(第91号)「空家対策特別措置法」に基づく「特定空家」により土地評価はどうなるか

 
(投稿・令和5年1月-見直し・令和6年8月)

 今回は「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空き家法」という)の施行に基づく、全国の空き家の状況と市町村の取り組み状況及び固定資産税の対応についてお知らせします。

全国の空き家の状況

総務省調査による空き家状況

 総務省が5年毎に実施している「住宅・土地統計調査」によると、平成30年調査で、総住宅数6240万7千戸に対して空き家は848万9千戸となっており、空き家率は13.6%となります。この空き家率は、5年前の13.5%から0.1ポイント上昇し、過去最高となっています。

<空き家数及び空き家率の推移>

空き家発生による問題点

 最近では、少子高齢化や核家族化が進み、自宅を空き家にして高齢者施設に入所したり、居住者が亡くなり相続人が放置するといった例が増加しています。

 空き家が発生・増加することによる問題としては次の点があげられます。
防災性の低下(倒壊、崩壊、屋根・外壁の落下、火災発生のおそれ)
防犯性の低下(犯罪の誘発)
ごみの不法投棄
衛生の悪化・悪臭の発生(蚊、蝿、ねずみ、野良猫の発生)
風景・景観の悪化

固定資産税の減免特例も一因

 第5号「固定資産税土地の住宅用地(小規模住宅用地・一般住宅用地)とは何か」で触れたとおり、住宅用地には課税標準の減額特例が定められています。

 
 住宅用地でその面積が200㎡以下のものを小規模住宅用地として課税標準額が1/6に、200㎡を超えるものが一般住宅用地として1/3に減額されます。

 ところが、実際の課税においては、その家屋が人の居住の用に供されていない空き家であっても、住宅用地の特例が適用さているため、これが空き家の解体を妨げているともされています。

 家屋を解体すれば解体費用も掛かるし、土地の固定資産税の減額特例1/6(200㎡以下)が適用されなくなってしまう、であれば家屋の固定資産税を負担してでもそのまま空き家にしておこう、これが空き家増加の一因になっているということです。

平成26年に「空き家法」が成立

「空き家法」の内容

 そこで、平成26年11月に「空き家法」が制定されました。

<目的>
※「空き家法」第1条
「適切な管理が行われていない空き家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしており、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、空き家等の活用のための対応が必要」

<「空き家法」の概要>

「特定空家」制度が設立

 ところで、「空き家法」第2条には、「特定空家」の定義がされています。

 そこで、「特定空家」とは何かですが、空き家のうち次のいずれかに該当するものをいいます。
そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

 令和元年10月時点で、全国の市町村で約1万6千戸が「特定空き家」等として把握されています。

<特定空家等の定義>
※「空き家法」第2条
「2項 この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。」

<特定空家等に対する措置>
※「空き家法」第14条
「1項 市町村長は、特定空家等の所有者等に対し、当該特定空家等に関し、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にない特定空家等については、建築物の除却を除く。次項において同じ。)をとるよう助言又は指導をすることができる。
2項 市町村長は、前項の規定による助言又は指導をした場合において、なお当該特定空家等の状態が改善されないと認めるときは、当該助言又は指導を受けた者に対し、相当の猶予期限を付けて、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとることを勧告することができる。」

地方税法の特例措置が見直し

 「空き家法」の制定を受けて、平成27年5月、地方税法が改正されました。

 その改正により、固定資産の所有者等に対して「空き家法」第14条1項、2項の規定によ特定空家等の勧告がなされた空き家については「住宅用地の課税標準の特例」の対象から除かれることになりました。(地方税法第349条の3の2)

 「住宅用地の課税標準の特例」の対象から除かれる土地とは、次の①②の両方に当てはまる場合になります。
「空き家法」第2条2項に規定される特定空家等であること。
「空き家法」第14条第2項」による勧告が所有者等になされていること。

 この「住宅用地の課税標準の特例」から除外されると、小規模住宅用地(200㎡以下)の特例(6分の1)及び一般住宅用地(200㎡を越える部分)の特例(3分の1)が適用されないこととなります。

※地方税法第349条の3の2
「1.(中略)空家等対策の推進に関する特別措置法第14条第2項の規定により所有者等(同法第3条に規定する所有者等をいう。)に対し勧告がされた同法第2条第2項に規定する特定空家等の敷地の用に供されている土地を除く。(中略)」

空き家対策の市町村の状況

 「空き家法」は平成27年2月に施行されていますが、現在では、全国ほとんどの市町村で「空家等対策計画」が策定されており、また、かなりの市町村で「空家対策条例」が制定されています。

 次に、参考までに「横浜市空家等に係る適切な管理、措置等に関する条例」(令和3年8月1日施行)による「空家対策の流れ」を掲げます。

<空家対策の流れ>

 全国では、周辺の生活環境等に悪影響を及ぼす「特定空家」等について、助言・指導などの措置の件数が年々増えており、令和元年10月1日までの4年半の累計で、助言・指導が17,026件、勧告が1,00件、命令が131件、代執行(行政代執行と略式代執行)が196件となっています。また、「特定空家」等の除却等に至った件数7,552件に及んでいます。

1/6の減額特例が廃止で3~4倍となる

 ところで、一部マスコミ報道の中には、『この減額特例の適用除外により、税負担が6倍になる』とありますが、この『6倍になる』との指摘は正しくはありません。

 1/6を減額適用除外するのはそのとおりですが、これにより非住宅用地の負担調整措置が適用されることになるため、6倍にはなりません。 

 住宅用地から更地(非住宅用地)になった場合、非住宅用地の負担調整措置がありますので、6倍ではなく「3~4倍」になります。

<更地にした場合の比較>

 いま面積が150㎡、固定資産税の価格が120万円の土地に居住用家屋(市街化区域内)があると仮定します。 

 ここで計算の便宜上、課税標準額が上限に達しているとしますと、小規模住宅用地ですので、固定資産税は価格の1/6で20万円×1.4%=2,800円、都市計画税は1/3で40万円×0.3%=1,200円で、合計4,000円の税額となります。 

 この家屋を取り壊して更地にすると、減額特例の適用はなくなり、非住宅用地として評価されることになります。 

 非住宅用地としての税額は、120万円×0.7×1.7%=14,200円(固定・都計税)となります。 

 これを、減額特例の適用税額と比較しますと、14,200円÷4,000円≒3.6倍になり、6倍ではありません。 

 
2023/01/18/14:00
 

 

(第90号)タワーマンション(居住用超高層建築物)の固定資産税家屋の評価方法について

 
(投稿・令和5年1月-見直し・令和6年8月)

 今号は、居住用超高層建築物(分かりやすく以下「タワーマンション」とします)の固定資産家屋の評価方法についての解説です。

 基本的な部分は第64号「区分所有マンションの固定資産税評価について」に基づきますが、タワーマンションの評価においては、その特性(低層階と高層階の取引単価の相違))を考慮して、平成29年の税制改正において、固定資産税の評価方法が見直されました。

 
 なお、本改正による見直しは、平成29年1月2日以後に新築されたタワーマンションの平成30年度分以降の年度分固定資産税に適用されます。
 また、マンション1棟の固定資産税額(総額)は、今回の改正による影響はありません。

タワーマンション評価の見直し

 見直しをされる建築物は、高さが60mを越える建築物(建築基準法令上の「超高層建築物」)のうち、複数の階に住戸が所在している居住用超高層建築物、すなわちタワーマンションとなります。

 中低層の分譲マンションであれば、各共有者の有する専有部分の床面積の割合が同じとすると、原則として、各区分所有者の納付すべき固定資産税額は同額となります。

 しかし、近年では、大都市圏を中心にするタワーマンションにおいては、高層階と低層階について、現実に売買価格等に差異が生じている状況となっています。
 そこで、タワーマンションに係る家屋の固定資産税額についての不公平感を解消することを目的として、専有部分の床面積を階層の差異による床面積当りの取引単価を反映する見直しとなりました。

固定資産税額計算の見直し

 今回のタワーマンション固定資産税の見直しは、①階層別床面積補正率、②階層別専有床面積補正率の計算方法、③居住用以外の部分の計算方法となります。

① 階層別床面積補正率

 タワーマンション全体に係る固定資産税額においては、各区分所有者に按分する際に用いる各区分所有者の専有部分の床面積に、住戸の所在する階層の差違による床面積当たりの取引単価の変化の傾向を反映するための補正率(これを「階層別専有床面積補正率」という)を反映して計算します。

② 階層別専有床面積補正率の計算方法

 階層別専有床面積補正率は、最近の取引価格の傾向を踏まえ、タワーマンションの1階を100とし、階が1つ増えるごとに、これに10/39を加算した数値とされます。したがって、[N階の階層別専有床面積補正率=100+10/39×(N-1)]となります。

 見直し後のタワーマンションの各住戸の固定資産税は、次の算式のとおり計算することになります。
(例)1階に係る固定資産税が100の場合、40階の固定資産税は110となります。

③ 居住用以外の部分の計算方法

 居住用以外の専有部分を含むタワーマンションにおいては、まず当該タワーマンション全体に係る固定資産税額を、床面積により居住用部分と非居住用部分に按分の上、居住用部分の税額を各区分所有者に按分する場合についてのみ、階層別専有床面積補正率を適用します。

④ 天井の高さ、付帯設備の程度等

 上記①から③までに加え、天井の高さ、附帯設備の程度等について著しい差違がある場合には、その差違に応じた補正を行います。

⑤ 区分所有者全員による申出

 上記①から④までにかかわらず、タワーマンションの区分所有者全員による申出があった場合には、その申し出た割合によりタワーマンションに係る固定資産税額を按分することもできます。
 
2023/01/16/12:00
 

 

(第89号)固定資産税を担当している行政組織(課税団体)はどのようなものか

 
(投稿・令和4年12月-見直し・令和6年8月)

 皆さんは毎年、固定資産税を納税されていますが、この固定資産税を担当している組織はどのようなものかご存じでしょうか。

 今回は、固定資産税を担当している課税団体(課税権の主体である市町村=通称「役所」)の紹介です。

 なお、これはあくまでも筆者の行政経験とコンサルタントを通じて得た範囲における認識で、これが全国全ての行政組織にあてはまるものではありません。

固定資産税の課税団体

固定資産所在の市町村

 固定資産税は市町村税であり、その課税団体は原則として固定資産所在地の市町村となります。

<固定資産税の課税客体等>
※地方税法第342条
「1項.固定資産税は、固定資産に対し、当該固定資産所在の市町村において課する。」

 なお、大規模償却資産については、一定の課税限度額は市町村が担当し、それを超える部分については、その市町村を包括する道府県が課税団体となる等の例外規定がありますが、これについては今後解説します。

 この「固定資産所在の市町村」とされる原則は、固定資産が当該市町村内に所在することによって、その市町村の行政サービスを受けることになるため、応益負担的な考え方に基づいているものです。

市町村固定資産税の担当組織

 市町村の固定資産税を担当している組織の名称は、一般的に「課税課」、「税務課」が多いと思われます。
 政令指定都市になりますと、区役所とそれをまとめる市役所があるため、区役所、市役所それぞれに固定資産税担当の組織があります。

 なお最近では、政令指定都市程度の大型市になりますと、市役所、区役所とは別に「固定資産税事務所」(仮称)を設置する自治体も多くなってきています。

 市(区)町村の職員は3~5年単位で異動するのが一般的ですが、税務署や県税事務所と異なり、税務以外の部・課も多いことから、税務関係の部・課から離れる職員も多いのです。

 そうなると、どうなるかということですが。
 これまでのブログでも説明してきましたが、固定資産税(特に家屋)の評価内容が複雑なため、3~4年で評価に慣れたと思ったら、固定資産税以外の部・課に異動されてしまうということです。

 また、「課税課」「税務課」の中でも、固定資産税の土地、家屋、償却資産の担当は区別されていて、例えば土地の担当者は家屋については一切分からないという場合もあります。

 規模の大きな市町村では、特定の職員は3~5年で異動せずにその組織に留まり土地や家屋を専門に扱う「専門職(又は専任職)」や「償却資産センター」等(名称は市町村により異なります)の専門的地位や組織を設置するなどの配慮がされています。

固定資産税評価における道府県の役割

 地方税法では、道府県知事は市町村長に対して、固定資産税評価について援助(助言)や勧告をすること、と規定されています。

 その中で固定資産評価事務として大きな役割を担っているのが「一定規模以上の新築非木造家屋の評価」です。
 これは、市町村における非木造家屋の新築評価を道府県(道府県税事務所)が担っているということです。

 道府県によって詳細は異なりますが、おおよそ次の仕組みとなっています。

新築の大規模(300㎡~500㎡以上)非木造家屋の評価を道府県が担当します。
(旧政令指定都市のような大都市では1,000㎡以上の非木造家屋も対象としている道府県もあります。しかし、旧政令指定都市のような大都市では、自ら家屋の評価を行っています。)

評価が出来上がると、道府県知事から市町村長に対して決定通知書と電子データが渡されます。

その資料の保存期間は道府県では10年間で、渡された市町村では独自に保存期間を設定することができます。

以上の法的根拠は、地方税法第73条の21の2項(不動産の価格の決定等)になります。

<不動産の価格の決定等>
※地方税法第73条の21
「1項 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。但し、当該不動産について増築、改築、損かヽいヽ、地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでない。
2項 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は前項但書の規定に該当する不動産については、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。
3項 道府県知事は、前項の規定によつて不動産の価格を決定した場合においては、直ちに、当該価格その他必要な事項を当該不動産の所在地の市町村長に通知しなければならない。」
 
 なお、大規模の非木税家屋の評価は県(県税事務所)に委任しているため、市町村では新築時の評価方法を十分に説明できていない場合もあり、これらが家屋の「課税誤り」の一要因になっていることも推測されるのです。

 

都の特別区の特例

 東京都の特別区(23区)の存する区域については、市町村が置かれておらず、この特別区の存する区域については、都が固定資産税を課するものとされていて、課税団体は東京都になります。(地方税法734条1項)

 東京都の固定資産税担当は、東京都主税局資産税部に固定資産税課、固定資産評価課がありますが、実際の評価及び課税の事務は23区の都税事務所が担当しています。
 なお、23区には「都区財政調整制度」により、都の固定資産税収の55%が特別区に交付されています。

固定資産税の統括組織

総務省の自治税務局

 総務省自治税務局の固定資産税課は、全国の固定資産税制度を司っており、法改正や通知により市町村への周知徹底等を行っている組織です。

 また、自治税務局には固定資産税課とともに資産評価室がありますが、どちらにも自治省本来の職員(官僚)の他に、全国の市長村から(期限付きで)出向している職員が在籍しています。

(財)資産評価システム研究センター

 それと、行政とは異なる外部組織ですが、総務省の外郭団体ともいうべき一般財団法人 資産評価システム研究センターがあります。
 (財)資産評価システム研究センターには、正規職員のほかに総務省や市長村で定年退職された固定資産税に精通している者も含めて構成されています。

 このセンターは、固定資産税の研究や全国市長村職員への研修に力を入れている組織です。

 (財)資産評価システム研究センターからは、毎年度、土地、家屋、償却資産に関する「調査研究報告書」や「全国地価マップ」(固定資産税・相続税路線価図等)、全国市町村の取組等が発表されていますが、固定資産税に関する書物としては一番信頼のおける情報ではないかと思います。

 
2022/12/17/17:00
 

 

(第87号)固定資産税における償却資産とは(申告・評価編)

 
(投稿・令和4年12月-見直し・令和6年8月)

 今回は、第31号「固定資産税における償却資産とは(基本編)」に続く「申告・評価編」になります。

 

申告対象となる償却資産

業種別の主な償却資産

 まず固定資産税の償却資産とはどのようなものか、改めて一般的な償却資産の例を掲げます。

<一般の償却資産の例>

※1 自動車税、軽自動車税の対象となるものは償却資産の申告対象外
※2 建物所有者以外の者で事業の用に供している附属設備は償却資産の申告対象
※3 鑑賞用・興業用の生物は償却資産の申告対象

特殊な申告対象資産

 特殊な資産について、固定資産税の償却資産申告の対象になるかどうかの内容です。
①  簿外資産
 固定資産台帳簿に記載されていない資産であっても、事業の用に供することができるものについては、本来減価償却可能な性質を有しており、申告対象になります。
②  償却済資産
 法人税法、所得税法で減価償却が終了して残存価額のみが計上されている資産についても、その資産が事業の用に供することができる資産であれば申告対象になります。
③  減価償却を行っていない資産
 事業を行っている者が赤字決算、配当政策等のため、減価償却を行っていない場合で、事業の用に供することができる資産であれば申告対象になります。
④  建設仮勘定で経理されている資産
 建設仮勘定の資産は、一般的には稼働できる状態ではないため申告対象ではありませんが、その一部が完成し、その部分が事業の用に供されている場合には、申告対象になります。
⑤  自転車及び荷車
 企業が現に減価償却資産としてその減価償却額又は減価償却費を損金または必要な経費に算入している自転車、荷車は申告対象になります。
⑥  大型特殊自動車
 大型特殊自動車は、本来、建設等のための機械としての効用を発揮することを主目的としていることから、自動車税の課税客体から除外されていますので、償却資産として申告対象になります。
⑦  遊休又は未稼働の資産
 メンテナンス等を行い使用できる状態にある遊休資産や使用予定のある未稼働資産は、その資産が事業の用に供することができる状態にあるものとして申告対象になります。
⑧  福利厚生用資産
 福利厚生用の資産は、本来の事業の用に直接供されていませんが、更衣室のロッカー、社員用食堂の厨房設備等は、事業を行うものとして申告の対象になります。
⑨  租税特別措置法による即時償却等の適用資産
 租税特別措置法の特例を適用して損金算入した資産は、償却資産の申告対象になります。
⑩  取得価額が1点100万円未満の美術品等
 平成27年1月1日以降に取得する美術品等のうち、取得額が1点100万円未満のものについては、減価償却資産として取り扱われます。ただし、1点100万円未満の美術品等であっても、時の経過によりその価値が減少しないことが明らかな資産であれば、減価償却資産としては取扱われません。

申告対象にならない資産

 償却資産の申告対象にならない資産は次のとおりです。

① 自動車税・軽自動車税の課税対象となる自動車
 自動車、原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車に対しては、自動車税又は軽自動車税が課税されているので課税対象から除外されます。

② 無形固定資産
 鉱業権、特許権、ソフトウェア等の無形固定資産は、資産が具体的に存在するものでないため、課税対象から除外されます。

③ 繰延資産
 法人又は個人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので創立費、開業費、開発費、社債発行費等の繰延資産は、固定資産税の償却資産には含まれません。

④ 少額資産等
(ア) 取得価額が10万円未満又は耐用年数が1年未満のもので、当該資産の取得に要した経費の全額が法人税法、所得税法の規定による所得の計算上一時に損金又は必要経費に算入されるものは、償却資産の申告対象から除外されます。
(イ) 取得価額が20万円未満の償却資産で、事業年度ごとに一括して3年間で減価償却を行うことを選択したものは、課税対象から除外されます。
(ウ) 法人税法第64条の2第1項、所得税法第67条の2第1項に規定するリース資産で、その所有者がリース資産を取得した際における取得価額が20万円未満のものは、償却資産の申告対象から除外されます。

国税との主な違い

 固定資産税の償却資産は、その課税対象として基本的に国税上の有形減価償却資産を想定しています。
 そのため、法人税・所得税の法規と密接な関係がありますが、国税上の有形償却資産が必ずしも固定資産税(償却資産)の課税対象となるわけではありません。

 また、国税と固定資産税(償却資産)の申告を行う納税義務者が一致しない場合や評価の計算方法も異なります。

 ここでは、次表により、国税と固定資産(償却資産)の取扱いが異なる点について説明します。

<国税との主な違い>

※「減価償却の方法」が国税では定額法、固定資産税(償却資産)では定率法ですが、次はそのイメージ図です。なお、固定資産税の家屋の経年減価は定額法です。

償却資産の評価

評価額の計算方法

 償却資産の評価の考え方が、固定資産評価基準第3章第1節第一に次のとおり規定されています。
「償却資産の評価は、前年中に取得された償却資産にあっては当該償却資産の取得価額を、前年中に取得された償却資産にあっては当該償却資産の前年度の評価額を基準とし、当該償却資産の耐用年数に応ずる減価を考慮して価額を求める方法による。」

 申告された資産を1件ずつ資産の取得時期、取得価額及び耐用年数を基本にして計算し評価額を算出します。

①  前年中に取得したもの
    取得価額×前年中取得のものの減価残存率=評価額
②  前年前に取得のもの
 前年度評価額×前年前取得のものの減価残存率=評価額

 以後、毎年この方法により計算し評価額が取得価額の5%になるまで償却します。評価額が取得価額の5%未満になる場合は5%でとどめます。

<「減価残存率表」(rは下記表)>

 
<耐用年数と減価率(r)>

 

(2)価格の決定

 税額=課税標準額×税率(1.4%)
 課税標準額とは、市町村区域内に所在する資産の価格の合計で、150万円未満の場合は課税されません。
 
2022/12/8/15:00
 

 

(第86号)物的(用途)非課税の例(3)-「宗教法人の境内建物と境内地」

 
(投稿・令和4年10月-見直し・令和6年8月)

 固定資産税の非課税については、第13号「固定資産税が課税されない非課税制度とは」で紹介しています。

 
 「物的(用途)非課税)」については、地方税法で69項目が列挙されていますが、これまで固定資産税の物的(用途)」非課税の例として、「公共の用に供する私道」と「社会福祉法人等による老人福祉施設」を紹介してきました。

 
 今号では、その例(3)として「宗教法人の境内建物及び境内地」について紹介します。

「宗教法人」の非課税の範囲

 「宗教法人」の固定資産税の非課税の範囲は、地方税法348条2項三に規定されています。

<「宗教法人の境内建物及び境内地」の非課税>
※地方税法348条2項三
「2.固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。(中略)
三.宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)

 では、宗教法人法による宗教団体の定義、境内地建物及び境内地の定義、公益事業その他の事業、に関する規定はどうなっているかです。

宗教団体の定義

 宗教団体の定義は、宗教法人法2条に規定があります。

<宗教団体の定義>
※宗教法人法2条
「この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。
一 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体
二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体」

 また、同法4条には法人格の定義があります。

<法人格の定義>
※宗教法人法4条
「1. 宗教団体は、この法律により、法人となることができる。
2.この法律において「宗教法人」とは、この法律により法人となつた宗教団体をいう。」

境内地建物及び境内地の定義

 境内地建物及び境内地の定義は、宗教法人法3条に規定があります。

<境内建物及び境内地の定義>
※宗教法人法3条
「この法律において「境内建物」とは、第一号に掲げるような宗教法人の前条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の建物及び工作物をいい、「境内地」とは、第二号から第七号までに掲げるような宗教法人の同条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいう。
一.本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)
二.前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。以下この条において同じ。)
三.参道として用いられる土地
四.宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田、仏供田、修道耕牧地等を含む。)
五.庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地
六.歴史、古記等によつて密接な縁故がある土地
七.前各号に掲げる建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地」

公益事業その他の事業

 宗教法人法6条には、宗教法人は公益事業を行うことができる旨の規定があります。

<公益事業その他の事業>
※宗教法人法6条>
「1.宗教法人は、公益事業を行うことができる。
2.宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない。」

お寺の駐車場も非課税

 以上、宗教法人法の規定を紹介してきましたが、では、次の図のようなお寺の駐車場はどうでしょうか。

 この駐車場は参詣者用ですので、お寺の宗教法人が「もっぱらその本来の用に供する土地」として非課税となります(但し、有料ではないことが必要です)。

 
2022/10/30/19/30