(第3号)固定資産税の価格は「固定資産評価基準」により「適正な時価」とされる

 
(投稿・平成25年-見直し・令和6年6月)

 今回は、固定資産税の評価額はどのように決定され、その評価額はどのように位置づけられるのかです。

評価は「固定資産評価基準」による

 固定資産税の評価は、地方税法で「固定資産評価基準」によるとあります。

<固定資産税評価の標準>ー地方税法349条
「1項 基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録されたものとする。」

<固定資産税に係る総務大臣の任務>ー地方税法388条
「1項 総務大臣は固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続き(「以下「固定資産評価基準」)を定め、これを告示しなければならない。」

<市町村の職員の任務>ー地方税法403条
「1項 市町村長は(中略)固定資産評価基準によって、固定資産税の価格を決定しなければならない。」

 つまり、市町村長は総務大臣により告示された「固定資産評価基準」により、固定資産税の評価額(価格)を決定しなければならないのです。

 この地方税法第403条1項は、かつて(昭和37年以前)は「固定資産評価基準に準じて」決定すべきとなっていましたが、現行は「基準によって、決定しなければならない」とされています。

 したがって、固定資産税の評価額決定に対する「固定資産評価基準」の「法的拘束力」がより強まったと言えます。

 ここに、昭和57年3月30日福岡地裁判決を掲げます(要旨)。

<昭和57年3月30日福岡地裁判決>
「告示とは、公示を必要とする行政措置の公示の形式である。固定資産評価基準は、法388条1項に基づき、その明示的具体的委任を受けて、自治大臣が固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続きについて市町村間の評価の統一的均衡化を図るために発したものであって、昭和37年改正法による改正前の法403条が「準じて」としていたものを、「よって」固定資産の価格を決定しなければならないと」定めて、…市町村長は、固定資産評価基準に従った評価をなすべく義務づけられているものと解するのが相当である。その意味で、固定資産評価基準は、法的拘束力を有しているものといわなければならない。」

 では、固定資産税と同じ資産評価の相続税ではどうでしょうか。

 相続税の財産(土地)評価においては、国税庁による財産の評価に関する取扱方法の全国的統一を図るため「財産評価基本通達」が発せられていますが、相続税法の規定により委任されている訳ではありません。

 つまり、相続税評価においては「財産評価基本通達」は「法的拘束力」は有していないのです。

 例えば、相続税評価において、仮に減価要素の強い土地などの場合に、不動産鑑定評価によって時価証明が認められる場合があるのも、このような仕組みからと考えられます。

 固定資産税は、全国一律の大量一括評価ですので、この「固定資産評価基準」により「固定資産税の課税標準となるべき価格」が決定されます。

評価基準による価格が「適正な時価」

 ところで、地方税法には、固定資産税の「価格の定義」が規定されています。

<固定資産税の価格とは>ー地方税法341条
「固定資産税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
5号 価格 適正な時価をいう。」

 固定資産税の土地評価割合は、バブル期には実質的に地価公示価格の1〜2割程度であったものが、平成6年度から地価公示価格の7割を目途とされました。

<公的評価の適正化>

 
 もっとも、昭和50年代の地価安定期における固定資産税の評価割合が7割程度であったことを前提にすれば、むしろ昭和60年代の地価高騰(バブル)期以降の方が不正常な評価割合であったと考えるべきなのかもしれません。

 この平成6年度の制度改正により、固定資産税の不服申立は、それまで全国で6千件弱であったものが、一挙に3倍を超える件数になり、裁判で争われる件数も増えました。

「適正な時価」に関する判例

平成6年度までの「適正な時価」

 では、平成6年度までの固定資産税の「適正な時価」とはどのような解釈であったのでしょうか。

 ここに代表的なものとして、昭和34年6月16日の静岡地裁の判決を紹介します。

※<昭和34年6月16日静岡地裁判決>
「固定資産の価格、すなわち、その適正な時価とは本来その通常な取引価格を指すものと解すべきであるが、評価は常に公平になされなければならないから、決定された価格が通常の取引価格を著しく超える場合はもちろん、これを超えない場合でも、課税政策上その他の正当な理由なしに、他とはなはだしく均衡を欠く場合には、その価格は適正でなく、その決定は違法となるものである。」

 このように、「はなはだしく均衡を」を欠かない限りは違法とはならなかった訳です。

土地に関する「適正な時価」の判例

 これが、平成6年度以降、地価公示の7割評価となったことにより、「適正な時価」の解釈に関する裁判上の判決は色々とありましたが、次の最高裁判決に代表されるようになりました。

<平成15年6月26日最高裁判決>
「適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地課税台帳に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法となる。」

 この最高裁判決の最大のポイントは、固定資産税評価が「客観的な交換価値」を上回ればその価格は『違法』となるというものです。

 この「客観的な交換価値」が良いのかどうかは疑問のあるところですが(筆者は「使用価値」が妥当と考えますが)

 ただし、この判決の背景としては、やや特殊状況もあったと考えられます。
 当時はそれまでのバブルが弾けて、東京都内の一部では、平成5年1月の価格調査基準日から1年後の賦課期日(平成6年1月)までの1年間に30%を超える地価の下落があった訳です。

 そのため、賦課期日における地価公示価格より30%低い固定資産税の評価額であっても、それを超える30%以上の下落率には追いつかなかった訳です。そこで固定遺産評価基準に基づく価格であっても、「客観的な交換価値」を上回る部分は違法とされました。

 ところで、この判決の流れから、地価が下がっている場合には、据置年度においても地価下落修正が適用されることになりました。(地方税法附則17条の2第1項)

家屋評価に関する「適正な時価」判例

 上記は土地の評価ですが、家屋評価においても最高裁において、「評価は、固定資産評価基準に基づくべき」とされています。

<平成15年7月18日最高裁判決>
「固定資産評価基準に定める方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情または評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情が存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。」

 家屋評価については、追って説明いたします。
 
2022/04/15/12:00
 

 

(第2号)固定資産税は市町村税の「基幹税」で、土地と家屋は「賦課課税方式」

 
(投稿・平成25年-見直し・令和6年6月)<100号達成時の閲覧数8位>

 今号は、第1号「そもそも固定資産税とはどのようなものか」で紹介した市長村の「基幹税」についての追加説明です。

 
 そして、固定資産税の土地と家屋は「賦課課税方式」といわれていますがそれはどのようなものか、また固定資産税の法体系の紹介です。

市町村の歳入状況

 市町村のお金の収支は財政状況として表されますが、収入を歳入、支出を歳出と呼びます。

 市町村の歳入はどのようなもので成り立っているのかが、下のグラフ「市町村の歳入状況」で分かります。

 このグラフ(財団法人資産評価システム研究所「固定資産税のしおり」)によりますと、市町村の歳入は、税金(市町村税)のほか、国や県から支出される国県支出金、国税の一部が配分される地方交付税、借入金である地方債などがあります。

<市町村の歳入・歳出状況>

 歳入のうち市町村税が全体の約30%を占めていますが、固定資産税はこの中の重要な税目になっています。。

固定資産税は市町村の「基幹税」

 そこで、市町村税にはどのような税があるかを示したものが、次のグラフです。

<市町村の税目>

<固定資産税の内訳>

 ここにあるように、固定資産税41.1%、市町村民税45.5%、都市計画税5.9%、その他7.5%となっています。

 ところで都市計画税ですが、市街化区域内に所在する土地と家屋の所有者に課税される目的税(都市整備の費用に充てられる税)で、固定資産税と併せて課税されています。

 ここでは広い意味で都市計画税を含めて固定資産税と捉えますと、固定資産税は市町村税の中で約47%を占めています。

 固定資産税は市民税と並んで、市町村歳入の大きな部分を占めていますが、これが固定資産税が「基幹税」と言われる一つの理由です。

 それと市民税が景気に左右されがちであるのに比べて、固定資産税はさほど景気に左右されない安定的な財源になっています。

 この二つの意味で、固定資産税は市町村の「基幹税」と言われています。

役所が一方的評価・課税の賦課課税方式

「賦課課税方式」とは

 固定資産税は、全国どこでも土地や家屋を所有していれば(非課税を除いて)課税される資産税ですが、基本的に役所が一方的に評価し課税するもので、これを「賦課課税方式」と言います。

 これに対して固定資産税の償却資産や相続税は、申告に基づいて課税されるもので「申告課税方式」になります。

 全国で課税対象となる固定資産税の土地の数はおおよそ1億8千万筆、家屋は約6千万棟とされ、基本的に全国すべての土地及び家屋が評価され課税されます。

 そのため固定資産税評価は「大量一括評価」あるいは「大量画一評価」とも呼ばれ、そこでは同じ基準の下に同じ方法で評価されることが要請されます。(特に土地の場合は「賦課課税方式」の採用は止むを得ないものです。)

「賦課課税方式」の問題点

 「賦課課税方式」の採用は止むを得ないものですが、納税者からすると内容がよく分からないという問題があります。

 今後の号で説明していきますが、固定資産税の評価方式は複雑な仕組みになっているため、毎年納税されている納税者からは、どのような評価をされてこの評価額になっているのかがよく分からない、という問題があります。

 毎年4月~5月(東京都23区は6月)に固定資産税の納税通知書とともに課税明細書が送られてきますが、これを見ても何故この価額になったのかは説明を受けないと分かりません。

 一方、固定資産税の償却資産は「申告課税方式」(毎年1月末までに申告)ですので、この点では土地と家屋とは異なります。

固定資産税の評価・課税の法体系

 固定資産税の評価・課税の基準となっているのが「地方税法」と「固定資産評価基準」です。それと、全国の固定資産税をまとめている総務省があり、そこからの「通知」も全国一律の基準になっています。

<固定資産税の法体系>

 そして地方税法と固定資産評価基準の下に市町村ごとに、評価関係では「固定資産評価事務取扱要領」が定められ、課税関係では「条例・規則」(市町村議会で決定)が定められ、「所要の補正」として評価・課税が行われています。
(これらの仕組みについては、今後説明していきます。)
 
2022/4/13/12:30
 

 

(第1号)そもそも固定資産税とはどのようなものか

 
(投稿・平成25年-見直し・令和6年11月)

 「固定資産税は難しい」、「毎年送られてくる納税通知書・課税明細書を見てもよく分からない」と思われている皆様も多いのではないでしょうか。

 これは、固定資産税の土地と家屋は、納税者(所有者)からの申告ではなく、市町村が一方的に評価し課税するという「賦課課税方式」を採用していることが一つの原因であります。

 また、「賦課課税方式」の他に「評価内容が複雑」というのが大きな原因なのです。その複雑な評価内容は、土地の「負担調整措置」と家屋の「再建築価格方式」という仕組みになっているからです。

 この講座では、これらの複雑な仕組みを可能なかぎり分かり易く解説してまいります。

 それでは、まず「そもそも固定資産税とはどのような税なのか」ということからです。

固定資産税は土地、家屋、償却資産

<固定資産税とは>
※地方税法341条1項1号
「固定資産 土地、家屋及び償却資産を総称する。」

 固定資産税は、シャウプ勧告を契機として行われた昭和25年の地方税制度の根本的改革に伴い創設されましたが、当時から、土地、家屋、償却資産の3つの資産に課税される市町村税です。

 固定資産税は、固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて、所有者に対し課税される「財産税」です。

 過去に固定資産税は「収益税」か「財産税」との議論もありましたが、間違いなく「財産税」です。

 ここに、地方税法の「用語の定義」を引用します。

<土地とは>
※地方税法341条1項2号
「土地 田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地をいう。」

<家屋とは>
※地方税法341条1項3号
「家屋 住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。」

<償却資産とは>
※地方税法341条1項4号
「償却資産 土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産(鉱業権、漁業権、特許権その他の無形減価償却資産を除く。)でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもののうちその取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のもの(これに類する資産で法人税又は所得税を課されない者が所有するものを含む。)をいう。ただし、自動車税の種別割の課税客体である自動車並びに軽自動車税の種別割の課税客体である原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除くものとする。」

 固定資産税は、どの市町村にも広く存在する資産を課税客体としており、税源の偏りが小さく市町村税としてふさわしい基幹税目であります。
 この図にありますように、固定資産税は都市計画税(市街地的地域の目的税です)と併せると、市町村税のうち約47%を占めています。

<市町村税の内訳>

 ところで、固定資産税は「土地と建物に課税される税金」と答える人がほとんどですが、これは正確ではありません。

 固定資産税では、建物ではなく家屋と呼びます。

 また、固定資産税とは別に償却資産税があると勘違いされがちですが、償却資産税という税目はありません。償却資産税ではなく「固定資産税のうちの償却資産」というのが正解です。

納税義務者は1月1日の所有者

 固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日(これを賦課期日といいます)における、固定資産の所有者(正確には登記簿上の所有者又は固定資産補充課税台帳に登録されている者)となります。

<固定資産税の納税義務者>
※地方税法343条
「1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
3 第1項の所有者とは、償却資産については、償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう。」

 ところで、令和2年度の地方税法改正により、所有者以外に使用者にも課税する「使用者課税」が可能となっています。それまでは、震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合に限って「使用者を所有者とみなす」ことができたのですが、次の5項が追加され「存在が不明である場合」の「使用者課税」が認められました。

<使用者課税>
※地方税法343条5項
「市町村は、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなお固定資産の所有者の存在が不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

固定資産税1.4%、都市計画税0.3%

 次に固定資産税及び都市計画税の税率ですが、通常、固定資産税は1.4%、都市計画税0.3%と言われています。
 しかし、正確に言いますと、固定資産税の1.4%は標準税率で、都市計画税の0.3%は制限税率(上限)とされています。

<固定資産税の税率>
※地方税法350条1項
「固定資産税の標準税率は、100分の1.4とする。」

 固定資産税の税率は全国ほぼ全てが1.4%とされていますが、これを超える場合は、市町村の条例で定める必要があります。1.4%を超える税率が採用されている市は、北海道夕張市が1.45%とされています。

<都市計画税の税率>
※地方税法702条の4
「都市計画税の税率は、100分の0.3を超えることができない。」

 都市計画税は目的税ですが、税率は0.3%を超えることはできません。
 なお、東京都23区の都市計画税の税率は、住宅用地の範囲に限り都税条例により減額特例(0.15%)が行われています。

固定資産税は都道府県でも課税される

 固定資産税は本来市町村税ですが、一部は都道府県でも課税されています。

 これは、あまり知られていませんが、一定の限度額を超える大規模償却資産(固定資産税)は都道府県で課税されています。

 大規模の償却資産が一つの市町村に偏ることを是正する「税源の偏在を是正する」のが目的で、その市町村の存する都道府県が課税します。

 代表的な資産としては、船舶、航空機、鉄軌道などがあります。

 また、大規模都市以外の市長村の大規模非木造家屋評価は県(県税事務所)により行われています。

 なお、東京23区の固定資産税は、東京都(都税事務所)が全面的に評価・課税しています。
 
2022/04/12
 

 

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2023/04/08/10:00