦後の昭和22年に地方に移譲されて府県税の独立税になり、昭和24年のシャウプ勧告により、昭和25年に市町村税の固定資産税となりました。

家屋は「家屋税」(府県税)から

 家屋は、明治15年に創設された「家屋税」から始まります。「家屋税」は府県税でしたが、当初は東京、大阪、京都、神奈川の大都府県に限定されていました。
 また、大正15年の税制改革で、市町村でも「家屋税」に「家屋税付加税」として課税できるよになり、昭和22年には「家屋税」も「地租」と同様に府県の独立税となりました。

 そして、土地と同じく、昭和24年のシャウプ勧告により、昭和25年に市町村税の固定資産税となりました。

償却資産はシャウプ勧告により新設

 償却資産は昭和24年のシャウプ勧告による税制改革で昭和25年に固定資産税の一つとして新設されました。
 しかし、この償却資産に似ている税が実は既に存在していました。昭和15年に旧地方税法により、法定外独立税が市町村に対して認められました。
 この法定外独立税は、内務、大蔵両大臣の許可に基づき、市町村の条例により設定するものでしたが、この税の中には原動機や冷凍機、織機、製材機、印刷機など各種事業用償却資産がありました。

シャウプ勧告により固定資産税は財産税

 シャウプ勧告とは、アメリカの財政学者カール・シャウプを団長とする使節団によって昭和24年に、連合国最高司令官マッカーサーに提出された日本の税制改革に関する報告書のことです。

 シャウプ勧告では、当時の日本の地方財政について、次の5つの点が指摘されています。
① 市町村、都道府県及び中央政府間の事務の配分及び責任の分担が不必要に複雑であり、また重複している。
② この3つの段階の統治機関の間における財源の配分が若干の点において不適当であり、また中央政府による地方財源の統制が課題である。
③ 地方自治体の財源は、地方の緊要経費を賄うには不足である。
④ 国庫補助金及び交付金は独断的に決定されることが多い。
⑤ 地方団体の起債の制限は極めて厳重に制限されている。

 冒頭のとおり、シャウプ勧告では、府県の独立税となっていた「地租」と「家屋税」を統合するだけでなく、償却資産も課税客体に加えて、固定資産税とすることが勧告され、昭和25年に創設されました。

 このシャウプ勧告の意図は、固定資産税を固定資産と市町村の提供する公共サービスとの関連性を明確にして、市町村税の独立税とすることを勧告したと解されています。

 シャウプ勧告がされるまでの我が国の「地租」や「家屋税」は、賃貸価格を課税標準とする「収益税」であった訳ですが、シャウプ勧告では固定資産税の課税標準を賃貸価格から資本価格(「財産税」)にすることを勧告しています。

 これまで、固定資産税は「収益税」なのか「財産税」なのかとの議論もありましたが、シャウプ勧告の資本価格論とともに、現在の地方税法における「価格=適正な時価をいう」の解釈からも、固定資産税は「財産税」とされています。
 
2022/05/07/18:00
 

 

(第17号)固定資産税の土地面積は原則として「登記簿主義」、例外的に現況地積も

 
(投稿・平成25年-見直し・令和6年7月)

 今号は、第16号の地目の認定に続いて、今回は土地の地積認定についてです。

 

地積の認定は原則として登記簿地積

 土地の地目の認定は実地調査で判断できるため「現況主義」を採用します。
 これに対して、土地の面積は見ただけでは分からないことから、実測しなければ判断できません。

 しかし、全国のしかも分合筆も頻繁に行われる土地すべてを役所で実測することは、時間的にも技術的にも難しいと言わざるをえません。また、一部のみを測量することは不公平にもなりかねません。

 そのようなことから、固定資産税の土地の地積認定においては、原則として、「登記簿主義」を採用しています。

 地目は「現況主義」、地積は「登記簿主義」です。

登記簿主義の例外

 土地面積の認定は「登記簿主義」が原則ですが、例外として現況地積を認めています。

<地積認定の原則と例外>
 
 例えば、登記簿地積が500㎡で長年課税されていたものの、実際に測量してみたら400㎡しかなかった。測量図面もあるので、400㎡で課税できないか、というような場合です。

 結論としては、測量図が正しいものであれば、400㎡を課税すべき土地の面積として、例外的に認定することになります。

 土地の面積を例外的に現況で認める場合、二つの場合が考えられます。

<固定資産評価基準の地積認定>
※固定資産評価基準第1章第1節二
「各筆の土地の評価額を求める場合に用いる地積は、次に掲げる場合を除き、原則として、登記簿に登記されている土地については登記簿に登記されている地積によるものとし、登記簿に登記されていない土地については現況の地積によるものとする。
1 登記簿に登記されている土地の登記簿に登記されている地積が現況の地積よりも大きいと認められる場合における当該土地の地積は、現況の地積によるものとする。
2 登記簿に登記されている土地の現況の地積が登記簿に登記されている地積よりも大きいと認められ、かつ、登記簿に登記されている地積によることが著しく不適当であると認められる場合においては、当該土地の地積は、現況の地積によることができるものとする。」

登記簿地積>現況地積の場合(いわゆる「縄縮み」)。この場合は「登記簿主義」の例外で「現況地積」も可能となります。ただし、申告が必要です。

登記簿地積<現況地積の場合(いわゆる「縄延び」)。この場合は「地積差が著しい場合」に例外で現況認定になります。

 ①の場合は「現況地積による」で、②は「現況地積によることができる」(ただし、登記地積によることが著しく不適当な場合に限る)と表現が異なっています。

 この規定は固定資産評価基準にありますが、②を分かりやすく言えば「登記簿より実際の土地の面積が大きくても、ある程度の面積差であれば登記簿面積のままでいいです」ということです。

 土地を売るときならいざしらず、所有者自らが固定資産税当局に「自分の土地は登記簿面積より大きいです」と申し出る人はいないと思いますが、仮にそうであっても、②の場合は「現況地積によることができる」のです。

 これは、土地の所有者(納税者)にとって有利な取扱いで、このような考えを「納税者有利の原則」と呼ばれています。

 地方税法や税制度には、このような「納税者有利の原則」による考え方が貫かれています。

「縄伸び」「縄縮み」とは

「縄延び」という用語は、中世から近世にかけて行われた検地の際に、年貢の負担を軽くするため、実際よりも長めに目盛りを記した縄を使って、地積を小さめに測量したことに由来します。

 長めに目盛りを記せば、実際には1mあるものも、例えば80cmになる訳で、地積が小さめに登録されました。

 明治政府の土地台帳作成の際も、税金の負担を軽くするため、実測面積よりも少なく申告することが多く行われました。

 現在の登記制度も、旧土地台帳制度の地積が表題部に移記された経緯があり、当時の測量の成果が引き継がれている部分があります。

 一方「縄縮み」の方は、地主が小作人に小作料を多く納めさせるため、あるいは市街地で売買代金を高くするために故意に公簿面積を大きくした等の説があります。

2022/5/7/17:00
 

 

(第16号)固定資産税(土地)の地目認定は現況主義による

 
(投稿・平成25年-見直し・令和6年7月)<100号達成時の閲覧数5位>

 今号は、固定資産税の土地の地目認定はいかに行うか、についてです。

地目とは(地目の定義)

地方税法での地目

 まず地方税法で、固定資産税の土地とは何かということです。

<用語の意義(土地)>
※地方税法341条1項2号
「土地とは、田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、山林、牧場、原野その他の土地をいう」

 ここでお分かりのように、地方税法では「土地とはどういうものか」という定義がされているのではなく、土地の利用面からの分類、すなわち土地の地目を掲げた条文となっています。

 固定資産税の土地の評価は地目ごとに行います。
 また、固定資産評価基準にも土地の地目が定められています。

<固定資産評価基準の地目>
※固定資産評価基準第1章第1節
「土地の評価は、次に掲げる土地の地目の別に、それぞれ、以下に定める評価の方法によって行うものとする。この場合における土地の地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定するものとする。
(1)田、(2)畑、(3)宅地、(4)鉱泉地、(5)池沼、(6)山林、(7)牧場、(8)原野、(9)雑種地」

 地方税法の定義と固定資産評価基準を比べると、若干の違い(塩田が無くなって池沼が入り、その他の土地=雑種地が入っている)がありますが、ほぼ同じ地目となっています。

 この中で中心となる地目は、宅地、田、畑、山林あたりですが、もう一つ雑種地、実はこの雑種地が固定資産税評価の中ではかなり重要な地位を占めています(雑種地については、後日解説します。)

不動産登記法での地目

 ところで、地方税法と固定資産評価基準では地目の意義の定義がされていませんが、定義等は不動産登記法の地目と同じで、具体的には不動産登記事務取扱手続準則の定める通りとされています。

 そこで、不動産登記事務取扱手続準則の定める地目を掲げます。

<不動産登記法の地目>
※不動産登記事務取扱手続準則第68条
「 次の各号に掲げる地目は、当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には、土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的にわずかな差異の存するときでも、土地全体としての状況を観察して定めるものとする。
(1) 田 農耕地で用水を利用して耕作する土地
(2) 畑 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地
(3) 宅地 建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地
(4) 学校用地 校舎、附属施設の敷地及び運動場
(5) 鉄道用地 鉄道の駅舎、附属施設及び路線の敷地
(6) 塩田 海水を引き入れて塩を採取する土地
(7) 鉱泉地 鉱泉(温泉を含む。)の湧出口及びその維持に必要な土地
(8) 池沼 かんがい用水でない水の貯留池
(9) 山林 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地
(10) 牧場 家畜を放牧する土地
(11) 原野 耕作の方法によらないで雑草、かん木類の生育する土地
(12) 墓地 人の遺体又は遺骨を埋葬する土地
(13) 境内地 境内に属する土地であって、宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条第2号及び第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しないものを含む。)
(14) 運河用地 運河法(大正2年法律第16号)第12条第1項第1号又は第2号に掲げる土地
(15) 水道用地 専ら給水の目的で敷設する水道の水源地、貯水池、ろ水場又は水道線路に要する土地
(16) 用悪水路 かんがい用又は悪水はいせつ用の水路
(17) ため池 耕地かんがい用の用水貯留池
(18) 堤 防水のために築造した堤防
(19) 井溝 田畝又は村落の間にある通水路
(20) 保安林 森林法(昭和26年法律第249号)に基づき農林水産大臣が保安林として指定した土地
(21) 公衆用道路 一般交通の用に供する道路(道路法(昭和27年法律第180号)
による道路であるかどうかを問わない。)
(22) 公園 公衆の遊楽のために供する土地
(23) 雑種地 以上のいずれにも該当しない土地」

 固定資産税の地目は9種類ですが、不動産登記法ではそれよりはるかに多い23種類です。

地目の認定は「現況主義」

地目認定の時期と取扱い

 まず、地目認定の時期ですが、固定資産税の賦課期日が1月1日とされており、地目の認定も1月1日現在の土地の現況や利用目的を重視することから1月1日現在の認定となります。

<固定資産税の賦課期日>
※地方税法第359条
「固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする。」

 次に認定の取扱いですが、固定資産税の土地評価上の地目の認定は現況の地目「現況主義」によります。

 では、土地の地目が登記簿と現況が異なる場合は、どうなるのでしょう。

 例えば、登記簿上の地目が「山林」となっているのに、実際には家屋が建っている土地の場合ですが、この土地の固定資産税の地目は、「現況主義」によって「宅地」と認定されます。

地目認定の単位

 地目認定の単位は、原則として1筆ごとに行います。

 ただし、地目は土地の現況や利用目的に重点を置いて認定しなければならないものであり、部分的に僅少の差異があるときでも土地全体としての状況を観察して行います。

 また、1筆の土地が相当の規模で、2以上の全く別の用途に利用されている場合(例えば、1,000㎡の土地の700㎡が畑、300㎡が宅地として利用されているような場合)には、これらの利用状況に応じて区分して、それぞれの地目を定めることになります。

地目認定の実地調査

 ところで、このように「現況主義」とされているのは、土地の面積の場合は現地調査で見ただけでは判断できませんが、地目は現地調査で認定することが比較的容易であるからです。 

 では、固定資産税を担当する市町村の職員は、どの程度の実地調査を行っているのでしょうか。地方税法で「毎年少なくとも一回実施」との規定があります。

<固定資産税の実地調査>
※地方税法408条
「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地にさせなければならない。」

 「固定資産評価員」及び「固定資産評価補助員」とは、いずれも市町村の固定資産税を担当する職員のことですが、「評価補助員」は担当者全員がなります。また、「評価員」はそのセクションの長があたるのが普通ですが、その市町村の議会での同意が必要とされています。(「評価員」が置かれていない市町村もあります。)

 一般的に、固定資産の実地調査は、申請や問題がある都度行う「随時調査」と、所管地域を一斉に行う「定期調査」が考えられますが、408条は「定期調査」に係る規定です。

 土地の評価替えは3年に1度であるため、実務上は3年単位で評価替えスケジュールが組まれるため、多くの市町村では「定期調査」もこの中で組み込んで行われるのが一般的ではないかと思います。

不動産鑑定評価での地目認定

 不動産鑑定評価では、土地の種別(地目とは言いません)は、その属する地域の種別に応じて分類される土地の区分となります。

 土地の種別は宅地、農地、林地、見込地、移行地に分けられます。

 これらは、さらに地域の種別の細分化に応じて、例えば宅地でしたら、住宅地、商業地、工業地等に細分されます。

 例えば、市街化区域で駐車場に利用されている土地は、固定資産税評価では雑種地評価ですが、不動産鑑定評価では宅地評価を行う場合もあります。

 不動産鑑定評価では、一般的要因を始めとして、地域要因及び個別的要因を分析した上で、その土地の最有効使用が住宅用の土地と判断されるか、という手順を経る必要があります。

2022/5/7/14:45