(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)
今回は、固定資産税評価の問題点と若干の提言をさせていただきます。
それと、不動産鑑定士は地価公示と地価調査の評価とともに固定資産税の土地評価では標準宅地の評価も担っていますが、では、固定資産税での個別土地や家屋の不動産鑑定評価が可能なのか、との解説です。
なお、土地評価での不動産鑑定士の役割については第35号「固定資産税土地評価における不動産鑑定士の役割」で紹介しています。
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固定資産税評価の問題提起
課税誤りは家屋の方が多い
固定資産税の土地と家屋は賦課課税で、市町村の課税当局が一方的に評価し課税していますが、評価・課税誤りでは「家屋の方が多い」というのが率直な感想です。
土地の評価・課税誤りとしては、例えば住宅用地の見逃しや負担調整措置の認定誤り、画地計算の誤り等が見られます。最近の相談の中では、無道路地であるのにその評価が適用されていなかったケースや太陽光発電施設用地(市町村により評価レベルが様々)があります。
しかし、土地の場合は現地確認が可能ですので、所有者(代理人)も課税当局とともに確認できる可能性が高いところが家屋とは違います。
一方、家屋の場合は、評価方法(再建築価格方式)が非常に複雑で難しく課税誤りの原因ともなっています。
新築時の家屋評価データが廃棄されている
また、新築時の家屋評価の検証が必要であるにもかかわらず、市町村によっては「古い家屋の評価データは廃棄してありません」と回答される場合があります。
こうなると、その家屋の評価を検証することが不可能となります。それはすなわち、課税当局も評価が正しいかどうかを所有者に説明できないということにもなるのです。そのため、「審査の申出」に対しても『在来家屋評価が正しく行われているため問題ありません』との棄却決定がなされているのです。
最近相談を受けた件で、課税当局から「評価データは廃棄してありませんが、評価は正しく行っています。もし価格が高いと主張されるなら、所有者の方で証明してください。」と無茶苦茶なことを言われました。この発言は行政としては完全に「アウト」です。正しく評価しているならばその内容を説明しなければなりません。
大規模非木造家屋の評価は県が担当
また、大都市でない市町村の非木造で一定規模以上(500㎡以上が多い)の家屋評価を道府県(県税事務所)に委ねていることから、市町村では、その家屋の新築時の評価を十分に説明出来ないというのも現実としてあります。
なぜ道府県税事務所が家屋評価を担当しているのかということですが、道府県税事務所では新築家屋の不動産取得税を課税していることから、道府県と市町村との協定により行われています。
家屋評価そのものは同一でも良いのですし、地方税法にも「道府県知事が市町村長に通知した価格があるときは、その価格に基づいて評価しなければならない」(409条2項)とあります。しかし、固定資産税と不動産取得税とは課税内容、なかでも課税期間(非木造家屋は数10年間課税)が大きく異なります。
固定資産税評価に対する「提言」
そこで、これまでの経験から、固定資産税評価に関する「提言」をさせていただきます。
家屋の新築時評価データは廃棄しないこと
家屋については、新築時の評価データは廃棄せずに固定資産税の課税中は保存していただきたいことです。
市町村では、文書の保存年限の規定がありますが、固定資産家屋の評価データについては「永年保存」か「課税中の保存」にしていただきたいということです。
最近では、評価も電子データ化されていますので、今後については、この選択は難しいものではありません。
家屋評価の簡素化を図ること
そして何よりも、固定資産税の家屋評価については、現在の評価方式が複雑過ぎるため、この複雑な再建築価格方式を見直して「評価の簡素化」を図っていただきたいことです。
固定資産家屋の評価方法については、これまでも総務省、財団法人資産評価システム研究センターを中心に各市町村とともに、「固定資産税家屋評価の簡素化」を検討してきていますが、未だ簡素化の結論には達していないのが現状です。
最近では、家屋評価にIT化を導入、あるいは民間企業へ委託している市町村もあるようですが、これは評価担当者にとっての簡素化になる部分はありますが、目指すべきは「固定資産税家屋評価の簡素化」=「分かり易い評価内容」ですので、少し方向性が異なるようにも感じます。
筆者は、家屋評価の方式として「取得価格方式を採用すべき」と主張していますが、この方式であれば大規模非木造家屋の評価であっても道府県(県税事務所)に委任せずにも済みます。
大規模画地評価の基準を検討すべきこと
土地の固定資産税評価でもいくつかありますが、面積の大きな土地(大規模画地)補正が固定資産評価基準に無く奥行価格補正で足りるとされていることは問題で、画地計算法に大規模画地補正を入れていただきたいことです。
大規模画地になれば、市場流通性の観点からすると、総額が嵩むことや潰れ地が生じること等からすると、大きな減価要因となります。これは、奥行価格補正の適用のみでは不足していることは間違いありません。
鑑定評価で固定資産税の見直しが可能か
そもそも不動産鑑定士は、固定資産税の土地については、標準宅地の鑑定評価や地価公示、地価調査を担当していますので、固定資産税評価の基本的な部分を担っていることには間違いありません。
しかしそれではと、個別の土地、家屋の「固定資産税が高いので安くしよう」と役所の窓口に鑑定評価書を提出して交渉しても、直ちにその鑑定評価額が採用される訳ではありません。
固定資産税は市町村が一方的に評価・課税を決定する賦課課税方式でして、その評価の根拠は固定資産評価基準によります。例えば土地であれば、ほぼ全筆を評価・課税するため、評価の統一・均衡を確保する必要があり、固定資産評価基準によることが義務付けられているからです。
<固定資産税に係る総務大臣の任務>
※地方税法第388条
「総務大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」
<固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務>
※地方税法第403条
「市町村長は、(中略)固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。」
このため、個別の土地の固定資産評価の是正については、不動産鑑定書による是正ではなく、あくまでも固定資産評価基準の適用の誤り等を正す方法が原則となります。
また、家屋の評価においても、再建築価格方式という膨大な固定資産評価基準によって評価されていますので、不動産鑑定士が鑑定評価書で家屋の固定資産税を是正することはまず困難な状態にあります。
「それでは固定資産評価基準が絶対なのか」と言うと必ずしもそれも正しくはありません。
例えば土地の価格が固定資産評価基準どおりに評価されていたとしても、「賦課期日における客観的な交換価値を上回る価格を算定することまでも委ねたものではない」との最高裁の判決もあります(平成15年6月判決)。
※ この問題につきましては、後日改めて説明いたします。
2022/06/07/13:00