(第106号)固定資産税が課税されない非課税制度とは—社会福祉法人等による「老人福祉施設」の場合

 
(投稿・令和5年11月-見直し・令和6年8月) <閲覧上位再生版(第22号&第13号)>

 今回は過去の閲覧数で第3位の第22号と第9位の第13号の再生版です。

 
 固定資産税は、毎年1月1日の固定資産の所有者が納税義務者となり、課税されます。
 しかし、地方税法では、固定資産税が課税されない非課税制度というものが規定されています。

 この非課税とは固定資産税を『課税しない』ということではなく、市町村の意思いかんにかかわらず納税義務を負わせることができない、固定資産税を『課税してはいけない』という法的な課税禁止の制度なのです。

 この固定資産税の非課税制度には、2つの種類があります。

「人的非課税」…固定資産の所有者の性格によるもの。
「物的(用途)非課税」…固定資産それ自体の性格、用途によるもの。

「人的非課税」とは

  地方税法第348条1項では、国、都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができないとされています。

<固定資産税の「人的非課税>
※地方税法第348条1項
「市町村は、国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができない。」

 これらが所有する固定資産の典型的なものとしては、国道、県道、市町村道あるいは役所の庁舎、公立学校などが該当します。

 この国、都道府県、市町村が有する固定資産については、それが、どのような性格を有するものであろうと、また、どのような用途に供されているものであるかを問わず、すべて固定資産を課することができないということを意味します。

 しかし、「人的非課税」といえども、国や地方公共団体が所有している固定資産が一般の固定資産と異ならないような状態で使用収益されているもの、例えば、公務員の宿舎や民間への貸付土地等は、「人的非課税」扱いはされません。

 この場合は、「国有資産等所在市町村交付金法」により、固定資産税に準ずるものとして、その固定資産の所有者は、所在の市町村等に対して固定資産税相当額(国有資産等所在市町村交付金)を納付しなければなりません。

「物的(用途)非課税」とは

固定資産税の「物的(用途)非課税」の内容

 固定資産税の非課税で注目すべきは、「物的(用途)非課税」の方です。

 「物的(用途)非課税」は、例えば、宗教法人、墓地、公共の用に供する道路(私道)、社会福祉法人、学校法人、国宝、重要文化財等が所有している固定資産の場合です。

 地方税法第348条2項各号に列挙する固定資産及び同条第4項、第5項、第6項、第7項、第8項、第9項に規定する固定資産は69項目が規定されています。

 この規定は、これ以外は認めることが出来ない「限定列挙」となります。

<固定資産税の「物的(用途)非課税」>
※地方税法第348条2項
「2項.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。」(本項のみ掲載—以下略)

「物的(用途)非課税」が適用されない場合

 次の場合には、固定資産税の物的(用途)非課税は適用されません。

① 有料使用の場合の課税
 地方税法第348条2項各号に列挙する資産に該当するものであっても、その固定資産を有料で借り受けた者がこれを使用する場合においては、その固定資産の所有者に固定資産税を課税することができます(地方税法第348条2項ただし書)。

 例えば、国や地方公共団体が私人に地代及び家賃を支払って建物を借りている場合には、官公庁用が使用していても、貸している所有者に課税されます。

② 目的外使用の場合の課税
 法第348条2項各号の固定資産がそれぞれ各号に定められている目的外の目的に使用される場合には、その固定資産税は課税されます。

<目的外使用の場合の課税>
※地方税法第348条第3項
「3項. 市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使 用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」

「物的(用途)非課税」には申告が必要

 なお、「物的(用途)非課税」を適用するにあたっては申告が必要とされています。

 この申告制度は、地方税法には規定されておらず、総務省の通知に基づいて、市町村毎の条例により定められています。

<地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)第3章第1節19>
「非課税等特別措置の適用に当たっては、定期的に実地調査を行うこと等により利用状況を的確に把握し、適正な認定を行うこと。また、実地調査時点の現況等を記載した対象資産に関する諸資料の保管、整理等に努め、その的確な把握を行うとともに、利用状況の把握のため必要があると認められる場合には、条例により申告義務を課することが適当であること。」

 この場合の問題は、固定資産税は本来申告が必要無い「賦課課税方式」である訳ですので、仮に申告が無かった場合は過去に納付した分が還付されるのかということです。

「老人福祉施設」に対する物的非課税

 ここでは、物的(用途)非課税のうち閲覧数の多い「老人福祉施設」(第36号—第3位)について説明します。

「老人福祉施設」の非課税内容

 「老人福祉施設」の非課税については、地方税法第348条2項10の5に規定されています。

<固定資産税の「老人福祉施設」非課税>
※地方税法348条2項10の5
「2.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
…………
10の5 社会福祉法人その他政令で定める者が老人福祉法第5条の3に規定する老人福祉施設の用に供する固定資産で政令で定めるもの」

 ここでは、所有者が「社会福祉法人その他政令で定める者」で、固定資産が「固定資産で政令で定めるもの」とされ、「者」と「もの」それぞれの政令を確認する必要があります。

 まず、「老人福祉施設」で非課税が認められる「者」は、必ずしも運営主体が社会福祉法人に限りません。

 地方税法施行令第49条の13では、1項で(1)の運営する「者」が、2項で(2)の固定資産が非課税となる「もの」とされています。

(1) 運営主体(「者」)
①社会福祉法人
②社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
③公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、消費生活協同組合、健康保険組合、国民年金基金、商工組合、医療法人等
④老人介護支援センターの届出をした者

(2) 非課税となる固定資産(「もの」)
a.①が経営する養護老人ホーム
b.①②が経営する特別養護老人ホーム
c.①②③が経営する老人デイサービスセンター、老人短期入所施設軽費老人ホーム、老人福祉センター
d.①②③④が経営する老人介護支援センター

 なお、社会福祉法人はそもそも地方税法348条2項10の5で規定されていますので、地方税法施行令では「社会福祉法人以外の者」が規定されています。

<老人福祉施設等を運営する者-運営主体>
※地方税法施行令第49条の13第1項
「法第348条第2項第10の5に規定する政令で定める者は、次に掲げる者とする。
1.老人福祉法附則第6条の2の規定により社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
2.公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、農業協同組合連合会(前号に掲げるものを除く。)、消費生活協同組合、消費生活協同組合連合会、健康保険組合、健康保険組合連合会、企業年金基金、確定給付企業年金法に規定する企業年金連合会、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、国民健康保険組合、国民健康保険団体連合会、国民年金基金、国民年金基金連合会、商工組合(組合員に出資をさせないものに限る。)、商工組合連合会(会員に出資をさせないものに限る。)、石炭鉱業年金基金、全国市町村職員共済組合連合会、地方公務員共済組合、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団及び医療法人
3.前2号に掲げる者以外の者で老人福祉法第20条の7の2に規定する老人介護支援センターの設置について同法第15条第2項の規定による届出をしたもの」

<老人福祉施設等で非課税となる固定資産-施設>
※地方税法施行令第49条の13第2項
「法第348条第2項第10の5に規定する政令で定める固定資産は、次に掲げる固定資産とする。
1.社会福祉法人が経営する老人福祉法第20条の4に規定する養護老人ホームの用に供する固定資産
2.社会福祉法人及び前項第1号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の5に規定する特別養護老人ホームの用に供する固定資産
3.社会福祉法人並びに前項第1号及び第2号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の2の2に規定する老人デイサービスセンター、同法第20条の3に規定する老人短期入所施設、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム及び同法第20条の7に規定する老人福祉センターの用に供する固定資産
4.社会福祉法人及び前項各号に掲げる者が経営する老人福祉法第20条の7の2に規定する老人介護支援センターの用に供する固定資産」

 特に「医療法人」(地方税法施行令第49条の13第1項2号の最後尾)が運営する「老人福祉施設等の用に供する固定資産」の非課税については、数年前ですが、かなりの市町村で課税誤り(非課税にもかかわらず課税していた)があった、とそれぞれの市町村のホームページで明らかにされています。

 某市町村の発表によりますと、「平成11年度地方税法改正により非課税範囲が拡大した(「医療法人」が追加された)ものの、市町村職員の理解が不十分であったため、非課税にもかかわらず課税を行った」とのことです。

 なお、株式会社が経営する「老人福祉施設」は非課税にはなりません。

「老人福祉施設」に土地を貸している場合

 ところで、固定資産税が非課税になるのは、運営法人等が固定資産を所有している場合に限りません。土地所有者が、運営法人等の利用の用に供するために土地を無償で貸している場合、その土地も非課税になります。

 ただし、有償で土地を貸している場合は、その土地は固定資産税が課税されます。
 例えば、次の図のように、社会福祉法人(A)が「老人福祉施設」を建設して運営し、その土地を(B)所有者から借りている場合、無償か有償かで異なります。

 
 社会福祉法人が土地と家屋を所有し、目的の用途に沿っていれば、当然、土地、家屋ともに固定資産税は非課税となります。

 しかし、固定資産がその目的以外に使用される場合は、固定資産税は非課税となりません。地方税法348条3項にその「課税規定」があります。

<課税規定-地方税法348条3項>
「3.市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」
 
2023/11/5/14:00
 

 

(第105号)固定資産税の課税誤りによる還付金(返還金)の返還期間は何年間か

 
(投稿・令和5年10月-見直し・令和6年8月) <閲覧上位再生版(第27号&第28号)>
※(第27号は過去の閲覧記録で第2位、第28号は第6位)

 
 今回は、固定資産税の評価・課税誤りによって納め過ぎた場合、その還付金又は返還金は何年間遡って還してもらえるかについて解説します。

地方税法による原則的手続<5年>

 地方税法では、徴収し過ぎた税金(還付金)の請求権は5年で消滅時効になる、つまり5年間遡って還してもらえると定められています。

還付金の消滅時効(5年まで)

<還付金の消滅時効>
※地方税法第18条の3
「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年を経過したときは、時効により消滅する。」

 ところで、固定資産税の納め過ぎの原因のほとんどは、課税当局の誤り(課税ミス)によるものと考えられますが、課税誤りが発見されるケースは、納税者等からの指摘によることがほとんどです。 

「審査申出前置主義」とは

 課税処分に不服がある場合は、(課税当局が認めない場合には)裁判所にその処分を取り消してもらうための取消訴訟を提起しなければなりませんが、いきなり裁判所に取消訴訟を提起することはできません。

 まず価格の不服について固定資産評価審査委員会へ「審査の申出」を行い、その決定に不服がある場合に取消訴訟を提起できることになります。

 これが地方税法上の原則的な手続で、「審査申出前置主義」と言われています。

<①審査の申出>
※地方税法第432条1項
「固定資産税の納税者は、価格に不服がある場合には、納税通知書の交付を受けた日後3ヵ月までの間に文書をもって、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。」
<②争訟の方式>
※地方税法第434条1項
「固定資産税の納税者は、①の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる。」
<③出訴期間>
※行政事件訴訟法第14条1項
「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から6ヵ月を経過したときは、提起することができない。」

「重大な錯誤」による修正<10~20年>

 地方税法の原則的手続は上記のとおりですが、地方税法では特例規定とも言うべき規定として、「重大な錯誤」がある場合の「固定資産の価格等のすべてを登録した旨の公示の日以後における価格等の決定又は修正」が認められています。

「重大な錯誤」とは

 そこで、設けられている規定が地方税法第417条1項です。

<重大な錯誤>
※地方税法第417条1項
「市町村長は、…登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに…決定された価格等を修正しなければならない。」

 ここで「重大な錯誤」とは、虚偽の申告又は申請による誤算、固定資産課税台帳に登録する際の誤記、価格等を決定する際の計算単位のとり違い、評価調書における課税客体の明瞭な誤記又はその認定の誤り等、客観的にみて価格等自体の決定に重大な誤りがあると認められるような錯誤を言い、軽微な誤り程度のものは含まれません。

 つまり、このような「重大な錯誤」があれば、原則的な手続(審査の申出等)を経ることなく、市町村長は直ちに修正しなくてはならないのです。

 ここで価格等が修正され、過徴収金がある場合、「重大な錯誤」であれば、その返還期間が10年や20年もあり得ることになります。
※この場合の5年間が地方税法上の「還付金」で、残りの期間の還付不能額を「過誤納補填金」(又は「返還金」)と称します。

「過誤納金返還要綱」による返還

 そして、この「重大な錯誤」があった場合の10年か20年の返還を市町村毎に定めているのが、次の「過誤納金返還要綱」になります。
 この「要綱」とは法律や条例とは異なり、市町村の行政内部(議会に諮らず)のみで定めることができるもので、全国の7割程度の市町村で保有していると言われています。

 ところで、この 「過誤納金返還要綱」による還付不能額とは、「固定資産税の課税客体に係る過誤納金のうち、地方税法第18条の3の規定により還付することができない税相当額」と定義されています。

 仮に10年間の過誤納金である場合は、還付金5年+返還金5年の合計10年間という計算になります。

 また「過誤納金返還要綱」では、一般的には10年間の返還ですが、固定資産税納付の領収書等が確認できれば20年間の返還を認めるともなっています。

 しかし、そもそも固定資産税は、所有者の申告を必要とせず(償却資産は申告が必要)、行政が一方的に評価・課税をする「賦課課税」となっていますので、仮に誤りを認めるのであれば、その責任を納税者に転嫁するのはおかしいと言わざるを得ません。

国家賠償法の適用<最高20年>

  以上のとおり、固定資産税の課税誤りがあった場合の還付又は返還は、原則として地方税法による原則的手続による5年、また「過誤納金返還要綱」による場合は10年間から最高20年間も有り得るということです。

浦和地裁判決(平成4年2月)による効果

 第97号の「住宅用地の減額特例に関する浦和地裁判決(H4年2月)とその効果—住宅用地の認定と国家賠償法の適用等」でも紹介しましたが、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地方裁判所の判決では「固定資産税の賦課決定に重大かつ明白な瑕疵(過失)があった場合は、国家賠償法の適用(20年間の返還)が可能である」とされました。

 実は、この判決を受けて、市町村による「過誤納金返還要綱」が策定されるに至った訳です。

 
 そして、この方向を一歩進めたのが、次の最高裁判決でした。

最高裁判決の内容

 この最高裁判決(平成22年6月3日)において、「固定資産税の評価・課税に過失による誤りがある場合は国家賠償の請求を認める」との判断がなされたのです。

<平成22年6月3日最高裁(第一小法廷)判決>
「公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」
「記録によれば、本件倉庫の設計図に『冷蔵室(-30℃)』との記載があることや本件倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ、これらの事情に照らすと、原判決が説示するような理由だけでは、本件倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできない。」

 この最高裁判決によると、一定の要件の下では、地方税法上の審査請求や取消訴訟を経ることなく、国家賠償請求を行うことができ、固定資産税の過徴収金の返還期間は最高20年となります。

 では、いかなる場合に国家賠償の請求が認められるのかですが、これは国家賠償法第1条によります。

※国家賠償法第1条
「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」

 そして、過徴収金返還の時効は20年になりますが、これは民法第724条によります。

<不法行為による損害賠償請求権の消滅時効>
※民法第724条
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1  被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
2  不法行為の時から20年間行使しないとき。」

「過失」とは「手抜きがあったとき」

 上記の最高裁判決では「過失とな何か」が明確に定義されていませんが、他の下級審判決等によると「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことの無いような場合には、国家賠償が認められるような違法になる」と判断されています。

 この場合の過失とは「手抜きがあったとき」とされています。

 つまり、「手抜き」のような過失(職務上通常尽くすべき注意義務を尽くされていない)では、国家賠償法の対象で20年間の返還になり得るということです。
 
2023/10/28/15:00
 

 

(第104号)固定資産税の「宅地の評価」は2通りの方法-「路線価方式」と「標準宅地比準方式」

 
(投稿・令和5年10月-見直し・令和6年8月) <閲覧1位(第36号)再生版>
※(第36号は過去の閲覧記録で第1位)

 
 宅地の評価は、各筆の宅地を評価して評点数を求め、その評点数に評点1点当りの価額を乗じて求める方法です。

 その場合、宅地の評価方法としては、「市街地宅地評価法(路線価方式)」及び「その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)」の2通りあります。

<宅地の評価-固定資産評価基準>
※第3節宅地・二評点数の付設
「各筆の宅地の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法(路線価方式)」によつて、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)」によつて付設するものとする。ただし、市町村の宅地の状況に応じ必要があるときは、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地についても、「市街地宅地評価法(路線価方式)」によつて各筆の宅地の評点数を付設することができるものとする。」

<宅地の評価方法>

※市街地宅地評価法「路線価方式」は第10号「固定資産税の宅地の評価方法(『市街地宅地評価法-路線価方式』」で説明してあります。

 
※過去の閲覧数では、意外にも市街地宅地評価法(以下「路線価方式」とする)より、その他の宅地評価法(以下「標準宅地比準方式」とする)の方が上位(1位)でありましたが、これは全国の8割程度で「標準宅地比準方式」が適用されているからと推測します。しかし、最近では「路線価方式」に変更されている市町村も多いようです。

「標準宅地比準方式」とは何か

 「標準宅地比準方式」は、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地の評価に適用されます。

 具体的には、家屋の連たん度が低く「路線価方式」を適用する必要が認められない地域について適用される評価方法です。

<「標準宅地比準方式」の概要>

 

「標準宅地比準方式」の流れ

 「標準宅地比準方式」では、道路ごとに路線価を付設せずに、状況類似地区の区分とその中で標準宅地を選定し、土地の宅地比準を行い求めます。

 宅地の価格事情がほぼ同等で広域に亘るため、路線価を付設する必要性が無い等から路線価方式を採用しない訳です。

<「標準宅地比準方式」の流れ>

 「標準宅地比準方式」は、次の(1)~(3)の流れとなります。

(1)状況類似地区の区分

 「標準宅地比準方式」では、まず状況類似地区に地区区分します。

 「路線価方式」では、用途地区がありますので状況類似「地域」と表現しますが、「標準宅地比準方式」では状況類似「地区」となります。

(2)標準宅地の選定と評価

 次に、その状況類似地区の中で標準的な宅地として標準宅地を選定し、標準宅地の評価額を設定します。

 これは、地価公示と地価調査がある場合はその価格の7割を、無い場合には標準宅地を不動産鑑定士が鑑定評価をして、その7割を標準宅地の適正な時価とします。

 そして、標準宅地の評点数を計算し、原則として、全ての筆(画地)の評点数を計算します。

<状況類似地区→標準宅地>

 
 この図のように、「標準宅地比準方式」では路線価が無く、標準宅地のみが選定されています。

(3)各筆の評点数の付設

 評点数の計算方法としては、標準宅地の比準計算により行われます。

 固定資産評価基準では、比準割合の項目として、「奥行による比準割合」、「形状等による比準割合」、「その他の比準割合」の3つの類型の相乗積により求めることとされています。

<「標準宅地比準方式」の比準割合>

「路線価方式」とは何か

 「路線価方式」は、主に都市部の住宅が密集した地域における、土地の固定資産評価に用いられるものです。

 「路線価方式」は、道路1本ごとに価格(路線価)をつけ、1つの同じ道路に接する土地について、すべて同一路線価から計算する方法です。

 この方式は、短時間に大量の土地評価ができること、評価後の価格に大きなばらつきが出ずに公平な課税が可能であること、地域ごとの評価バランスがとりやすいこと、などの利点があります。

<「路線価方式」の概要>

「路線価方式」の方法

 「路線価方式」は、次の(1)~(8)の流れとなります。

<「路線価方式」の流れ>

(1)用途地区の区分

 路線価の付設にあたっては、まず、大きな用途地区(商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区)に区分され、さらに必要に応じて細区分されます。
①商業地区
 商業地区は、主として商業店舗が連続する地区で、繁華街、高度商業地区Ⅰ、高度商業地区Ⅱ、普通商業地区に区分されます。
②住宅地区
 住宅地区は、主として住宅用の宅地が連続する地区で、高級住宅地区、普通住宅地区、併用住宅地区に区分されます。
③工業地区
 工業地区は、主として工業用宅地が連続する地区で、大工場地区、中小工場地区、家内工業地区に区分されます。
④観光地区
 観光地区は、温泉街地区、門前仲見世地区、名勝地区、海水浴場地区など、一般の商業地区とは若干性格を異にする地区をいいます。

(2)状況類似地域の区分

 状況類似地域区分は、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便による条件が「相当に相違する地域」ごとに区分します。

<用途地区→状況類似地域>

(3)主要な街路の選定

 状況類似地域内において、最も代表的で評価の拠点としてふさわしいものを「主要な街路」として1カ所選定します。地価公示地及び都道府県地価調査地の所在する街路は「主要な街路」となります。

(4)標準宅地の選定

 主要な街路に沿接する宅地のうちから、奥行、間口、形状等が標準的なものを標準宅地として設定します。

(5)標準宅地の適正な時価の評定

 設定された標準宅地について、地価公示価格、都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士による鑑定評価から求められた価格の7割を目途に標準宅地の「適正な時価」を評定します。

(6)主要な街路の路線価の付設

 標準宅地の「適正な時価」に基づき1㎡当たりの価格を算出し、その価格を主要な街路の路線価として付設します。

(7)その他の街路の路線価の付設

 主要な路線価を基準として、その他の街路の路線価を付設します。その他の街路の路線価の付設に当たっては、状況類似地域区分の基準(街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便)を総合的に考慮します。

<状況類似地域→標準宅地→路線価>

<「路線価地域図」>

(8)画地計算法による各筆の評点数の付設

 「路線価方式」における各宅地の評点数は、路線価に基づき画地計算法を適用してそれぞれの画地の単位当たりの評点数を算出し、これに各筆の地積を乗じて算出します。

<画地計算法>

 
2023/10/25/14:00
 

 

(第103号)土地の公的価格調査は年2回ー『地価公示』と『地価調査』ー行われている

 
(投稿・令和5年10月-見直し・令和6年8月)

 先月(令和5年9月)中旬に、マスコミ等で盛んに「昨年と比べて商業地、住宅地ともに土地の価格は上昇した」と報道されていました。

 これは、土地の公的価格調査のうち『地価調査』の結果に基づくもので、最新の調査によるものであり正しい内容ですが、「土地の公的調査は年1回なのか」と勘違いされている方もおられると思います。
※ 『地価調査』は『(県)基準地』とも言われています。

 実は、土地の公的価格調査は年1回ではなく2回行われています。
 毎年1月1日現在の『地価公示』(公表は3月下旬頃)と、7月1日現在の『地価調査』(公表は9月中旬頃)の年2回です。

 土地の価格は時の経過によって異なってきますので、当然新しい調査(今回は『地価調査』)が最近の地価動向となります。

公的土地評価の均衡化・適正化

 ところで、公的土地評価について「一物四価」と言われています。

 「一物四価」とは、土地を評価・価値を指標化する際の4つの価格(評価価値)のことで、時価(実勢価格)、地価公示価格、相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額(路線価)を指します。

 この内容は、第41号「『一物四価』とは何か-公的土地評価の均衡化・適正化」で説明してありますのでご覧ください。

 

「一物四価」とは何か

 ここで、簡単に「一物四価」を説明しておきます。

① 時価(実勢価格)とは
 時価(実勢価格)は、実際に売買する場合の土地の価格です。
過去に売買が成立した際の価格や、近隣の土地の取引価格を参考にして決められてくるのが一般的です。

② 地価公示価格とは
 地価公示価格は、毎年1月1日の価格を3月下旬頃に国土交通省により公表される土地の価格で、一般の土地取引価格の指標ともなっています。
 この価格は、地域における標準地の更地1㎡当りの正常な価格を不動産鑑定士による鑑定評価で評価されます。
 地価公示価格の鑑定評価においては、実際の取引事例を元に標準化して評価額を求めていることから、時価(実勢価格)とほぼ等しい価格と思われます。

③相続税評価額(路線価)とは
 相続税評価額は、土地の相続税や贈与税を計算する際の基準となる価格で、その年の1月1日時点での価格が毎年7月中旬頃に国税庁により公表されています。
 相続税の路線価は、道路に面する宅地1㎡あたりの価格を基準に算出され、地価公示価格の80%の割合を目安に設定されています。

④固定資産税評価額(路線価)とは
 固定資産税評価額は、固定資産税のみならず都市計画税、不動産取得税、登録免許税などを計算する際に基準となっており、地価公示価格の70%の割合を目安に設定されています。
 固定資産税路線価は、各市町村が3年に一度、3月末までに前年の1月1日を基準にした価格の見直しの結果公表されています。

『地価公示』と『地価調査』の相違

 ところで、この「一物四価」には『地価調査』が入っていません。

 『地価調査』は、事実上『地価公示』と同じ種類の公的価格制度ですが、『地価公示』がメインで『地価調査』が補完的役割と考えられています。

『地価公示の主な役割

 『地価公示』の令和5年のポイントは、全国で26,000地点(標準地)で実施されました。

『地価公示』の主な役割は、次のとおりです。

  一般の土地の取引に対して指標を与えること
  不動産鑑定の基準となること
  公共事業用地の取得価格算定の規準となること
  土地の相続評価および固定資産税評価についての基準となること
⑤  国土利用計画法による土地の価格審査の規準となること

 『地価調査』とは何か

 『地価調査』は、国土利用計画法施行令第9条に基づき、都道府県知事が、地価を抑えるために土地利用の計画を立てて、土地の取引を監視したり、制限したりするための目的で、昭和49年に制定されました。

 令和5年の「地価調査(基準地価)」は、全国で21,381地点(基準地)で実施されました。

 「地価調査(基準地価)」の主な役割は、次のとおりです。

①  都道府県の発表に合わせて、国土交通省が全国の状況をとりまとめて公表すること
  国土交通省(土地鑑定委員会)が実施する地価公示(毎年1月1日時点の調査)と調査時期、調査地点において相互に補完的な関係にあること
  地価が下落傾向にあるとき、平年度の土地固定資産税の引下げの指標となること

 ここに『地価公示』と『地価調査』)の相違の一覧表を掲げます。

<『地価公示』と『地価調査』)の相違>

 
 『地価公示』と『地価調査』のポイントの場所は基本的には異なりますが、中には同一ポイントとされている場合があります。

 この場合は同一ポイントですので、同じ場所が半年単位で公的評価されることになります。

<『地価公示』と『地価調査』)の同一ポイント>

 
2023/10/20/13:00
 

 

(第102号)「空き家」を取り壊した後の「更地」は、住宅用地ではないが非住宅用地の負担調整措置が適用

 
(投稿・令和5年10月-見直し・令和6年8月)

 「空き家」問題では、「空家等対策特別措置法」(以下「空き家法」)による「特定空き家」の指定がありますが、新しく「管理不全空き家」が創設されました。

 現在「空き家」問題では、家屋の取壊しだけではなく、有効活用も検討される等幅広い動きも出てきています。

 一方、固定資産税の土地評価では、家屋がある土地は住宅用地の負担調整措置による減額の特例措置がありますが、家屋を取壊して「更地」にすると、この減額特例は適用されなくなります(再建築予定地は別)。

 しかし、この「更地」については、非住宅用地(商業地等)の負担調整措置があります。

固定資産税の土地とは何か 

 まず、「更地」は間違い無く土地の部類ですので、固定資産税の根拠法である地方税法における土地の位置づけについてみていきます。

<固定資産税に関する用語の意義>
※地方税法341条1項2号
「土地とは、田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、山林、牧場、原野その他の土地をいう」

 ところで、地方税法では用語の定義はされていませんが、具体的には不動産登記法(事務取扱手続準則)の定める通りとされています。

<不動産登記法—地目>
※不動産登記事務取扱手続準則第68条
「次の各号に掲げる地目は,当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には,土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分的にわずかな差異の存するときでも,土地全体としての状況を観察して定めるものとする。」

 不動産登記事務取扱手続準則(68条)では23種類の地目が定められていますが、ここに主なものを掲げます。

※ここには「更地」の用語はありませんが、宅地の一形態とみることができます。

住宅用地の負担調整措置 

 固定資産税の評価において、土地は住宅用地と非住宅用地から成ります。

 まず、住宅用地とは「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋の敷地の用に供されている土地」(地方税法第349条の3の2第1項)と定義されています。

 住宅用地の例としては、住宅用家屋(専用住宅・アパート等)の敷地、住宅用家屋の敷地と一体となっている庭・自家用駐車場があります。つまり、住宅用地は家屋が存在している土地ということになります。

 ところで、地方税法第349条の3の2は「住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例」条文なのですが、では課税標準とは何かということになります。

 課税標準額とは、税率をかけて固定資産税の税額を算出する基になる金額のことで、通常は評価額と同一ですが、住宅用地については土地の負担調整措置が適用され、特例として評価額よりも低くなります。

 土地の負担調整措置では、価格(評価額)、本則課税標準額、前年度課税標準額、今年度課税標準額からなるため、複雑な仕組みとなっています。

 ここに住宅用地の負担調整措置の仕組み(小規模住宅用地の場合)を掲げます。

<住宅用地の負担水準と負担調整措置>

 固定資産税の価格は地価公示価格の7割とされています。

 そして住宅用地の場合は、200㎡までが小規模住宅用地で価格に1/6,200㎡を超える部分は一般住宅用地で価格に1/3を乗じたものが本則課税標準額となります(一般住宅用地の上限は家屋面積の10倍まで)。

 次に、その年の課税標準額(今年度課税標準額)を求めるには、本則課税標準額に対する前年度の課税標準額の割合(これを負担水準と言います)を求めますが、これは前年度の課税標準額が、本則課税標準額のどこまで達しているかということです。

 そして、その負担水準に応じて今年度の課税標準額が決まってきます。したがって、今年度課税標準額=本則課税標準額×負担水準となり、今年度課税標準額×税率=税額となります。

非住宅用地(商業地等)の負担調整措置 

 それに対して家屋が存在しない、例えば「空き家法」の特定空き家に指定され、家屋を取り壊した場合の「更地」は、住宅用地の負担調整措置は解除され、非住宅用地(商業地等)としての負担調整措置が適用されます。

 非住宅用地(商業地等)の例としては、業務用家屋(店舗、事務所、工場、倉庫、旅館等)の敷地、外部貸駐車場(月極駐車場、コインパーキング、カーシェアリングやシェアサイクルの用地など)、資材置場、空地(=更地)、住宅建築中の土地等があげられます。

<商業地等とは>
※地方税法附則第17条4項
「商業地等 宅地等のうち住宅用地以外の宅地及び宅地比準土地(宅地以外の土地で当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が、当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格により決定されたものをいう。)をいう。」

 ここに商業地等(「更地」)の負担調整措置の仕組みを掲げます。

<商業地等(「更地」)の負担調整措置>

 この商業地等の負担調整措置の仕組みは、地方税法附則第18条に規定されています。

※地方税法の「附則」はページ項目では単に1行のみですが、枝番を含んだ条文量は膨大となっており、上記の附則第18条に商業地等の負担調整措置の仕組みが規定されていることを探すこと自体一苦労です。ただし、この商業地等の負担調整措置の仕組みは平成9年度に成立した以降変更はされておりません。(地方税法附則第18条の条文が長いため条文掲載は割愛します。)

 この商業地等の仕組みにより、住宅用地の家屋が取り壊された「更地」でも負担調整措置が行われているのです。

 そのため、「固定資産税は建物が取り壊されると、土地が『更地』になり価格が最高6倍となる」と見解がときどきありますが、これは間違いです。
 「空き家」が取り壊されて「更地」になると「6倍ではなく3~4倍となる」が正解です。

 これは、非住宅用地(商業地等)の上限価格が地価公示価格の7割から更に7割の引下げ特例が定められていることから、6分の1を廃止しても6倍にはならないのです。

 さらに商業地等では地価公示価格の6割から7割が据置ゾーンとされているため、仮に6割以下から引上げがあっても6割でストップということになるのです。

 実は、この「引上げが6割に達したら6割評価でストップ」と「古くから7割あるいは6~7割ゾーン評価にある」家屋評価との不均衡が生じつつあるのが、最近の課題の一つでもあるのです。

不動産鑑定評価での更地 

 ところで不動産鑑定評価では、「更地」について明確に定義されています。

 不動産鑑定評価基準では、①地域の種別(宅地地域)→②土地の種別(宅地)→③宅地の種別(更地)→④更地、と順に定義されています。(第2章 不動産の種別及び類型)

① 地域の種別⇒宅地地域
「地域の種別は、宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられる。 宅地地域とは、居住、商業活動、工業生産活動等の用に供される建物、構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいい、住宅地域、商業地域、工業地域等に細分される。」

② 土地の種別⇒宅地
「土地の種別は、地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、宅地、農地、林地、見込地、移行地等に分けられ、さらに地域の種別の細分に応じて細分される。 宅地とは、宅地地域のうちにある土地をいい、住宅地、商業地、工業地等に細分される。」

③ 宅地の類型⇒更地
「宅地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、更地、建付地、借地権、底地、区分地上権等に分けられる。」

④ 更地とは
「更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。」
 
2023/10/02/15:00