(第102号)「空き家」を取り壊した後の「更地」は、住宅用地ではないが非住宅用地の負担調整措置が適用

 
(投稿・令和5年10月-見直し・令和7年4月)

 「空き家」問題では、「空家等対策特別措置法」(以下「空き家法」)による「特定空き家」の指定がありますが、新しく「管理不全空き家」が創設されました。

 現在「空き家」問題では、家屋の取壊しだけではなく、有効活用も検討される等幅広い動きも出てきています。

 一方、固定資産税の土地評価では、家屋がある土地は住宅用地の負担調整措置による減額の特例措置がありますが、家屋を取壊して「更地」にすると、この減額特例は適用されなくなります(再建築予定地は別)。

 しかし、この「更地」については、「非住宅用地(商業地等)の負担調整措置」があります。

固定資産税の土地とは何か 

 まず、「更地」は間違い無く土地の部類ですので、固定資産税の根拠法である地方税法における土地の位置づけについてみていきます。

<固定資産税に関する用語の意義>
「地方税法341条1項2号」
「土地とは、田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、山林、牧場、原野その他の土地をいう」

 ところで、地方税法では用語の定義はされていませんが、具体的には不動産登記法(事務取扱手続準則)の定める通りとされています。

<不動産登記法—地目>
「不動産登記事務取扱手続準則第68条」
「次の各号に掲げる地目は,当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には,土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分的にわずかな差異の存するときでも,土地全体としての状況を観察して定めるものとする。」

 不動産登記事務取扱手続準則(68条)では23種類の地目が定められていますが、ここに主なものを掲げます。

※ここには「更地」の用語はありませんが、宅地の一形態とみることができます。

住宅用地の負担調整措置 

 固定資産税の評価において、土地は住宅用地と非住宅用地から成ります。

 まず、住宅用地とは「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋の敷地の用に供されている土地」(地方税法第349条の3の2第1項)と定義されています。

 住宅用地の例としては、住宅用家屋(専用住宅・アパート等)の敷地、住宅用家屋の敷地と一体となっている庭・自家用駐車場があります。つまり、住宅用地は家屋が存在している土地ということになります。

 ところで、地方税法第349条の3の2は「住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例」条文なのですが、では課税標準とは何かということになります。

 課税標準額とは、税率をかけて固定資産税の税額を算出する基になる金額のことで、通常は評価額と同一ですが、住宅用地については土地の負担調整措置が適用され、特例として評価額よりも低くなります。

 土地の負担調整措置では、価格(評価額)、本則課税標準額、前年度課税標準額、今年度課税標準額からなるため、複雑な仕組みとなっています。

 ここに住宅用地の負担調整措置の仕組み(小規模住宅用地の場合)を掲げます。

<住宅用地の負担水準と負担調整措置>

 固定資産税の価格は地価公示価格の7割とされています。

 そして住宅用地の場合は、200㎡までが小規模住宅用地で価格に1/6,200㎡を超える部分は一般住宅用地で価格に1/3を乗じたものが本則課税標準額となります(一般住宅用地の上限は家屋面積の10倍まで)。

 次に、その年の課税標準額(今年度課税標準額)を求めるには、本則課税標準額に対する前年度の課税標準額の割合(これを負担水準と言います)を求めますが、これは前年度の課税標準額が、本則課税標準額のどこまで達しているかということです。

 そして、その負担水準に応じて今年度の課税標準額が決まってきます。したがって、今年度課税標準額=本則課税標準額×負担水準となり、今年度課税標準額×税率=税額となります。

非住宅用地(商業地等)の負担調整措置 

 それに対して家屋が存在しない、例えば「空き家法」の特定空き家に指定され、家屋を取り壊した場合の「更地」は、住宅用地の負担調整措置は解除され、非住宅用地(商業地等)としての負担調整措置が適用されます。

 非住宅用地(商業地等)の例としては、業務用家屋(店舗、事務所、工場、倉庫、旅館等)の敷地、外部貸駐車場(月極駐車場、コインパーキング、カーシェアリングやシェアサイクルの用地など)、資材置場、空地(=更地)、住宅建築中の土地等があげられます。

<商業地等とは>
「地方税法附則第17条4項」
「商業地等 宅地等のうち住宅用地以外の宅地及び宅地比準土地(宅地以外の土地で当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が、当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格により決定されたものをいう。)をいう。」

 ここに商業地等(「更地」)の負担調整措置の仕組みを掲げます。

<商業地等(「更地」)の負担調整措置>

 この商業地等の負担調整措置の仕組みは、地方税法附則第18条に規定されています。

※地方税法の「附則」はページ項目では単に1行のみですが、枝番を含んだ条文量は膨大となっており、上記の附則第18条に商業地等の負担調整措置の仕組みが規定されていることを探すこと自体一苦労です。ただし、この商業地等の負担調整措置の仕組みは平成9年度に成立した以降変更はされておりません。(地方税法附則第18条の条文が長いため条文掲載は割愛します。)

 この商業地等の仕組みにより、住宅用地の家屋が取り壊された「更地」でも負担調整措置が行われているのです。

 そのため、「固定資産税は建物が取り壊されると、土地が『更地』になり価格が最高6倍となる」と見解がときどきありますが、これは間違いです。
 「空き家」が取り壊されて「更地」になると「6倍ではなく3~4倍となる」が正解です。

 これは、非住宅用地(商業地等)の上限価格が地価公示価格の7割から更に7割の引下げ特例が定められていることから、6分の1を廃止しても6倍にはならないのです。

 さらに商業地等では地価公示価格の6割から7割が据置ゾーンとされているため、仮に6割以下から引上げがあっても6割でストップということになるのです。

 実は、この「引上げが6割に達したら6割評価でストップ」と「古くから7割あるいは6~7割ゾーン評価にある」家屋評価との不均衡が生じつつあるのが、最近の課題の一つでもあるのです。

不動産鑑定評価での更地 

 ところで不動産鑑定評価では、「更地」について明確に定義されています。

 不動産鑑定評価基準では、①地域の種別(宅地地域)→②土地の種別(宅地)→③宅地の種別(更地)→④更地、と順に定義されています。(第2章 不動産の種別及び類型)

① 地域の種別⇒宅地地域

「地域の種別は、宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられる。 宅地地域とは、居住、商業活動、工業生産活動等の用に供される建物、構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいい、住宅地域、商業地域、工業地域等に細分される。」

② 土地の種別⇒宅地

「土地の種別は、地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、宅地、農地、林地、見込地、移行地等に分けられ、さらに地域の種別の細分に応じて細分される。 宅地とは、宅地地域のうちにある土地をいい、住宅地、商業地、工業地等に細分される。」

③ 宅地の類型⇒更地

「宅地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、更地、建付地、借地権、底地、区分地上権等に分けられる。」

④ 更地とは

「更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。」
 
2023/10/02/15:00
 

 

(第101号)「役に立つ固定資産税講座」100号達成-これまでの閲読では「宅地評価」「課税誤り」「非課税」「減免」などが上位

 
(投稿・令和5年9月-見直し・令和7年4月)

 この「役に立つ固定資産税講座」は平成25年10月から始めましたが、100号を達することができました。

 これまでの皆様のご熱心な閲読に励まされて、ここまで到達することができました。有り難うございました。

 このブログソフト「WordPress」には、毎日の閲覧数を記録する機能であるプラグイン「Count Per Day」を搭載していますので、全ての記録が残っています。

 そこで今回は、①初号から現在までと②最近1週間の上位閲読(1位から10位まで)のナンバーを紹介することにします。

 多くの人が「固定資産税のどの内容を知りたいのか」が分かりますので、参考にしていただけましたら幸いです。

※ 過去の「閲覧数」と「順位」となりますと積み重ねですので、古い掲載が有利となりがちですので、この点を考慮されますようお願い致します。

 なお、次の①②の一覧表と該当ブログのアドレスリンクのみとさせていただきますので、各ブログはアドレス(赤字)をクリックの上ご覧いただきますようお願い致します。

① 初号から現在までの閲読状況


 
◇1位<第36号>(50,021回)
 ・固定資産税の宅地の評価方法(「その他の宅地評価法-標準宅地比準方式」)
 
◇2位<第27号>(47,049回)
 ・固定資産税の課税誤り(過誤納金)の返還期間-地方税法及び「過誤納金返還要綱」
 
◇3位<第22号>(46,188回)
 ・物的(用途)非課税の例(2)-社会福祉法人等による「老人福祉施設」
 
◇4位<第15号>(43,911回)
 ・固定資産税「減免」の要件と市町村条例
 
◇5位<第16号>(26,531回)
 ・固定資産税(土地)の地目認定は現況主義による
 
◇6位<第28号>(25,225回)
 ・固定資産税の課税誤りの返還期間(20年間ー国家賠償法適用)―最高裁判決
 
◇7位<第19号>(22,591回)
 ・固定資産税の家屋とはどういうものか(基本編)
 
◇8位<第2号>(20,410回)
 ・固定資産税は市町村税の「基幹税」で、土地と家屋は「賦課課税方式」
 
◇9位<第13号>(19,158回)
 ・固定資産税が課税されない非課税制度とは
 
◇10位<第24号>(17,610回)
 ・固定資産評価は相続税、不動産取得税、登録免許税でも活用
 

ご意見・ご感想のお願い

 この「役に立つ固定資産税講座」ブログでは、固定資産税の様々な課題を取り上げてきましたが、これからも、「テーマが過去とダブル」可能性はありますが、できるだけ新しい課題の面から考察して情報を発信していくつもりです。
 
2023/09/21/20:00
 

 

(第100号)震災、風水害等により被災した「住宅用地のみなし特例」について

 
(投稿・令和5年9月-見直し・令和7年4月)

 最近の夏は、「地球温暖化」を超えて「地球沸騰化」の時代とも言われ(国連グテーレス事務総長の発言)、異常気象による世界的な大災害が発生しています。

 そして、日本でも異常降雨、崖崩れ等の災害が続発し、住宅が滅失、倒壊する等の被害も発生しました。

 ところで、震災、風水害等の災害により住宅が滅失、損壊すると、その住宅の敷地となっていた土地が住宅用地として使用することができなくなってしまいます。

 そこで今回は、被災して住宅用地ではなくなった場合、固定資産税評価はどうなるかの解説です。

住宅用地とは何か(復習)

 まず、住宅用地とは何かの一部を復習します。

 住宅用地とは「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地」(地方税法第349条の3の2)です。

 住宅用地のうち戸建住宅の場合の固定資産税は、200㎡までが1/6(小規模住宅用地)に、それを超える面積分は1/3(一般住宅用地)に減額されることとなります。
 また、都市計画税の小規模住宅用地は1/3、一般住宅用地は2/3となります。

 なお、一般住宅用地の固定資産税1/3・都市計画税2/3は住宅の床面積の10倍までが限度となります。

<住宅用地の仕組み(戸建住宅の場合)>

 

「住宅用地のみなし特例」とは

「住宅用地のみなし特例」制度の趣旨

 この住宅用地は、原則として賦課期日(1月1日)の現況において現に住宅の存する土地であるものの、震災、風水害、火災等の災害により住宅が滅失し又は損壊のため取り壊された場合(以下「被災住宅用地」)には、住宅用地として認定できなくなってしまいます。

 そこで、被災住宅用地について所有者の税負担が急増することを回避し、住宅の再建を側面から支援する観点から、市町村長が「止むを得ない事由」と認定した場合には、次の「住宅用地のみなし特例」が適用されます。

 根拠法は地方税法第349条の3の3「被災住宅用地等に対する固定資産税の課税標準の特例」ですが、平成13年度、17年度、29年度に亘って改正されています。

① 平成13年度の改正

 震災、風水害等の発生後2年度分の固定資産税(以下「都市計画税も含む」)を住宅用地とみなします。

② 平成17年度の改正

 災害対策基本法に基づく避難指示等(避難勧告及び警戒区域の設定を含む)の期間が災害発生年の翌年以後に及んだ場合、住宅再建に着手し得る状況が整った後に賦課期日が到来する3年度分の固定資産税を住宅用地とみなします。

③ 平成29年度の改正

 被災市街地復興特別措置法に基づく被災市街地復興推進地域に定められた場合には、震災発生後4年度分の固定資産税を住宅用地とみなします。

震災、風水害等とは

 震災、風水害等とは、震災、風水害、雪害、落雷、噴火等の自然的災害、及び火災、爆発、事故等の人為的災害に起因して、住宅が滅失し、又は損壊した場合を指します。
 ただし、自己の放火や自己都合による建物取壊しの場合は、これに含まれません。

「止むを得ない事由」とは

 市町村長が被災住宅用地を住宅用地として使用することができない「止むを得ない事由」と認定し、「住宅用地のみなし特例」が適用される事例は、次の場合等です。

  がれき等の処理で物理的に使用できない
  権利関係の調整に時間がかる
  復旧工事用の資材置場として用地を提供したため使用できない
  経済的事情により、住宅再建まで時間が必要である

特例適用可能な所有者の範囲

 本特例措置の適用を受けることができる所有者等の範囲は、次のとおりです。

被災年度に係る賦課期日(1月1日)における所有者
  震災等の発生した日の属する年の1月2日から当該震災等の発生した日までの間に土地の全部又は一部を取得した者
③  ①又は②に該当する者から相続により、土地の全部又は一部を取得した者
  ①又は②に該当する者から土地の全部又は一部を取得した三親等内の親族
  ①又は②に該当する法人についての合併又は分割により、土地の全部又は一部を取得した法人

特例対象地積の範囲

 被災住宅用地について、一部が分割譲渡された場合、又は共有関係の変更があった場合等について、特例を受ける対象地積の範囲は、次のとおりです。

一部が分割譲渡された場合

 被災住宅用地の一部について、震災等の発生した日の翌日以後に、第三者に分割譲渡された場合は、当該譲渡された部分の地積が譲渡する前の全体の地積に占める割合により、その部分を「みなし住宅用地の特例」の適用から除外します。

共有関係の変更があった場合

① 被災共用土地の場合

 被災共用土地については、建物が滅失した後についても従前と同様に、連帯納税義務の解除及び共用土地に係る税額の按分を行いますが、住宅用地とみなされる地積の算定については、通常の区分所有家屋の敷地の場合に準じます。

 すなわち、被災前の居住用部分に相当する部分の被災区分所有家屋の床面積に対する割合を元に、住宅用地とみなす部分を算定します。
 ただし、被災前に居住用であった部分の持分に対応する持分が第三者に譲渡された場合には、その持分に対応していた部分は居住部分ではなかったものとみなします。

② 被災共用土地以外の土地の場合

 新たな第三者が取得した共用持分や本来の対象者であっても被災後新たに取得した共有持分は対象としません。

「被災住宅用地」適用には申告が必要

 震災、風水害等により被災した「住宅用地のみなし特例」の適用にあたっては、所有者から市町村長への申告が必要とされています。
 
2023/09/20/08:00
 

 

(第99号)固定資産税の納税義務者ー所有者課税の例外(みなす所有者=使用者課税)

 
(投稿・令和6年5月-見直し・令和7年4月)

 固定資産税の「所有者課税の原則」については、第9号「固定資産税の納税義務者ー所有者課税の原則(登記・登録されている者)」で説明していますが、今回は「所有者課税の例外(みなす所有者=使用者課税)」についてです。

 地方税法第343条(固定資産税の納税義務者等)では、1項~3項が「所有者課税の原則」が規定され、4項~10項では「所有者課税の例外」が規定されています。

 まず、「所有者課税の原則(登記・登録されている者)」の主な点を再掲しますが、詳細につきましては、第9号をご覧ください。

 

所有者課税の原則

所有者課税の原則と台帳課税主義

 固定資産税の納税義務者は、原則として毎年1月1日(賦課期日)の固定資産の所有者です。

<固定資産税の所有者>
「地方税法第343条1項」
「1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。」

 つまり、固定資産税には、所有者課税主義がとられています。

土地及び家屋の台帳上の所有者

 土地又は家屋についての所有者とは、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者になります(台帳課税主義)。

<台帳課税主義>
「地方税法第343条1項」
「2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。」

 仮に売買等によって賦課期日現在すでに所有権が移転している場合においても、登記簿上所有権の移転登記がなされていない限り、固定資産税は登記簿上所有者として登記されている旧所有者に課税されることになります。

償却資産の台帳上の所有者

 償却資産については、土地や家屋の場合における登記簿はなく、申告により償却資産課税台帳に登録されますので、その登録された者が所有者とされます。

<償却資産の所有者>
「地方税法第343条3項」
「3 第1項の所有者とは、償却資産については、償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう。」

所有者課税の例外(使用者課税)

 地方税法343条には、みなす所有者(使用者)課税の規定が7項目ありますが、ここでは、そのうち「災害等によって所有者の所在が不明の場合」「調査を尽くしても所有者の所在が不明の場合」「テナントが取り付けた家屋の附帯設備」について紹介します。

災害等によって所有者の所在が不明の場合-使用者に課税

<使用者課税とは①>
「地方税法第343条4項」
「 市町村は、固定資産の所有者の所在が震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

 所有者の所在が不明である場合とは、所有者が誰であるか分からない場合、生死が分からない場合、住所ないし居所がわからない場合等です。

 また、その不明である原因は、震災、風水害、火災、戦災、海難等であることを要し、引っ越しによって転出先の住所が不明でるというような日常の一般的な事由により不明である場合は含まれません。

 この場合、使用者を所有者とみなして、固定資産税(土地及び家屋)が課税されます。

調査を尽くしても所有者の所在が不明の場合-使用者に課税

<使用者課税とは②>
「地方税法第343条5項」
「 市町村は、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなお固定資産の所有者の存在が不明である場合(前項に規定する場合を除く。)には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

 固定資産の所有者が不明で、市町村が探索をしても明らかにならない場合は、その使用者を所有者とみなして固定資産税を課税することができます。この制度は、令和2年度の地方税法改正により、令和3年度から適用になりました。

 この5項には「市町村は、相当な努力…」とありますが、市町村の探索例としては、住民基本台帳及び戸籍簿等の調査並びに使用者と思われる者その他の関係者への質問その他必要な調査です。

 ここで調査を尽くしても所有者を検索できない場合は、使用者を所有者とみなして固定資産税(土地及び家屋)が課税されます。

テナントが取り付けた家屋の附帯設備-テナントの償却資産

<テナントの償却資産>
「地方税法第343条10項」
「 家屋の附帯設備であつて、当該家屋の所有者以外の者がその事業の用に供するため取り付けたものであり、かつ、当該家屋に付合したことにより当該家屋の所有者が所有することとなつたもの(以下この項において「特定附帯設備」という。)については、当該取り付けた者の事業の用に供することができる資産である場合に限り、当該取り付けた者をもつて第一項の所有者とみなし、当該特定附帯設備のうち家屋に属する部分は家屋以外の資産とみなして固定資産税を課することができる。」

 テナントが、建築設備、間仕切等の附帯設備を家屋に取り付けて、これらの附帯設備が家屋に付合する場合は、当該附帯設備は家屋の所有者が所有するものとされます(民法242条)。

 しかし、実際に当該附帯設備を使用収益しているのは、家屋の所有者ではなくテナントであることから、附帯設備を取り付けた者(テナント)を所有者とみなして固定資産税(償却資産)を課税することができるものとされています。

上記以外の「みなす課税」

 なお、地方税法第343条における「みなす課税」としては、「国が買収・収納した農地等(6項)」、「土地区画整理事業又は土地改良事業に係る土地(7項)」、「公有水面埋立地等(8項)」、「信託に係る償却資産(9項)」があります。

(※この6項~9項の条文は、引用規定が多く複雑となっていますので、条文の掲載は割愛します。)
 
2023/09/04/11:00
 

 

(第98号)急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の宅地における「所要の補正」について

 
(投稿・令和5年8月-見直し・令和7年4月)

 過日、四日市市において「固定資産税土地の評価誤りがあった」との報道がありました。

 『三重県四日市市は18日、本年度の固定資産税・都市計画税について、一部の土地の評価額が誤っていたことによる課税誤りが判明したと発表した。土地3017筆、計1455人分が誤っていた。原因は、土地評価業務の受託業者が使用する単価計算ツールの設定誤りのため、誤った単価データが納品されたことと、データのチェックが不十分だったため。』(令和5年8月19日「伊勢新聞」より)

 これだけでは土地評価のどこの課税誤りか分からないため、四日市市のホームページを確認しましたところ、次の記者発表資料が掲載されていました。

『1.概要……土砂災害特別警戒区域内にある宅地並評価の土地について、本市では平成27年度から評価を減額する補正を適用していますが、一部の土地で補正の適用漏れが判明しました。
 2.原因……課税事務において、補正適用作業に誤りがあったこと、及び補正適用作業後のチェック体制が不十分であったことによるものです。』(以下省略)

 課税誤りの対象が土砂災害特別警戒区域の宅地並評価であったことが分かりました。

 そこで、今回は土砂災害特別警戒区域、それと併せて急傾斜地崩壊危険区域について説明します。

災害対策関連法の一部

 災害対策関連法は、「地震・津波」「火山」「風水害」「地滑り・崖崩れ・土石流」「豪雪」「原子力」の類型におて、「予防」及び「復旧・復興」の各段階に分かれていて、膨大な数の法律が制定されています。

※次の「主な災害対策関連法の類型別整理表(PDF)」をご覧ください。

 
 その中で、今回関係する法律は類型「地滑り・崖崩れ・土石流」の「予防」段階における、「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」(以下「急傾斜地法」)及び「土砂災害警戒区域における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下「土砂災害防止法」)になります。

急傾斜地崩壊危険区域とは

 まず急傾斜地崩壊区域から説明しますが、この区域は「急傾斜地法」による区域となります。

 急傾斜地崩壊危険区域とは、「急傾斜地法」に基づき知事が指定するもので,急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護することを目的に,崩壊するおそれのある急傾斜地で,その崩壊により相当数の居住者その他の者に危害が生じるおそれのあるもの及びこれに隣接する土地のうち,当該急傾斜地の崩壊が助長され,又は誘発されるおそれがないようにするため,一定の行為が禁止若しくは制限される区域のことです。


 
 具体的には次の2つになります。
  崩壊するおそれのある急傾斜地(傾斜度が30度以上の土地)で、その崩壊により相当数の居住者その他の者に被害のおそれのあるもの
②  ①に隣接する土地のうち、急傾斜地の崩壊が助長・誘発されるおそれがないようにするため、一定の行為制限の必要がある土地の区域(誘発助長区域)

 なお、ここで急傾斜地とは「傾斜度30度以上」とありますが、この急傾斜地の定義は他の法律でも同様となっています。

土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは

 まず、「土砂災害防止法」とは何かですが、土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難態勢の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進しようとするものです。

 この中で、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とに分かれます。


 
① 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)とは
 急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域であり、危険の周知、警戒避難体制の整備が行われます。

② 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは
 今回、四日市市の課税誤りの原因は、この土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の評価でした。
 急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると求められる区域で、特定の開発行為に対する許可制、建築物の構造規制等が行われます。

固定資産税での評価対応

 以上のように土地が災害区域にある場合、固定資産税の土地評価において、市町村単位で減額修正(「所要の補正」)が行われています。

 なお、総務省からの通知(「令和3年度固定資産の評価替えに関する留意事項について」)でも「評価の均衡確保等」として「法規制等により利用制限等のある土地の評価」で土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)と急傾斜地崩壊危険区域が示されています。

急傾斜地崩壊危険区域の「所要の補正」

 最初に「急傾斜地法」の急傾斜地崩壊危険区域での評価についてです。

① 適用団体数
 全国の地方団体数1,719団体のうち適用団体は187団体で約10.9%で適用されています。

② 適用方法及び適用率
(ア) 一律の補正率を乗じる方法
 対象画地の一部でも当区域に指定されていれば補正を適用する方法で、0.90を適用している団体が最も多く、次が0.95となっています。
(イ )面積割合に応じた補正率を乗じる方法
 「急傾斜地崩壊危険区域/総面積」の面積割合に応じて補正率を適用する方法で、がけ地補正率を準用する団体が多くなっています。

土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の「所要の補正」

 こちらは、四日市市での課税誤りがあった「土砂災害防止法」の土砂災害特別警戒区域(レッドッゾーン)での評価についてです。

① 適用団体数
 全国の地方団体数1,719団体のうち適用団体は905団体で約52.6%で適用されています。
 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の適用が急傾斜地崩壊危険区域での適用より遙かに多いのが実態です。

② 適用方法及び適用率
(ア)一律の補正率を乗じる方法
 対象画地の一部でもレッドゾーンに指定されていれば補正を適用する方法で、0.70を適用している団体が最も多く、次が0.80となっています。
(イ)面積割合に応じた補正率を乗じる方法
 「レッドゾーン内の面積/総面積」の面積割合に応じて補正率を適用する方法です。
 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)において宅地利用するには、防護壁や建物の構造による対策費が必要となり、通常はこの対策費用相当額が土地の減価と認識できます。

 ただし、対策工事を行わずレッドゾーン以外の残地のみを宅地利用する場合もあり、この場合は面積割合方法を採用しない場合もあります。

固定資産税評価の外部委託

 今回の四日市市の課税誤りについて、伊勢新聞では『原因は、土地評価業務の受託業者が使用する単価計算ツールの設定誤りのため、誤った単価データが納品されたことと、データのチェックが不十分だったため』と報じられています。

 つまり、四日市市は固定資産税(土地)評価を外部業者に委託しているのです。外部業者への委託は、土砂災害特別警戒区域の土地だけではなく、市内全域の土地のようです(電話で確認しました)。

 しかし、外部委託がされていても、四日市市の記者発表資料に『課税事務において、補正適用作業に誤りがあったこと、及び補正適用作業後のチェック体制が不十分であったことによるもの』とあるように、当然、固定資産税の課税誤りの責任は市町村にあります。

 正確な調査結果はありませんので伝聞情報ではありますが、最近では、1/3程度の市町村において、固定資産税評価を外部業者に委託されているようだと聞いています。

 およそ30~40年前頃から、市町村でも人員削減(業務の効率化?)が進められており、税務部門にもその波が押し寄せて、評価の外部委託を行っている市町村も増えているのです。
 
2023/08/28/20:00