(第60号)「固定資産税が高い・間違っている」と思ったときの対応方法は

 
(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年7月)

 今号は「固定資産税の価格が高い」あるいは「評価が間違っているか」と思ったときは、どのような対応をしたら良いのかについて解説します。

 同様なタイトルは第33号「固定資産税の価格(評価額)に不服(評価誤り)がある場合の手続き(「審査の申出」)」でも記載しましたが、今回は、筆者が民間コンサルタントとして、納税者の皆様からのご相談や各市町村と交渉してきた経験等から、気づいた点や「提言」等をさせていただきます。

 
 筆者は、民間コンサルタントの前に、行政で固定資産税業務も経験してきましたが、コンサルタントでの経験と学びの方が遙かに得た知識が大きいと考えております。

市町村から審査申出が勧められる

地方税法では「審査申出ができる」

 地方税法では、「固定資産税の価格に不服がある場合は、「審査の申出」ができる(「できる」です!)」とあり、これが地方税法上の原則ではあります。

 市町村の窓口に行くと、「価格に不服があるならば、納税通知書が送られてくるので、3ヶ月以内に「審査の申出」ができるのでそちらでお願いします」などと“門前払い”をされる場合があります。
※納税通知書は毎年送られてきますが、「審査の申出」ができるのは、通常3年毎の基準年度に限られます。

 それではと「審査の申出」を行った場合どうなるでしょうか。

「審査の申出」の棄却決定がほとんど

 「審査の申出」は第三者機関である固定資産評価審査委員会に対して行い、そこで審査・決定がされますが、実質的には課税当局の弁明(言いなり)どおりの決定(棄却される)がほとんどというのが実態です。

 この「審査の申出」の棄却決定に「あとはどうすれば良いのでしょうか」と課税当局に聞くと「決定に不服があるならば6ヵ月以内に訴訟を提起できますので、そちらでお願いします」と『そっけない返事』がほとんどです。

 訴訟ともなると、弁護士を探しそれなりの費用がかかることになりますが、納税者としては事実上『打つ手無し』という状態にもなってしまいます。

 民間コンサルタントとして、既に「審査の申出」を行って「棄却」決定された納税者の方々からのご相談によりますと、「こちらの要求した内容にほとんど答えてもらえていない」との「苦情」がかなりあります。実際に申出書、弁明書、決定書等を見せていただくと、確かに「審査の申出」の決定が納税者の要望に答えていないものが、それなりにあります。

 例えば、所有しているビルの評価額が自己所有の他のビルより相当高い理由は何か、新築当初の評価内容から説明して欲しいと求めたものの、審査では「在来(中古)家屋の評価」(前年度の評価が正しいとの前提で評価される)により棄却決定された等、いくつか筆者に相談が寄せられています。

 従って課税当局の「審査申出でお願いします」との言葉に安易に従ってはいけません。
 「固定資産税の価格が高い」あるいは「評価が間違っている」と思ったときは、まず市町村の課税当局に確認し、交渉することをお勧めします。

 なぜなら、課税当局が気がついていない「課税誤り」があるかも分からないですし、実際にこれまでもそのような事例が存在しています。

 ただし、「審査の申出」の結果のすべてが「棄却」となる訳ではなく「容認」もありますが、筆者の実感としては「棄却」の可能性の率が高いと思います。

まず課税当局に確認し交渉する

 市町村の課税当局には、いま課税している固定資産税の評価内容に間違いがないかを確認し、所有者に説明する義務と責任があります。

 そもそも固定資産税は所有者の申告に基づかず、行政が一方的に評価・課税する“賦課課税方式”なのですので、所有者は評価の具体的内容まで分からないのです。

 もっとも、家屋の場合については、大規模非木造家屋の評価を県に委任していることから、市町村の担当者でも十分に説明できないという場面に出会うこともありますが。

地方税法第417条の「重大な錯誤」

 地方税法第417条1項では、仮に決定された価格に「重大な錯誤」があった場合には直ちにこれを修正しなければならないとされています。

この「重大な錯誤」の例としては、「課税台帳に登録の際の誤記」「計算単位のとり違い」「課税客体の明瞭な誤り」「価格の決定に重要な誤り」等とされています。

<固定資産の価格等は修正等(中略)>
※地方税法第417条
「市町村長は、登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産の価格と均衡を失しないように価格等を決定し、又は決定された価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録しなければならない。(一部略)」

 そうなると、課税当局は「正しく評価・課税している」と考えていても、納税者から申し出があった場合には確認してみることが必要ですし、納税者に対しては、資料(「評価計算書」等)により丁寧に説明する義務があります。

 納税者がどうしてもこの価格には納得がいかないので、市町村の担当課に相談したところ、実は「重大な錯誤」であったと判明したというケースも実際にあります。

 所有者の方から「固定資産税の評価内容を細かく説明されても良く分からない」とのご相談がありますが、この場合には、固定資産税評価に詳しいコンサルタント等に相談してください。

※ただし「委任は弁護士と税理士以外は認めない」という市町村もありますので注意が必要です。東京23区がそうですが、その理由は「弁護士法・税理士法の趣旨に反するから」とのことです。しかし、他の多くの市町村では弁護士、税理士以外の代理を認めています。(「審査の申出」では、弁護士、税理士以外の代理も認められています。)

「重大な錯誤」であれば10年から20年間の還付

 そして、仮に「重大な錯誤」があり価格等が修正されるとなると、過徴収金の還付ということになりますが、地方税法での還付金の消滅時効は5年ですが(地方税法第18条の3)、「重大な錯誤」による課税誤りがあった場合には、市町村の「過徴収金返還要綱」(市町村により名称が異なる)により、10年間あるいは20年間遡って返還されるということになります。
(5年間分は「還付金」でそれ以上の期間の返還は「補填金」となります。)

 この「過徴収金返還要綱」によると、「重大な錯誤」による誤りがあった場合、固定資産税の課税台帳の保存期間である10年間を原則として、領収書等により確認できる場合は20年間返還することができるとされています(この「領収書等により確認」も問題ですが)。

 「過徴収金返還要綱」は、市町村が独自に定めているもので、全国でも約7割程度の市町村で実施されていると言われていましたが、最近では廃止している市町村もあるようです。

 

必要に応じての法的手続き

 課税当局と直接話し合っても”埒があかない”という段階になった場合は、(必要に応じて)法的な手続きを採用することになります。

 法的の手続きとしては、審査の申出 → 訴訟というレベルになってきますが、この法的手続きについては、第33号で説明してあります。

 いずれにしても、固定資産税の価格に不服がある場合は、直ぐに審査申出をするのではなく、詳しいコンサルタント等に相談されることをお勧めいたします。
 
2022/06/07/09:00
 

 

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください