(投稿・令和4年6月-見直し・令和6年8月)
過日(令和3年9月)、石川県河北郡津幡町に居住するKさんから、石川県N市に所有している家屋(マンション)の固定資産評価について、次のようなご相談をいただきました。
① 自分の所有しているマンションの評価額が隣接のマンションと比較して約1.4倍、また自分が所有している他のマンションと比べても約1.6倍と高いので、5月に固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」)に審査申出を行ったものの棄却決定されました。
② その審査申出に対する課税当局からの弁明と審査委員会の決定では「建築時に算出した再建築費評点数に対して評価替ごとに再建築費評点補正率を乗じて、現在の再建築費評点数を算出している」とありました。しかし、仮に課税誤りがあるとすれば、新築当初の評価(再建築費評点数)に誤りがあった筈なのに、今までの評価は正しいとの前提なのです。
③ そこで、課税当局(税務課)に、新築当時の課税内容の説明を求めたところ、「当時の評価データは廃棄して無いが、間違いなく正しく評価している」との回答がありました。
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石川県N市対応の問題点
この石川県N市の問題点としては、次の点にあります。
① 評価データを廃棄したこと
評価データは家屋の再建築費評点算出表(以下「評価計算書」)ですが、どこの市町村でも所有者から説明を求められると、この資料により評価内容を説明し渡されるのが一般的です。
所有者が評価内容を検討するためにも「評価計算書」が必要であるとともに、課税当局では、その家屋の評価額がどのように算定されているのかを説明し「課税誤り」が無いことを示す必要がある訳です。
最近では、どこの市町村でも家屋評価データを電子システム化していますが、電算化システムになる前は「データパンチ」(手書きの資料を電子化する)という方法で作成・保管され、仮に担当者がコピーを廃棄したとしても、組織としてはデータが保存されているのが普通なのです。特に家屋については、課税している間はデータを保存すべきなのです。
そうでなければ、所有者にとって大切な財産である固定資産に対して評価・課税している根拠が疑われ、信頼性も損なわれることになります。
②新築時の評価額が審査されないこと
Kさんの審査申出の趣旨は「そもそも再建築費評点数の算定が正しいのか」ですが、課税当局の弁明と審査委員会の決定は、前年の再建築評評点数に補正率を乗ずる在来家屋の評価方法の説明に終始されています。
審査委員会の決定(棄却)もほとんど課税当局の弁明書を踏襲した結果となっています。審査委員会は第三者機関ですが、審査申出の手続きでは、課税当局の主張(原案)がそのまま採用されることがほとんどではないかと思います。
「そもそも新築時の再建築費が正しいのか」との請求に対して、審査申出の棄却決定では、新築時の評価検証が一切行われずに、在来家屋の評価方法で決定(棄却)されていることは問題です。
この理由は、①の「家屋の新築時データを廃棄した」ことから、在来家屋の新築時の評価検証ができないからなのです。
そこで問題は、在来家屋の納税者は、現在の基準年度において、新築時(過去の)価格に対して意見等を申出ることができるかということになります。
在来家屋では新築時の評価を引き継ぐ
そもそも在来家屋の評価は新築時の評価が引き継がれています。
この在来家屋の評価の方法については、第57号「固定資産税の在来(中古)家屋の評価がなぜ下がらないのか」で説明しています。
家屋の基準年度の評価額は、一つ前の基準年度の価格(正式には「再建築費評点数」)を基礎として算定されています(在来家屋家屋の評価)。この場合、建築当初の価格は見直しがされないことから、仮に建築当初の価格の算定に誤りがあっても、誤ったままの状況が継続してしまうことになります。
この点については、平成25年4月16日の東京高等裁判所において、「新築時の審査を認める」司法判断が示されています。
この事例では、被控訴人(東京都)は、在来家屋の評価が適正であるので問題無いと主張したのですが、東京高等裁判所の判決では、新築時の評価が正しかったのか否かの証明が必要と判断されています。
ここに東京高等裁判所判決の一部を紹介します。
<平成25年4月16日高等裁判所判決(一部)>
「しかし,(中略)「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」は,「前年度(平成17年度)の再建築費評点数」に影響を及ぼし,ひいては平成18年度の価格に影響を及ぼすことが明らかである。(中略)被控訴人主張のような制限をすることはできない。」
(※詳細は次号で紹介します。)
石川県N市ではデータを廃棄しただけではなく、税務課の幹部から「もしこの家屋の評価が高いと思うならば、納税者自身から計算して示してください」とまで言われているのです。データを廃棄しているのに納税者としても「検証」できる訳がありません。
大規模非木造家屋の評価は県が担当
上記の東京高等裁判所の判決文にはまた「建築当初の建築関係書類が廃棄又は紛失されることがあることも想像に難くなく,そうすると,時の経過と共に建築当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になることも当然に予想されるということはできる。」とありますが、石川県N市の対応はまさにこのとおりである訳です。
しかし、大都市でない市町村では、大規模の非木造家屋の新築評価は県(県税事務所)に委ねていることです。県と市町村の協定によっても異なりますが、通常は500㎡以上の非木造家屋がその対象です。
その場合、評価データは実際に評価した県税事務所が保存していて、市町村では紙レベルの「評価計算書」のみを保有しているという場合が多いのです。また県税事務所では、不動産取得税の課税ですので、評価データはそれほど長期間保有していないと思います。
新築時家屋評価データの保存の必要性
しかし、市町村の固定資産税の家屋(特に非木造家屋)であれば長期間の課税になりますので、データも長期間保有すべきです。
特に新築時の再建築評点数をどう評価したのかを所有者に説明するときにも必要ですし、仮に所有者が課税誤りに対して訴訟を提起した場合には必要な資料が存在しないことになってしまうのです。
そこで、「新築時のデータを保存年限で廃棄している」市町村には、今後、是非とも「永年保存」か「課税中保存」にしていただきたいものです。
2022/06/18/16:00